「おいっ !おりて来いって!!」


1階からシカマル君の声。


2階のシカマル君のベットの中で、私はまだ完全に開ききっていない瞼をこすって
必死にぼやけた頭を覚醒させようとした。


布団の中のあったかい空気が、動かした体と布団の隙間を抜けて出ていって、
変わりに、部屋のシンとした冷たい空気が私の肩先をヒヤリとさせた。


「寒いよぉ・・・まだ・・寝てたいぃぃ・・・・・・」


私の覚醒しきれていない頭に、もう一度布団をかぶる。
そしたら、またぼんやりと夢の中に入っていって・・・昨夜の事が思い出された。







『俺、ソファーで寝るわ・・・』

シカマル君はあくびをしながら、部屋のドアのノブに手をかけた。

『え・・・いいの?私が下で寝るよ?』

部屋を出ていこうとするシカマル君の背中にそう言った。
だって・・・なんか悪いし・・・・

『良く言うぜ、お前、寝相最悪なくせしてよっ・・・絶対ソファーから落ちるのがオチだぜ?』

ふふん と目を細めて意地悪に振り向く顔。

『むっ』

(また、シカマル君はそういう事を言う・・・・・)

『まっ 俺はいつもこういう損な役回りだったかんなっ 気にすんな』

シカマル君が意味深なことを言うから・・・

『何それ?』

私はちょっと不機嫌な顔をしたと思う。

『ガキん頃からいつもお前のわがままに付き合ってきたからよ。こんなの慣れっこだっつってんのっ』

シカマル君はそんな私なんか全然気にする素振りもなく、けっ なんて笑った。

(わがままって・・・本人を前にして言う!!本当意地悪!!)
私はまた ムッ としたままシカマル君をじっと見ていた。


『まっ とにかく、この家にいる間は、それはお前のベットだ。好きに使え』


シカマル君はめんどくさそうにチラリとベットを見てそう言った。


意地悪だけど・・・でも・・・そういう事言ってくれるところは、悔しいけど、やっぱり
ちょっと優しいんだよね・・・

だから何も言い返せない・・・シカマル君て本当に変な人。


『あ、ありがと・・・・』


私は悔しさ半分、本音半分の複雑な思いで、そう言った。


『はいはい。どういたしまして』


ポンポンと頭を叩いて、シカマル君は『じゃあな』と階段を降りていった。





ガランとしたシカマル君の部屋に一人残された私。


シカマル君がいつも使っていたであろうベットを見る。


改めて考えると、あの意地悪なシカマル君がいつも使ってるベット。
シカマル君は男の子で・・・
なんか・・・そのベットを使う自分が恥ずかしかった。
イヤとかそういうのとはまた違う・・・とにかく気恥ずかしい気持ちになった。

でも、今日一日、色々な事がありすぎて、私の体は眠気と疲れで、くたくたに
なっていた。

こうなったら、考えていてもしょうがない・・・

『寝よっと・・・』

独り言をつぶやいて、私はおそるおそるベットにのっかって、ゆっくりと布団の中に足を沈めていく。
冷えた布団にズルズルと体を入れていくと、体全体がひんやりした。

体が完全に入りきると、シカマル君の枕にポスンと私の顔が当たった。


(きゃーーー なんかよく分からないけど、やっぱり照れる//////)


男の子のベット・・・なんか眠れないかも・・・・





私は少しでもこの緊張をほぐそうと、鼻から すーーっと息を吸い込んで、はぁ と吐き出し、
深呼吸をした。




あ・・・・あれ?



その瞬間に、ドキリとした。



この・・・匂い・・・・・


枕と布団から、ふわりと香る匂い・・・・・・



なぜだかドキドキした。
懐かしいような、あったかいような、くすぐったいような・・・すごく安心するような・・・


不思議だった。


さっきシカマル君に抱きしめられた時に感じたのと同じ・・・



私はさっきの恥ずかしさなど忘れてしまって、シカマル君の大きい枕にうつぶせで、顔をボンッと埋めた。


布団を頭までかぶってみる。


(あぁ・・・・落ち着く・・・・・)


布団の中は蛍光灯の電気を遮断して、真っ暗。
まるで私だけの小宇宙。

その中は、誰か、私にとって一番大切だと思える人に抱きしめてもらっているような感覚。
今日一日の中で、このベットの中が一番落ち着く・・・不思議・・・・・


すーーーっとまた息を吸い込む。
またあの匂いが鼻先をくすぐった。


心がホワンと温かくなる感じ。


この気持ちは・・・なんなんだろう・・・・・


ドキドキする心臓。でも、それは緊張とか不快感ではなくて、まるで誰かに恋をしてしまったような、
優しい音をたてて響いていた。
私は自分の胸に手をあてる。


布団の中の温められた空気と優しい匂い。
抱きしめられているような私の体。


(・・・たぶん、私には、こんな風に、大切に私を抱きしめてくれる大事な人がいたような気がする。)
 

!』

その時、あの川で私を呼んだ男の子の声と、ぼやけた姿が頭に浮かんだ。

もしかして、あの時の男の子が私の大事な人かもしれない。
私は成長した今でも、私を必死で助けてくれたあの男の子に恋していたんじゃないのかな?・・・・・・


心臓がトクトクと音をたてている。



あぁ・・記憶をとりもどして、そしてあの男の子に会いたい・・・
きっとあなたは今も木の葉のどこかにいるんだよね?
私、きっと思い出して、見つけ出して、会いにいくから・・
だから絶対待っててね・・・



そんな事をぼんやりと感じているうちに、私は深い眠りへと入っていった。







!起きてっか?」



あ、あれ?
また誰か呼んでる?


寝ぼけた頭がその声に反応していく。



いけない・・・私また寝てたんだ・・・・



!いい加減に起きろっつうの!!めんどくせぇな」


私は、1階から大声でシカマル君に名前を呼ばれていたのに、またベットで熟睡してしまったらしい。
下から呼ぶシカマル君の声がだんだん不機嫌になってきたことに気づいて、
私は慌てた。


、置いてかれっぞ、いいのか?」

私を呼んでいるその声に、とっさに返事を返す。

「は、はい。今行きます!」

置いていかれるって・・・誰に?

あたふたと準備をしながら、私はまた動揺していた。

でも、そんな疑問は後あと!!
どうせまた眉間にシワを寄せて、不機嫌な顔をしているだろうシカマル君を想像して、
私は慌てて階段を降りて、玄関に急いだ。




「ご、ごめんなさい。で?何?」

少し息があがって、シカマル君を見上げたら・・・・
開けられた玄関の扉の向こうに数人の人影が・・・


「つうわけで、今日1日、こいつ頼むわ」


え?


シカマル君の家の玄関前には、数人の女の子。


突然、玄関先で大声で名前を呼ばれて、何だろう?と来てみたら、
シカマル君のお友達らしき女の子に、シカマル君はいともたやすくそう言った。




1日頼むって?・・・だって、この女の子たちは一体誰???


私はシカマル君と女の子達の顔を交互に見くらべる。
そして一気に不安な気持ちになった。



「はーーい!。それで?親友の私のこともすっかり忘れてるってわけ?」


突然、金色の綺麗な長髪の女の子が片方の眉を少し吊り上げて、私の顔を覗きこんできた。


(き、綺麗な子・・・・)


それが第一印象。
だって・・・・彼女は私をよーーく知っているみたいなんだけど・・・私はやっぱり知らないんだもん。


「いの!ダメよ!が混乱しちゃう!!」

ピンクの髪の女の子がその金髪の・・・いのという名前の女の子の腕をひっぱった。


「サクラは黙ってて!だってさ、悔しくもなるわよ!だってと私は本当の親友だって思ってたのにさ!」


あぁ・・・この子はサクラって言うんだ・・・・


「で、でも・・い、いのちゃん・・・ちゃんは・・・き、記憶がない・・んだし・・・」


少しオドオドした様子の黒髪の短髪の女の子は?


「ヒナタ!甘いわよ!私だったら、たとえ記憶がなくなっても、親友の事は忘れない自信あるもんね!!」


この子はヒナタって言うのか・・・・



女の子3人の様子から、名前は把握できたみたい・・・はぁ・・・とっさにため息が出た。



「おいっ いの。 が自分で思い出すまで、余計なこと言ったりすんなよ? こいつ混乱すっから。」


シカマル君はやけに親しげに、その いのという女の子に話しかけた。
なんか・・・少し 胸がチクリとした・・・なんなのよ・・・私。

「分かってるって・・・とりあえず、今日はに色々仲間にあわせてみて、反応を見てくるわ」

「おう。頼んだぜ」

シカマル君はへっと笑った。

お互いに信頼しきっているようなこの2人。
もしかして付き合ってるの???
シカマル君にこんなかわいい彼女が?

理由はよく分からないけど・・・とにかくあんまり2人が話しをする所を見たくない気がした。


なんか・・・・やだ。


ジーーッとシカマル君を見ていたら・・・


「んじゃな。1日頑張ってこいよっ 


頭をくしゃりと撫でられた。


あったかい手。


でも、この優しさは別に私だけの為じゃないんだ。
仲良しの女友達なんて、・・・他にもいるんじゃないっ


なんだか腹が立った。


それからシカマル君は別に何をするわけでもなく、そのまま部屋の廊下を
歩いていこうとした。


「シ、シカマル君!」


私は部屋にもどろうとするシカマル君にとっさに声をかけた。

「あ?」

めんどくさそーに振り返る顔。

「シカマル君は今日1日なんか用事でもあるの?」

だって、記憶をなくしてからずっと私の側にいてくれてたのに・・・・

「ねぇよ・・・・」



がーーーーーーーーーーーーーーーーーーん



用事も無いくせに、ほったらかしっ!!!
あんた!私の世話をあの偉そうな女の人(←火影のこと)に頼まれたんじゃないわけ?
何それ?なんだかもう許せないっ


「じゃあなんで・・・・」

「俺がいたってしょうがねぇだろ?それに今日は天気もいいしな」

シカマル君は ふん と笑った。

「て、天気?」

「そ。俺は昼寝が趣味なの・・・・」


ふあぁ とおおあくびをかまして、「んじゃな」 クルリと背中を向けられて、
ヒラヒラと手をふられた。




「シ、シカマル君のバカ!!」




私の声も虚しく、私はいのちゃんに手をひかれて、奈良家を離れた。


「昼寝が趣味なんて・・・じじぃみたい・・・・」

私は一人ブツブツと呟いて、むくれていた。

「なぁに?。 シカマルに一緒に来てほしかったんじゃないの?」

サクラちゃんに顔を覗かれて、ドキリとした。

「ち、違いますっ!/////誰があんなめんどくさがりの意地悪なシカマル君なんか・・・・」

「へぇ・・・・記憶なくなると・・・でも、シカマルがそう見えちゃうんだ・・・・」

サクラちゃんは不思議なものでも見るかのような顔で私を見た。

「事実そうです!!」

ムクレて答えると、いのちゃんやサクラちゃんに笑われた。

ちゃん・・・ち、違うよ・・・シカマル君は・・・ほ、本当は・・・優しい人だと
 思う・・・。ちゃんには・・と、特別・・・」

ヒナタちゃんは顔を真っ赤にしてそう言った。


(私にだけ特別? そんな優しさがあるなら、私をほったらかして、一人で昼寝なんてするわけないよっ!!)


私は何もいわずに、空を見上げた。


空は快晴で、真っ白い雲がゆっくりと風に流されていく。
ぽかぽかと暖かい日差しが木々を照らしていて、すごく気持ちのいい朝。

昼寝には本当にもってこいの天気。

シカマル君は今ごろ、一人でのんびりとこんな空を見上げながら昼寝してるんだろうな・・・


「シカマル君の・・・・バカ」


3人には聞こえないようにそっと呟いた。












2階の縁側にすわりながら、俺はずっといの達に連れられていく、
小さな背中を見ていた。



女達の中でも、一番小さくて、揺れる髪からチラリとのぞく華奢な肩が
壊れそうだ。
細い足は時々早くなったり遅くなったり、そのリズムがすげぇ不安定で、
なんか笑える。

こんなに長い時間、の後ろ姿を見るのは初めてかもな・・・・


「おいっ」と俺が今、お前の名前を呼んだら、お前は一体どんな顔で振り向くんだ?




坂を下って、達の姿が、見えなくなった。


・・・・」


無意識に言葉がこぼれた。


(うわっ////// 何言ってんだ?俺。)


今、まわりに誰もいなかった事にホッとする。





ため息をついて、ゴロンと寝転んだら、雲がゆっくりと流れていった。
あったかい日差しが俺の体を照らしている。


あぁ今日もいい天気だ。


俺はゆっくりと目を閉じて、今朝の出来事を思い返した。












朝、目を覚ましたら、母ちゃんも父ちゃんもいなかった。
たぶん父ちゃんは任務で、母ちゃんは鹿の世話だろう・・・・

2階の俺のベットをに使わせているから、俺はリビングのソファーで身をかがめて寝ていた。
朝のツンと冷えた空気が俺の鼻を刺激する。

「うーーー 寒ぃ」

ひっぱりあげる毛布に顔半分までうずめて、俺はさらに身をかがめて身震いした。





じりじりじり・・・・・




電話の音が鈍く響く。



「ったく・・・誰だよ。こんな朝っぱらからよっ くそめんどくせーっ」


俺は毛布を体に巻きつけて、電話に向かう。


じりじりじり


電話は《早くでろ!》と言わんばかりに、鳴りつづけていた。


「あーー 寒ぃっ」


俺はもう一回身震いしてから、受話器をとった。


「あーーーもしもし」

『シカマル!おっはよーーーー!!』



朝からのハイテンション・・・いのだ・・・・



「はいはい。んで?なんだよっ」


俺は朝にも寒さにも弱ぇんだよっ・・・はっきりいって朝から《いの》ってのはキツイ。
俺は冷え切った足の指先にもう片方の足の裏をすり合わせて、めんどくさそーに返事をした。


・・・あれからどうなのよ? あんたの事ぐらいは思い出したんでしょ?』


いののそのセリフ・・・・グサッときたぜ。


あいつは俺のことなんか、これっぽっちも思いだしちゃいねぇ。


それどころか、とは完全にただの幼馴染に逆もどりって状態で・・・


いやたぶん・・・あいつにとっては俺なんて幼馴染とかそんな次元にも辿りつかないぐらいの
ちょっと顔見知り程度の、ご近所さんぐらいなもんだろう・・・



『あれから、なんも進展しちゃいねぇよ・・・』



はぁ・・・ため息が受話器にあたって、ボボボと音をたてた。


『ふうん。シカマル、あんた相当凹んでんでしょ?』

いのがニシシと笑う顔が目に浮かんだ。


「ほっとけ・・・・」


そりゃ、冗談にもならねぇ事実だ。


『よっし!今日は私にをあずけなさーいっ!』

「は?」

『今は、色々な手を使って、の記憶を取り戻す方法を考えるしかないわよ!!私も協力するわ!』

いのの声は俺の返事を聞く前からやる気満々・・・

『んで?どうすんのよシカマル!私にをあずけるの?あずけないの?』

何も答えない俺の返事をせかすように、いのはそう言った。

「つうかよ・・・お前、最初からそのつもりでかけてきたんだろ?」

いのの性格・・・本当わかりやすっ!!


『あははは。バレてた?その通り!とにかく私に任せなさい!あんたも少し一人の時間作らなきゃ、煮詰まるわよ?』


そう・・・俺の性格もいのはお見通し。


「あぁ・・そうだな。んじゃ、今日は頼むわ・・・」


頭をかく。
いのの言う通り、その方がいいのかもしれねぇ・・・あんまり俺がにひっついてんのも、あいつにとっても
良くねえのかもな・・・・


『オッケー!んじゃ後で向かうわねんvv』

「おぉ・・・」

『あっ シカマル・・・・』

突然マジな声で呼ばれる。

「あ?」

『たとえ、どんな事があっても、あんただけは絶対にを信じて待つのよ!いい?』



いのの言葉が、昨日、を信じきれずに動揺しちまった俺の胸を締め付けた。



は忘れてても、あんたは覚えてるでしょ?の全てを・・・・だったら信じて待てるわよね?』



あぁ・・そうだな いの。
・・・・が忘れたって、俺は忘れられねぇよ。



俺よりずっと小さくて華奢な体も、俺を動揺させるような優しい笑顔も、甘い香りのするやわらかい髪も、
甘ったれな性格も、すぐいじける子供みてぇなところも
全部覚えてる。


あの日、俺を好きだと言った唇も・・・・



俺を見つめる、のまっすぐに偽りのない綺麗な瞳。






(私は何度でもシカマルに恋をするよ)






お前は絶対俺を裏切らない。信じてる。





「あぁ・・・分かってるよ・・・いの」

そうだよ・・・俺が信じないでどうすんだってぇの。


『よっし!それでこそ、シカマルとだわっ!私もあんた達の恋を信じてるからねっ!!』

「なんだ?・・・ソレ」

なんか笑っちまった。

『いいの。いいの。じゃあ後でね!』

「あぁ」




チンッ




受話器を置いて、少しホッとする。

といの・・・・親友のお前なら、何かに新しい刺激を与えてくれるかもしれねぇ・・・
そしたら、何か解決の糸口ぐらいは見つかるかもしれねぇな・・・・


まだ寝ているであろうのいる2階の部屋の薄暗い階段を見上げる。


「俺は必ずお前を取り戻してみせっかんな・・・・」







今朝の出来事がぼんやりと頭を巡っていた。









気がつくと、俺はポカポカの陽にてらされて、本当に眠っていたようだ。
寝ている俺の腕にあたたかいものがあたって、俺はそっと目を開ける。
そこにはいつもの猫がゴロゴロと喉を鳴らして、俺の腕にスりよっている姿があった。


俺はそっとそいつを抱き上げる。


「お前も祈っててくれよっ・・・あいつが俺のもとにちゃんと帰ってくるようにってよ・・・・」


にゃーーーーご


小さな牙を見せて、猫はおだやかな声で鳴いた。















「それにしても、記憶喪失になると本当に忘れるものなのね・・・」

サクラちゃんが空を眺めながら、ぼんやりと呟いた。

「まさかがシカマルの事まで忘れちゃうなんて・・・・」

とても当たり前のようにそう呟かれて、私はとっさにサクラちゃんの顔を見た。


「私がシカマル君の事を忘れちゃうのって、そんなに驚く事ですか?」

いくら幼馴染だからって、私は親友のいのちゃんですら覚えてないんだからさ・・・・


「だって・・・ねぇ」

サクラちゃんはいのちゃんの顔を見た。


「まぁまぁ・・・サクラも、が混乱したら困るから・・・今はその話しは無し!」

「そう・・だね・・・ちゃん・・・きっとすぐに思い出すよ・・・・」

「はぁ・・・・」


本当にそうなんだろうか・・・・
私はなんだか不安で不安で、たまらなかった。



「さってと・・・どっから行く?」

いのちゃんはサクラちゃんとヒナタちゃんの顔を交互に見る。

「えっと・・・え、演習場に・・・キバ君とシノ君が・・・いる・はずなの・・・だから・・・」

「はい!決まり!まずは8班からねvv」



みんなが早足になるので、私は何がなんだかわからずに、遅れないようについていった。



演習場??・・8班??・・

今の私にはわからない事ばかり・・・

でも、今は私の為に来てくれた、女の子達の好意を無駄にしないように、ちょっとでもいいから
何かを思い出したかった。














そこは森の中に作られている、忍びの修行場所らしい。










「キバ!シノ!連れて来たわよっ」

いのちゃんが叫ぶと、木々を切り倒して、平地にされた円形の演習場にいた男の子が
こちらを振り向いた。



「よぉっ 遅かったじゃねぇのっ」

キャンキャンっ

小犬を抱えた男の子が返事をかえした。

で、でもさ、その男の子の姿を見て、私の体は硬直した。

鋭い眼光。低い声。まるで野生の獣みたいに見えて、私はかなり引いた・・・
(なんか・・・噛み付かれそう・・・怖いよぉぉぉ・・・・・)





隣の男の子を見る。

黒いサングラスで目が見えない・・・しかも、何も声をかけてくれないのは・・・なぜ?
私の事、嫌いなのかな・・・・



この2人とこれから話しをしなきゃいけないという事実に、私は思いっきり逃げ腰になって
いた。
もとはといえば、私をほったらかしにして、勝手に友達に私の事を押し付けたシカマル君が
悪いんだ!!
心の中で、「シカマル君のバカ!」と叫び続けた。



「おいっ !早くこっち来いよ!」

怯えて、知らず知らずに後ずさりしていた私に、犬の男の子が叫んだ。

(きゃーーーーっ 怒ってる?怒ってるよね?)

「キバ・・・あんまり大声を出すな。が怯えてる」

隣の男の子が静かにそう言った。

(でもあなたも・・・・なんか冷静な声がまた怖いですぅぅぅぅ)

私がオドオドしていると、男の子の連れていた犬が私の側に走りよってきて、
私の足を顔でグイグイと押した。

「え?え?何?」

「おら、赤丸も来いって言ってんだろ?別に俺はお前に噛み付きゃしねぇからこっち来いって」

ようやくその男の子が笑ったので、私は少しホッとした。
それにこのかわいい子犬ちゃんは赤丸って言うんだ・・・・

きゃんきゃんと元気の良い赤丸君はとってもかわいいと思った。


「キバ、シノ、と何か話してあげてよ・・・何でもいいわ。何かのきっかけで思い出すかも
 しれないじゃない?」

いのちゃんの言葉に、2人の男の子は 顔を見合わせた。


「分かった。でもよ、シカマルでダメなんだろ?俺たちでどうにかなるとは
 思えねぇけどな・・・・」

キバという男の子の何気ない言葉。

まただ・・・シカマル君でもダメって・・・私とシカマル君てそんなにみんなが知っているほど
仲良しだったの??
幼馴染って、そんなに親しくなるものなのかな・・・・・



「だが・・・何かしてみるしか無いだろう・・・」

シノ君というサングラスの男の子がそう言った。



女の子3人は少し離れたところで、私達の様子をうかがっている。





「お前、本当になんも覚えてねぇの?」

キバ君に顔を覗かれる。

「は、はい」

「ふーーん。見た目は普段と全然変わらねぇのになぁ・・・」

キバ君は私の頭をぐりぐりと掴んだ。

「い、痛いです・・・」

「悪ぃ悪ぃ」

キバ君はニシシと笑った。


・・・俺たちは、ヒナタを含めて8班だ。たまにお前の班と合同で任務をした事もある」

「はぁ・・・・」

(合同で・・・任務・・・かぁ・・・・)
私には、まだ任務というものがどういうものかも思い出せないでいる。


「なぁシノ。俺たちの忍術を見せてみたら、何か思い出すんじゃねぇか?」

キバ君はシノ君の肩を掴んだ。

「それが適切かどうかは分からんが・・・やってみる価値はありそうだな・・・・」

「え?」

忍術?何ソレ・・・・・


私は意味が分からずホケーとしていると・・・


「俺は油目一族のシノだ。」

目の前に手をかざされた。
一体何がはじまるんだろう・・・・私はシノ君に釘付けになった。

「今から俺の忍術を見せる。何か思い出した事があったら、遠慮なく言うんだぞ。」

「は、はい」

「寄壊蟲の術」




その声と同時に、シノ君の手が真っ黒に染まりはじめた。


え?えぇぇぇぇぇ!!!


黒いものって・・・全部、蟲!!!




「シ、シノ君!!」

私は思わず叫んだ。

「なんだ?」

シノ君は私を振り返る。

「ひゃっほーー !お前何か思い出したんだな?」

キバ君がうれしそうに肩を掴んできた。


「違う!違う!」


「は?」


キバ君は目を点にしていたけど・・・そんな事より、シノ君のこれって!!!




「すごいよシノ君!それって何の手品?どこにそんな大量な蟲を隠してたの?ねぇねぇ?」


だって、知りたくもなるじゃない?
手が真っ黒になるほどの蟲だよ??


でも・・・・・・







シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン






「あ、・・・あれ?」


キバ君もシノ君も急に無言になったので、私は何かまたとんでもない発言をしてしまった事を
察した。


(あたし・・・また・・・やっちゃったの?・・・・・・)


「お、お前なぁ!!どこまで記憶無くしてんだよっ!このボケ!!」

キバ君に怒鳴られた。


「だってぇぇぇぇ!!!」

あまりにその剣幕が怖すぎて、私は頭を抱えて、うずくまった。


「よせ。キバ。記憶が無いのはのせいじゃない・・・それに・・・もともとは天然だ」

何気にシノ君の言葉にも グサリ と傷ついた。
天然て・・・・ヒドイ・・・・

「まぁな。けどよ、ここまでボケられると、さすがに説教の一つでもしてやりたくなんぜっ!!」

キバ君はやっぱり怒ってるんだ・・・はぁ・・・・


「こうなりゃ、ショック療法で、もう一発頭殴ってやろうか?」

キバ君がそのゴツイ拳を握り締めてニシシと笑うから、本当にやられる!!と思って、
私はとっさにうずくまった。


「やめてぇぇぇぇ!!!」

「バーーカ。やるかっての。冗談だよっ」

顔をあげたら、がはは と笑われた。




キバ君も・・・すごい意地悪。  嫌いぃぃぃっ




涙目でキバ君をにらんだら、


「を?やる気?お前・・・・」


ギロリと睨まれた。


「や、やりません・・・・・」

絶対勝てるわけないもん。こんな獣みたいな男の子に・・・・・
私がムクレてうなだれたら、キバ君はまた がははは とお腹を抱えて笑っていた。

「やっぱ変わってねぇっ 、お前、なんも変わってねぇってっ」

なおもゲラゲラ笑われて、一体何が変わってないのかさっぱり分からずに、私は
無言でムクレていた。


「からかいがいあるって言ってんだよっ お前ってさっ」


変わってないっというのは・・・そういう事らしい・・・・・・
なんか全然嬉しくない・・・

私はそんなに天然でバカで、すぐからかわれる存在だったのか・・・・・・・








「それで・・・お前は何か思い出した事はあるのか?」

シノ君が静かにそう言った。


「思い出した事?・・・・・」


頭をめぐらせて考えた。
はっきり言って、まだ何もこれだって事を思い出していない。


あ・・・・でも・・・・


とっさに昨日の夜の出来事を思い出した。





お風呂で見た、川におぼれた自分の姿。私を必死で助けてくれた男の子。





「私・・・川でおぼれた事があるみたいなの・・・・」






もしかしたら、この男の子たちのどちらかが、私を助けてくれた子だったりして・・・・



少しだけ期待して、反応を見てみたけど・・・・



が川で?・・・んな事あったか?シノ」

「俺は知らんな。それは事実なのか?」


キバ君も、シノ君も、違うみたい・・・・
そもそも、私のその記憶事態、事実かも私にはわからないのだから・・・・


「ううん。なんでも無い。」


俯くしかなかった。
急に悲しくなってきた。

みんなが一生懸命、私に記憶を取り戻そうとさせてくれているのに、当の私は
何一つ確信できる事を思い出せずにいる。


私は一体いつまで、こんな状態でいなきゃいけないんだろうか・・・・





くーーーん


キバ君の手から赤丸君が私の頬を優しく舐めてくれた。


「赤丸も辛いってよ・・・・」

顔をあげたら、キバ君は少し笑ってそう言った。

「赤丸・・・くん?」

私は白い子犬を抱き上げた。

「お前は時々そうやって、赤丸の事、抱いてくれてたもんな」

「私が・・・・」

きゃんきゃんっ
赤丸君がまるで私に何かを話し掛けるように、手の中で吼えた。
その目・・・まるで人間みたい・・・・

キバ君はそっとつぶやいた。


「赤丸が言ってる・・・は笑顔が似合うってよ。あんまし落ち込むなって。」


嬉しかった・・・・


私を心配してくれるの?・・・・


「ありがとう・・・赤丸くん」

私は赤丸君の少し湿った鼻先にそっとキスをした。




「いいのか?そんな事しちまったら、シカマルが怒るんじゃねぇの?」

ニシシと笑ったキバ君の顔。

「どうしてシカマル君が怒るの?」

「え?・・・・だってよ・・・そりゃ・・・・お前らは・・・・・」

キバ君は急に口篭った。

・・・お前に一つ聞く。今、お前はシカマルをどう思ってる?」

シノ君という男の子が私をまっすぐに見て、そう聞いた。

「どう?って・・・・口の悪い幼馴染の男の子・・・かな・・・時々優しいけど、でも
 すぐ意地悪な事言うし・・・ちっとも愛想ないし・・よく分かんない。」

「そうか・・・・」

シノ君は静かにそう言った。
キバ君は、そっと私の頭に手を置いた。


「早く・・・思い出せるといいな・・・なっ 

きゃんきゃんっ


赤丸君もまるでキバ君の言葉を理解しているかのように、ほえた。


「うん。」










「どう?なんか思い出せた?」


女の子のところまで歩いてもどってきた私の顔を、いのちゃんは目をキラキラさせて
覗きこんできた。

期待された目に、何も収穫の無かった自分が情けなく感じる。

「ごめんね。何も・・・・」

「そっか・・・・ごめんごめんっ 、焦らず行くわよっ!」

いのちゃんが笑ってくれた。

「そ、そうだよ・・・ま、まだ2日しか・・・た、たってないもの・・・」

ヒナタちゃんも笑ってくれた。

「それじゃぁ気をとりなおして!今度は7班メンバーに会いに行くってのはどう?」

サクラちゃんが片目を閉じて、笑った。


「オッケーーーーッ!!出発〜!!」


いのちゃんの掛け声で、みんなでまた道を行く。



次こそ・・・頑張ろう!!
胸に手をあてて、深呼吸した。














「シノ・・・どう思う?」


演習場に残された2人。
キバは去っていく女の子たちの背中をみながら、そっと呟いた。
シノも同じようにジッとしたまま、返事を返した。


の記憶は思っていたよりも深いところに眠ってしまっているようだな・・・・」

「俺もさ・・・正直あれほどまでとは思ってなかったからよっ 驚いたぜ。
 ・・本当に何も覚えてねぇんだな・・・・」

「記憶喪失とはそういうものなんだろう・・・・」

「シカマル・・・・辛ぇだろうな・・・・」

「あぁ・・・そうだな」


風がざざーーと吹き抜け、木の葉が舞った。








「なぁシノ」


キバはシノの顔を覗きこむ。
シノはまるでその先のキバの言葉を読み取ったかのように、コクリとうなずいた。



「んじゃ行こうぜ シカマルんとこによっ」


きゃんきゃんっ

赤丸もその言葉を待っていたかのように、キバ達のまわりを飛び跳ねた。






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