「シカマルのすけべーー!!」

「あっ?何が?」

シカマルは思いっきり眉間にシワを寄せて、を睨んでいる。
当のも額に青筋をたててシカマルに詰め寄る。

「だって見たもんっ 信じらんないっ!!」

「見たんじゃねーっつうの!あぁいうのは視界に入ったっつうんだ!!」

「まったまたっ!!しらばっくれちゃって!覗いたくせにぃぃぃ!!」

「誰が覗くかっ バカ!!」


シカマルの家の居間での2人の大喧嘩に、くつろぎ中のシカパパも
何事か?と様子を見にやってきた。


「おいおいっ どうしたってんだ?」

「あーー!聞いて、おじさま!シカマルったらね!私が部屋で着替えてるの
 を覗いたのぉぉ!」

「な、なにぃ!!シカマル!てめーは!!」

シカパパはシカマルの胸倉を掴んだ。

「誤解だってんだよっ!!バカ親父!!」

「は?」

シカパパは状況がよく分からず、強く握ったシカマルの襟元を離す。

「ちょっと!言い訳するつもり!!」

「だから!覗いたんじゃねーっ!お前を呼びにいったら、勝手にお前が着替えて
 たんだろーがよっ!!」

「だからって、思いっきり目があったじゃないよ!!」

「知るかよっ!!とにかく俺は別にお前の裸なんざ興味ねーっつうのっ!!」





・・・・・・シーーーーン・・・・・・




(あっ・・・やべー  俺、今 地雷踏んだか?)


「シカマル・・・の・・・・バカ・・・・」

は急に俯いてしまった。
心なしか体が小刻みに震えている。

(な、泣くのかよっ こいつヅルイ女だなーっ・・・めんどくせー。こんぐらいで泣くかよ?ふつう・・・)




「シカマル!とにかく謝れ!女を泣かすなんざ、お前最低な・・・」

シカパパがシカマルに説教でもしてやろうとしたところ・・・・



『シカマルのばかーっ!!もう許さないーーー!!』



パッと顔をあげたは、泣くどころか、さっきよりも更に青筋を立てた顔で
手に取れる位置にある物を手当たり次第にシカマルに投げつけてきた。


「のわっ!!!ちゃん!とにかく落ち着いてくれっ!!」

シカパパはソファーの後ろに隠れながら、が投げつける物から身を守っていた。

「無駄だぜ親父。そこらへんの物が無くなるまで止まりゃしねーよっ」

当のシカマルはそんな事は慣れっこなのか、平然とした顔で大して体も動かさずに、
一番簡単な動き一つでヒョイヒョイとその物を避けていく。


シカパパはソファーの後ろに身を屈めながら、そんな息子の頼もしい?姿を見つめていた。






『なによぉっ エロマル!!バカマル!!』

は目をつぶりながら、悔しさを込めてシカマルに物を手当たり次第に投げつけ
続けた。

「誰がエロだよっ!ふざけんなっ!覗くなら、もちっと体に凹凸がある女選ぶっつうのっ!!」

相変わらず ヒョイヒョイと避けながら、シカマルはフンと鼻を鳴らした。


「く〜っ・・・もうシカマルのバカーーーー!!」

そろそろ投げる物もなくなってきて、はそれでも悔しい気持ちが治まらないのか、
手元をキョロキョロしはじめた。

「残念だったな。お前な、そんなでかいモーションで投げてたら、どこ狙ってるかバレバレ。
 いくら俺でも当たるはずねーよ。」


体だけでなく、忍びとしての自分の能力までバカにされた気がして、は真っ赤に
なって怒っている。


(ったく・・・いつまでも俺が守ってやるわけにもいかねーし。ちったークナイの投げ方も
 修行しろっつうの・・・)

シカマルは深いため息をついてから、に背を向けた。

「んじゃよっ 俺、部屋戻るわ・・・・」

手をヒラヒラさせて、に背を向けた途端、背中に殺気。


シカマルの背中にむけて、最後に近い物が投げつけられた。



でも・・・・



シカマルは背中を向けたままで ヒョイ とそれを避けた。


「バーーカ。音で分かるっつうの・・・甘いぜお前。」


(く、くやしいっ!!シカマルのバカ!やっぱりただ物を投げただけじゃシカマルには、かなわない・・・)

は一呼吸おいて、頭を巡らせる。

(だったら・・・・これならどうだ!!)



「痛いっ・・・指先切れたぁ・・・・」



もちろん、これはの演技・・・この部屋にちょっと持ったぐらいで指先が切れるような
物騒な物などあるはずは無い。


でも・・・・


シカマルの背中がビクリと反応・・・・


くるりとを振り返る・・・


「何やってんだお前、大丈夫・・・か・・・?」


バッコーーーーーーーーーーーーーーーンッ







・・・・・・・・・・・・・・!!・・・・・・・・・・・・・・・



「痛ってぇぇぇぇぇぇ!!!」

シカマルのおでこに固い何かがクリーンヒットした。


「すきあり〜!シカマルのばーーかっ!天罰だからねーだっ!!」

はべーーーーーーーーっと舌を出して、一目散で部屋から逃げ出して、真向かいの
自分の家へと逃げて行った。










のいなくなった居間でシカマルは額を押さえながら、床にべったりと座りこんだ。

「痛ってぇ・・・あのバカ女!ぜってー許さねー・・・・・」


その一部始終を見ていたシカパパはのっそりとソファー後ろから出てきて、息子の前に
屈んだ。

「オメーの負けだな・・・シカマル。お前、これから先も苦労しそうだな?おい。」

シカパパは ふぅ とため息をついて、やれやれという顔をした。
シカマルは尚も額を押さえつつ、自分の親父の顔を無言で睨んでいる。

「まっ 今のは仕方ねーやな。惚れた弱みってやつだ・・・・」

シカパパは顎ヒゲをさすりながらニヤリと笑った。

「う、うるせーっ////////」

シカマルは真っ赤な顔を隠すように俯いた。

「仕方ねー。かわいいバカ息子のために、親父様が一肌脱いでやっかなっ・・・」

シカパパは ニシシ と笑って息子の頭をなでた。

そして、真顔で一言・・・

「いいかシカマル。女ってーのはな、甘い雰囲気と甘い言葉と甘い物で落ちるって
 決まってんだよっ」

シカマルの肩を抱きながら、ニヤリと笑うシカパパをシカマルはジロリと横目で見た。

(何言ってやがんだよ!バカ親父・・・・・)

そんなシカマルの心の内を見透かすように、シカパパは続けた。

「バーーカ。女の扱いなら親父様に任せとけっ」

胸をドンッと叩いて、がははははっ 大声で笑って威張っているシカパパ。

(つーか。母ちゃんの扱いも上手くできねーような親父に言われたかねーよっ)


「はぁ・・・・・」


おお威張りのシカパパの横でシカマルは深いため息をついた。















「という訳で、支度は出来たか?2人とも!!!」

「なーにが、という訳なんだよ!!一体どこ行くつもりなんだ!親父!!」

「どこって?シカマル聞いてないの?ぶどう狩りでしょ?ぶどう狩り!!」

「はぁ?」

シカマルはとりあえず、大きな籠と敷物を用意して玄関で待ってろと言われて、玄関先で
準備を済ませてシカパパを待っていた。
そこに、さきほどの喧嘩の相手、がリュックをしょってやって来たというわけだ。


「ぶどう狩りぃ??」

シカマルはただでさえ天気の良い日に遠出をすることを好まない。
こんな日は木陰で寝っころがって、空を眺めて過ごす方がずっと好きだから。

でも、状況的に、そうも言ってられなくなった・・・・

はさきほどの喧嘩が嘘のように満面の笑みを浮かべて、早く行こうとはしゃいでいる。

なんだコイツ!さっきまでカンカンに怒ってたくせによぉ・・・

まさか・・・

『女ってのは、甘い雰囲気と甘い言葉と甘いもので落ちる。』
さっきの親父の言葉・・・・


いや、マジそうなのか?
女って訳わからん生き物だな・・・やっぱめんどくせー・・・・

シカマルが腕組みしながら、を見ていると・・・

「なによぉシカマル! おでこのソレはシカマルが悪いんだから、絶対謝らないからねーだっ!!」

普段から目つきの悪いシカマルがジッと見ていたので、さっきの事を怒っているんだと
勝手に勘違いしたが また ベー と舌を出した。

「ったく・・・かわいくねー・・・」

シカマルはボソリと呟く。

「あーーー かわいくないって言ったぁ!!」

はまたムッとした顔をしてシカマルに詰め寄った。

「まぁまぁ喧嘩は無しだぜ?これから一緒にぶどう狩りに行くんだろ? なぁ ちゃん?」

「そっか。そうだね! 甘いぶどうがたくさん食べられるんだもんねーvvv」

「ねーーvvv」

同調したのは、もちろんシカマルでは無く、親父様である。

(アホか・・かわいくねーっつうのっ )

シカマルはデレーとした顔の自分の親父にため息をついた。


「なぁシカマルよぉ・・・だから言ったろ?女は甘いもんに弱ぇーんだ?だからよ、これで2人で
 仲直りしとけっ」

はしゃいでいるに聞こえないように、シカマルに耳打ちするシカパパ。


はぁ・・・・

シカマルは大きなため息をついた。

(だからって・・・ぶどう狩りだぁ?めんどくせー・・・)

「行きたくねー・・・・・」

小声で呟く。
すると、隣ではしゃいでいたがジロリとシカマルを睨んだ。

「何言ってんのシカマル!私の分もおいしいぶどうを採ってよね!!」

「なんだそれ!ぶどう狩りでもお前の面倒見ろってのか?めんどくせー。冗談じゃねーぞっ」

「めんどくせーって・・・・さっきからひどいよシカマル!どうしていつもいつもシカマルは!・・・
  もういいよ。・・・・どうせ私なんて・・・・」

はかなり ムッ として反論した。
しかし語尾は少しづつトーンダウンし、悲しい顔になり、最後は俯いてしまった。

シカマルはそんなの姿を見た途端に心臓がドキドキとして
動揺してしまう。

「分かった・・・よ・・・・行きゃーいいんだろうが・・・ったく。」

頭をガリガリかきながら、ため息をつきつつも2人に着いていくことを
しぶしぶ了承した。

その瞬間、の顔はパーッと明るくなった。
そして、嬉しそうに微笑んだ。

(まったくげんきんなやつ・・・・)

そう思いながらも、そんなの笑顔にドキドキする。


シカマルはそんな自分に気づいて、一人で勝手に動揺した。


(俺が2人に付いて行くのは、を本気で泣かせたら、また後でめんどくせーって
想ってるからだぞっ それ以外に理由なんかねーんだからなっ!!)
そう自分に言い聞かせる・・・




『惚れた弱みってやつだ』
さきほど親父に言われた言葉がシカマルの頭を反復した。





(なーにが惚れただよっ!バカ親父・・・俺とはただの幼馴染ってだけだっ)



はぁ・・・・・



シカマルのため息なんていつもの事、シカパパもも全然気にする素振りもなく、
出発の準備をはじめた。






「よーーーーーし!それじゃー行くぞ!!」

シカパパは威勢よく玄関の扉を開けた。

「しゅっぱーーーーーーーつvv」

まぶしいほどの太陽の光がシカマルの目に差しこんでくる。

(あーーーーぁ俺マジで何やってんだよ?・・・・)







「きゃーーーいい天気〜 気持ちいい〜!早くぶどう狩りしたーいvv」

隣では嬉しそうにスキップなんかしている。

それを隣で見ながら歩くシカマルはなんとなく苦笑いした。

(ったく 単純な女だな・・・でも、嬉しそうだから・・・まっ いいか)




青空に白い雲がゆっくりと流れていく、通りの緑は鮮やかに光り輝き、息を吸い込むと
草の青い匂いがした。
太陽の光の中で笑っているを見る。

には青空が似合うと思う。

輝く太陽の下で笑っているはとても自然で綺麗だ・・・・・


ぼんやりとそんな事をかんがえながら歩いている自分がすごく恥ずかしく思えた。


シカマルはなんだか一人で照れてしまって、そんな顔をにも親父にも見られたく
ないと、額の汗をぬぐうフリをして、俯いた。




気づくと、隣でが少し心配そうな顔でシカマルの顔を見ていた。


「な、なんだよ?気持ち悪いーな・・・・・」

「だって・・・」
は言いにくそうに俯いた。

「変なやつ・・・・」


シカマルはの態度に少しとまどう・・・



その瞬間、が背負っていたリュックをゆっくりと前にまわして、中をごそごそと
探しはじめた。

(急になんなんだ?)

の突飛な行動はいつもの事だし、たとえリュックから、シカマルの思わぬような物が
出されたとしても、シカマルにはもう慣れっこで大して驚くような事も無い。

どうせまた、お菓子とかキャンディーとか出すんだろ?

そんなことを思っていた。


でも、は手のひらに収まる何やらを握って、突然シカマルの胸に飛び込んできた。


「うゎっ//////」

正直これにはシカマルも驚いた。
いきなり歩いている自分の正面から抱きつくような形で顔を近づけられ、の柔らかい髪が
目の前でふわりと揺れた。


「な、なにすんだっ お前!////////」


その瞬間、額にぺたりと何かが張り付く感触。


「これでちょっとはマシかな?////」

「は?」

シカマルのおでこに大きめのバンソウコウがぺったりと貼られた。

「ただでさえ広ーーいおでこが真っ赤じゃ恥ずかしいもんねぇーーー///////」

は べーー と舌を出すと、なぜだか頬を真っ赤にして、シカパパの後ろにササッと隠れてしまった。

「ほほぅ。気が利くねー さすがちゃん!」

シカパパは同じく真っ赤になっているシカマルを横目で見ながら、ニシシ とからかうように笑った。

「なーにが気が利くだよっ!だいたい俺の額が腫れたのは、のせいだっつうのっ!!」

シカマルは貼りたてのバンソウコウを押さえながら ふん と顔をそらす。

「何照れてんだ?お前。本当はちゃんに貼ってもらって嬉しいくせに、素直じゃねーなぁ・・・」

シカパパはシカマルをこづく。

「だ、だれが嬉しいなんて言ったんだよ!!くそめんどくせーっ//////」




シカマルはシカパパにへの自分の想いを見透かされている事がどうにも気恥ずかしくて、
いつになく早足で2人の先を行く。


「もう!待ってよ!シカマル!!」


そんなシカマルの想いなど知る由もないは、今は一人にして欲しいと望んでいるシカマルの気持ち
を無視して、シカマルの後を追いかけて腕に絡みついた。

「離れろっ/// 歩きづれーだろうがっバカ」

「何よっ 本当は嬉しいくせに、シカマルって本当に素直じゃなーいっ」

「うるせーバカッ////」


そんな2人の姿に 何故だか うんうん とうなずいて、満足気なシカパパだった。












「やっと・・・着いたね・・・・はぁ・・・・」

この時代に車などという便利なものは存在しない・・・もちろん山まで歩き・・・・
いくら忍びとはいえ、まだ下忍で体力も無いには相当こたえたようだ・・・

「あーーーぁ。疲れた。ったく、めんどくせー。」

忍びとして頭脳明晰なシカマルも、日ごろの体力つくりは、いつも何かと理由をつけて
サボって昼寝に専念しているだけあって、かなり疲れている様子だ。

「こらこら、忍びともあろうもんがなんだ!そのざまは!2人ともしっかりしろよ!」


そういうシカパパを含め、3人は早々と入り口に置いてある休憩用の椅子に座っている。


「俺は、ここの奥の休憩室で休んでるから、若い者同士で、好きにしろっ
 おいしそうなぶどう採ってきてくれよっ」

シカパパはそれだけ言うと、ヒラヒラと手をふって、こじんまりとした建物の中へ行ってしまった。

「おいおい。まじかよっ・・・・・」

「仕方ないねっ」

とシカマルは2人で顔を合わせる。


とはいえ・・・・目の前のぶどう園にはたくさんの家族連れやらカップルやらが
ぶどうを採ったり、木の下にシートを敷いて、みんなでワイワイ食べたりしている。

それははたから見ても、とても楽しそうな光景だ。

でも、入り口付近はそんなこんなで、ちょっとした人だかり状態だった・・・




「はぁ・・・めんどくせーー・・・・・」

シカマルは深いため息をついた。

「それじゃーさ、どっちが一番おいしそうで大きなぶどうを採ってくるか勝負しよーvvv」

シカマルがかったるそうにしている姿を見ても、全然マイペースを崩さない

「は?お前、何勝手に決めて・・・」

「よーーーい!ドンッ!!」



シカマルなんか完全に無視して、は一目散に飛び出して行った。



「あの・・・・・バカ!」



はぁ・・・・



シカマルはため息をついて、空を見上げた。


「なんで俺までこんなことしなきゃならねーんだよっ・・・あーーーシチめんどくせー・・・・」


(ここで仲直りしとけっ)

さっきの親父の言葉・・・

「仲直りねぇ・・・・」

ポツリと呟く。

とはいつも喧嘩ばかりしてしまう。
それは、気分屋で天然のに問題がある場合が多いのだが・・・シカマルにも問題が無い
訳では無い。
を見てドキドキする自分と、そんな自分の気持ちに素直になれない自分が、思ってもいない言葉や態度を
とってしまい、その事でを怒らせてしまう事も多いからだ。


「なんであんなバカに惚れちまうんだ俺は・・くそめんどくせーっ」


太陽の強い日差しも、ぶどう園の木々がちょうど良い木陰を作って、シカマルにとっては絶好の
昼寝場所に見える。
でも・・・・

ここで勝負を放棄しようものなら、はまたきっと怒り出すに決まっている。
自分だって、を怒らせるのは嫌だ。
めんどくさいという理由のほかに、やっぱりには笑顔が似合うと思うからだ。
の笑顔が・・・・やっぱり好きだからだ。


「しょうがねー。めんどくせーが、やるか・・・・・」


シカマルは小声で『よっこいしょ』とか言いながら、かったるそうに椅子から立ち上がった。





それから30分ぐらいたっただろうか・・・・・






「はぁはぁ・・・絶対シカマルより大きくておいしそうなの見つけたもんねぇ!頑張って探したんだからっ!」

は息を切らせて、シカマルのいる場所に走って行く。



の脳裏には、これから起こるであろう出来事への想像が膨らんでいた。








『ほら見て!シカマル!』

シカマルの前にこの大きなぶどうを差し出してみる。

そしたらシカマルは

『へぇ。お前にしては上出来だな。うまそうじゃん』

シカマルの驚いた顔を想像して、はくすくすと一人でに笑顔になった。

『私の勝ちだからねーっ!!』

そう言って威張ってやるんだーーーっ


それでシカマルに・・・・・・



そこまで考えていたところで、の視界にシカマルが見えた。






「あっ!!」




シカマルはさきほど、と別れた場所に別れた状態そのままで、椅子に座ったまま、目の前の机にうつぶして
寝入っていた。







「ちょっとぉぉぉ!シカマルのバカ!勝負しよーって言ったじゃないっ!!」


は自分がとってきたぶどうを ドンッ と机において、シカマルの肩をゆすった。






全然起きない・・・・・・




「もう!シカマル!シカマル!起きなさい〜ぃぃぃぃ」



腕を掴んで、ぐらぐら揺らすと、シカマルはめんどくさそーに顔をあげた。

でも、まだ起きたてで目は据わっているし、意識がボーッとしているのか、無言のままだ。


「起きて!シカマル!!」

耳元に顔を近づけて大きな声を出すと、シカマルはゆっくりとの顔を見て、頭をガリガリと掻いた。


「ったく。 うるせーぞ 

ふわぁ   大きなあくびをしたシカマルの頭を思いっきりはたいた。


バシンッ


「痛ってーーーーっ なにすんだこのバカ!」

シカマルはその痛みに完全に目覚めたのか、を涙目で睨んだ。




「シカマル。私と、大きくておいしそうなぶどうを採る勝負しようねって約束・・・忘れたの?」

顔を近づける。

「はぁ?」

シカマルは目を細めてを見る。


「ははーーん。分かったわっ 私より大きなぶどうを採る自身が無いもんだから、それで勝手に
 試合放棄したってわけ?」

は横目でシカマルを怒ったような顔で見る。


「そんなめんどくせーことするかよっ・・・・ほれ!」

シカマルは机を指さした。


「え?」


机の上には たった一房、綺麗に実のそろった光り輝くような大粒のぶどうが置かれていた。
その隣に、粒は大きいのだが、ふぞろいで形の悪いでこぼこの一房・・・つまりのとったぶどうが転がっていた。



「何?お前。あんだけ時間かけといて、まさかコレか?」

シカマルは眉間にシワを寄せて、ぶかっこうなのぶどうを掴んだ。
は急に恥ずかしくなって真っ赤になる。

「なんだ?コレ。色気ねぇぶどうだな。やっぱ、さすがのぶどうだけある・・・・・」

「なっ なんですってぇぇぇぇぇっ///////////」

は腕をふりあげて、シカマルに強烈な一撃をくらわせようとした・・・
でも、大きく振りかぶり過ぎて、さすがのシカマルにも動きが読まれてしまったようだ。

の手はシカマルにあたる前に、グッとつかまれてしまった。


「残念だったな。勝負もお前の負けだ。何しよーが、お前が俺に勝てっこねーっつう事が分かった・・・か?
  って・・・え?」


シカマルは掴んだ腕を思わず離してしまった。


目の前で ポロポロ とが泣いてしまった。


「どうせ私なんて、何やってもシカマルにかなわないし、色気無いし、かわいくないし、バカだもん・・・」

「いや、俺はそこまで言ってねぇ・・・ぞ・・・・・・」

実際、はシカマルが知っている他のどの女よりかわいい。
少なくとも、シカマルはそう思っている。

「言ったもんっ 」

の涙が止まらない。

「いや、言ってねーって・・・・」

シカマルはどう言えばが落ち着くのか分からずに焦っている。

「言わなくても、態度で分かるもんっ」

「いや、お前は確かに俺よりはバカだけど・・・」

「あーーーーーやっぱりっ!!」

は涙目のままシカマルを悲しい目で見た。

「いや、だから、俺はその・・・・」

(バカだけど・・・そこがまたかわいくて、笑った顔がすげー好きで・・・いや手っ取り早く言えば、
 はどんな時でもかわいくて・・・。つまり俺はお前をすげー好きなんだって・・・・)

「もういいっ」

は手で目を覆っていっそう泣いた。

「いや良くねーよ」

シカマルは心臓がドキドキして、このままにしたら、に本気で誤解される!と焦った。
そして思わず、涙が流れる、のかわいい頬に無意識に手を伸ばした。


「あのな・・・・・・俺は・・お前を・・・・」


シカマルは自分が何を言おうとしているのか、頭が混乱した。
目の前でが泣き出した姿を見て、動揺してしまった自分が、何やら暴動気味な事を言おうと
している事だけは分かった。

(やべー。こんなとこで、に告ってどうすんだよっ 俺って超バカだ!!)


シカマルの心の叫びが、勢い余ってに告白しようとしている自分を必死で制止しようとしていた瞬間・・・・


が突然、がばりと顔を上げた。






「シカマルのバカ!もう怒ったからねっ!!見てらっしゃいっ!シカマルのぶどうよりずっと綺麗で
 大きなぶどうを採ってきてみせるからっ!!!そんでシカマルをギャフンと言わせてやるぅぅぅぅっ」





涙をぬぐったはなんだか、勝手に盛り上がって、目をキラキラさせて、思いっきりシカマルに
べーーーーーっと舌を出して、ぶどう園に再び走り去って行った。


残されたシカマルは、そのあまりの突飛な行動に、あっけにとられて、
半ば呆然としながら去っていったの背中を見つめていた。


「・・・・・・・まだ・・・・・・やんのかよ・・・・・・・・・・」


あの涙は一体なんだったんだ?

シカマルは腕組みをして、目を閉じて、先ほどまで泣きじゃくっていたの姿を思い出す。


「分からねー。だけは、理解できねー。・・・でも、まぁ・・・・」


シカマルは空を見上げて、誰にも気づかれないように はぁ とため息をついた。


「助かった・・・・・」

天然のがあそこで復活してくれなかったら、自分は間違いなく、に場違いな告白を
してしまっていただろう・・・
また勝負するのなんてめんどくさいが、自分がに突然マヌケな告白をするよりは全然マシな気がした。











それからシカマルはそのまま椅子に座ってボーッとの帰りを待っていた。



途中でシカパパが様子を見にやってきた。


「お?お前、なかなかいいやつ採ったじゃねーか。」

さきほどシカマルが採った綺麗なぶどうを掴んで、
何故だかシカパパはとても嬉しそうに笑った。

そして、ふともう一つのぶどうを掴む。

「なんだこりゃ?粒はデカイが明らかにマズそうだな」

シカパパはシカマルとほぼ同じ顔で眉間にシワを寄せて、胡散臭そうに、手の中のぶどうを眺めている。

「言っとくが、それはのだからな・・・・」

シカマルがそう言うと、シカパパはあわてて辺りをキョロキョロとして、の気配をうかがった。
の機嫌を損ねるのは、シカパパも恐ろしいのだ。


やはりこの親子、根っから女には、めっぽう弱いらしい・・・・




はさっきからずーーーっとぶどう探しに夢中だぜ。ちっとも帰ってきやしねーよっ」

ふあぁ・・・・

シカマルは椅子に座ったまま大きなあくびをして、伸びをした。


「んで?お前はずっと昼寝か?」

シカパパはヤレヤレという顔をして息子の顔を見た。

「他にやることねーしな。ぶどうなんざ 一房持って帰りゃーいいんだろ?」

シカマルはまた あわわわ とあくびをする。

ちゃん、どれぐらい帰ってきてねーんだ?」

「ん?んんん・・・・・1時間ぐらい?・・・・」

「まさかどっかで怪我とかしてんじゃねーだろうな?」

シカパパは腕組みをしながら、ぶどう園を見渡す。

「まさか・・・こんな人がウジャウジャいるような場所で怪我でもすりゃー、すぐわかるはずだろ?」

シカマルはめんどくさそーに応える。
シカパパはそんなシカマルに眉をひそめながら、少し声のトーンをさげて話しだした。

「いやな・・・さっき休憩室で聞いたんだがよ。ここの園はものすげー奥までつづいてんだとよ。
 んでな?たいていはみんな手っ取り早く、ここの近くで採っちまうからいいらしいんだが、たまーに
 奥の奥まで採りに行っちまう輩がいてよ。年に1度は事故があるらしい・・・」

「事故?」

シカマルは眉間にシワを寄せてシカパパをジロリと睨んだ。

「ぶどう園で事故ってなんだよ?」

「神隠しだよ・・・いなくなっちまうんだと・・・・それでなここでいなくなった奴は二度と帰ってこねーって
 話しだぜ?」

シカパパはシカマルの様子をうかがうように、横目でチラリとシカマルを見た。

シカマルはジッと一点を見つめて真剣な表情になった。

「まっ あくまで噂だがな・・・用心にこした事はねーだろうから、ちゃんにあんまり奥まで採りに
 行くなって伝えて来たらどうだ?」


シカマルは無言でガタンと椅子から立ち上がる。


シカパパは、いつもぐうたらで、たいていの事には動じず、突飛な行動を起こさない息子が急に敏速に動いた
ことに多少驚いた様子だ。



シカマルはくるりとシカパパを見ると言った。



「あのバカ探してくる。」


そう言い残すとシカマルはチャクラを足に込めたのか、もの凄い速さでぶどう園の中に入っていった。


「いってらっしゃい・・・・うまくやれよっ」


シカパパはすでに見えなくなってしまった息子の背中に手を振った。

そして、呟やいた。


「んな訳あるか・・・アホがっ」


ぶどう園で神隠しなんてことが毎年のようにあったら、ふつうは営業停止ぐらいにはなるだろう・・・
そんなおかしな出来事がまかり通るほど、木の葉も無防備では無い。

普段、冷静で頭のキレる少々生意気な息子が、そんな常識すら分からないでいることに、シカパパは
多少驚いた。


でもそれはきっと・・・・


「あいつがいっちょ前に恋ねぇ・・・彼女の為ならたとえ火の中なんとやらだなっ・・・」


シカパパは一人言を呟くと、自慢の顎ヒゲをさすりながら、くくくと笑った。





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