夜になって、私は奈良一家と夕食を食べる事になった。



そこで、シカマル君と私が通っていたというアカデミーでの話しを聞いた。




「お前も俺もアカデミーで本物の忍びになるための授業を受けてたんだぜ?」

私の隣の席で、お箸で魚をつまみながら、シカマル君がチラリと私を見た。

「本物の忍び?」

「そ。忍びを目指すやつはみんな通うんだ。そこで卒業出来たやつだけが額あてもらって、
 本物の忍びになれるってわけだ・・・」

シカマル君は魚を口にほおばりながらそう言った。

「私も・・・卒業できたんだ・・・・」

「まぁな・・・半分は俺のお蔭だけどよ」

シカマル君が ふふん と意味ありげに笑うから、私はちょっとムッとした。
なんで学校卒業するのにシカマル君の力なんかいるのよ!!

そしたら、シカママがすかさず・・・

「よく言うわよ!授業中寝てばっかで、あんたは成績なんかいつもドベだったくせして!
 母ちゃん情けないわよ!!」

ほう〜ら嘘ばっかり!私がそんなシカマル君にどうして頼らなきゃいけないのよ!!

「だよな〜。けど、不思議と試験前には、お前んとこによく勉強教わりに友達が来てたよな?」

シカパパはビールを飲みながら、少し赤くなった顔をかしげていた。

「だから試験前はめんどくせーから嫌いだったんだよ」

シカマル君は はぁ とため息をついた。
ちょっと待って?
それってなんかおかしくない??

「なんで?シカマル君の成績はドベだったのに?」

なんでそんな人にみんな聞きに来たんだろう???
それにしても、シカマル君に思い切りドベとか言っちゃって、怒ったかな??

「さぁな。俺は知らねぇ・・・めんどくせーけど、いつも試験のヤマかけてやってただけだしよ・・・」

別に気にする素振りもなく、シカマル君はご飯を食べ続けていた。

「変なの。そんなに頼られてる人の成績がドベってどういう事??」

なんか騙されている気がする。

「別に試験の答えなんざ考えなくてもすぐわかったぜ。でもよ俺は別に成績なんてどーでもいい。
 だから試験中は寝てた・・・だってよ、静かで寝やすいだろ?試験中って・・・」

さらっと答えるシカマル君に唖然とした。

「へ?試験中に?・・・・寝てた???」

嘘でしょ?

「あきれた子だよ・・・まったく」

「がはははは!いいじゃねぇか!無事卒業できたんだしよ?シカマルの言う通り、成績なんて
 問題じゃねぇよ。忍びに必要なのは実戦力だ」

「何言ってんの!」

しばらく、シカママとパパの言い合いが続いていたけど、私には途中からどうでも良くなって
しまった。




だって・・・この人一体どういう神経してんだろ・・・信じられない。
隣でシレっとした顔でご飯を食べているシカマル君をまじまじと見る。
成績なんてどーでもいいなんて本気で言ってるんだろうか???




はっきり言って、そういういい加減な人・・・・私、嫌い!!!





「なんだよ?」

じっと見ていた視線に気づいたのか、シカマル君は私をジロリと見返した。


「シカマル君。学校って、勉強するところでしょ?寝てていいわけないよ!!それに
 答えが分かっててやらないなんて・・・そういうのよくないよっ!!」

思い切って言ってしまった。
だって、なんか許せないんだもんっ!!!
なのに、シカマル君はキョトンとした顔をした。
そして、へっと鼻で笑った。

「へぇ〜 そんな俺にいっつも真っ先に試験前に泣きついてきやがって、俺にヤマ教えてもらって
 たのはどこのどいつだよっ!!」

シカマル君の人差し指が私のおでことズイッとこづいた。


(ま、まさか!!それが私なの!!!)


嘘!嘘でしょ?
私の目はシカマル君の前できっと皿のように見開かれていたに違いない。

だって、だってさ!!
私はこんないい加減な人にまで頼らなければ、学校の試験もまともに出来ないような子だった
っていうの?

記憶がもどるのが本当に怖くなってしまった。

「なんだよ、。言い返す言葉もねぇんだろ?」

「うぅぅぅぅっ」

「だから言ったろ? お前は俺がいなきゃ、卒業もあやしかったんだよっ」

シカマル君の意地悪な顔が見えて、もう悔しいぃぃぃ!!
でも、何も思い出せない上に、私はこの人にはどうも分が悪いらしい・・・
悔しいけど、言い返す言葉も出て来ない・・・・


仕方ないから、私は話しをそらす事にした。


「なんか・・・他の話しが聞きたいです・・・・・」

もうアカデミーの頃の自分の話しは聞きたく無いし・・・・

「くくくくくっ」

シカマル君は私をバカにして、隣で笑いをこらえていた。
もうっ!!大っ嫌いこの人・・・・・

「何だ?そのふぐみてぇな顔。そういうとこだけは記憶無くても変わらねぇんだな、お前って」

シカマル君は私のふくれた頬をピンッと弾いた。
また笑いをこらえて、お腹をひくひくさせていた。

(な/////何よソレ・・・またバカにしてさっ!!)

私の手がワナワナと震え出したとき、グッドタイミングでシカパパが口を開いた。


「シカマル。ちゃんにアカデミーを卒業してからの話しをしてやれよ。」

「そうね。あの時も色々あったし・・・も何か思い出すかもしれないわね」

シカママも笑っている。


色々?色々って何だろう・・・・
なんだかまた不安になってきた・・・・

「めんどくせー。まだ聞く気か?」

シカマル君はまた私をからかうように見た。

「き、聞かせてよっ」

私はつっけんどうにそう答えた。

ふぅ・・・シカマル君はため息をついてから話しはじめた。

「アカデミーを卒業してから、俺たちはそれぞれの能力に合わせて班に分けられた。」

少しまじめな顔で私を見る。

「班・・・に?」

あ!!そうか!!

もしかして、私はシカマル君と同じ班になったんだ・・・だから、こうしてシカマル君家にも
しょっちゅう通っていたのかも・・・・



そんな想像をしていたのに・・・・・



「俺は10班・・・お前は・・・・」

「あの時は大変だったよなぁ!ちゃんが泣いて泣いて・・・・」

「は?」

私はシカパパの口から、また自分では想像もしていなかった事を聞いてしまった・・・・
私が泣いた・・・??


「そう。シカマルと同じ班になれなかったからって・・・そりゃもう泣いてなぁ・・・」

シカパパは腕を組みながら、何やら思い出しているかのように、うんうんとうなずきながら
そう言った。

「え?!・・・・」

またとんでもない事実を聞いてしまった。
なんで?なんで?なんで私はシカマル君と同じ班じゃないと泣くわけ?

意味が分かりません〜・・・・

今なら絶対、違う班で良かった〜って言ってるはず・・・・
だってこんないい加減で意地悪なシカマル君と同じ班なんて・・・絶対嫌!!


知らず知らずのうちに私は頭を抱えていたらしい・・・


「親父!!」

シカマル君がパパに怒鳴った。

「あ・・・・・・ちゃん??」

「あんたはもう余計な事言ったら、が混乱するでしょ?」

シカママもシカパパに怒鳴った。

「そっか・・・悪かったちゃん・・・今の無しな・・・・」

パパさん・・・今の無しって言ったって・・・もう聞いちゃいましたよ
そして、私の頭はすでに混乱状態です・・・

私はうーーーんと唸って、目を閉じて考えた。


「あーーーもうやめだやめっ 」

シカマル君は吐き捨てるようにそう言うと、「ごちそうさんっ」と、席をたって、お茶碗を流しに置いた。
私はそんなシカマル君を驚いて見上げていた。


今度は急になに?
私またシカマル君を怒らせちゃったの?


。お前、いきなり思い出そうとかすんな。今日はもうやめだ。めんどくせー」


まただ・・・・シカマル君の眉間にはシワが寄っていた。
それに、めんどくせーなんて・・・言わないでよっ
意地悪・・・・


「俺、部屋あがるわ・・・・」


本当にめんどくさそーに頭を掻いて部屋にもどっていくシカマル君の姿を目で追いながら、
私はなんだか悲しくなった。


私の記憶がどうとかなんて・・・やっぱりシカマル君にはどうでもいいことなのかも・・・・・
そりゃそうだよね・・・

いくら幼馴染だっていったって、私とシカマル君は兄弟な訳じゃないんだし・・・
小さい頃からお互いを知っている程度の友達・・・・なんだろうし・・・・
私がどうなろうと、シカマル君には何の関係もないんだもんね・・・・・


『ずっとここにいればいいじゃねぇか』


さっきのシカマル君の言葉に嘘は無いんだろう・・・・
私にもそれは分かる。

けど・・・いつでも、めんどくさそうにしていて、どこか冷静で、そっけないシカマル君。
私がここにいる事にも、私の記憶が戻ることにも、シカマル君にとっては別に何の興味も無いことで・・・・
大した出来事では無いのかもしれない・・・


そう思ったら、すごく寂しい。
あの温かい手のぬくもりは私の勘違いなの?
私を時々ドキリとさせる優しい笑顔も本当は作りものなの?


・・・・私はなんでシカマル君と班が違うぐらいで、泣いたりしたの?・・・・
・・・・シカマル君とお揃いの湯のみ、隣同士の席・・・・

本当の私はシカマル君をどう思っていたの?


どうして何も思い出せないの。


台所で、椅子に座ったまま、私はボーーっと考え込んでしまった。

、今はあまり考えすぎない方がいいわよ。焦らずゆっくりいきましょう」

シカマル君のママが優しく私の肩を叩いた。

「でも・・・・」

「そのうち必ず思い出すわ」

見上げたら、シカママの優しい笑顔が飛び込んできて、私はなんだかホッとした。











やっぱり焦らせたらダメだ。

は本気で混乱してる。
苦しそうな顔に胸が痛んだ。

このまま、事実だけをに伝えていくのは、あまりに酷だ。

自然にが思い出すまで、やっぱあいつを信じて待つしかねぇ。

ヘタな事実を告げたら、あいつの気持ちがますます離れていく気がする。


分かっちゃいるが、もどかしい気持ちが、お前の顔をみるたび俺を急かすんだよ。
焦るな。俺らしくもねぇ。
待つしかねぇだろ?


はぁ・・・・とにかく部屋でゆっくりこれからの俺たちの事を考えた方が良さそうだ。
俺がお前にしてやれる事ならなんでもしてやるよ。


めんどくせぇなんて言ってらんねぇしな。


・・・・お前は必ず昔のままで戻ってくる。
俺はそう信じてるぜ。



そんな事を思いながら、階段を上がって、2階の部屋に向かった。







そうだよね。
シカママの言う通り。今は焦っちゃだめだよね・・・・
とにかく記憶を取り戻すためには、今は焦っちゃだめなんだ。

私は一度深く息を吸って、吐いてみた。

不安で揺れる気持ちをどうにか抑えたくて。



「さ、明日もある事だし、はゆっくりお風呂にでも入ってらっしゃいな」

シカママに言われて、私もゆっくりと席をたつ・・・


はぁ・・・なんか一気に疲れた・・・・
今日一日色々な事がありすぎて、さすがに精神的にかなり疲れてしまった。
今はとにかく体を休めて、明日また記憶を取り戻せるように頑張ろう・・・・

「はい。これ」

なぜだか私の体にぴったりのサイズのパジャマをシカママに手渡されて、私は脱衣場に連れていかれた。


もしかして、怖くて聞けないけど、私はやっぱり奈良家に頻繁に泊まりにも来ていたのかもしれない・・・
だって、このパジャマ・・・どう考えても私専用って感じだもの・・・・


あぁ・・・私って一体・・・・・・・・


「ゆっくりしてらっしゃい。今日は色々疲れたでしょ?」

「はい。ありがとうございます・・・・」



だめだめ!今日はもう何も考えちゃダメ!!



私は服を脱ぎながら、なんとか気持ちを切り替えて、お風呂場のドアを開けた。



大きな湯船。
あったかい湯気。
お風呂場・・・・


あぁ・・・なんかホッとするよぉ//////


髪のシャンプーを洗い流したら、少しだけ気分がすっきりした。
そしてゆっくりと体を石鹸で洗いながら、今日一日の様々な出来事を思い返していた。
私ととても関係の深そうな奈良一家・・・そしてシカマル君。


ゆっくりと足から湯船につかると、チャポンチャポンと音をたてて、髪から水滴がいくつも
お湯におちて音をたてた。


なぜだろう・・・・・その音が耳の中で幾重にもこだましていく・・・・・
一瞬、頭がクラクラして、目の前が真っ白になった。










『助けて助けて!!』

突然、小さな女の子の声が頭の中にこだました。

!!』

誰? 必死で私を呼んでいる声が聞こえる。

『苦しいよぉー助けてーーー!』

その女の子は必死で助けを求めている。
視線のはるか先の岸に、同じ歳ぐらいの子供達が何人もこっちを見て心配そうな顔
をしているのが見える。

『落ち着け!バカ!』

すぐ近くで、男の子の声がした。


『だって・・・私・・・おぼれちゃう・・・・死んじゃうよ・・・・』


水の中で必死でもがいて、何かにつかまろうとしている小さな白い手。







それは・・・・・小さな・・・・私だ・・・・・






もうダメかもって意識も薄れて、水面の中の景色が歪んで見えてた。
その時、だれかの手が私の体を抱き寄せて・・・・


!つかまれ!!俺が必ず岸まで連れてくからっ お前は心配すんな』


その声に、私はうっすらと目をあけた。
私のすぐ横には私を抱きかかえて、必死で岸へと泳いでいく小さな男の子・・・・


でも・・・・記憶の中で、その姿形はぼやけてしか想い出せなくて・・・・
だけど、その男の子は私を抱いて泳いでいるせいで、何度もおぼれそうになっているのが分かる。


『ねぇ、やめてやめて!私のせいで死んじゃうっ』


幼い私が必死で叫んでいる。


『バカ!そう簡単に死んでたまるかよっ!!お前はこの手を絶対離すなよっ!!』


その声に、私は必死でその男の子の体にしがみついていた。


















気がついたら、私は奈良家の湯船につかっていた。




今の記憶は・・・何?


小さい頃・・・私は川でおぼれた・・・・・
でも・・・だれかが・・・男の子が私を助けてくれた。



誰なんだろう・・・あの男の子は・・・・



ぼんやりと思い出した姿。
でも、はっきりと見えないから、誰だかは分からない。
同じ歳ぐらいの男の子。

しがみついた体のぬくもり・・・その声を聞いた時のみょうな安心感。


それだけは、記憶を無くした今でも感覚としてはっきりと残っている。







でも・・・・それはもしかしたら、私の幼い頃に見た単なる夢なのかもしれない。






何も考えられなくなって、私はボーーっとお風呂から上がった。
ほとんど無意識のままパジャマに着替えた。

!』耳の中でこだまする、男の子の声。


誰なの?


私はすごく大事な人を忘れてしまった?
それともこの記憶は夢?

不安と張り詰めた空気と死という現実を目にした恐怖と・・・
このリアルな感覚は何なの?


手の指先がガクガクと震えていた。


居間の扉をあけたら、そこにはシカパパがテレビを見ている姿があった。
部屋をぐるりと見渡す。
シカマル君はいない・・・・

「どうした?ちゃん」

シカパパの顔を見ても、この不安な気持ちは治まらなくて・・・
私の体はまだ震えたままで・・・・


なぜだか無償にシカマル君の顔を見たくなって・・・


「あの・・・シカマル君は・・・?」


とっさにそう聞いた。


「まだ部屋にいるよ」


私は髪の水滴もふかずに、パジャマの肩にタオルをかけたまま、2階への階段をかけ上がった。


あの記憶が頭から離れない。
まだ夢の中にいるみたいに・・・・
助けて・・・・

耳をふさいでも、頭の奥に響き続ける水音、歪んだ視界、叫び声、男の子の声・・・・

            怖いっ 助けて・・・シカマル君



ガタンッ


勢いよく部屋のドアを開ける。


そこには本棚で今まさに本を取ろうとしていた状態で、驚いた顔をしたままこちらを見た
シカマル君がいた。


「な、なんだぁ?」


間の抜けた顔。



でも-----------------------



なんでだかは自分でもよく分からないけど、シカマル君の姿を見たら、私の足は無意識にシカマル君の側に行きたい
と歩み寄って、あなたの体に触れたいと勝手に手が伸びて、
胸が苦しくて、怖くて、不安で、私はそのまま走りよって、そしてシカマル君の胸にギュッと抱きついた。
細いくせに筋肉質で硬い胸から、シカマル君の鼓動が聞こえてくる。




? ど、どうしたんだよ?//////////」





シカマル君が驚いてる・・・・・

そうだよね。
私だって、自分がしてるこの行為の意味がよく分からない。
でも、私はなぜだかシカマル君から離れられなかった。

怖くて、怖くて、その記憶が私を飲み込んでしまいそうで・・・・



「シ、シカマル君・・・私・・・・」



だってどうしようもなく私は一人きりなきがして。
私はこのまま大事な事、何一つ分からないままなんじゃないかって・・・・


だから・・・不安でどうしようもないの・・・・・


シカマル君からふわりと香る匂いに気づいたら、なぜだか私の心臓がドキドキした。
なんでなの?私とシカマル君はただの幼馴染で・・・


なのに、あったかいその胸に張り付いていたら、シカマル君の腕にギューーっと抱きしめて
欲しいと思った。




そんなこと思う自分がすごく不思議だった。





でも、その瞬間にシカマル君の腕はとても自然に私の背中をなぞって、そしてまるで私を包み込むみたいに
ギューっと抱きしめた。






どうして、シカマル君は私がして欲しいこと分かったの?
どうして、こんなに自然に私の事を抱きしめるの?
どうして、こんなに優しくしてくれるの?


どうして、私はシカマル君に抱きついてるの?













とにかく冷静になって、本でも読んで、ゆっくり考えっかって思ってた。

だから扉が急に開けられて、俺は心底驚いた。

でもそこには風呂あがりのが真っ青な顔で立ってて・・・・

まさかが俺の胸に飛び込んでくるなんて夢にも思っていなかった。


俺の胸にの温かい体が熱を伝えている。
小さくて痩せてるくせに、お前の体はすげぇ柔らけぇんだよ。

何度も抱きしめてきた感触が、今までの俺たちの記憶をコマ送りみてぇに
細切れに思い出させて、胸が苦しい。


お前の記憶が戻るまで、絶対に封印していようと思っていた感情が、
お前が急に抱きついたりするから、抑えきれずに漏れ出しそうだ。


お前の記憶が無いなんて・・・こんなの夢なんだろ?って・・・そう言いてぇよ。
『好きだ 
言葉に出してお前に言いてぇよ。
『なんで俺のこと忘れちまうんだよっ』
そう言って、お前を傷つけちまいてぇよ。

乱暴にでもキスして、お前を奪っちまいてぇよ。






でも・・・






その瞬間、俺は胸の中にいるの異変に気づいた。


・・・・泣いてるのか?
か細い肩が小刻みにガクガクと震えている。



突然俺の気持ちが急激に現実に戻っていく。




なんで?どうして?お前は泣いてんだ?



声も出せずに、震えている体があまりにひ弱くて、壊れそうで
たまらなくなって、俺はを思いっきり抱きしめた。



こんな事していいのか自分でももう訳が分からねぇ。
でも、もう抱きしめずにはいられなかった。



、お前なにに怯えてんだ?
今の俺は、お前に何をしてやれんだ?
どうしたら、お前の不安を消してやれんだよ?



こんなにお前が好きなのに、なんで俺はお前に何もしてやれねぇんだ。
目の前にいるのに、なんで俺はお前を泣かせちまうんだよ。
俺には小さいお前がこのまま消えちまいそうに見えて、不安で仕方ねぇよ・・・・













シカマル君の体にすっぽりと抱きしめられて、私はその胸にしがみついて泣いていた。
どうしてこんなにシカマル君の体に触れていると安心するんだろう・・・・
シカマル君の腕が私をガッシリと痛いぐらい抱いている。

その時、シカマル君の吐息が私の頭にふんわりとかかって、長い指先が私の頬を覆った。


(あ・・・)


ゆっくりと上を向かされる


・・・・・」


シカマル君の目はすごく優しくて・・・でもどことなく寂しそうで・・・・
冗談を言っているのとは全然違う。・・・真剣な目だった。

その目をみたら、私の心臓はまたドキドキと高鳴る。


細くてしなやかなその指先が私の頬を伝う涙をゆっくりとなぞってくれる。


背中がゾクゾクして、優しい感触に思わず目をつぶった。

もう一度ゆっくりと目を開けたら、シカマル君の顔がさっきよりずっと近くにあって。





その瞬間に私は はっ と我に帰った。





私・・・何してるんだろう?





急に、シカマル君に抱きしめられて、2人でこんなに近づいている状態がすごく不自然だって気がついて。
だから、私はとっさにシカマル君の胸をボンッと推して、シカマル君から体を離した。


何?なんで・・・なんで私こんな事しちゃったの?
俯いて、どうしていいか分からずにいる私を、シカマル君は何も言わずに、じっと見ていた。


やだ・・・そんな目で見ないで・・・・


「あ・・・あの・・・急に・・ごめんなさい。」

私は俯いてそう答えた。



突然、私に抱きつかれて、シカマル君もきっとびっくりしただろうな。
こんな事して、シカマル君に変な誤解されて、奈良家にいずらくなるのもイヤだよ・・・

私はさっきシカマル君に自分から抱きついてしまった事を本気で後悔した。


「本当、急に抱きついたりして・・・ごめんなさい。」


「いや・・・別に・・・」


そう言ったシカマル君の顔はなんだか少し元気がなくて・・・
やっぱり・・・怒ってるのかな?それとも変に思われちゃったかな?・・・


どうしていいのか分からなくなって・・・心臓がドキドキして・・・・



だから私はとっさに・・・




「シカマル君。ご、誤解しないで、私、シカマル君のこと何とも思ってないからね!」




かなり焦ってしまって、あはは なんて半笑いでシカマル君の顔を見上げた。

(当たり前だバカ!)

とか言われるんだろうな・・・きっと・・・・


でも・・・


シカマル君はしばらく無言でじっと私を見ていた。

その目・・・悲しそうな寂しそうな目に見えた・・・・・

そして、シカマル君は少し俯いて、静かに言った。


「そうか・・よ・・・・」


なんで?なんでそんなに悲しそうな顔をするの?
私はなんだか不安になって・・・


「う、うん。急に抱きついたりして、私どうかしてたの。本当、誤解しない・・で・・」






その瞬間にシカマル君は私の腕をグッと掴んで、ひっぱった。
いきなりの事で、私の体はシカマル君の胸に ドンッ と当たった。


痛いっって思った瞬間に、今度はシカマル君からもう一度ギュッと抱きしめられた。


(え?え?何?・・・なんで?なんでシカマル君?)


私は訳が分からなくなって、そのまま体を硬直させた。




「俺は、・・・俺はどうしたら・・・いいんだよ・・・」




シカマル君の声はすごく小さくて、でも、私の耳元でかすかに聞こえた声はすごく悲しそうだった。








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