足に溜まったチャクラ、右手のクナイを切り立った崖に何度も
ぶっ刺して、俺は頂上を目指した。


途中で何度か足をかけた石が転げ落ちて、バランスを崩した。
その度にグッと腹に力を入れるせいか、きつくまいた包帯の下から血が
にじむのを感じた。



「くそめんどくせぇっ」


苦しさもあった、腹の痛みも崖の中腹あたりで酷く痛んできやがったが、
今は止まるわけにはいかねぇ。



(一歩でも足を緩めたら、俺はまた、まっさかさまに転がり落ちる。)




右手でクナイを刺し、左手で崖の岩や土や草を掴んで、とにかく登った。





「はぁはぁ・・・・」




(足を緩めるなっ!!)



頭では分かっちゃいるが、体が言うことを聞かねぇ。
戦いで酷使した体。思いのほか酷かった傷。奪われた体力。


徐々に体から力が抜けていく。
岩を掴む手にも力が入らなくなってきた。





「くそっ・・・」





あと、もうちょいだってのによぉ・・・・・・



目の前がかすむ。









<<シカマル君、無事に帰ってきて!!>>






意識が薄れそうになる度に、何度もお前の声を聞いた。








・・・・)




残されたわずかな力で、俺はグッと足や手に力を入れた。






(行くしかねぇっ あきらめんなっ 頂上までっ 行ってやるぜっ!!)







はぁはぁ・・・・・






薄っすらとかかっていた霧の間から、頂上の木の根が見えたっ!!



「よしっ あともうチョイだっ」







あそこまで辿りつければ、木の葉に帰れるっ
お前に会えるっ





はぁはぁ・・・・





頂上の地面がかすんだ目の先に見える。
その上に、の姿を想像した。

『シカマル君・・・』

身を乗り出して、俺へと伸ばされた細い手。




(へへ・・・もし実際お前がそこにいてくれたら・・・)




その手を握りたい。
その体を抱きしめたい。
お前のそばに行きたいっ!!




「あと、少しっ!」





俺はお前の幻影へと手を伸ばす。





ガツッ






俺の手は最後の一絞りで、頂上の土を握り締めた。




「助かった・・・・ぜっ・・・・・・・」




はぁ・・・・・


ため息が漏れた。




シューーーッ・・・



まるで、空気が抜け落ちるみてぇに、わずかに残されたチャクラが足裏から
体に拡散されていく。









「くっ」





力を入れて、体を土に這わせ、俺は完全に崖からのぼりきった。
そして、しばらく、あがった息を落ちつかせるためにその場で仰向けに寝転んでいた。

空にはまだ薄暗い雲がかかっている。

雨はやんでいた。




「はぁはぁ・・・・・嘘みてぇ・・・・この崖から・・・・自力で上がってくるなんてよ・・・・」




ゲンマさんとはぐれた瞬間、正直俺はもうダメかと思っていた。
せめてゲンマさんの背中にいるあいつだけでも助かってくれたらそれでいいと・・・



それなのに・・・


まさか、体力もチャクラも限界に近い状態で自分がこの崖を登りきるなんて・・・




やる気なんていつもねぇ。
本気なんてめったにださねぇ。
何やるにも、めんどくせぇ。



そんな俺がよ・・・・





『大好き・・・シカマル君』




お前のたった一言で・・・ここまで出来ちまうんだからよ・・・・



なぁ・・・俺って、なんかすごくねぇ?




「っへ。へへへ。」



気づいたら俺は鉛色の空の下、大の字に寝転んだまま笑ってた。
自分が生きてるって事を本気で実感できたのは、今が初めてかもしれねぇ。

そして、俺を救ってくれたのは、間違いなくお前だよ・・・



「ありがとな。」



俺は空にむかって呟いた。

























息が苦しい・・・・





はぁはぁ・・・・・・・




どこまで走ったらシカマル君に会えるかな・・・・







私の忍びとしての体力を持ってしても、やはりそろそろ限界がきているみたいだった。
意識がぼんやりする。



「シカマル君・・・」



大きな声で呼ぶ元気も、今の私には残っていない気がした。





はぁはぁ・・・・・







フラフラとぼやける視界の先に大きな大木。その幹に私は手をついた。




その瞬間、ズルズルとしゃがみこむ。




「行かなきゃ・・・私が・・・見つけるんだもんっ・・・・ナルト君と約束
 したんだ・・・私が見つけるって・・・シカマル君を助けるって・・・・・・」



それは、自分に言い聞かせた言葉だった。
もう・・・諦めるなんて嫌っ
シカマル君とこれ以上離れるのは嫌っ


命をかけて、シカマル君を助けたいっ 守りたいっ






その気持ちに嘘はないのに・・・・
私の目はかすんで、視界がぼやける・・・






私はしゃがみこんだまま、空を見上げる。
いつの間にか雨はやんでいた。






「シカマル君」


鉛色の空に向かって呟く。



「会いたいっ 会いたいよっ!」



そしたら、自然と涙がこぼれた。



体に力が入らないっ


ねぇ・・・私・・・もう無理なのかな・・・・
もしかしたら、このままここで死ぬのかな・・・・



「はぁはぁ・・・・」



苦しい・・・・


こんなに・・・こんなに会いたいのに・・・・









ズキッ




(あ・・・・・・)




突然、古傷が痛みだしたかのように・・・まるで、諦めるな!と言われているかのように、
胸の痣が痛みだした。





(そうだ・・・諦めちゃ駄目・・・私は絶対シカマル君を見つけるのっ!)




何度も何度も心の中で呼んだ。















<<シカマル君・・・シカマル君・・・・>>




























<<・・・・君 ・・・・ル君>>





はっ とした。




「なん・・・だ?」



心臓がドキドキと高鳴る。
聞き覚えのある声・・・??
この声はっ・・・・・







<<シカ・・マ・・ル・・君>>






・・・・?」





ゆっくりと上半身を起こす。



あたりはまだ薄暗い。
雨に濡れた草からは雫がぽつぽつと垂れていた。
このあたりには動物の気配すら感じられない。


なのに・・・・


(そんな筈ねぇ。)


それでも俺の心臓はドクドクと妙な音をたてた。
すぐ近くにの声が聞こえた気がした。


・・・」


そんなのくだらねぇ幻聴だ。



でも・・・・・





俺を呼ぶ声が消えそうだった。
まるで息も絶えそうなほど弱弱しかった。


今まで俺の頭の中に浮かんできた、どのの声とも違う・・・・


それは、どうしても、このまま放っておけない声に聞こえた。






(ここまでお前の声が届くなんて・・・そんなこたぁあるわけねぇ・・・それでも・・・)



「くっ」


まだ痛みの残るからだをグッと肘でをささえながら、俺をゆっくりと起き上がる。


はぁはぁ・・・


立ち上がるだけで息があがった。
でも・・・




「めんどくせぇが、ここで休むわけにはいかねぇみてぇだな。」



よっ


ふらつく足に力をいれ直して、俺はゆっくりと木の葉へと続く道を歩きはじめる。




はぁはぁ・・・・



ひらいた傷口で意識はまだボヤけている。
それでも・・俺は・・・






・・・待ってろ・・・・」





(あいつに何かあったのかもしれねぇっ)






「木の葉に帰るんだっ・・・めんどくせぇけどよ・・・お前を助けるのは・・・やっぱ俺だろ?・・・」





腹の傷を片手で押さえながらひきづるように歩いた。そして、心の中で何度も呼んだ。





<<・・・・・・俺が今いってやるからよっ・・・・>>




























<<   >>




あ・・・・・・




「シ、シカマル君・・・・」



私は朦朧としたまま、その場で眠りそうになっていた。
でも、私の耳にはっきりとシカマル君の声が聞こえた気がした。


ズキズキ・・・


さっきよりも強く、胸の痣に痛みを感じる。





(何故だか分からない・・でも・・感じるの・・・あなたをっ!!)




私は もう一度足に力を入れる。
大きな木の幹に体をあずけながら、ガクガクする膝を両手で抑えて、なんとか立ち上がった。



「ダメ。ここで眠ったら、本当に死んじゃう。諦めちゃ駄目。」



もう一度倒れたら、きっと私はもう立ち上がれない。


これできっと最後。
だからお願い。最後の力を、私に全部ちょうだいっ!!





「シカマル君。待ってて!!今、行くからっ」



















<<はぁはぁ・・・・・>><<はぁはぁ・・・・>>

苦しいっ           倒れそうだよっ  
目がかすんでやがるっ     何も考えられないっ




それでもっ











どうしてこんなに必死になるんだろう・・・
どうしてこんなに胸が高鳴るんだろう・・・
どうしてこんなに会いたくて仕方ないんだろう・・・






だって・・・・






聞こえるんだよ・・・お前の(あなた)の声が!!!



















--------------<<シカマル君 会いたいっ>> 







俺はゆっくり、でも着実に木の葉への道を歩き続けた。







<< 今行くからっ>>--------------------






私はゆっくり、でも必死にシカマル君へと続く道を歩き続けた。














導いてくれるのは、きっとあなたの(お前の)言葉だけ・・・・・

















<<シカマル君の為なら>>  <<の為なら>>



   もう、自分がどうなろうと構わないからっ




だから・・・・・



  シカマル君に         





      <<会いたいっ!!>>




























はぁはぁ・・・・・








霧が晴れた。




あたりは真っ暗だ。



ポツポツッ・・・





耳に届くのは、草や木の葉から垂れる水滴の音だけ。




カサカサッ




雨がやんで、小動物も動きをはじめた。







神経を研ぎ澄ます。











「木の葉に・・・帰るんだっ」









ふらつく足もと。
途中途中で木に体をあずけるようにしながら、俺はまっすぐ前だけを見据えてゆっくりと歩いて
行く。
の声に導かれるように・・・











何時間もたったような・・・ほんの何分しかたっていないような・・・
俺は今、夢の中にでもいるような気分だった。






「くそっ 一体いつになったら木の葉に辿りつけんだよっ・・・お前に会えるんだよっ」




はぁはぁ・・・











ズチャッ














-----------------------------!?-------------------------------
















「くっ!!」





俺はとっさに近くにあった大木に体を隠す。











ズチャッ









奇妙な音はゆっくりと様子を伺うかのようにこちらに近づいてきている。






「くそっ 何だ?」



俺は腿に巻きつけてある袋からクナイを取り出し、右手に握り締めた。





あきらかに生身の人間の気配だっ





俺の頭の中は、ゲンマさん達とたたかった戦を思い出させた。



あの戦で敵は過半数以上の大打撃を受けたはずだ・・・
追っ手を向かわせる余裕なんざあったか?

いや、

それより何より、たぶん気配から感じ取って、こいつは間違いなく一人きり・・・


だったら、他里の連中か?


ここは木の葉からはまだ距離がある。
ここを縄張りにしている他国に雇われた忍びもいるだろう・・・
俺を捕らえて捕虜にでもしようってのか?




「どっちにしてもっ・・・めんどくせぇが・・・やるっきゃねぇな・・・」




はぁはぁ。




息がきれる。




正直、俺にはもう誰かと戦う体力もチャクラも残っちゃいねぇ。
けど・・・
待ち伏せなら、まだこっちにも勝機はあるっ!!




大木に身をゆだねながらも、こちらに向かってくる気配に神経を研ぎ澄ました。



(ちきしょう・・・こんな時によっ!!)



背中から冷たい汗が流れ落ちる。



「めんどくせぇ・・・こっちから先にヤッてやるぜっ」













ズチャッ





それにしても奇妙な歩き方だ。




まるで、こちらの気配に全く気づいていないような・・・・



足音や、動き方の気配で、そいつの能力や体格、経験値を瞬時に判断するのも忍びの
特異能力の一つなんだが・・・


こいつの妙な歩き方からは、人物像をまったく想像できないっ





すごく奇妙な気持ちだ。





相手は一人。
足音からして、体をひきづっているような感じだ。






(こいつ・・・遭難者か? それともどこかで怪我でも負ったか?)





でも・・・・
戦でも無いかぎり、こんな場所で遭難とは考えにくい。
だか、このあたりには血の匂いはねぇ。
戦なんざ、あったとは思えねぇな。
俺と同じように崖から転落するとかしねぇかぎり、怪我をする理由もねぇはずだ。


なのにこいつの歩き方・・・ひどく憔悴している感じがする。















ズチャッ











それでも、相手との距離はだんだんと縮まってきている。






一瞬の隙も許されねぇっ!













グッ








クナイを握る手に自然と力が入った。








ドクドクドク・・・
心臓の音だけが耳に響く。








ズチャ








(焦るな。もうチョイだぜ。 あと2歩・・あいつが近づいたら、行ってやるっ!!)





俺は呼吸を止めて、足先に力を入れた。









ズチャッ








「動くなっ!!」











ガッ!!!


































「え?」





それは、一瞬で・・・・



私の目の前は、真っ暗な影で覆い尽くされた。





(な、何?)




訳が分からなかった。




目の前の何かが、人だと分かった瞬間。
私の首元に、ひんやりと冷たい感触。








(え?)








徐々に、目の前の人影がくっきりと浮かび上がって・・・・
その時、逆光にならされた私の視界に見えたのは・・・・・・・・・・・・・・・







「・・・・シカマル・・・君・・・・?」




































俺の構えたクナイは小柄なそいつの首元に押し付けられた。
抵抗したら、即座に首を掻き切るつもりだった。











でも--------------------------------------------------------









「シカマル・・・君・・・・・」





「・・・・!!・・・・」






俺の目の前には、泥と雨でびしょ濡れになったの姿。
その白い首筋に俺はクナイを当てていた。




「シカマル君・・・本物?・・・・・・・」



小さな呟くようなか細い声。俺を震える子犬のように見上げている。
間違いない・・・俺の目の前にいるのはっ!!






でも ・・・そんなはずっ ・・・あるわけねぇ・・・・






「嘘・・・だろ?・・・・なんで・・・・なんでお前がここにっ!!」







頭が混乱する。
は木の葉で俺の帰りを待っているんじゃなかったのか?







<<シカマル君>>



さっきの弱弱しい声。
・・・それはお前が出した声だったってのか?







「シカマル君・・・やっと会えた・・・」





目の前での細い手が俺の体に触れようとする。



その瞬間、忍びの訓練に慣らされた俺の体は敏感に反応した。





「動くな!!!」




俺の思考回路がゆっくりと冷静に動き出す・・・・


落ち着けっ!!
だまされるなよ!
こいつは本物のなんかじゃねぇ。
記憶のねぇこいつがどうやってここまで来るってんだよっ!!






「シカマル君・・・どうして・・・?」





は今にも倒れそうなほど弱弱しい表情をしている。
その顔に俺の心臓は高鳴った。
もし、目の前のこいつが本物のだったら・・・・



背中に汗が垂れる。



いや、違う。そんな訳ねぇだろう?



こいつの姿が、もしじゃなければ、俺はきっとどこまでも冷徹にこの場を切り抜けていただろうよ。
けど、目の前にいるのは、本物そっくりなで・・・情けねぇけどよ、それだけで、俺はもう
どうにかなっちまいそうだっ


でも・・・これは、絶対罠だ・・・お前がここに一人でいるなんて・・・ありえねぇ。




「お前が本物のな訳ねぇ・・・お前・・・誰だっ!! 誰に頼まれて、に化けやがった!!」



脅かすように、俺はクナイを少し強く首元にあてる。
の顔をしたそいつは、小刻みにふるえだした。




「シカマル君・・・ちが・・っう・・・私は・・・・・・だよ・・・」



けっ  泣き顔までそっくりだぜっ
目の前の奴がに似ていれば似ているほど、俺はこいつが許せなかった。



「ヘタな嘘つくんじゃねぇよっ がどうやってここまで一人で来られるっていうんだっ。」



「違うの本当に私は・・・・信じてっ」



はぁはぁと目の前でに似たそいつは呼吸をあらげて苦しそうにしている。
ちきしょう! わかってるのに、胸の辺りが締め付けられる想いがした。

 


(くそっ 俺は騙されねぇぞっ)




俺はまだ中忍としての経験値は浅い。
だが、中忍試験で俺を見たっていう他里の連中から、『木の葉の頭脳』としての役割を担う男だと称されたと
上忍連中の誰かに言われたことがある。







『シカマル、気をつけろよ。お前を捕らえれば、木の葉にとっちゃぁ不利益になると思ってるような連中もいるらしいからな。』






思い出されたその言葉が、俺の心を凍らせていく・・・・





(けっ 俺をなめんなよっ・・・・)





「大方、木の葉にスパイでも送ってやがったんだろう?俺の弱点はって女だとでも言われ
 たかよ?・・あぁ?」


腹の底らへんにじんわりと溜まる怒りという感情と、俺の中の冷酷な忍びとしての黒い感情。
クナイをさっきより強く首元に押し付けて、俺は へっ と笑った。




「だとしたら・・・お前は運が悪ぃ。俺は普段はめんどくさがりのぐうたらな男だけどよ・・・・
 こと、の事になると変わっちまうんだよなぁ・・・・」



<<絶対に許さねぇっ!!>>









「シカマル君・・・・」


の顔をしたそいつは俺を恐怖の目で見ている。


「俺の大事な女を殺しの道具にしやがって・・・俺マジキレっから・・・」


「違うっ 違うよ!シカマル君、聞いて!!!」


「うるせぇ!!黙れっ!!」





俺はクナイの刃側を首元に向けようとした。





その瞬間・・・・・






「シカマル君のバカ!!なんで分かんないの!!!」





ビッ!!!





「え?」





























どうしてなの?



目の前にずっと探していたシカマル君がいる。

私達、やっと出会えたんだよ?

手を伸ばしたら、あなたに触れられる距離まで、やっと近づけたのにっ!!






なのに・・・どうして?
シカマル君は冷たい表情のまま、私の首にクナイを突きつけた。




(どうして私だって気づいてくれないの?)


「シカマル君・・・・・どうして?・・・・・」




ヒンヤリとしたクナイの感触。




シカマル君のそのあまりに冷たい表情が怖くて、思うように言葉も出てこないっ



疲れきった体と、もう一歩も動けないぐらい、重くなった足。



それでもやっと、シカマル君を見つけたのにっ!!!










「お前が本物のな訳ねぇ・・・お前・・・誰だっ!! 誰に頼まれて、に化けやがった!!」


語尾を強めて本気で怒るシカマル君を初めてみた。

背の高いシカマル君から見下ろされて、何も言葉が出てこないっ

シカマル君はさっきより強くクナイを私の首元にあてた。
シカマル君のしなやかな手に今以上の力を少しでも込められたら、私の首は掻き切られるかもしれない・・・・



(怖い・・・怖いよ・・・・)


普段は絶対に見せないシカマル君の忍びとしての本気の目に、体がガタガタと震えた。




「シカマル君・・・ちが・・っう・・・私は・・・・・・だよ・・・」



うまく説明できなくて、恐怖と悲しさで涙が溢れた。




「ヘタな嘘つくんじゃねぇよっ がどうやってここまで一人で来られるっていうんだっ。」



「違うの本当に私は・・・・信じてっ」



はぁはぁと息だけがあがる。
抵抗したら、本気で殺されちゃうのかな・・・私・・・




「大方、木の葉にスパイでも送ってやがったんだろう?俺の弱点はって女だとでも言われ
 たかよ?・・あぁ?」


シカマル君は冷徹に へっ と笑った。




「だとしたら・・・お前は運が悪ぃ。俺は普段はめんどくさがりのぐうたらな男だけどよ・・・・
 こと、の事になると変わっちまうんだよなぁ・・・・」





その言葉に心臓がドキリとする。





「シカマル君・・・・」





「俺の大事な女を殺しの道具にしやがって・・・俺マジキレっから・・・」






<<俺の・・・大事な女・・・・・・・>>






シカマル君は、相手が私だから・・・私に変化したと思っているからこそ、こんなに怒ってるんだ・・・・





その言葉が胸にギュッと突き刺さる。




ねぇ・・・・私がサスケ君を好きだったとしても・・・それでもまだ私のこと大事だって・・・言ってくれるの?
ゲンマさんや、火影様に・・・・私のためにお願いまでして、こんなヒドイ任務に来てくれたの?




<<胸が痛いよ・・・>>



ねぇ・・・・シカマル君。
信じて?
私を信じてよ。



私ね、本当に、シカマル君を私自信が見つけ出して、私の本気の想いを今度こそ逃げないで、まっすぐにあなたに伝え
たくて、ここまで一人で来たんだよ?






「違うっ 違うよ!シカマル君、聞いて!!!」



信じてもらうんだっ
今度こそ逃げないって誓ったんだから・・・・
私はシカマル君を今度こそ自分の手で守ってあげたいからここまで来たんだ・・・・




「うるせぇ!!黙れっ!!」




シカマル君の目が鋭くなった・・・・
そして、クナイの刃側は私の首元に向けられようとしていた。





ズキリッ





胸の痣がその瞬間を待っていたかのように、痛みだした。




そして、その瞬間、私の中のシカマル君に対する恐怖心は、無くなった。




ズキズキと痛む痣。













(信じて!!シカマル君!!)















「シカマル君のバカ!!なんで分かんないの!!!」





ビッ







(これが、私を私だと信じてもらう最後の手段だった・・・・・)

































の顔をした女の手は胸元の服を自分で引き裂いた。







「!!」







真っ白な肌が俺の目の前で露出する。






柔らかい胸の形・・・・







俺には・・・・はっきりと見覚えがあった・・・・・










「嘘だ・・・・・・」










カランッ









俺はその場でクナイを落とした。











そこには・・・・目の前の女が・・・本物のだって確証させる証拠が刻まれていた。










「ねぇ・・・分かる?・・・これは・・・シカマル君が私につけた、私がだっていう証拠だよ?」









体から力が抜けていく。



目の前で・・・・が・・・泣いてる。
目から涙がいくつもいくつも頬に流れ落ちている・・・・。





(あぁ・・・偽者なんかじゃねぇ・・・・お前は・・・・だ・・・・)




胸が・・・張り裂けそうだっ




(どうして俺は・・・・)






そう・・・知ってるよ。
その痣は・・・


俺が自分の想いをお前に乱暴に押し付けた・・・


きっと俺はこの日の事を一生忘れることはねぇだろう・・・


お前がサスケを好きだと分かっていながら、俺はただ自分の身勝手な想いを、力もねぇお前を強引に押し倒して、
無理やり受け入れさせようとした・・・・





(大事な女なのに・・・・)






「まだ・・・この痣・・・消えてなかったのか・・・・」


「うん・・・・。」



やっとに巡りあえたってのに・・・俺の口から出た最初の言葉はそんな情けねぇものだった。







(どうして俺は気づいてやれなかったんだ?)






「お前、どうやってここに・・・なんでここにいるんだよっ・・」





(・・・胸が痛てぇ。)




の透き通るような真っ白い胸のふくらみの上に残る痣・・・・・
まるで、俺の汚い感情がお前を汚してしまったみてぇに感じる。



悔しいけどよ・・・・




「この痣が・・・消えねぇのは・・・・・」




の胸元に残る痣に、無意識に俺はそっと指先で触れた。
がビクリと小さく反応した。




(こんなにお前が愛しいのに・・・)






「きっと・・・・天罰だ・・な・・・・・・」





(苦しいよ・・・『お前は一生を幸せになんて出来ない』って・・・そう言われてるみてぇだ・・・・)




















でも・・・・











「それは違うよ。」










目の前では柔らかく笑った。











「この痣はね。私とシカマル君をもう一度繋げてくれる、唯一の証だよ。
 シカマル君が私にくれた、大事な証なんだよ。」






の小さな手が俺の手をとる。





「ほら・・・私達繋がった。・・・でしょ?」








ギュッと握られた手から・・・・の柔らかい感触と、優しい体温が伝わってきた。
薄汚れた俺の手が、の清らかな手で浄化されていく・・・・











嘘だろ?
手から伝わる熱が俺の体まで柔らかく温めていく・・・・

あぁ・・・だから・・・もう・・・たまらねぇよ・・・・










・・・俺は・・・・」









本当はよ。
俺、いつでも、お前に言ってやりたかったんだ。


『お前を好きで好きで、どうしようもねぇよ』って・・・・・


『いつか必ず、俺がお前を幸せにしてやるからよ』って・・・・・


ちゃんと言葉にして言ってやりたかったんだ。













そして、お前に幸せそうに笑って欲しかったんだよ・・・・・






























「会いたかったよ。シカマル君。・・・あたし今度こそシカマル君をちゃんと見つけた。
 ちゃんと私が掴まえたよ・・・シカマル君・・・無事で良かった。」





が俺の胸に倒れこむように抱きついた。







(なぁ・・・本当?・・・お前俺の為に・・・・・俺を見つけるためだけに・・・ここまで来たの?)





信じられねぇ。

どうして俺なんかの為に・・・お前、こんなに傷ついて、こんな遠くまで・・・一人で?・・・・






心臓が高鳴って、が抱きついた俺の体はお前の優しい体温でどんどん温まっていく。






(なんで・・・どうしてだよ?・・・俺、またお前を奪いたくなっちまう・・・それでもいいのかよ?)





そんな言葉が頭の中でグルグルまわる。
どう答えてやればいいのか、頭が混乱して、分からねぇ・・・・






「ばか・・・お前・・・木の葉でいのと待ってろって・・・・俺は、そう約束してこの任務に来て・・・」





本当は、嬉しかった。
お前に会えて死ぬほど・・・・・
お前が俺をまっさきに見つけてくれて・・・・マジ嬉しかったんだ・・・・・




でも、今、ここで認めていいのか?
俺はお前をこのまま抱きしめていいのかよ。




「・・・・お前ボロボロじゃねぇか・・・・・・」


「平気だよ。シカマル君のためなら・・・私・・・命かけられるよっ」




憔悴しきっているはずの体で、それでも、目の前で笑うの笑顔はいつもと同じように優しい。




「バカ・・・言うなっての・・・・」




情けねぇけど・・・・・
そんな嬉しい言葉を・・・俺は今、どう聞いていたらいいのか分からなくて・・・・





「・・・またムチャしやがって・・・火影にちゃんと断ってきたのかよ?」




は少し困った顔をして首を横に振る。



「ううん。・・・ゲンマさんも・・・騙して一人で来ちゃった・・・」



「は?ゲンマさんを騙して・・・??」



「シカマル君・・・怒った?」





(怒る理由なんか・・・今の俺にはねぇ・・・だってよ、俺が助かったのは間違いなくお前のおかげだ・・・)



でも・・・・






「ったくっ なんでお前っていつもそうなんだ? そんなんだからいつも放っておけねぇっつうんだよっ! めんどくせぇ」



憎まれ口しか出てこねぇ自分が歯がゆい。





「じゃぁ・・・私のこと放っておかないで?これからはずっと一緒にいて?シカマル君お願い」




「え?」




また心臓が高鳴る。
俺が欲しい笑顔を・・・・お前は昨日まで死にかけてた俺の目の前で、今現実に見せてくれる。
俺がずっとほしかった、お前が俺に向ける優しい笑顔を・・・・








「シカマル君・・・シカマル君・・・・」





俺の胸に頬を貼り付けて、が何度も俺の名前を呼ぶ。
お前に名前を呼ばれるだけで、俺の耳からカーーっと熱が体中に広がっていく。



が俺を呼ぶ・・・それだけで、今の俺にはたまらなく幸せだ。
こんな嬉しいことはねぇよ・・・・






「会いたかった・・・シカマル君」



・・・・」





それ以上・・・何も言葉が出てこなかった・・・・
今何か言葉にしたら、俺はもう絶対戻れねぇ・・・

ただの幼馴染なんかに、お前を妹なんて呼ぶような関係に・・・
もう戻れねぇ・・・


だって俺は・・・お前が誰を想おうと俺は・・・お前が・・・











「シカマル君・・・・」











このまま、お前を思いっきり抱きしめてぇよ・・・でも・・・

そんな事していいのか?
また俺、お前を傷つけたりしねぇか?・・・


さっきからずっと頭の中が混乱しっぱなしだ。



俺、どうしたらいい?













でも・・・・
俺の胸の中で、は言ったんだ。



















「大好き。大好きだよ。シカマル君」



















-----------------------------------!!--------------------------------------












・・・・・」




心臓が張り裂けそうだ。









<<無事に帰ってきて・・・・大好き・・・・シカマル君>>








俺がこの任務に就くとき、最後に聞こえたお前の言葉・・・・






ずっと幻聴だと思い込んでた。
これは俺が自分に聞かせた願望だ・・・・そう想うことで、俺はこの任務でたとえ命を落とそうとも
後悔しないと決めたんだ・・・




でも、




ずっとずっとそれでも俺の心の中で、お前の声が響き続けてたんだよ。
耳をふさいでも、他国の忍びと戦っていても、それでも、俺はお前の声をどこかで信じて
ずっと心の中にお前を感じてた。




俺はやっぱりお前を諦められなくて・・・




<<私は何回だってシカマルに恋をするよ>>



そう言って笑ったお前を・・・俺は忘れられなかったんだよ・・・
サスケのもとに行った後姿を見ても・・・それでも心のどっかで



お前を信じてた。信じたかった。














やっぱりあの時の言葉は幻聴なんかじゃなかったんだな?


サスケじゃなくて・・・


お前は俺を想ってくれてんの?


今度こそ、そう信じていいのか?










俺の耳に、この世で一番聞きたかった言葉が・・・・聞こえたから・・・・・
もう俺、正直、死んでもいいかな・・・とか思った。マジで。








「ありがとな・・・。 俺を救ってくれて・・・俺を見つけ出してくれて・・・」





<<お前がサスケにかなうわけねぇだろう!!>>




あの時の自分の心の中の言葉を思い出す。




(あぁそうだな。力も強さも俺はサスケには適わねぇよ・・・・)




それでも、こんな俺でも、やっぱり俺はお前が誰より好きだから、もうどこにも行かせたくねぇから、
俺の腕は無意識にの体に伸びる。







(だったら俺は、全身でを受け止めてやるよっ)









俺の胸の中にすっぽりと埋まったの体を、ようやく俺は俺自身の全てで抱きしめた。











ずっとずっと、昔のことみてぇに思えていた、お前の本当の体・・・
記憶のあった頃、いつだって、本当はドキドキしながら、それでも我慢できなくて・・・抱きしめてたお前の体・・・・




なぁ・・・忘れられるわけ・・・ねぇだろ?




やっぱお前は本物のだ。














「シカマル君///////」



その少し幼い舌ったらずの声も・・・俺には全部・・・愛しいんだよ。








・・・俺もう・・・お前を離さねぇから・・・・」








本気で力を込めたら折れちまいそうな体を・・・それでも今だけ我慢してくれよ。
もうお前をどこにも行かせたくねぇから。
俺の中にすっぽりとこのまま埋めてしまいたいほど、お前がどうしようもなく好きだから・・・


お前をメチャクチャに抱きたい。



(なぁ、もういいよな?・・・もう、お前を誰にも渡さないっ お前は俺のものだっ)



髪を撫でて、背中を何度もなぞって、腰を抱き寄せて、お前の体が俺と1ミリも離れないように抱きしめた。




(いっそこのままお前と一つになれたら・・・)





っ・・・っ」




どんなにこの日を夢見てきただろう・・・
お前が記憶をなくしてから、サスケを気にしはじめてから、ずっと、
俺はお前を呼ぶとき、いつもどこかで躊躇してた。



でも、今、やっと俺は素直にお前を呼べる。
あの頃と同じように・・・


ただ、お前を純粋に、お前を好きだって気持ちをめいっぱい込めて、お前の名前を呼びたかった。
お前を抱きしめたかった。
お前を感じたかった。



・・・



抱きしめた俺の目の前にある、小さな形のいい耳。 柔らかい耳たぶを思わず噛んだ。

その下に続く、細い首筋に吸い付いてキスした。それだけじゃ足りなくて、何度も舌を這わせた。

首すじから香るお前の優しい匂い。

ときおり、の小さな吐息が俺の耳元で聞こえる。




なぁ・・・もう止めらんねぇ・・・・
俺だけのものになれよ





言葉なんか無くたって、俺達はちゃんと繋がってる。
記憶なんか無くたって、俺達ちゃんと繋がってるよな・・・



時々、重なり合う手をギュッと握り合った。



体が熱い・・・



埋めてくれよ・・・今まで離れてた分。
俺の中をお前でいっぱいにしてくれ。




答えも聞かずに、俺はの細い顎を持ち上げて、柔らかい唇にキスした。
何度も何度も・・・・




俺の背中を掴む、の手に力が入ってる。



もう離れなくてもいいんだろ?
俺達、このままずっとこうしてて・・・いいんだよな?




あの頃みてぇに・・・・お前を俺だけのものだと思っていいんだろ?




それから、俺達は、立ったまま時間も分からなくなるほど抱きしめあって、キスした。







はぁはぁ・・・・






お互い息があがって・・・・







・・・俺・・・・」





記憶なんか関係ねぇ・・・俺は今、俺の目の前にいてくれる「お前」自身が
欲しい。


俺はお前が好きだ。



















やっと言葉にしてお前に言えそうで・・・・








なのに・・・・























ガサッ















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遠くで草を踏む音が聞こえた。





「オーーーーーーーーーーーーーーーーーイ」

「シカマル!!!!」

「どこにいる!!」


























その声は、俺達を現実へと引き戻した。



























驚いたは、とっさに、俺から体を離した。
まるで、やっと繋がった想いが、また誰かに断ち切られたように感じて、心臓が高鳴る。





(もう、お前を失うなんて、嫌なんだよっ)








薄暗い道の先に、何人もの人影。

救助部隊・・・・・?








っ」


俺はお前の腕を掴んで、もう一度、俺のそばに引き寄せようとした。


「シ、シカマル君////」









その時、先頭を走っていた者が俺達を見つけたのか、足早にこちらに向かってきた。







ザシュッ






目の前に雨粒を弾いた草が舞った。

そして、そいつが俺達の目の前にたちはだかる。





「無事だったか・・・シカマル。・・・・も・・・な。」




























(嘘・・・・だろ?)





その声が「」と呼んだ。




俺はとっさに掴んだの手を離してしまった・・・・





思考がとまる。





鼓動が激しくなる。





俺をまっさきに見つけて・・・走りよってきた人物。
まさか・・・お前が・・・・?・・・・・・・・・・
なんで?・・・・・・・・










「サスケ・・・・・・」



















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