記憶を無くしたお前と話すのは、これでも結構辛い。
俺を他人のように見るお前の瞳を見たくねぇんだよ。


どんなに普通に接しようとしても、お前の顔や言葉や仕草を見たら、
やっぱ俺は無意識にお前に触れたくなる。



だけど、まだ、お前の中の俺は他人同然で・・・・



だけどそれも、今は辛れぇけど、仕方ねぇって思えるようにしたつもりだった。


お前の記憶が戻るまで・・・
お前がちゃんと俺のことを思い出すまで・・・・
俺は待っててやるって決めたはずだろ?


だから、結構必死で耐えてるつもりだ。



俺を他人のように見るお前のその瞳にも、よそよそしい態度にも、俺なりに必死で我慢
してたんだぜ。





けど・・・








『シカマル君のこと、なんとも思ってないからね』








その言葉は・・・正直、痛てぇよ。
今まで俺が経験してきたどんな出来事より、・・・すげぇ痛てぇ。
その言葉を聞いた瞬間に、心が粉々に砕けちまったように、突然目の前から色が無くなった気がした。


記憶が無いから仕方ないって分かってる。
今のは俺の知ってるじゃないって頭では理解してんだ。



けど・・・けどよ。




そんなあっさり言うなよ。


俺がどれだけの想いで今までのお前を見てきたと思ってんだ?
好きだって気持ちに気づいてからも、ずっと我慢してきた。
幼馴染のこの関係を壊さないようにずっと・・・・
付き合うようになってからだって、ずっと不安だった。

お前は本当に俺で満足してんのか?
お前は本当に俺を選んでよかったのか?


ってよ・・・・・・・



好きだって言葉はいつもお前からだったけど、俺だってお前をずっと想ってきた。
ずっと好きだった。
誰より大事にしてたつもりだった。



だから・・・・すげぇ痛ぇんだよ。





『なんとも思ってないからね』





なんで笑ってんだよ・・・お前。
なんで俺の気持ちに気づかねぇんだよ・・・・


俺たちあんなに解り合えてたはずだろ?


ひでぇよ・・・









お前は嘘つきだ。









お前は俺とのあの日の出来事も忘れちまったんだな?
俺たちにとって人生で一番大切な日・・・・・・

一生忘れないってお前が言ったんだろ?

でも・・・今、お前の心の中に、あの日の思い出はもう無いんだな・・・・











俺の部屋から続く特製縁側に2人で座って、その日俺たちは青い空を眺めていた。
俺たちの他には道を行く人もいない。

他に何の雑音も聞こえない。

とても静かで、まるでお前と2人きりの世界に知らねぇ間にきちまったみてぇだ。

心地よい陽の光をあびて、体はぽかぽかとあったまっていく。
意識がボーッとして、俺はだんだん眠くなった。

『ねぇシカマル』

は空を眺めたまま静かにそう言った。

『あ?なんだよ』

俺も空を眺めていた。
雲が風にながされてく。あぁ綺麗だな・・・・・

『運命って・・・信じる?』

が俺をそっと見たのが分かった。

『運命?・・・なんだそりゃ?』

『いのが言ってたの・・・・・』

またいのかよ・・・・俺は心の中で ちっ と舌打ちをした。
あいつの話題は大抵ロクなもんじゃねぇ。
余計な知識をあまり持ち合わせていない天然なの頭を、あいつはいつも
どうでもいい事で悩ませる。

そんでもって、そのシワ寄せは間違いなく俺んとこにくるんだよっ 

『いのが・・・何だって?』

『うん。あのね・・・・・・』



心から愛してるって思える人とは、本当は生まれる前から結ばれる運命にあって、
きっと前世でも2人はお互いに愛し合っていたはずなんだって。
だからこれから先、もし死んでしまったとしても、また次の未来でも、2人は必ず結ばれる
運命にあるんだって・・・・・

そうして、2人は永遠に同じ相手に恋をし続けて、愛し合っていくんだって。
まるでメビウスの輪のように。


そんな事を言うは・・・少し俯いて頬が赤くて、すげぇ恥ずかしそうにしてて
なんか・・・かわいいな・・・とか思っちまって・・・・

でも、そういう、女がいかにも好きそうな空想話みてぇなのには、俺は全く興味がなかった。


そう・・・・の言葉を聞くまでは・・・・




『けどよ。んじゃ、好きで付き合ってたのに別れるカップルとか、離婚とか・・・
 そういうのおかしくねぇか?だってよ、2人は必ず愛し合う運命なんだろ?』

『うん。私もいのにそう聞いたの』

『へっ・・・ んで、いのは何だって?』

本気で聞く気もなかった。
だから俺は あくびを堪えつつ、相変らず流れる雲にみとれていた。


『それは、お互いを想う気持ちの強さの違いだって・・・・・』

『あぁ・・・なるほどな。』

ようするに、相手を愛してるって想う気持ちが何より強かった奴らだけが、そういう運命を
辿るってことだろ?
ありきたりな答えに、俺は うーーーん と伸びをした。


『ねぇ・・・シカマルの私への想いは・・・どれぐらい?』

は少しからかうように俺の顔に自分の顔を近づけた。
かわいい顔して見んなよっ どうしたらいいんだ?俺は。

『めんどくせぇ。そんなん知るかってのっ///・・・・第一、人間の心なんて、基準が分からねぇから
 計りようもねぇだろ』

俺はぷいっと顔をそらした。
こういう質問・・・・正直、俺はあんま得意じゃねぇし・・・・

『私はね・・・・こーーーーーーーーーーーーーーんぐらいシカマルが大好き//////』

真っ赤になりながらも、両手をめいいっぱい横に広げたが笑った。


『なにやってんだよ//////お前は・・・・』

そんな事しか言えねぇっつうの。
だって、そういうの恥ずかしくもなく、本当にするか?

『本当はね、この手じゃおさまらないぐらいなの///もっともっとずっとずっと
 大きいんだから!!えへへ/////』

照れて笑う顔。
かわいいな。本当お前は。

『そりゃ、どーも。』

だけど、俺はお前みてぇに素直じゃねぇから、やっぱり顔もまともに見てやれねぇ
んだ。情けねぇんだけどよ・・・・

『シカマル。私ね・・・思うの。』

『何だよ』

大きな瞳を見開いて、は俺の腕をグイッとひっぱって、顔を見させた。

『私とシカマルが今出会っているのは絶対偶然なんかじゃないよ!必然!』

目の前につきだされた人指し指。

『お前なぁ・・・//////』

キラキラする瞳が、俺を捉えていて、俺はもうどう答えていいのか分からねぇよ。


『私とシカマルはきっと前世でも愛し合ってたんだよ』

『愛し合ってって・・・/////恥ずかしいからヤメロっての!!』


動揺する俺を全く無視して、が言った。


『私ね、どんなにシカマルと離れ離れになったって、たとえ、生まれ変わって、姿形が変わったって、
 絶対にシカマルを見つける自信あるよ!!』

マジメな顔で俺の顔をみる


『へぇ・・・そりゃすげぇ自信だな。』






『たとえ、生まれ変わってシカマルが私を忘れちゃっても、私は必ずシカマルを見つけ出して・・・それで
 必ずシカマルを好きになる。 私は、何回だって、シカマルに恋をするよ』




(何回だって、シカマルに恋をするよ)





の声が俺の脳天に響いた。




すげぇ殺し文句だな。




その瞬間に俺の心も気持ちも全部お前に持ってかれて、きっと俺はこれから先もお前だけを見て生きていくん
だろうなって、その時、本当にそう思った。



青空から差し込む陽の光が、キラキラとの笑顔を照らしていた。
俺にはそれがまぶしくて、すげぇ綺麗で、そのまま何も言えずにお前の顔を、きっとボケた面して
見てたに違いない。


あまりに純粋で、嘘のないまっすぐな瞳に、俺は完全にやられちまったんだよ。




はそんな俺をみて くすり と笑った。


『好き・・・シカマル』


俺の首に抱きついたの体を無意識にギュッと抱きしめた。




めんどくさがりで、得に欲もなく、感情が高ぶったり、熱くなることなんて
今までの俺には無かった。



けど、を思う俺自身の気持ちの深さと熱さは嘘じゃねぇ。




俺はこいつがいなきゃダメなんだ。
お前が側にいるから、俺は安心して雲を見続けていられた。
のほほんと寝てられたんだよ。

手をのばせば、そこには必ずがいて、俺が触れたら、お前は必ず笑ってくれる。
怒ってる顔も泣いてる顔も笑った顔も全部愛しいと思う気持ち。




お前を俺だけのものにしてぇ。誰にも渡したくねぇ。
お前の全部が欲しい。
俺はを愛してる。







・・・こっち向けよ』

俺の胸に押し付けたの細いあごを持ち上げたら、は俺の目を
じっと見つめた。

いつでもうっすらと潤んでいて、深い漆黒に輝く瞳に俺の顔がうつりこんでいる。




ずっとお前のその瞳に俺をうつしてくれよ。



の柔らかい唇に無意識に俺の指先が触れる。
それはすげぇ自然で、不思議なぐらい当たり前のことのように、俺はそのまま
腰を抱き寄せてキスをした。

恥ずかしいとか、ここが外だとか・・・そんな事、もうどうでも良かった。

お前が欲しくて欲しくて何度も何度もキスした。
呼吸が苦しくなって、少し離れて、俺たちはまたキスを繰り返す、もう止まらねぇ。
頭の中はからっぽで、ただただ俺はお前を求めていた。




あん時、俺たちは止まらないキスを、下からお袋に名前を呼ばれるまでし続けた。



心臓がドキドキした。
俺の心の中までが入り込んで、優しくゆっくりと染み渡った。

人を愛するってきっとこんな感じなんだろう・・・・
あったかくて、まるで陽だまりみてぇだ。


その時、俺は気づいた。
なぁ、・・・・俺だって同じだ。




『たとえお前とはぐれちまっても、たとえ、生まれ変わって姿形が変わっても、
俺は絶対にお前を見つけて、お前を必ず好きになる。何回だって、。俺はお前に恋するよ。』






















そう・・・・・






あの時、俺たちのこの想いは絶対だって・・・本気で信じてた。
夢見るのが苦手で、現実思考の俺が、この想いだけは、ずっと信じてきたんだ。

俺達にたとえこの先どんな事が起ったとしても、俺達が離れることはねぇ。

そう・・・あの時俺たちがしたキスは本物だ。


・・・そう思ってきた。






なのに・・・お前は俺を忘れて・・・俺への想いも・・・こんなに簡単に忘れちまうのか?





                『なんとも思ってないからね』





の言葉が俺の頭に響き続けてる。
胸を突き刺す。
すげぇ・・・痛てぇよ。




俺は・・・・俺は・・・・どうすりゃいいんだよ・・・・・
教えてくれよ・・・・


















シカマル君の腕が、私の体を痛いほど抱きしめている。

私の頭の中は混乱していた。

今すぐにでも、この腕を振り払って逃げることも出来た。
でも、私にはそれは出来なかった。

分からないけど・・・でも・・・私がシカマル君をすごく困らせているんだっていうのだけは分かるから・・・
だから、シカマル君はこんな事するんだ・・・
さっきの私のように・・・


だから私はシカマル君の腕の中にすっぽりと治まっていた。
だけど少し怖かった。
シカマル君は男の子で、やっぱり私よりずっと力もあって・・・そして、今こうしている私達は・・・
やっぱりただの友達じゃないかもしれないって・・・そう思うから・・・


でも、まだ私にはシカマル君のことがよく分からないから・・・


シカマル君がゆっくりと私の顔をみる。

「お前、こんなことされて・・・俺が怖いんだろ?」

とっさにそう言われて、すごくびっくりした。

「そ、そんなこと・・・・」

「嘘・・・言うなよ・・・・・」

「え?」

「体・・震えてる・・・・」

言われるまで自分が震えていることも気づかなかった。
それぐらい私は緊張していたんだ。

「ごめん・・な。・・・もうお前にこんな事、二度としねぇから・・・・」

ゆっくりと私の体を開放してくれた。

「シ、シカマル君・・・あの・・・」

自分がさっきした事を、シカマル君にされただけなのに・・・悲しい目で私を見るシカマル君に
胸が痛んで・・・
でも、続く言葉が見つからなくて・・・私はそのまま黙ってしまった。


すごくきまずい雰囲気。
どうしよう・・・・
心がズキズキした。












このまま時間が止まればいい。
を離したくない。

俺が抱きしめたら・・・このままキスしたら・・・

お前は俺のこと思い出すのか?
あん時みたいに、俺の目をまっすぐに見てくれるのか?


そんなことをとっさに思った。







でも、俺はきづいちまったんだよ。






の体が震えていることを・・・・






記憶をなくしてとまどうを不安にさせて、困らせてるのは・・・・この俺だ。





何やってんだよ。俺。
のたった一言ぐらいで何怯えてやがんだっつうの・・・


しっかりしろよ!この腰ぬけ!!


が・・・悪いんじゃない・・・・
今一番とまどってるのは・・・なんだ・・・・




俺は・・・どんなときでも、を守れなきゃ・・・男じゃねぇよ!!!




自分を奮い立たせた。
粉々になった心を必死でかき集めて・・・


を泣かせんなよっ!!


大事な女・・・最後まで守ってみせろよ!!


せめて今だけでも、の前で笑ってみせろ。









「へっ」

突然シカマル君が鼻で笑う。

え?

シカマル君の顔を見上げたら、

「バーカ。お前がいきなり抱きついてくるわ、泣くわすっから、こっちまで調子狂うんだっつうのっ!」

シカマル君は少し笑っていた。

「だ、だって・・・」

「お前は悩むほどの頭もってねぇんだからよ、あんまし悩むなっ めんどくせー」

シカマル君はいつものシカマル君にもどっていて、けっ と意地悪な顔をした。


あぁ良かった・・・・


なんかすごくホッとした。


「ふーんだ!記憶が戻ったら、絶対ぎゃふんと言わせてやるんだからねぇーーーだ!」

べーーーっと舌を出す。

「はいはい。せいぜい頑張れよっ 泣き虫小娘」

「もう!!」

二人で笑い合えた。
本当良かった・・・・・・
私達はきっとこんな風にいつも茶化しあえるような、仲良しな幼馴染で・・・





だから、さっきのシカマル君と私はやっぱりどうかしてただけだよね・・・・





「どうでもいいけどよ、早く髪乾かしてこいって。お前は昔っからすぐ風邪ひくんだからよ。」

気がついたら、髪からたれた水滴で肩にかけたタオルはぐっしょり濡れていた。

「そうなの?」

「あぁ。風邪なんかひいても、ぜってぇ看病なんかしてやんねぇぞ。めんどくせー」

「ひっどーーーい!!シカマル君て本当に意地悪だよね!!」

「ほっとけ。」


さっきのモヤモヤした気持ちが嘘みたいに消えてしまった。


シカマル君て本当に不思議だ。
意地悪でめんどくさがりで、いい加減な人なのに・・・

だけど、必ず私をフォローしてくれる。


シカマル君は記憶を無くした私の救世主だよ。




でも・・・・




部屋を出る前に少し振り返って、シカマル君を見る。
あわゎ・・・と大口をあけてあくびをしながら、また本を物色しはじめるその姿。
救世主ってわりには・・・やっぱりマヌケだよね?



なんだか笑えた。













ガタンと扉が閉まった。


タンタンと階段をおりていく
の小さな足音。

髪がやわらかく揺れて、まるで飛んでるみたいに軽やかに、はこの階段を
降りてるんだろう・・・

その姿は見ないでも、ずぐにでも思い出せる。




俺の中にこんなに深く、強くの姿がある。





たとえお前が忘れても・・・・・・・









が出て行った部屋。

はぁ・・・・・ため息がもれて、床にズルズルと崩れおちるように屈む。


「もう限界・・・・」


言うつもりもない心の声が、ぽろりと零れ落ちた。

これ以上、この部屋で普通に振舞う自信は今の俺には無ねぇ。





俺のこんな気持ち・・・に気づかせたくねぇし・・・・
だってよ・・・お前をこれ以上、不安にさせられねぇだろ?


普通の時の俺って・・・どんなだっけか?


本当はお前に笑ってみせていても、心の中はぐちゃぐちゃにかき乱された
ままだった。



俺がからかったら、は安心したように笑う。




こんな関係がいいのか?
俺とお前はまた元通りの、ただの幼馴染だな。




これで良かったのか?
お前がこんなにも遠くに行っちまって、なのに俺はこんな風に笑って。






突然俺の目の前にやってきた、お前という他人。





いつもみてぇに めんどくせー の一言では片付けられない俺の気持ち。





俺はこの先、どうやってお前を守ってやればいいのか、混乱してる。
気持ちをどう整理していいかも・・・今の俺には冷静な判断なんて出来やしねぇよ。






だけど俺は・・・・






もう一度自分の手をグッと握りしめる。





しっかりしろよ俺。



だって誓っただろ?
信じていいんだろ?



お前のあの言葉を・・・・







『必ずシカマルを好きになる。 私は、何回だって、シカマルに恋をするよ』







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