今、俺の目の前にいるのは・・・サスケだ。





なんで?
どうして?
お前が来るんだよ?





俺の頭の中がまた混乱する。






俺は、しばらく狐につままれたように、何も言えないまま、サスケの姿をたた呆然と見つめていた。
他の景色も見えなくなって、俺の目にはサスケの姿が焼きついていく。

その姿にサスケを追っていったあの時のの後ろ姿がチラつく。







はっと気づいて、さっき思わず手を離しちまったを見る。







(なぁ。もうお前は俺のもんだろ?)



なのになんだ?この変な胸騒ぎは・・・・











その時、はじっとサスケを見ていた・・・・・・・・・・






(嘘だ・・・)




の横顔が、また遠くに感じる。






(なんでだよっ くそっ なんであいつを見てんだよ?)




抱きしめて、キスして、俺だけのものになったはずのお前は、またサスケを見てる。






さっきまでのの体のぬくもりが、俺の体にはまだ残っているのに・・・
お前はまた俺を忘れて、振り向きもしねぇまま、




サスケのとこに行っちまう気か?




(夜風になびく長い髪。凛としたの後ろ姿が俺から遠ざかっていく・・・・)



あの時の光景が鮮明に頭に浮かんできた。

心臓がドクドクと胸を閉めつめる。





(嘘だろ・・・お前、また・・・・・俺を置いてくの?)




























信じられない想いだった。
後から、私を追って、救助部隊が来てくれることは予想できたけど・・けど、なんで
サスケ君がいるの?



「サスケ君・・・・ねぇ・・・・どうし・・・て」


「それより、お前、体はどうした?怪我でもしたか?」



サスケ君にグッと腕をつかまれる。




え?





言葉の意味が分からずに、とっさに下を向いて、自分の体を見た。




「きゃ、きゃーーーっ」



私の体中に血がべったりと付着していた。





その黒ずんだ血を見たら、心臓がドクドクと高鳴る。
頭から血の気が引いていくような感覚がした。





(怖いっ 怖いよっ)




「いやっ 助けてっ!!」 




頭が混乱して、勝手に息があがって、何がなんだかわからなくて、動揺して・・・
思わず目の前のサスケ君の腕にしがみついた。





(あたし・・・血が・・・怖いっ)





「落ち着け。大丈夫だ」



私の肩を掴むサスケ君の言葉が耳鳴りみたいに遠くに聞こえてきて、体がガクガクと震える。




(駄目だ私・・・意識が・・・・)



サスケ君の体にもたれかかるように、私の意識が遠のいていく・・・・・


でも・・・・
薄れそうになる意識の中で、私の頭に響く声・・・・・














なに・・・・これ?
これは・・・・失ったはずの記憶の欠片・・・・??
















『なぁ・・・。めんどくせぇ・・・お前、忍びやめちまえよっ』



(え?だ、誰?・・・)



『どうしたよ?俺に負けて悔しいか?』



(どうしてそんな意地悪言うの?)



ぼんやりとした記憶。 頭の中で私の目の前には影になった男の人。



『だったら強くなってみせろよっ 血ぃぐらいでガタガタ騒ぐなっての。』


(悔しくて、泣きたくなったっ 私だって、強くなりたかったんだよっ)



『けっ 俺はもうガキの相手なんて付き合ってらんねぇからよ。』


(どうして?私のこと・・・どう思ってるの?)



大きな影の人に、見下ろされて、私は目の前の男の人の言葉に酷く動揺している。





意地悪なことばかり言われてる私。
なのに、私はこの人に嫌われたくないって本気で思ってる。
負けたくないっ!強くなりたい!って。




(この人は・・・誰?だった?・・・・・・・)




でも、その声には私・・・・聞き覚えがある-------------------------------



















『強くなれよ。俺が惚れちまうぐれぇによ。』
















記憶の中で、シカマル君が私に向かって微笑んでいる顔がはっきりと見えた------------------------------





「シカマル・・・君・・・・」




そうだよ・・・

私、シカマル君のその言葉を必死で追いかけて・・・
血に慣れる修行にも何度も耐えて訓練したんだ。
























---------------------------------------------------------------------------


目の前は血の海だった。


木の葉の忍びも、他里の忍びも、私の目の前でバタバタと血を噴出して倒れていった。


(これは幻術・・・分かってるのにっ!!)







『きゃーーーーーーーっ』







目が覚めると、私の班の先生が倒れた私の目の前に立っていて・・・





『今日はこのぐらいにしとけ・・・明日また続きをやるぞ。』



血になれる修行は思うように進まずに、目覚めた後はいつも自分の不甲斐なさに腹が立った。


『もう一度・・・もう一度お願いします』


『ダメだ。今のお前にはまだ無理だ。続きは明日だ・・・』





先生がそのまま去っていく後ろ姿を、私は地面に倒れたまま悔し涙を流しながらいつも見ていた。



倒れた場所で、土をギュッと掴んだ。
小石が爪にはいって、爪の先が割れた。

ズキズキする痛み。

だけど、それよりもっと心の方が痛かったんだよ・・・・





(どうして、私はこんなにダメなんだろう・・・・)




ギュッと目を閉じたら、涙がドッと溢れて頬を伝う。



『う、ううう』


私は声を殺して泣いた。












『なぁに泣いてんだよっ 泣き虫。』



薄っすらと目を開けたら、目の前に屈んだ足。
でも、私にはその足の指の形だけで、それが誰の足だかすぐ分かっちゃうんだから。



『ほっといてよ・・・・』


こんな情けない自分を見られるのが恥ずかしくて・・・
でも・・・


『飲むか?』

涙でぼやけた私の顔の前に、お茶缶。



『いらない・・・』

こんな時に優しくしないで欲しい・・・




『さっき買ったばっかだからよ。・・・冷えててうめぇぞ』




彼の手に揺らされた缶から、チャポンチャポンと音がした。




本当は喉はカラカラ。そんな音を聞いたら、余計に飲みたくなる。
ゴクリ と喉が鳴った。




『いらねぇのか?』



その口ぶり。
絶対分かってて言ってるんでしょ!!



『意地悪っ』

『なんだよ?』



語尾の微妙な揺れで、彼が笑いをこらえているのが分かる。



『飲みたいっ・・・ちょうだいよっ お茶』



私の性格すべてを見通されてるみたいで、なんかすっごく悔しいっ



『くくく・・・素直じゃねぇな。それに、んなとこに寝てたら飲めねぇだろ?』


『分かってるわよっ』


私は ふくれっつらをしながら答えた。
そして目の前に屈んでいる彼に手を伸ばす。




『起きれない・・・助けてよ。』

『はいはい。・・・はぁ・・・めんどくせっ』



そんなこと言ってたって、結局、いつだって彼は私を助けてくれるって分かってるから。
だから私はいつも甘えてたんだよね。

ほら、やっぱり。
大きな手は私の手首をグッと掴んでゆっくりとひっぱってくれる。



体を起こしてようやく顔をあげて目の前の彼の顔を見た。




目を細めて、笑った顔。


いつもよりずっと優しいんだから・・・本当ズルイよ。






『お疲れさん・・・っ』

『きゃっ』



土で汚れた頬に押し付けられたお茶の缶はキンキンに冷えていて、体がビクリとする。



『冷たいよぉぉっ バカぁ』

『うるせぇ。文句が多いっつうのっ!!』



プシュッ



彼は私の目の前でペンタブを勢いよく開けた。



『ほらよ』


ぶっきらぼうに渡される缶。


『あ、ありがとっ』




ゴクリと一口。
冷たいお茶が喉を通って、胃まで流れていく。




『おいしい・・・』


素直に言葉に出た。



『だろ?』


ニシシと笑う顔も、今日はいつもよりやっぱり優しいんだよ。






『・・・帰るか?』

『うん』




私を引き上げる大きな手は、軽々と私をその場に立たせて、
不思議なほど自然に私は彼の腕を掴んだ。



お隣同士で小さい頃はいつでも一緒で、もちろん帰るのも一緒で・・・・
だけど、お互い忍びになって班が分かれてからは、任務も違うし、一緒に帰るなんて
なかなか出来なくて・・・




だけど私、やっぱり彼に頼ってる。
彼の存在はきっと他の誰とも違うから・・・





『今日も・・・ダメだったよ・・・』


歩きながら、私は呟くようにポツリとそう言った。


『あぁ・・・』


たった一言だけ返ってくる。



『どうしたら・・・血に慣れること出来るのかな・・・』

『・・・・・・』


無言の横顔に胸が締め付けられる。

(私ってやっぱり見込みないのかな・・・)



ぐすっ



情けないから嫌なのに、勝手に涙がにじんできた。










ポンッ と頭に大きな手が触れる。


その優しい手を感じるたびに、どうしてだか、私は余計に泣きたくなるの。





ぐす。ぐす。



一生懸命涙を隠しながら、私はうつむいて歩き続けた。











・・・・』


不意に名前を呼ばれて・・・・










『焦ることなんかねぇよ・・・お前のペースでやってりゃいいんだ。』


それはとても静かで冷静な声で・・・






『で、でも・・・なんか自信な・・いよ』

だって、先生も・・一緒の班の仲間だって、きっと私のことなんて期待してなんか無い・・・





『バーカ。お前らしくもねぇ。何、落ち込んでんだよ・・・めんどくせぇ』


『だ、だって!!』


もう何日もこんな修行を続けてるのに私は全然・・・・







でも・・・・









・・・お前はやれるよ。 俺は・・・・そう信じてる。』









あの時、たぶん私の周りの誰もが、私のことなんて、気にもとめてくれなかったあの修行の時、
それでもたった一人、あなただけはまっすぐに私を見て、ちゃんと目を見て、私にそう言って
くれた。





帰りは夕日だったのに、私をじっと見て笑ってくれたあなたの顔が、私にはすごく誇らしく
輝いて見えたの。






そして、私はあの時、決心した。




(( 絶対に諦めるもんかっ!! ))




『私・・・私決めたよ!!』


『あ?』



眉間によせたシワ。不思議そうに私を見下ろす顔。
だけど聞いて。
あなたに聞いて欲しいよ。

私の決心を!!








『私・・・血を克服して、それで、いつか私が絶対、助けるからねっ!!

          私がシカマルを助けるから!!』








あなたは目の前で驚いた顔をした。
でも、それから笑ってくれたよね。







『あぁ・・・信じてるぜっ』





あの時のシカマルの言葉・・・・・・・


私はずっと信じて耐えて修行した・・・・・・










そして私は・・・・克服したんだっ
あなたとの約束を果たすために・・・・・・・





















(そっか。いつだって私が崩れそうな時、私を支えてくれたのは・・・シカマル君・・・やっぱりあなただったんだね。)





















-----------------------------------------------------------------------------------

はっ とした。



突然、意識が現実へと引き戻された。
そして、私はゆっくりと手のひらについた黒ずんだ血を見つめた。





(落ち着くんだ!!ねぇこの血は、今、助けなきゃいけないのは誰?)





高鳴る心臓がゆっくりと鼓動を緩めていく。
そして、私は徐々に冷静さを取り戻していった。





(そうだよ・・・私、シカマル君を追ってここまで来た。苦しかった、辛かった。
 でも・・・私は絶対に怪我なんてしてないっ・・・)






--------------だったらこの血はっ!!-------------------










もう体の振るえは止まっていた。




(もう大丈夫・・・私はもう血なんか怖くないっ!!)









「大丈夫か?



目の前でサスケ君の声がはっきりと聞こえた。





ゆっくりと動き出す思考。








(そうだ、私、さっきシカマル君と抱き合った・・・・まさか、この血は!!)







「シカマル君!!」




心臓がドキドキするっ
だって、まさか!!





私は体を支えてくれていたサスケ君の腕を離して、シカマル君を振り返る。





私とサスケ君から少し離れたところでシカマル君は立ち尽くして、私達を見ていた。





「シカマル君・・・ねぇ・・・この血・・・・あっ!!!」





よく見れば、シカマル君の体は泥や土で汚れているんじゃない・・・・
お腹から下は全部血・・・・空気に触れ、黒ずんだ血だったんだ・・・・・・



(この血は全部、シカマル君の血! うそ・・・うそでしょ?)



その量は・・・普通じゃなかった。






「シカマル君。ごめんねっごめんねっ」





私はシカマル君のところに駆け寄った。





なんで真っ先に気づいてあげれなかったの?
どうして私、あなたに会えた事に勝手に興奮して抱きついて・・・・・

『好き』って気持ちを伝えることだけで精一杯だった。

もっと早く怪我に気づいて処置してあげてたらこんなことにはっ!!!




(こんなにたくさんの血っ!! いやだよっ もしシカマル君が死んじゃったら、そしたらどうしようっ)

胸がドキドキと高鳴る。
シカマル君、死なないでっ!!!




私が『助ける』って・・・あの日約束したのにっ!!!




私、何してたのよっ!!!

























サスケに腕をつかまれたは、少しだけためらった。
体についている血を見て思わず叫んだ


(お前の体についた血・・・まさかお前怪我してたのか?)


俺、なんも考えずにお前を抱きしめちまって・・・


に出会えた事に浮かれて、お前の怪我を見逃していたんだとしたら俺は
・・・・






お前の体が心配だった。




でも、少し離れたところで、がサスケの腕にしがみついた。
サスケがの肩を掴む。




それから、がサスケの胸に倒れこむように抱きついた姿を、俺はまるで
スローモーションのように見ていた。




俺の心臓がドクドクする。




(なんだよ・・・・それ・・・・・)

















は俺を振り返って言った。






「シカマル君!ごめんね。ごめんね。」





涙を溜めて俺に走りよってくるをジッと見ていた。







(ごめん)



って・・・・何が?





心の中にまた黒い気持ちが湧いてくるような気がした。













走り寄ってくるの後ろにサスケの姿がまたダブって見える。
俺の目の端にサスケの顔がちらつく。


すげぇ・・・イラつくぜ。








(ごめんて・・・それ・・・どういう意味だよ。・・・・)








明らかに俺を心配して走りよってくるの姿にも、俺は何故か嫉妬した。







(ごめんって・・・お前、俺に何を謝ってんの?)





俺がお前を抱きしめたからか?
答えも聞かずにキスしたからか?


それとも・・・サスケに隠れて、そんなことした事を後悔してんのかよっ!!






「シカマル君、そんなひどい怪我してたなんてっ ねぇ。大丈夫? 」



の細い手が俺の体に触れようとする。
さっき、同じようにサスケにしがみついたその手が・・・・









俺は憎かったんだ。









「お前には関係ねぇ・・・」




の手が俺に触れる前に、お前の体を推し戻した。




(サスケに抱きついたお前の体を、サスケがしてやったのと同じように、俺に抱けってのか?
 そんなこと・・・出来るわけねけだろっ!!)





「シ、シカマル君?・・・・・」





の目は俺を見て驚いていた。
不安げに揺れていた。

でも・・・


もう知るかっ 分かんねぇんだよっ お前の気持ちがっ!!! 











なんで、お前とサスケが一緒にいるんだ?

なんで、お前を追ってサスケが来るんだよ?




どうして?





お前は俺を見つけるためだけに、ここまで来てくれたんじゃねぇのか?





俺を助けるためだけに・・・・・









俺はそう思ってたのにっ






何度も諦めそうになった俺を必死で呼んでくれたお前のあの声は・・・あれは、
やっぱただの幻聴だったってのか?




へっ・・・・
笑わせんなよっ





お前はサスケと一緒にここに来てたって訳か・・・・・







『大好き シカマル君』





お前のあの言葉も全部・・・・・・・・

















「・・・嘘・・・つくなよ・・・・・・」


「え?」









俺はの顔をゆっくりと見る。




また・・・の目にはたくさんの涙がたまっていた。




「お前・・・なんで泣くの? その涙は誰のためなんだよ・・・」



俺の口から出た声は自分でも驚くほど冷たかった。



「だって・・・シカマル君の体・・・私、怪我してたなんて知らなくて・・・だ、だから・・・」


「ふぅん」


小さな肩が震えてる。



でも、俺、もうお前をまっすぐ見れねぇ。


だって、そうだろ?


それで・・・・何なの?
お前にフラれて、一人任務に出たかわいそうな俺に同情して、救助部隊と一緒に俺を探しに来てくれたってことか?


仲良く、サスケと一緒によぉ・・・・


んで、お前は救助部隊と別れて一人俺に辿りついたってわけか。


さっき俺に抱かれてやったのも、ボロボロになった俺があまりに惨めだったから?
キスしたのも、俺の背中を握ったのも・・・全部同情ってことかよっ・・・・・・・







目の前が急にかすむ。






の為に意地になってたんだよな、俺。
けっ・・・ざまぁねぇよ。こんなとこでよ。
とうとう俺の体力も限界にきちまったってことか。





「シ、シカマル君!!しっかりしてっ!!今助けるから!!」




俺の体を支えようとが手を伸ばす。



「いいって・・・もう俺に触んなっ」


言葉でつっぱねても、体は言う事をきかねぇ・・・
俺はの低い肩に顔をうずめた。
貧血で・・・目の前がクラクラした。


がギュッと俺の背中を掴む。



「シカマル・・・君。・・・私じゃ・・・やっぱりダメ?・・・もう遅いの?
 私、私は・・・シカマル君のことが・・・本当に、好・・・」



「言うなっ・・・・・もう言うなよっ 聞きたくねぇ。」



密着した胸から、の鼓動が伝わってくる。
俺の言葉に、心臓の音が早くなったことも、体が震えてたことも、薄れそうな意識の中で俺は
感じていた。



けど、俺・・・・もういいよ・・・・もう無理だ。



・・・お前はサスケと帰んな。・・・サスケのとこに・・・行けよ。もう充分だ。
 今までありがとな。。これで本当にさよならだ・・・」




「シカマル君・・・どう・・し・・て?」












もう泣くなよ。
俺、もうお前の近くにいるのも辛い。


俺はやっぱ、情けねぇ、意気地のねぇ、腰抜けだ・・・・・・








俺の体から力が抜けて、支えきれなくなったが救助部隊を必死で呼んでいたような・・・気がする。










そこから俺の意識は途切れた・・・・






















シカマル君の体を支えるように、救助部隊がゆっくりとシカマル君の両肩に手をまわして、
意識のなくなったシカマル君を連れていく。




大きくて、頼もしいはずの背中が、私には小さく見えた。




少しづつはなれていく背中に・・・・苦しくなった。






だって・・・・どうして?





「シカマル君・・・・・」




さよならってどういう意味?


さっき、抱きしめてくれたのは、何だったの?






『俺もう、お前を離さねぇから』





シカマル君の低い声は少しだけ震えてて、私の耳から体中を巡った。





私は・・・ちゃんと『好き』だって言ったのに・・・
私の気持ち、受け入れてくれたんだって思ってた。



違うの?



じゃあ・・・さっきのキスは?
ねぇ・・何だったの?


もう私達、絶対に離れないって・・・そう思ってたのにっ



こんなの嘘だ。あんなに私を想ってくれてたシカマル君が・・・また遠くにいっちゃった。



ねぇどうして?



・・・シカマル君のキスは・・・優しかったよ・・・・













こらえようとしていた涙が、一気に溢れて、私はわーーーっと子供みたいに泣いた・・・・







「大丈夫だ。あいつは救助部隊に任せておけばいい。」

サスケ君が私の肩をポンッと叩いた。




違うよ・・・サスケ君。
私が泣いてるのは・・・私がこんなに悲しいのは・・・
シカマル君の気持ちが分からなくなっちゃったからだよ・・・

私の気持ち・・・やっぱり受け入れてもらえなかったの?
私じゃ駄目なの?
シカマル君っ・・・・・・・



「サスケ君・・・私・・・シカマル君を取り戻せなかったよ・・・やっぱり私じゃ駄目なのかな・・・」



はぁはぁ・・・
涙と嗚咽・・・そしてここまで来るまでの疲労・・・。
息があがって意識が薄れていく。



「お前、何言ってるんだ?・・・シカマルの為にここまで来たんだろ?」


サスケ君の声が遠くに聞こえる。
突然、体の力が抜けていった。


私・・・・・もう限界だ-----------------------------------------------




「おいっ!っ!しっかりしろっ!!」




薄れる意識の中、サスケ君が何度も名前を呼んでくれてた・・・
でも、本当は私・・・シカマル君の声を聞きたかった。
シカマル君に名前を呼んで欲しかった。



でも・・・もう・・・それは無理なの?





























・・・・・ここは・・・どこだ?・・・・・



薄っすらと意識がもどっていく。



気がついたら、俺は木の葉病院の個室に寝かされていた。



あれから・・・何日たった?


「痛っつ・・・」


上半身を起こすだけで、腰のあたりに激痛が走った。




「あ・・・起きたの?シカマル。」

「・・・・?・・・・・・」


誰・・だ?

頭がクラクラする。
俺に話しかけた声は耳の中で反響して、誰だか識別できなかった。

俺のベットの脇に大きな人影。
カーテン越しに差し込む日の光がまぶしくて、俺の視界はぼんやりしていた。







でも・・・・・




鼻につくこのどくとくな油の匂い・・・・・・




ガリガリッ



これって・・・・あぁなるほどな。
俺にはすぐに隣にいる奴が誰だか分かった。







「チョウジ・・・お前、病室で菓子食ってんなよっ バカ」


「へへ。だってシカマルってば3日も寝込みっぱなしなんだもんっ 暇で暇で」


ガリガリっ


チョウジはグルグルの頬をさらにまん丸にして笑った。



「あぁ・・・そうか。あれから3日たったのか・・・・・・」


それまで俺はずっと眠りこんでたって訳か・・・



「そっ。シカマルってば、本当らしくないよね。こんなボロボロになるまで頑張っちゃうなんてさ。
 めんどくさい任務になんかつくからだよっ 」


ガリガリ・・・


「そうだな・・・らしくねぇな。」

俺は ヘッ と薄く笑った。



チョウジの言うとおり、俺らしくもねぇ・・・気張りすぎたかもな。

でもよチョウジ・・・俺はの記憶がなくなってから、ずっとこんな調子だよ。
自分のペースが掴めねぇままだ。
本当めんどくせぇほど、らしくねぇよな。








「よぉ。一個くれよチョウジ」

「うん。いいよ」

チョウジは嬉しそうに、菓子を一つまみ、俺に渡してくれた。

「サンキュー」




バリバリ


「うめぇな」
「でしょ?焼肉味。」
「菓子でも昼飯でも焼肉かよっ お前らしいぜっ ったく。」
「だっておいしいから・・・・」

「だな」
「でしょ?」




ぷぷぷぷっ





チョウジといると俺はなんだかホッとする。



何かに迷ったり、忙しい任務でギスギスしてる、俺らしくねぇ俺を、
いつもまっすぐに導いてくれるのはチョウジなんだ。



「後でいのにもお礼言わなきゃダメだよ。シカマル」

「あ?」

「昨日、シカマルに付きっきりになってくれてたのはいのだからね。」


「・・・・・・・・そうか。」




いつも強気のくせに、こういう時だけは、いのはすげぇ心配性になっちまうんだよな。



「いのにも迷惑かけたな・・・。 こりゃちゃんと礼言わなきゃならねぇな・・・」


はぁ・・・ベットに座って、枕に背中をあずけたまま、俺はため息をついた。


「その前にどやされると思うよっ いのだもん。」

「ちがいねぇ」



くくくっ


『何寝込んでんのよ!!しっかりしなさいよっシカマル!!』
 

いのが、目覚めた俺に向かって、額に怒りマークをつけて怒る姿が想像できて、チョウジと二人で笑った。



「けど・・・すごく心配してたよ。」

「あぁ・・・分かってるよ。」



いのはそういう奴だから・・・


いのが心配そうに俺のベットの脇に座って、俺を見つめている姿が目に浮かぶようだ。
でも、俺の脳裏にもう一人・・・・小さな体を震わせて、俺の傍で涙をこらえながら、俺の手を握る
の姿が浮かんできた。




でも、それは昔のだ・・・・記憶があったころの・・・俺を好きだと言ってくれていた頃のお前だ。
もう・・・ありえねぇよな。




「そうそう。キバやナルトやシノもシカマルを心配してお見舞いに来てくれたんだよ。
 愛されてるねぇシカマルvv」


チョウジはニコニコと笑っていた。



「・・・・・はは。悪ぃな。みんな任務で忙しいってのに、俺なんかの為によ。」



チョウジのあげた中に、の名前はやっぱり無かった。



(あいつは来なかったんだな・・・・)



俺はみんなへの感謝の気持ちの裏でそんなことをぼんやりと考えていた。




「シカマル・・・のこと考えてるでしょ・・・」



俺の気持ちを見透かしたようなチョウジの言葉。
あまりに唐突で、俺は焦った。



「べ、別に・・・そんな事ねぇよ。あいつとはとっくに終わってる。」



終わってる・・・
そうだよ。の気持ちは記憶をなくしてから、もうずっとサスケにあったんだ。
俺なんか入り込む隙間もねぇほどにな。


分かってんのに・・・




『大好き。大好きだよ。シカマル君』




俺を見つけ出して、俺の胸で泣いたの姿が・・・まだ俺の胸の中で
くすぶり続けてる。




本当、バカだよな俺・・・










とは終わったんだ。・・・ふうん・・そう。 じゃあ、シカマルに
 今のの事を教える必要もないね」


「あ?」



チョウジは その答えをわざと隠すように、何事もなかったかのように、またボリボリと菓子を
頬張りはじめた。




(『今のの事』・・・・・・チョウジのその言葉が妙にひっかかった。)



の今が・・なんだっつうんだよ。・・・・」


「知りたい?」


チョウジがチラリと俺を見る。



「・・・・・っ」


言葉に詰まる。
そりゃ・・・気にならない訳ねぇだろ・・でも、・・・・
聞くのもなんかすげぇ怖い気がした。




がどうして見舞いにこないか、シカマルに分かる?」


「そ、そりゃ・・・あいつは俺に会いたくねぇんだろ?」




(俺の見舞いになんか来ちまったら、サスケに悪いとか思ってんだろ?)




チョウジはお菓子を食べる手を休めて、はぁ と俺みてぇなため息をついた。



「な、なんだよっ」


「あのねシカマル。は今いないんだよ・・・・」





「いない?」




いないって・・・どういう意味だ?
俺の家には、はもう住んでねぇってことか?



まさかサスケのとこに・・・?


もう、お前は本当にサスケのものになっちまったのか?・・・・・・・・


そういう事か・・・よ・・・





「はは・・・やっぱ・・・そうか。あいつはサスケと・・・」




お前は今、サスケと幸せにやってるって事か。
だったら、俺の見舞いになんて・・・なおさら来るわけねぇよな。








・・・お前が好きだから・・・お前が幸せになってくれんなら・・・俺は・・・
  その為なら、身を引いたっていい。だから・・・俺はサスケにお前を・・・)



そう思って今回の任務にだって出たはずじゃねぇか・・・
だから、あの時だって、俺はお前を拒絶したんだ。



『もうこれで本当にさよならだ』



そう言ったのは俺からだ。









なのに


無意識にシーツを掴んだ俺の手は震えていた。




ちくしょーー。柄じゃねぇ。
なんなんだよっ
この俺の感情はっ!!!






「なぁ・・・チョウジ・・・」






頭が混乱する。
気持ちが全然追いつけネェ。
なんでこんなに俺ってダメなんだっ?情けねぇんだ?




病室にはチョウジのポテチを食う、パリパリとマヌケな音だけが響いていた。







「なに?」






チョウジはゆっくりと、いつもと変わらない調子で俺にそう一言だけ言った。







「俺よ・・・・・・どうしていいか分かんねぇんだよ。」






バカか俺は。チョウジに泣き言いってどうすんだよっ!!
頭が混乱して、言葉が勝手に出てきやがって・・・




なのにチョウジはいとも簡単に






「だろうね」





あっさりとそう答えた。





「なんだよ。それ」




なんか拍子抜けした。
やっぱチョウジには俺のくだらねぇ嘘とか見栄とか、絶対に通用しねぇんだな。
チョウジは誰より俺のことを分かってるんだ・・・そう確信した気持ちになった。





「で・・・シカマルはどうしたいの?」



何も言わなくたって・・・全部言わなくたって、チョウジには分かっちまうんだろ?
情けねぇこんな俺を見せられるのも、俺にはチョウジだけだ。




「どうしたい・・・か・・・・」



はぁ・・・
その問いの答えが今の情けネェ俺には欠片も思いつかねぇんだよ・・・チョウジ。



「そりゃ・・・を・・・あいつを幸せに・・・したいに決まってんだろ・・・
 まぁ・・・実際幸せにすんのは俺じゃなくてサスケなんだけどよ・・・・」


ヘッ と情けなく笑った。


混乱する頭で、それでもチョウジには隠さずに素直に言ったつもりだ。
もう今更チョウジに意地はったって仕方ねぇし。
が選んだのはサスケだって事実は変わらねぇしな。



「サスケが幸せにできるの?を・・・・」



チョウジはまるでふざけているかのようにお菓子を食べたままそう言った。



「してもらうしかねぇだろ。を傷つけたら・・俺が許さねぇよっ」


病院の真っ白なシーツをグッと握った。






「それでいいんだね。シカマルは・・・・」




チョウジの菓子を食べる音が止まった。






「え?」



「それで・・・本当にいいんだ。シカマル」






真剣な目を向けて、チョウジはまっすぐに俺を見ている。






チョウジの言葉が最後の砦のように感じた。




ここで認めたら・・・俺は本当にをサスケに渡さなけりゃならねぇような・・・
最後の確認をされているような気分になった。
















だから俺は・・・こいつには嘘はつけねぇんだよ。
















「・・・・・・・・・・・・いいわけ・・・・・ねぇだろ・・・・・」







それは、きっと俺が自分以外の相手にはじめて言葉にした素直な感情だ。





シーツを握りしめながら、俺はチョウジの顔を見る。
チョウジはグリグリの頬をニッとあげて笑った。




なんで、お前そんなに余裕なんだよ?チョウジ。



「だからって・・・・・今更どうしたらいいってんだよ・・・
 もう、俺には何の策も浮かばネェよ・・・」



が好きなのはサスケだ・・・
その事実はカワラネェ。俺がどんなに追ったって、の心はサスケにあるんだ。



はぁ・・・ため息が出た。



「なぁチョウジ・・・どうしたらいいんだ?俺りゃぁ・・・・・」







別にそこでこれぞという答えをチョウジに期待した訳じゃなかった。
でも・・・俺はチョウジの何かが・・・チョウジだからこその言葉がただ聞きたかっただけ
なんだ。




でも、




「策なんてあるわけないよ。」




チョウジはあっさりとそう言った。





「だよな・・・」




はぁ・・・ちょっとだけ期待しちまった自分が情けねぇ。
なのにチョウジはまた続けて言ったんだ。









ってさ、昔から変わらないよね。嘘がつけなくて、まっすぐで・・・純粋過ぎてさ。まるで
 子供のままだよね。」

「あぁ・・・そうだな。」


記憶があった頃のはもちろんだが・・・
今のもそこだけは変わらねぇ。


サスケの家に行くと言った時、あいつはサスケを想う気持ちを俺に隠せずに、どうしようもなくなって俺に言っちまったんだろ。
どうせ、俺とサスケの両方とうまくやるなんて器用なマネなんて、あいつにできっこねぇしな・・・・・

サスケと一緒に俺を追ってきたのも、あいつなりに俺を想って、精一杯俺の為にしてくれた事だったはずだ。



あいつはバカ正直で、相手の気持ちなんて考える暇なんて無いぐらいまっすぐに突っ走っていっちまう奴だから。



だからいつだって俺はお前に振り回されっぱなしだった。



だけど俺は、そんなお前だから好きになったんだ。
なんの打算もない、純粋で嘘のないまっすぐな瞳が・・・好きだった。






「ねぇシカマル」


チョウジは少しマジメな顔をした。


「なんだよ」

「そんなに策なんて通用すると思う?」


「え?・・・・・」




を欲しいなら、シカマルもまっすぐにぶつかってかなきゃ。・・・じゃない?」










<<シカマルもまっすぐにぶつかってかなきゃ>>









チョウジの言葉が俺の頭に響く。






「だけど・・・けどよ・・・あいつはサスケが・・・・・・」








「逃げてるだけでしょ?シカマルは。」



「!!」




まるで巧妙なトリックを見破られた犯人のように、俺は体が硬直した。



「どんなが好きなの。記憶があって、シカマルのこと大好き大好きって追っかけてきた
 好きなの?今のじゃダメなの?シカマル!!」



チョウジは語尾を強めて、真剣な目で俺を見ている。




「ち、違う。違ぇよ。 俺は・・俺は・・どんななんて関係ねぇ。俺が好きなのは目の前にいるだけだっ」





どうして俺はお前にだけは嘘がつけねぇんだ?
自分が不思議だった。
なんでチョウジ・・・お前は俺の歪んだ心をこんな一言でまっすぐにさせちまうんだよ?




「だったら・・・今のに好きだって気持ち、ちゃんと伝えなよ。サスケが好きでもいいじゃない。
 それでもが好きだって、そんなも全部受け止めてあげられるぐらい、シカマルが強くなきゃ
 ・・・しっかりしなよ!シカマル!」



ものすごい衝撃だった。




「チョウジ・・・お前・・・」



「シカマルってさ、相手の気持ちの先を読むのが得意なくせに、のことを読むのだけは昔からヘタだよね。
 が本当に欲しい答えってさ、を想って自分から上手に身を引く事なんかじゃないよシカマル。
 が欲しいのは、昔から、まっすぐなシカマルの気持ちだけだよ。」


「チョウジ・・・・」









の顔が浮かんだ。




まっすぐに俺を見て、はそこが外だろうと、誰がいようと、俺を振り返って、その時の気持ちを
素直にぶつけてきた。


『シカマル。大好き/////』


陽の光がを照らして、まぶしくて、俺はいつもとまどってて、


『は?バカじゃねぇの///////』


俺は素直に言えなかった。
俺も好きだって、何度も言ってやりたかったのに。


本当は何度言ったって足りないぐらい、お前が好きだったのに。










俺自身の汚い心の扉が、今、開きかけた気がする。








チョウジ・・・やっぱお前はすげぇよ。
俺のこんな気持ち・・・誰にも言うつもりも無かった。まさかそれをお前から言われちまうなんて・・・


・・けどよ。
やっと目が覚めたぜっ
俺はなんてバカな男なんだ。
いくじねぇな。情けねぇな。本当イケてねぇよな。



俺は逃げてたんだ。



本当はに《私はサスケ君が好きなの・・・ごめんね》そうはっきり言われるのが怖かった。
お前に完全に切られるのが・・・本当は一番怖かった。

だから俺は・・・

サスケを想うお前を傷つけるのが怖いからなんて、そんな嘘で自分自身を必死で騙して・・・・・


そして俺は俺の本当の気持ちを心の底にしまったんだ。





絶対に好きだと口にするまいと決めたんだ。








それは全部、の為なんかじゃねぇ。
を失って、真っ白になる自分から逃げるためだ。









「チョウジ・・・俺・・・お前がいてくれて良かった・・・・・」

「だよね〜。シカマルはIQ200の天才のくせに、時々すごく単純な迷路に
 簡単に迷っちゃうんだよね。僕やいのがいなきゃダメなんだよね。」


チョウジはニシシと笑った。



「そうだな・・・・」



もう何の弁解もできねぇよ。



「いのシカチョウをなめないでよね!!」


「分かってるよ」




俺も笑った。 
















もうなんも迷わねぇ。














俺の気持ちをまっすぐお前にぶつけるよっ









だってそうだろ?
お前はどんなことにもまっすぐに向かっていくやつだ。


俺が考えて、考えて、回り道をして行こうと言ったところで、お前はそんな策なんか
なんのそので、軽々と超えていくよ。いつだって笑ってな?



だから、そんなお前にはどんな策も通用しねぇ。必要ねぇんだよな。







《俺はお前が好きだ》






そんな単純な答えでいい。




なぁ・・・受け入れて欲しいなんて想っちゃいねぇ。
サスケが好きだっていいよ。
ただ、俺は・・・伝えておきてぇんだ。

かっこ悪くたっていい。


お前の目にどううつるかなんて、俺にはどうでもいいんだ。
今まで言ってやれなかった俺の本当の気持ちをお前に伝えるよ。




《俺はお前が好き。目の前にいるお前を誰よりも好きだ》




その気持ちだけが本当の俺だよ。

























「チョウジ。俺は今からに会いに行ってくる。」


俺はバサッと勢いよくシーツをはぎとって、ベットを降りた。



「え?今から行くの?だって、退院の手続きは?・・・えっと、火影様に見てもらわなくていいの?」


チョウジは俺の突飛な行動にめずらしく焦っていた。


「冗談だろ?俺はこの通り・・・元気だぜ?」


俺は腕をぐるっと一回まわして見せた。




「で、でもさ」


あわてるチョウジの肩をグッと握る。




「退院手続きなんて・・・・そんなことやってられっかよ。めんどくせぇ」


俺はわざとチョウジの肩を掴んで、顔を覗きこんで、ニタリと笑ってみせた。


(もう大丈夫だぜ、チョウジ)







「シカマル・・・・・・」


チョウジは目を丸くした。
そして笑った。


「やっとシカマルらしくなってきたね!!」

「そうか?今も昔も俺は俺だっつうの。」

「そっか。そうだね」





くくく・・・・あはははは





久しぶりに腹から笑った。
チョウジも笑ってた。





なぁチョウジ・・・俺に俺らしさをもう一度教えてくれてありがとな。
やっぱお前は最高だぜっ!!!








「そうと分かれば・・・行くかなっ」



へっ
俺はコキコキッと首をまわす。



「待ってシカマル・・・今はね、サスケのとこにいるわけじゃないんだっ」


「え?」


は・・・・火影様のところにいる」


チョウジは急にまじめな顔をしてそう言った。


「火影?・・・・・」


それは予想外の話しだった。





「どうして?」


「火影様の要請も無しに勝手に木の葉を抜けたからだよ。しかも、上忍のゲンマさんまで騙して、情報を得てね。
 は厳罰として、火影様の屋敷に監禁されてる。」



「まさかっ」








今になって、あの時のの言葉がよみがえってくる。
は確かに言ってた。


『ゲンマさんも騙して一人で来ちゃった』








「嘘だろ?」

「誰のためだと思う?が命をかけて守りたかったのは、それでもサスケだと思う?」

「だって、あいつはサスケと一緒にっ・・・・」



は俺に同情して、サスケと一緒に俺を探しに来たんじゃないのか?



分からない。
心臓がドクドクと音をたてる。
なんで?なんでそこまでして俺を追ってきたんだ?





「違うよ。は一人で行ったんだ。
 後からを追った救助部隊が人数を増やすために、サスケに応援要請を出したんだよ。」


が・・・サスケを連れてきたんじゃねぇってのか?」


「そうだよ。・・・・は初めから一人でシカマルを探すつもりだったんだ。」


「どうして?」



(だって、。お前が想ってるのはっ・・・・)
 



「分からないの?シカマル。」



「え?」



「記憶がなくたって、あいつはだろ?そのが守りたいのが誰かなんて、シカマルが1番よく
 知ってるじゃないかっ!!」


「チョウジ・・・・・」













『シカマル』

『シカマル君』





なんで?



俺の心の中で、記憶のあった頃のと、今のの姿がダブって見える。




『シカマル大好きだよ』


手を伸ばす笑顔は、記憶のあった頃のお前だ。俺を抱きしめようとその手は俺に伸ばされる。
でも、その手が近づく間にの顔は泣き顔になった。


『大好き シカマル君』










(じゃあ・・・あの時のお前の言葉は・・・・)




あの時、俺をこの任務に送り出すときも-----------------------------------------

ボロボロになって俺を見つけてくれたときも-------------------------------------



『大好き・・・シカマル君』



あの時もずっとは本気で俺を?














「嘘・・・だ。・・・嘘だろ?チョウジ・・・・」


「嘘なんかじゃないよ・・・シカマルには聞こえたんでしょ?の心の声が。
 だからシカマルは必死で生きて木の葉に帰ろうとしたんじゃないの?」
















あぁ・・・そうだ。チョウジ。





<<シカマル君・・・会いたいっ>>


あの時、半分死にかけてた俺を導いてくれた声が、、お前だったから・・・
だから俺は必死で生き延びたんだ。


そうか・・・あの声はやっぱり本物のお前だったのかっ 
記憶もねぇくせに・・・
それでも俺を守るために・・・俺を助けるために・・・あの暗い雨の中、一人、木の葉を抜けて・・・


お前はその命を、俺にかけてくれたのかっ














「チョウジ・・・俺は・・・・」


(どんだけ遠回りしたんだ? 俺はどんだけを傷つけた?・・・・・・お前・・・・)




「記憶なんかなくったって、が選んだのは、やっぱりシカマルだったんだよっ!!」


チョウジは笑った。
でも・・・・









「違う。違うぜ・・・チョウジ。」


「え?」


「選んだんじゃねぇ・・・は・・・俺を・・・・ちゃんと見つけ出したんだ。」











胸が苦しかった。


あぁ・・・俺は、お前は全て忘れてしまったと思ってた。


そう・・・お前は実際、記憶の全てを無くしてしまった。
俺との思い出も、全部な。


でもたった一つ。


お前が無くしてねぇもんがあったじゃねぇか・・・



それは、



<<記憶なんか無くたって、お前は  お前だったんだよ。>>





ごめんな。
一番大事なことを忘れちまってて・・・・











あの時の記憶が、俺の中に鮮明によみがえる。









『たとえ、生まれ変わってシカマルが私を忘れちゃっても、私は必ずシカマルを見つけ出して・・・それで
 必ずシカマルを好きになる。 私は、何回だって、シカマルに恋をするよ』














記憶をなくしたに動揺して、・・・本当のお前を忘れて、




見失っちまってたのは




俺の方だったんだ--------------------------------------









それでも、お前はちゃんと俺を見つけた。
記憶のない、何も見えない場所から・・・ちゃんと俺を見つけ出してくれた。



そしてちゃんと俺を・・・・・もう一度好きになってくれたんだなっ









(私は、何回だって、シカマルに恋をするよ)











・・・俺はもう迷わねぇ。
今度は俺がお前を見つける番だ。


そして、お前の一番欲しがってた答えをやるよ。


今度こそ絶対、お前のその手を離さねぇからっ!!














が記憶をなくしてからの空白の時間が、俺の中で今やっと繋がった------------------------------

 


















NEXTへ



戻る





55 STREET / 0574 W.S.R / STRAWBERRY7 / アレコレネット / モノショップ / ミツケルドット