シカマル君の家の前まできたら、玄関先に人影。

・・・・大丈夫だったのか?」

また誰か私を知っている人に名前を呼ばれる。
今度は誰なんだろう・・・・
声をかけてくれた人を目をこらして見つめると・・・・・・


え?


「シ、シカマル君がもう一人いるーーー!!!」

嘘でしょ? 意地悪で怖いシカマル君がもう一人いるなんて・・・最悪!!!
私は驚いて、失礼にも指をさしてしまった。

だって・・・あまりに似てたんだもんっ


「アホ・・・ありゃ、親父だ」


「あーーーーーーーーーーーーーーーははははははははは」


隣でまた大笑いするシカマル君ママと、お互いの顔を同じように眉間にシワを寄せ合いながら
ジロリと見つめ合う、シカマル君とパパ・・・・


あたしまた・・・やっちゃった?・・・・・・・










家の中に入って、リビングに案内された。

「あーーーーーーーー疲れたっ」

リビングの椅子にシカマル君がドカッと座る。
それからシカマル君は盛大にため息をついて、机にひじをつきながら、その場に立ち尽くしている
私をジロリと見上げた。


「何やってんだ?お前も座れって」


え?


でも・・・・シカマル君にそう言われても・・・・・
私は残り3つの席を見て、考える・・・

(どこに座るのがいいのかな・・・・・)

でも、シカマル君は自分の隣の席をポンポンと叩いて言った。


「お前の席はここっ」

「決まってるの?」

「そっ。 めんどくせーけど、昔から決まってんの。だいたいこの席はお前が決めたんだぜ?」

ジロリと睨まれて、でも、そんな事言われても、私はやっぱり何も覚えていなくて・・・・

でも、なんで奈良一家の席まで私は決めているの?
私って、もしかしたら、とんでもなく図々しい存在だったのかな?


なんか気兼ねしてしまって、チョコンと遠慮がちにシカマル君の隣の席に座った。


「借りてきた猫か?っつうの。」

シカマル君におでこをピンッと弾かれた。

「だって・・・ごめんなさい・・・・・」

私はまだシカマル君の事も、奈良一家のみんなの事も全然知らないんだもの・・・
緊張しちゃうよ・・・・


「俺に気なんか使うなよ。そんなキャラじゃねぇんだよ、お前は」

「だって・・・・・」

じゃあ、一体どういうキャラなのよぉぉぉ
それが分からないから、余計に緊張しちゃうだもん
私はきゅっと肩に力を入れて、体を硬直させていた。


「ったく・・・・はぁ・・・・・」

大きなため息をついた後、シカマル君は机の上にあったお煎餅を一つとって
 バリッ と食べた。



もう・・・・ため息つかないでよっ!! シカマル君の意地悪・・・・・。



「シカマルよぉ・・・・ちゃんは記憶がねぇんだ。仕方ねぇだろうが?
 レディにはもっと優しくするもんだぜ?」

シカパパはシカマル君の前の席に「よっこらしょ」と座った。


「何がレディだよっ 」

相変らず、煎餅をバリバリと食べながら、シカマル君は けっ と鼻で笑う。


(くぅ〜っ!! ひどいよ。シカマル君なんて大ッ嫌い!!)


私は見えないように、机の下で拳を握り締めて、ワナワナと震えていた。





「はいはい。みんなお茶よ」


シカマル君のママの声で ハッ と我に変える。
私の前に、湯気のたちこめるお茶の湯のみが置かれた。

「あ、ありがとうございます。」

(あーー あったかそう・・・)

私は少し緊張しながら、ゆっくりと自分の前に置かれた湯のみに手を伸ばした。
シカマル君もパパもそれぞれの湯のみに手を伸ばす。


あ・・・・あれ?


「この・・・湯のみ・・・・」


私は手にとった湯のみを見て、思わず呟いた。

「なんだよ?」

だって、その湯のみはシカマル君と色違いのおそろいで・・・・・
まるで夫婦で使うものみたいで・・・・・

なんとなく使いづらくて、湯のみを手に持ったまま、私はまた緊張してしまった。


「あぁこの湯のみ?これはね、と私で買い物に行った時にが選んだのよ。
 どうしてもシカマルとお揃いのこれがいいって」

シカママが言う言葉に動揺する。


「え?」

私が・・・・私が自分でシカマル君とおそろいの湯のみを??
そんなこと、絶対に信じられなかった。


「そ、そんなに私とシカマル君は仲良しだったんですか?・・・なんか信じられない・・・・」

思わず出た言葉。
でも、これが私の正直な気持ち。
シカマル君と私・・・・いったい私はシカマル君をどう思っていたんだろう?


「気に入らねぇなら、他の持ってくりゃいいだろ?」


シカマル君はぶっきらぼうにそう言った。


「そ、そんな事ないよ・・・」

私は黙ってお茶をすすった。
でも、心の中は複雑だった。

私は本当にシカマル君のただの幼馴染なんだろうか・・・・。
隣でブスッとした顔でお茶飲んでいるシカマル君の顔をそーッと見る。



「まぁいいじゃねぇか。今日全てを思い出すなんて出来っこねぇんだし。
 ちゃんも焦るこたぁねぇんだ。そのうち自然に何もかも思い出すだろ?」


「は、はい」


そうだよね。
焦っちゃダメなんだよね・・・・・


はぁ・・・・私はため息をついて、もう一度お茶をすすった。


それにしても・・・・・・


やっぱりこの家には・・・私は常連のように足を運んでいたらしい・・・・
この席、そしてこの湯のみ。



なのに・・・何?この居心地の悪さ・・・



だって・・・さっきの事でますます不機嫌になったシカマル君が隣で無言で座っている
んだもん。

(もう嫌だ・・・なんでいつも怒るの??)

出されたお茶をすすりながら、私はそーーっとシカマル君の顔を見る。


相変わらず眉間にシワ。
何考えてるんだろう・・・この人。
いやもしかして何も考えてないんじゃぁ・・・・・


つかみどころの無いシカマル君にすっごく緊張する。


もしかして、私がいること・・・迷惑なんじゃないかな・・・・・・


シカマル君は ズズズ とお茶を飲むと、ガタンと立ち上がる。

(え?なに?なに?今度は何する気?)

私はドキドキとそんなシカマル君を見上げた。


「俺、部屋、戻るわ・・・・」


シカマル君は ふあぁ とあくびをして、かったるそうに階段を上がって行った。
シカマル君が見えなくなった途端、私はため息をついた。

「はぁ・・・・・」

緊張の糸がとけて、椅子の背もたれにコツンと背中をぶつけた。




「ねぇ。あの子も記憶を無くしたあなたにとまどってるだけなのよ!
 別に怒ってるわけじゃないから安心して。もともとああいう顔だから」

シカマル君のママはくすりと笑う。

「いえ・・・そんな事//////」

一瞬ドキリとした。
心を見透かされている・・・・

でも、そうか・・・そうだよね・・・誰だって、記憶の無い人間をどう扱っていいかなんて
分かるわけないよね・・・
あの眉間のシワは・・・もともとなの?


うーーーん。なんて悪人顔。・・・・


でも、私はシカマル君に怒られているんじゃないと分かって少しホッとした。

でもやっぱりシカマル君は苦手・・・・・・



。シカマルの部屋行ってみたらどうだ?お前達はいつも一緒だったからな。
 何か覚えてるもんがあるんじゃねぇか」



シカマル君のパパに言われて、ドキリとする。



私とシカマル君がシカマル君の部屋でいつも一緒に???

な、なんで?//////
ありえない!!!
シカマル君のママやパパは好きだよ。
一緒にいて、私が本当の家族のように慕っていたのも理解できる。

でも、でもさ!!

私はどうして好き好んで、あんな無愛想なシカマル君となんかといつも一緒の部屋で
2人でいたんだろう。


嘘だ・・・絶対。

仮にもしそれが本当だったとしたら、何か訳があるに違いないわ!!


もしかして、シカマル君に何かとんでもない秘密とか握られてて、イヤイヤ一緒にいらされた
とか?


きっとそうだ・・・そうに違いない!!!


だとしたら、早く記憶を取り戻して、シカマル君と戦わなきゃ!!!


私はゴクリと生唾を飲み込む。


ま、負けないからね!!

「では、行ってまいります。」


私は体を硬直させたまま、恐る恐るギシギシと階段を上っていく。





。なーんか誤解してねぇか?」

シカパパは顎のひげをさすりながら、眉間にシワを寄せていた。

「ふふふ。いいじゃない。あの2人の想いが本物かどうか、試すチャンスよ!親として興味あるわぁ。」

シカママは目をキラキラさせている。

「これから先、一波乱どころじゃ済まなそうだぞ。あの2人」

「見守りましょっ あの2人ならきっと大丈夫よvv」



シカマルのママとパパの会話はには届いてはいなかった。
シカマルの部屋へと続く階段をぎこちなく上がっていくの背中を見つめながら、
その姿をくすくす笑って見上げているシカマルママと、やれやれと笑うシカパパ。









いざシカマル君の部屋の前まできたら、心臓がドキドキして、私は困ってしまった。

(どうしよう・・・何て言って入ればいいのかな?)

「お邪魔します」っていうのもなんかね?
「入ります」っていうのも・・・ね?
「こんにちわ」ってさっきも会ったしね。

うーーーーん。どうしよう・・・オドオドする自分。情けない〜。

私はシカマル君の部屋のドアをなかなか開けられずに、その場でドキドキと
立ち尽くしていた。








部屋の前でオドオドしてる姿が容易に想像できた。

いつもだったら、俺が「いい」とも言ってねぇのに、思いっきり扉を開けて、飛びついて来るくせによぉ。
たった1日で、こんなに他人行儀になっちまう事がすげぇ不思議で、まるで夢のような気がした。


お前、俺を騙してるんじゃねぇのか?
冗談なんだろ?

そう言いたかった。


俺の体が覚えてる、の柔らかい体の感触がやけにリアルに思い出された。










ガラッ!!

俺の部屋の扉はいつだって、何の断りもなく、突拍子もなく開けられた。

『シカマル〜 遊ぼっvv』

『うわっ なにしてんだっ バカ! 降りろって!!』

ベットでゴロリと寝てる俺の体の上に平気で乗っかってくるに、俺はいつも
焦ってて・・・

(ったく、俺は男でお前は女なんだぜ!!)

いつになったらちゃんと意識できんだよ!バカ!
こっちがドキドキしてんのも知らねぇでよっ!!

の体が俺の体と重なって、その《重み》が余計に俺を動揺させんだよ。

俺より小さくて、軽くて、なんか、弱っちくて、そんなは、俺にいつも以上に敏感に女を
意識させるから。
柄じゃねぇのに、めんどくせーはずなのに、すげぇ守ってやりたくなる。
この感情はなんなんだ?



『やだ!だって、シカマル全然構ってくんないもんっ』

『この状態じゃ、余計に構えねぇだろうがよっ!!』

『じゃあ 私が構ってあげるねvv』

かわいい笑顔で見下ろされて、なーーんか嫌な予感が・・・・・

『くすぐり攻撃〜!!』

『うわ!バカ!よせ!やめろって!!』

わき腹とか、首とか、くすぐられて、さすがに俺も平然となんてしてらんなくて、

『きゃははは!シカマルって本当、わき腹弱いよね〜vv』

は涙ためながら笑ってやがるし、けど、マジで俺そこ弱ぇから・・・


『お前なぁ!いい加減にしろっ つうの!!』


『きゃーーーー』


覆い被さるの体を抱えて、逆にベットに押し倒す。



俺なんかちっとも筋トレなんかしてねぇのに。
男の忍びの中でも、腕力なんて、ドベ?っつうぐらい全然ねぇのに。



の体は華奢で軽くて、そんな俺にも簡単に押し倒せちまって・・・・



バカ・・・相手が俺じゃなかったら、お前どうすんだよ?
他の男だったら・・・どうすんだよ?



力を入れたら折れそうなほど細い手首をギュッと握っての顔を見下ろしたら、
自分の中の男って感情が俺の心臓をいつもドキドキと高鳴らせた。



お前はなんも分かってねぇ。



好きだっていう相手を大切に思う感情は、いつしか相手を自分だけのものにしたいと思う
激しい感情に変わっていくものなんだ。
そん時は相手の全てが欲しくなるものなんだ。


付き合うってそういう事だろ?
好きだってお互いを認めちまったら、その先の感情はもう俺にだって止められねぇよ。




このまま力を入れての服に手をかけたら、俺は簡単にお前を裸にできんだぜ。




でも、そんな時、の体に手を伸ばそうとする自分を必死で俺の理性が推しとどめる。



をよく見ろよ。
こいつはそんな関係を望んじゃいねぇ。
自分の欲求を満たす為に、を泣かせるなんて出来るわけねぇだろ?



『やだやだ!くすぐりっこ無し無し!』


倒されて、今度は俺に思いっきりくすぐられるとか思ってるは必死で
抵抗してやがって・・・・・


(お前は本当、何も分かってねぇんだよな・・・・・)


はぁ・・・・・


だから俺は何も出来ずに、いつもここでの体を起こしてやるんだ。


・・・お前よ、もうちっと筋肉とか腕力とかつけろよ。』

『え?なんで?』

『弱すぎて相手になんねぇ』

へッと鼻で笑ってやんだ。

『なーーにそれ!!いつも筋トレさぼってるシカマルに言われたくないもーーんだっ』

隣でムクレてるを見て、なんか ホッとする。




あぁ良かった。
やっぱお前を傷つけないで良かった。




俺たちのこの関係が崩れないで良かった・・・・・・








お前は知らねぇだろ?
俺がそんなこと考えてた事なんて。


けど、今は・・・・・お前が他人のように俺を見るあの目を見たら・・・・・


俺は今までの自分がこれでよかったのか分からなくなる。


だってよ・・・あんときお前を強引にでも俺のものにしてたら・・・・
お前とちゃんと男と女の関係をもっていたら・・・・




お前はこんなに簡単に俺を忘れたりしなかったんじゃないかって・・・・




お前はいつだって俺の事が好きだって言ってたくせによ。
ずるいぜお前。

そんな大事な事すらも忘れちまうのかよ?


ガキの頃からずっと一緒にいただろ俺達。


お前の俺への想いはそんなもんなのかよ?
俺の想いはどうなんだよ?














部屋の前でまだ何やら迷っているにイライラする。


「ったく・・・入れてやんねぇぞ・・・バカ・・・」


俺は小声でそう呟いた。




でも・・・



毎日のように俺の部屋に来ていた
もしかしたら、何か思い出すかもしれねぇよな。
俺たちがいつも一緒にいたこの部屋なら・・・・・・




だから俺はいつもより勢いよく ガラッと扉を開いた。















(ひぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ)

部屋からもれる光がシカマル君の顔を影にして、すっごく怖い!!!

「いつまでガタガタやってんだ?めんどくせーやつ。」

シカマル君は はぁ とため息をついた。

「ご、ごめんなさい。」

えーーーん。また怒られるっ!!!

でも・・・

「いいから入れっての。」

シカマル君がグイッと腕をひっぱった。

「きゃっ」

何するのよーーーーーーーー!!!
体にギュッと力が入る。


「お前、適当に座れよ。」


シカマル君にひっぱられて入った部屋は明るかった。
太陽が差し込む部屋はポカポカとお日様の匂いがする。


「あ・・・・この部屋・・・・」


何故だか分からないけど・・すっごく懐かしい感じ?安心する感じ?
見覚えはないけど、私の心臓がドキドキする。


「どした?なんか思い出したか?」

シカマル君が顔を覗きこんだ。



「ううん。違うの。でも・・・・なんとなくホッとする部屋だなぁって・・・・」



この部屋には余分な物など何もない。
どちらかといえばガランとしていて、本棚と机とベット以外におおきな家具もない。
質素だし、とりたてて飾ったものもないし、ましてや女の子が好むものなんて
何一つ無いのに・・・なのに・・・




私はすごくこの部屋が好きだと思った。


不思議・・・・・・











その一言になんか救われた。
が俺の部屋に来ても、何も覚えていない事には少し落ち込むけどよ。

けど、俺のこの部屋を ホッとする って言ってくれた事が嬉しかった。

たとえ、全ての記憶が無くなっても、俺とお前がいつも一緒にいたこの部屋の何かが
お前に安心する何かを感じさせている事は確かなんだから・・・・



「こんなに安心するのは、なんでなんだろうね?」


そう言って笑うを見て、
俺の心臓はドキドキと高鳴った。



まるで、ただの幼馴染だったお前を、はじめて本気で好きだって気持ちに気づいちまった時のように。


俺はまっさらになったお前でも、すげぇ好きだって思ってる。



俺はやっと気が付いた。



そうか、そうだよな?
はどんな時でも、なんだよ。

そうだよ・・・お前はお前なんだ。

どうなろうと・・・が俺の一番大事な女だって事に変わりはねぇんだよ。
こんな事でへの気持ちが消えちまうほど、俺の想いは軽くねぇ。


そう思ったら、落ち込んで、混乱していた気持ちが少し落ち着いてきた。


俺はいつだってお前を想ってる。


この部屋が好きだって言うなら・・・ずっと俺の側にいろ。
お前が自然に俺のこと思い出すまで、俺は待っててやるからよ。













「そ・・・っか・・・・・んじゃ、好きなだけいれば?」

シカマル君はべっとにゴロンと寝転んで、手にしていた本を読み始めた。
さらっと言うシカマル君の言葉。



「う、うん。ありがとう・・・・・・」



私はペタンとその場に座る。
シカマル君はそんな私のことなど気にもとめない感じでもくもくと本を読んでいた。


私はやっぱりシカマル君のこと誤解しているのかな?
だって、この部屋で私は何を強要されるわけでもなく、何を言われるわけでもなく、
シカマル君はまるで私をいつも通りというような扱いで、自由にさせてくれている。



私はイヤイヤじゃなく、やっぱりここにいたくていたのかもしれない・・・・・・




なのに、なんで私は・・・・・・


部屋をぐるりと見渡す。


私の記憶のすみに少しでも残っているものがあるんじゃないか?と期待して。
一度往復して、また見直す。
何度も何度も・・・・なのに・・・・なんで???



「ね、ねぇシカマル君」

「あ?」

本を読んだままの空返事。

「私・・・私がいて、邪魔じゃない?・・・だって記憶も無いような、めんどくさい人間が
 側にいるなんて・・・・」

シカマル君は本をパタンと閉じて、上半身を起こした。

そして はぁ とため息をついた。



「ったく・・・・」



めんどくさそうな顔で頭をガリガリと掻く姿を見たら、やっぱり・・・・と、泣きたくなった。




でも、シカマル君はベットをおりて、ゆっくりと私の前に歩いてきて、しゃがんだ。




「お前はそんなめんどくせー事気にすんな。記憶なんて関係ねぇって母ちゃんも言ってたろ?」

頭を撫でられる。



優しい目が私をジッと見つめている。


さっきの病室と同じ。
シカマル君の手は大きくて温かった。
心臓がドキドキして、心がじーーんと痛くなる。


あぁ・・・私、なんか変だなぁ・・・この気持ちは・・・何?
だって、あんまりシカマル君の手があったかいから・・・だから・・・・・
目の前のシカマル君に余計な言葉がポロリとこぼれ落ちてしまいそうになる。


シカマル君に迷惑かけちゃいけないのに・・・
私はシカマル君のこと、何もわかっていないはずなのに・・・・


でも、この不安な気持ち、シカマル君に聞いて欲しい・・・・・
こんな時に苦手だと思っているはずのシカマル君に頼りたくなる自分がすごく不思議だった。



「でも・・・このまま記憶がずっと戻らなかったら?・・・・・」


一番心配していた事が言葉になって零れ落ちる。


「んなわけねぇよ・・・・」


シカマル君は静かに優しい声でそう言って、私を見つめている。


「そんなこと・・・・分からないよ・・・・・」


その目がすっごく優しいから・・・だからたまらなくて・・・・


「記憶が戻らなかったら、私どうしたらいい?」


声が震えた・・・・
(お願い、今はめんどくせーなんて言わないで・・・・)



でも、シカマル君は・・・・・・






「ずっとここにいればいいじゃねぇか。」






目を見開いた。
どうしてそんなこと・・・・さらっと言うの?


それは、たとえ過去の記憶が無くっても、一生忘れない と思えるほど、私の心をあったかく包んで
くれるような言葉なんだよ。



「ずっ・・・・と?」

「あぁ・・・・・」


シカマル君の指先が私の頬をそっと撫でる。
当たり前のように私の頬に触れるその指先の感触に不思議なほど安心する。


「いて・・・いいの?私・・・・・」

「お前がいたいならな?」

シカマル君は へっ と笑った。

涙がこみあげて、目の前のシカマル君の顔をかすんで見えた。




「ありがとう・・・・・」


その後、私はわーーーーーーーっと泣いた。

シカマル君はすごく困っていたみたい。



「おいっ 何泣いてんだ?なんだ?俺なんか悪い事言ったか?どした?」


肩をつかまれて、必死で顔を覗かれたけど、私はそれ以上何もいえなくて・・・・


あまりに大きな声で泣いたので、下からシカマル君のママとパパが驚いてやってきた。




「こら!シカマル!お前ぇはに早まった事したんじゃねぇだろうな!!!」

シカマル君のパパが怒鳴っているのが聞こえる。

「は?早まった事ってなんだよ!!俺はなんもしてねぇ!」




どうしたの?」

シカママが走りよってきて、私を抱きしめてくれた。


本当は『シカマル君は悪くないんです』って言ってあげるべきだったのかもしれないけど、
でも、なんかそれどころじゃなく嬉しくて、なんかフォローする気もまわらなくて・・・




後で聞いたら、シカマル君はあらぬ疑いをかけられて、パパに頭を殴られたらしい・・・




やっと気持ちが落ち着いて、私は泣きやんだ。

「シカマル君の言葉が嬉しかっただけなんです」

それから慌ててシカマル君をフォローする。


「そ、そうか」

「そ、そうなの?」

シカパパもシカママも一瞬動きが止まって、お互いの顔を見合わせていた。



「俺、信用ねぇんだな・・・はぁ・・・マジ凹んだ」



ジトーッと両親を睨むシカマル君に、2人はあははと空笑いをして、
「それじゃあ お2人、ごゆっくり〜」

意味不明な言葉を残して、2人は下の部屋に戻っていった。




部屋にまたシカマル君と2人きり。
シカマル君はジロリと私を睨む。



ぐすんっ 私は鼻をすする。


「ったくよぉ・・・お前のせいで俺は散々だったっつうの!!めんどくせー・・・・」


「だって・・・・ぐすんっ」



そうだよね・・・ちゃんと謝らなきゃ。
シカマル君て本当は優しいんだね。誤解してごめん。


「シカマル君・・・ごめ・・・・」

私はちゃんと謝ろうとしたのに・・・それなのに!!!



「ってか、お前、ひでー顔してんぞっ。」



くくくと笑われた。
確かに大泣きしたせいで、鼻水たれたし、涙でぐしゃぐしゃだけどさ・・・・・
だからって、女の子にその言い方なに!!

なのに、シカマル君はまだ笑いっぱなしで・・・


「マジ、イケテねぇ 」

「な、な、なによぉ!!!」

「あーーー笑える。魔よけにお前のその顔の写真貼れるなっ」





ちょっと!今、なんて言いました?ま、ま、ま、魔よけ!!!




「何言ってんのよぉぉ!この意地悪デコマルーーーーー!!!」


私はとっさに叫んだ。


あっ・・・・! ついに怒りが爆発してシカマル君にひどい事言っちゃっいました私。

でも、なんでなんで??

まるで、口から滑り出したように、その言葉はサラリと口をついて出てしまった。



へ?



一瞬シカマル君はポカンとした顔をした。
でも、



「んだぁ? ずいぶん言ってくれんじゃねぇかよ!この泣き虫女!!!」

ニヤリと笑ったシカマル君の顔は、なんだか嬉しそう?

「う、うるさいぃぃ/// 意地悪、悪魔〜!!!」

「あ、悪魔だぁ? お前なぁ!今からでも、どっかその辺に捨ててきてやろうか?」

「何それ!!!」

「迷子にでもなっちまえ!バカ!!」

「うっ・・・・」


それは・・・ちょっとひどいよぉ・・・・
だってそれされたら、記憶の無い私はきっともうこの家にも帰れない・・・・


私が黙ったら、シカマル君はあわてて



「い、今の無し。俺が悪かった。ごめん。本気じゃねぇぞっ 。」


その動揺っぷりを見て、本気じゃないと分かってしまう。
まったく人がいいのか悪いのか?
シカマル君て案外おもしろいかも・・・・・・


「てい!!!」

「イテーーー!!!」


だから思いっきり、その広いデコにデコピンをかまして、私は下の部屋に逃げた。


なんでかな?
こんな事をずっと前にもシカマル君としたような気がする。
記憶はまったく無いけど、なぜだかふとそう感じた。



「お前なぁ!!いい加減にしろっ!!!」



怒ってる?だけどそれは本気じゃないんだろうなって分かる、シカマル君の声。


階段を下りながら、叫んでみる。



「きゃーーーーーーーおばさま助けてくださいーーーーーーーーーー!!!」



「ったく・・・アホ!!/////」




シカマル君の声だけが何故だか心地よく私の心に響いていた。


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