降りしきる雨は冷たかった。
道の向こうは深い霧で、真っ暗だった。


怖くないといったら嘘かもしれない。
だけど、私は止まらなかった。


心臓だけがそんな私の不安を表すようにバクバクと音をたてていた。


(大丈夫。絶対大丈夫だよっ)


心の中で何度も繰り返した。
だって、シカマル君や大切な仲間との記憶はまだ戻らないけど、私の体はちゃんと忍びとして
働いてくれている。




雨に打たれて足元の土がぬかるんでいても、私の足は正確に走り続けた。




記憶を無くしてから気づかなかった足についた私の筋肉は、ちゃんと転ばないように
私の体を支えてくれている。



きっと私、一生懸命修行してきたんだ。
シカマル君と一緒に・・・
きっと私は、シカマル君に追いつきたくて・・・・一緒に任務に行きたくて・・・・



私はきっと必死で修行してきたんだ。




今ならたとえ記憶がなくたってはっきりと答えられる




(私はシカマル君が好き。シカマル君が好きだから私は忍びとして頑張ってきたんだ。
  ずっとずっと同じ道をあなたと一緒に歩いていきたかったから・・・・)





「シカマル君。私、絶対諦めないからね!!」





暗闇の森。折り重なる深い闇に敏感に視覚が反応する。
雨が葉にあたる音。草を揺らす音。小動物の息づかいまで、些細な音も私の聴覚が聞きわけようとする。
それは、修行してきた忍びとしての私の体が、シカマル君を想う私の気持ちに反応してるんだっ



私、命をかけてあなたを助けるからっ



絶対に絶対に諦めないからっ



森の中を駆け抜けながら、私はそれでも治まらない高鳴る心臓に手を置いた。


















「はぁはぁ・・・・」


息が切れる。
ぬかるみに耐えてきた私の足もそろそろガクガクしてきた。


どれぐらい走り続けていたんだろう・・・・


それでも、景色には何の変化もない。




サーサー



雨の音だけが止まることなく耳に響くだけ。

いくら走っても同じ景色に見える。

雨に打たれ、折り重なる木々の枝は陰のように黒くて、私の方向を狂わせようと手招きしている
ようだ。



それは、不安と恐怖との戦いだった。





<<怖いっ>>





恐怖が時々私の気持ちをぐらつかせた。
それでも私は走りつづけた。


ベチャベチャと雨でぬかるんだ道が走るたびに音をたてる。


ゲンマさんの教えてくれた道。
シカマル君へと続いている道。
それはきっとこっちだっ!


不安になる度に、そう自分に言い聞かせて走った。




でも・・・・





「あっ」




ぬかるみに足を滑らせて、ズチャッ という音とともに、泥の中に転んだ。
体中にぬめった土がついた。



サーーサーーー




相変らず私の耳に響くのは雨の音だけ。
後ろからも前からも人の気配はない。
まわりはただただ暗かった。



「寒い・・・・」


朝からずっと雨に打たれていた体が今になってガタガタとふるえだした。


泥の上に座りこんだまま、私は空を見上げた。
降りしきる柔らかい雨が顔にあたるだけの暗闇しか見えない。
私はこの暗闇の中にこのまま落ちていってしまいそうな恐怖を感じた。



「シ、シカマル君っ」



思わずギュッと目を閉じた。










その時・・・・





<<あいつを助けてやってくれよな。それが出来るのはお前だけだ>>





(あっ・・・・・)




私の頭に浮かんできたのは・・・・金髪の鮮やかな髪をした男の子。






(ナルト君・・・・・)





はっ とする。




それは以前、サスケ君の家から飛び出してきた私を待っていたナルト君に
言われた言葉。




あの時、ナルト君の強い手が私の髪先をギュッと握った。
シカマル君を想う強い気持ちがジリジリと髪先を伝ってきたあの感覚。




私は精一杯シカマル君の気持ちに答えたいと想った。
シカマル君を助けたいって・・・




でも・・・あの時、私は結局シカマル君を助けることが出来なかった。
シカマル君の想いの強さに答える自身がなくて、言葉に出来ない想いを心の奥に封印した。
私はあの時、シカマル君から逃げてしまったんだ。








思い出すたびに悔しくて、後悔して、私はぬかるんだ土をギュッと握った。










でも、そんな私の背中をナルト君の次の言葉がグイッと押してくれた。





『過去とか、記憶とか関係ねぇ。お前が見つけるんだ。今ここに存在しているシカマル自身をな。』





<<そうだよっ 今度は、今度こそ私が見つけるんだっ!!そして助けるのっ!!>>





ぬかるみに足をふんばる。




(早く立って!!立たなきゃっ 私、行かなくちゃっ!!)



自分を奮い立たせる。


本当は、この広い森の奥でシカマルを見つけ出せるのか不安だよっ
もしかしたら、このままシカマル君に永遠に会えないかもしれないっ



だけど、私は・・・・








・・・お前なら見つけられるってばよ  お前だって・・・そんな軽くねぇだろ?
 あいつを想う気持ちはよ・・・・』







ナルト君はあの時笑ってくれたよね。
大丈夫だって、私を信じてくれたよね。





<<そうだよっ 私の想いはそんな軽いものなんかじゃないはずだ。過去の私に負けないくらい、
  今の私だって、シカマル君を愛してる>>



今度こそ私、逃げない!! この気持ちを正直にぶつけるよっ!!!
だから、きっと私はシカマル君を見つけてみせるっ!!!






これからもずっと、ずっとシカマル君と一緒に歩いて行きたいからっ!!!






ゲンマさんの声を何度も頭の中で反復する。


(もう迷わないっ!!)


そして自分の感を頼りに私はドンドン森の先へと走り続けて行った。







もう一度



----------------あなたに会うためにっ!!!-------------------





























(朝・・・か・・・・・?)







サーサー




雨音・・・・・?




洞穴で意識を失っていた自分の体が急に寒さでふるえ出した。











「痛っ」








肘をついて起き上がろうとすると、体中から痛みがある。









「はぁはぁ・・・・くそっ」





(座るだけで、こんなに苦労するとはよ・・・情けねぇな・・・)





ゆっくりと痛みをこらえながらも、土の壁に背をつけて、座ることが出来た。




「にしても・・・この傷で生きてるたぁ・・悪運だけは強ぇみてぇだな・・・俺」



へへ・・・


思わず苦笑いをした。



洞穴から覗く景色は雨に濡れていた。
相変らず霧は出ていたが、昨日よりは幾分濃度が薄れている。



「ゲンマさん・・・帰れたのか?あいつは無事かよ・・・・・」


脳裏に昨日の出来事が浮かんだ。


正常な体の忍びだったら、昨日の夜からここを出たとして、朝には木の葉に着くはずだ。
しかし、ゲンマさん自身の怪我。そして何より仲間を背中に背負った状態で、あの霧の中を向かったとしたら・・・・


夜につければいい方だろう・・・・
その体力が残ってればの話しだが・・・・


だが、この雨は逆に俺達にとっちゃぁ有利かもしんねぇ。
どこかで休息をとっていくと考えれば、夜露だけではしのげない水分も充分に確保できるからな・・・・
食料が無いぶん、それだけでも生き延び続けられる可能性はある。



「・・・ヘマしねぇで、ちゃんと生きて帰ってくれよ・・・ゲンマさん・・・・・」




じゃなきゃ、ここで半分死にかけてる俺の立場がねぇっつうの。



はぁ・・・


思わずため息が漏れた。
その瞬間、



「痛っ」


腹が痛んだ。
昨日の崖でおった傷口がまた開いたらしい。
出血がまたはじまった。


俺はゆっくりと腰のかばんを手探りであさる。


(なんでもいい。この血だけでも止めておきてぇ。)


俺の指先に何かがあたる。






「・・・まだ神に見捨てられた訳でもねぇみてぇだな・・・・」




まるめられた包帯。
それは、俺の腹を巻くぐらいは残っているようだった。






「はぁはぁ・・・・」




血を出すと、どうも頭がまわらねぇ・・・・
薄れそうになる意識を必死で食い止めながら、俺は上半身を脱いで、腹に包帯をきつく巻きつけて
いく。





「すっげぇ血・・・生きてんのが不思議なくれぇだな」




自分が倒れている土にはべったりと血が付着していた。




「こんなの見たら・・・の奴。どうすっかな・・・・」


くくくと笑いがでる。
こんな状況だってのに、俺の脳裏にはとの過去の出来事が思い出された。
























あの日。
俺達10班は、またくっだらねぇ任務で木の葉の森に入っていた。







『きゃーーーーーっ』





俺達10班から少し離れた場所で、聞きなれた叫び声がした。




『何やってんだ?あいつは・・・・』



俺にはその雄たけびをあげた奴がすぐに分かった。



『行ってみる?』
『行こうよシカマル』



いのにもチョウジにも分かったようだ。




俺達3人は少し足早に声のする方に歩いていく。







生い茂った草を掻き分けたところで、案の定、雄たけびを上げた張本人、を見つけた。
ただその時は・・・・




『どうしたの!!!!!!』


最初に驚いて声をあげたのはいのだ。


大丈夫?』



チョウジも驚いて、俺達3人はの傍に向かった。







は俺達の声にもピクリとも動かない。
まるで死んでいるかのように、地面に倒れこんでいる。


内心、すげぇ動揺した。



・・・お前、まさか!!!)




『目ぇ覚ませっ!! っ しっかりしろっ!』




俺はとっさに、その場に屈んで、の腕をとって脈を確認した。




背中に脂汗が流れ落ちて、心臓が高鳴った。











俺の指先に伝わる規則的な振動音・・・・




ドクドクドク・・・・












(・・・生きてる・・・・脅かすなっての・・・)





思わず、はぁ と深いため息が出た。











『どういう事だよ?これはっ!!』



俺は、倒れたから数メートル離れた位置で、腕を組んだまま立ち尽くしているの班の
担当上忍を睨んだ。




『お前らアスマの班だな?余計な事はするな。お前たちは自分らの任務をきっちりこなして
 くればいいんだっ』


あからさまに上から物を言うような横柄な態度。


(んだぁ? 偉そうにっ!! に何しやがったんだ?こいつっ)


ぶっきらぼうなその言い草に、俺はムッときた。
でも、それはいのも同じだったらしい。




『ちょっと!この子完全に気を失ってるわ!!ほっとけるわけないじゃない!!!
 何したのよ先生!!!』




食ってかかるいのに上忍は冷ややかに言った。




『仲間同士の友情も結構だが・・・これはの為の訓練だ。邪魔するな』


『訓練?』



俺は眉をしかめた。
意識を失わせるほどの訓練てなんだよっ




『はぁ・・・・・』



上忍は俺みてぇに深いため息をつく。


『そうだ。訓練だ。幻術を使った精神訓練てやつだ・・・・』





『精神・・・訓練??』



俺達3人は顔を見合す。








『こいつを血に慣れさせるための訓練だったんだが・・・どうにもこうにも・・・な・・・・』







はぁ・・・・


担当上忍のため息の理由は、その後、の訓練の内容について教えてもらって
ようやく俺達も理解できた。








は極端に血に弱い。
血を見ると、貧血をおこしたり、パニくるらしい。

忍びである以上、実際に戦闘にかりだされたら、血を見ないはずはない。
特に(くのいち)は、男と違い、怪我の状況で正しい応急処置をすみやかに行える
ようにならなけりゃ、忍びとして任務に使えねぇわけだ。






そりゃ、担当上忍も焦るわな・・・・・













俺は結局、家が近いという理由で、気絶したをおぶって帰ることになった。









『はぁ・・・・』


俺は背中に乗せた小さなをあまり揺らさないように俺なりに配慮しながらゆっくりと
家へと向かって歩いていた。



(しかし・・・血が怖いって・・・こいつは忍びとして大丈夫なのかよっ)



か弱そうに見えるほそっこい体や、柔らかく笑ういかにも女って感じのの風貌から、
こいつが忍びだなんて、きっと誰もが疑うところだろうな・・・なんて俺は考えながら歩いていた。



(血を見るのが怖い・・・か・・・・)




誰かの流した血だけじゃねぇ・・・実際に戦に出る任務につけば自分だって怪我をして血を流す事
だってあるだろう・・・
そしたらお前・・・どうすんだよ?
その場に誰もいなけりゃ、自分で自分の怪我の処置をしなきゃならねぇんだぞ?



『はぁ・・・』


それより何より・・・俺はこいつに怪我なんかさせたくなかった。
の真っ白い肌に無数の傷がつくのを想像するだけで、なんか胸のあたりがモヤモヤする。



それは俺の矛盾した考えだってのは分かってる。




怪我なんざ、忍びにはつきものだからな。




けどよ、そのことと、好きな女が傷つくのをほっとけねぇっていう感情は、どうしても
切り離せねぇ。頭では理解してるつもりだが、やっぱどっかで考えちまうんだよっ


情けネェけどよ。
俺はやっぱこいつが好きだから。


めんどくせぇけど・・・男として、守ってやりてぇんだよ。








『けど・・・お互い別の班で任務に出ちまえば、そういう訳にもいかねぇしなぁ・・・』


はぁ・・・



答えの出ないどうしようもねぇ俺の感情。
そっと空をみあげる。



そこにはゆっくりと流れる雲が見えた。





『やっぱ雲はいいよなぁ・・・自由で・・・気楽でよ。』




本当は俺・・・お前に忍びなんてやめさせて、ずっと傍に置いておきてぇんだよ・・・・・

俺が任務から帰ったら、お前がいつもの笑顔で迎えてくれる。

そんな普通の生活をお前と送れたらいい・・・そう思ってるんだよ。





(けど、そんな事言ったら・・・・)





そっと背中で意識のないを振り返る。







(こいつ怒るんだろうな・・・)

(立派な忍びになる事がお前の夢だもんな・・・・)





俺はやっぱ、お前を忍びとしてちゃんと認めてやれる存在であり続けなきゃならねぇんだろ・・・・

















俺はぼんやりとそんな事を考えて歩いていた。




その時、背中にのせたが モゾッ と少し動いた。






『シ、シカマル・・・・・』


『なんだ・・・起きたのか?』



小さくて、消えそうな声はまだ怯えているようだった。
よっぽどさっきの幻術が恐ろしかったんだろ?・・・・・・
俺の背中でまだぼんやりとしている。



『で?どうだった?初めての幻術の修行は・・・・・』


俺は振り向かずにそっと聞いた。
でも、が背中でギュッと体を強張らせたのが分かった。



『こ、怖かった。すごく・・・怖かったの・・・・』






小さく震えているのが背中から伝わって、お前が余計に女に感じて、なんか胸がギュッとする。






『血が・・・怖ぇのか?』


『・・・・・・・・・うん』


いつもより自身を無くした小さな声。
か弱いお前を守ってやりたくなる。
思いっきり抱きしめたくなる。


けど、けどな、
それじゃダメなんだ。
お前は・・・ちゃんと(忍び)になりてぇんだろ?







『お前さ・・・・俺がもし任務で怪我して、血だらけでお前に助けを求めてきたら・・・
 どうする?・・・・・』


少し意地悪してそう聞いた。


『えっ・・・そ、それは・・・・・』


『なーーんも出来ねぇで、俺を見殺しにするか?』


チラリと背中を振り返る。


『そんな訳ないじゃないっ!!』

『んじゃよ・・・ちゃんと俺の血をぬぐって、手当てしてくれんのかよ』





『そ、そんなの・・・あ、当たり前じゃないっ・・・・』





躊躇しながらも、は少し怒ったような真剣な顔でそう言った。




『どうだかな・・・・現にお前こうして気絶しちまってるじゃねぇかよ』

『そ、それは・・・・』









『なぁ・・・。めんどくせぇ・・・お前、忍びやめちまえよっ』








俺は、に強くなって欲しかった。
それぐらいでグラつかれてたら、お前と一緒に任務に出る俺も心配で任務どこじゃなくなるっ
常にお前だけを守ってやれるほど、任務ってそんな簡単なもんじゃねぇよっ







『ひ、ひどいよっ シカマル!』


そう叫ぶなり、は俺の背中からスルリと降りた。


『どうしてそんな事言うのよ!!シカマルのバカ!!』




の得意の平手打ちが俺の目の前にきた。








知ってたか?
俺よ、お前のその手ぐらい簡単に掴めんだぜっ
でも、いつもバッチリ殴られてやってたのは、そうしなきゃお前がおさまらねぇからわざとあたってやってたんだ。

でもよ、もうそんな甘いことしてやんねぇからなっ

お前が忍びとして強くなって欲しいから・・・俺はもうそんなめんどくせぇやり方で
お前を守ってなんてやんねぇからなっ







俺はの平手が俺にあたる前に グッ との腕を掴んだ。




は心底驚いた顔をした。



『あたるわけねぇだろ?お前の動きはいつも遅ぇんだよっ』


『え?だって・・・いつも・・・・』


『本気で俺に当てたきゃ、こんぐらいでこいっつうのっ』




俺は一瞬で、の腕を掴み、塀に ドスン と音がするぐらい乱暴にの体を押し付け、
クナイ構えた。



『シ、シカマルっ やだ・・・やめてっ』



驚いたの目が、俺を凝視している。


そりゃ当然だろ?
めんどくせぇけど、俺は今、本気だぜ?・・・


俺の目の前で、の細い首筋にキラリとクナイが光っている。
俺が一瞬でも力を入れれば、お前の白い首からは血が吹き出るだろう。



『これでお前は一発でアウトだ・・・』


わざと真剣な顔をした。


『シカマル・・・ひ、ひどいよっ』



震えた体、目に溜まった涙。


(バカ!こんぐらいで泣くなってのっ)


めんどくせぇ・・・俺だってな、お前を怖がらせたくなんかねぇんだよっ!!
けどな・・・これは・・・・お前のためだっ




『さぁ・・・どうすんだよ?



冷たい言い方をした。
忍びとして強くなりてぇんだったら抵抗してみろよっ 




『くっ』


は俺の腕を掴んで、顔を歪ませた。



『それがお前の本気なのかよっ そんなんじゃ俺はやれねぇぞ・・・』 


『うっ・・・くっ・・・』


必死で抵抗しようとしているみてぇだが・・・・
情けねぇほどお前って力ねぇんだな・・・・



そんなんじゃ、俺はピクリとも動かせねぇよ。



『シカマル・・・・やめて・・・お願いっ・・・・』


無理だと理解したのか、は泣き出す寸前。


俺はクナイをそっと首筋からはずした。
の細い首から、一滴の汗が流れ落ちた。




『はぁはぁ・・・・』



はそのままズルズルと地面にへたりこんだ。



『どうしたよ?俺に負けて悔しいか?』



は キッ と俺を睨み上げた。



『あたし、いつもボーッとしてて、やる気ゼロのシカマルなんかに負けないからっ!』






(そうだよっ そうやってクッてかかってこいっての。お前はまだ忍びとしての自覚が足りねぇっ)






『だったら強くなってみせろよっ 血ぃぐらいでガタガタ騒ぐなっての。』


『そ、それは・・』


『けっ 俺はもうガキの相手なんて付き合ってらんねぇからよ。』


『シカマル・・・なんでそんな事言うの・・・』



俺の言葉に急に不安そうな顔をする。
大きな瞳には俺の顔がうつり込んでいた。



(仕方ねぇだろ? これはお前の為なんだぜっ)



怯えているの手をとって、ゆっくりと立たせてやる。



・・・・』


『う、うん』
















『強くなれよ。俺が惚れちまうぐれぇによ。』









その瞬間、の顔が カッと赤くなった。










なぁ・・・

俺はお前のこと今でも好きだ。
だけど、今は言わねぇし、認めねぇ。
お前がちゃんと自分の力で強くなれるまで、俺は待つからよっ





















あんとき、もしかしたら俺と別れたあと、は泣いたんじゃねぇかって、内心ヒヤヒヤした。
どうしても、素直にもっとうまくお前を励ましてやることが出来なくて、俺はまたお前を傷つけた
んだと思った。



けど、俺にはそんな言い方しかデキネェし・・・・








でも、は・・・・
















それからしばらくして、俺達10班は木の葉の森で任務についていた。



その時ちょっとしたミスで俺は腕に傷をおった。
出血がひどく少し頭がグラついてたのは確かだ。




アスマとチョウジは火影様に任務報告に、俺の怪我を心配したいのは
医療班を呼んでくるとか行って、走って行っちまった。



(別にそこまでひどい怪我でもねぇのに・・・医療班とは大袈裟な)



そう思ってはいたが、


「来てもらえたら担架とか乗せてもらえて楽かもしんねぇな。病院まで歩くのめんどくせぇし」


ふあぁ・・・・
あくびとかしながら、俺はちょっと余裕で、その場に座りこんで、いのが呼んでくるはずの医療班を待っていた。





『シカマル!!』




だが、その声に俺は唖然とした。




『え?』


俺が振り返ると、
目の前に救急セットをもって、が息をきらして立っていた。



『何?お前。どうしたんだよ?』


これは10班の任務で・・・いのが呼びに行ったのは医療班じゃ??




『いのから聞いたの。シカマルが大怪我したってっ』


は涙をためながら、大慌てで走ってきたのか相変らず苦しそうに呼吸をしながら、
俺の前にしゃがみこむ。


『傷見せて?』


『え?いや・・・これは・・・』




俺の腕はかなり出血してる。
には絶対に無理だと思った。

いののやつ 何考えてんだ!!



でも




『いいから早く!応急処置しとかなきゃ、大変なことになっちゃうかもしれないのよ!!』



は思わず後ろに隠そうとした俺の腕をグイッとひっぱり出した。



『バカっ すげぇ出血してんだぞ?血ぃダメだろう?お前』


『黙って!!』




は俺の傷を見ても、逃げることも、取り乱すこともなく、救急セットから、必要最低限のもの
消毒液やら包帯やらをとりだした。



『腕は心臓より上にあげてて』


『え?』


てきぱきとした応答に、俺の方が呆然としちまって・・・


『もう早くシカマル!!』

『あ、あぁ・・・』




は俺の傷の腕をゴムひもで縛って止血しながら、黙々と手当てをしていった。
俺の腕や体には手から流れた血液が濃い赤になって付着している。

それでも、は手を休めることも躊躇することも無く応急処置を続けた。


(そうか、のやつ。克服したのか?)




『お前・・・血・・・大丈夫になったんだ・・・・な』



そこまで言って、俺は気づいた。

の指先は微かに震えている。
体に力が入って、目に涙が溜まってて・・・・



(違う・・・そうか・・・こいつ・・・必死なんだ)





<<悔しかったら強くなってみせろよっ!!>>





あの時の俺の言葉を間にうけて、必死で訓練にも耐えてきたんだろう・・・・






頑張ったんだな・・・・お前。





俺は目の前のがすげぇ頼もしく見えた。
愛しくも見えた。





(へっ・・・こいつ・・・なかなかやるじゃねぇかっ)





女なんかめんどくせぇと思っていた俺が、こいつにだけは惚れた意味が分かった気がした。










『できたよシカマル』


はまだ緊張した顔で俺を見上げている。
強がってる姿がやっぱかわいいとか思った。



『へぇ・・・なかなかやるなぁお前・・・処置は完璧だぜ』


『ふんだっ もうシカマルにガキなんて言わせないからねぇーーーだっ』


頬を膨らませて、ベーっと舌を出す仕草はいつものだ。
けど、その顔もかわいいとか思ってる俺はやっぱこいつには適わねぇな。



『そうだな・・・もう言わねぇよ』



俺は怪我した手とは反対の腕での頭をくしゃくしゃと撫でた。
はその瞬間に 緊張がとけたように、幸せそうに笑った。




(あぁもうめんどくせぇけど、すげぇかわいいよなこいつ。)



ガラじゃねぇのによぉ。俺の方が照れるっつうのっ



『シカマル。病院まで歩く?』

『あぁ。めんどくせぇから、お前、肩かせよ』

『いいよ』




俺より小さいの肩に掴まるのは、以外と不便だったりする。
けど、抱きしめられないぶん、ちょっと抱くマネ?




しばらく歩いた所で・・・





『ねぇシカマル・・・・』

『あ?』

『私に・・・惚れた?/////////』







『は?』






真っ赤になって俺の腕の下で照れているお前の顔を見たら、あんとき言った言葉が
すげぇ恥ずかしくなってきた。





『ど、どうだかなっ 手裏剣もクナイ投げも上達してくんねぇとなぁ・・・・』


へへん と余裕の顔をしてみた。


『何それ!ずるいよぉっ 血になれたらって言ってたのにぃぃぃ』


『言ってねぇよ。強くなれっつったんだろ?』


『もう!嘘つきぃっ 私、頑張ったのに!!』


『そりゃ残念だったな。』



くくくっ


なんか本気で笑えた。


こいつって本当単純。んでもって純粋。何でお前ってそんな素直に俺を好きだって、
一生懸命なんだよっ


俺にはそれがもどかしくて、すげぇかわいくて、素直になれねぇ自分が歯痒いんだよ。






突然。


『じゃぁ ご褒美ちょうだいっ///////』


がピタリと足をとめて、俺の方に向き直す。


『なんだよ?』


初め意味が分からなくて、少しとまどった。



は目をゆっくりと閉じて、顔を少し上に向ける。



(うわっ/////なんだよっ 褒美ってそういう事かっ!!)



『は? バ、バカ/////何言ってんだっお前。 できっかよっ こんなとこで!!』


それは、いつも、別れ際とかにしてる事で・・・
俺達の間柄じゃあ、今するような事じゃねぇはずだろ?

まったくお前はいつも唐突すぎて、こっちが焦るぜっ



『いないもんっ誰も・・・//////』



あたりは木々で覆われていて、確かに草を揺らす音しかしない。
陽の柔らかい光が目の前を照らしているだけだ。


『だからって・・・ここでかよっ』


俺はすげぇ恥ずかしくて、なかなかデキネェ。


『もう何よ!シカマルの意気地なし!!』


『うるせぇな/////////』


その言い方にはちょっとカチンとした。


『シカマル・・・あたしとシたくないの?・・・キス。』




の上目遣い・・・・それはお前、反則だろう?
それに・・・・そんな事聞くなよっ
分かってんだろ?




『いや・・その・・・・・・・・・・・シ・・・・・・・・シてぇ。』


バカっ 何言ってんだ? 俺。












『シカマル早く早くぅ』


『めんどくせぇ///////』





まったくバカだなって。
それは俺の為の褒美でもあるってのによっ


だけど、そんなお前もまたかわいくて、
俺は片手でお前を抱き寄せて、ゆっくりとキスをした。






お前分かってる?

その柔らかい唇に、今俺がすげぇ興奮しちまってるってこと。

本当は、もう我慢もそろそろ限界で、それ以上にお前の体の全部にキスしたいって思ってるってこと。
分かってる? お前の中に入りたいって思ってるんだぜ俺。


仕方ねぇだろ。お前が俺を夢中にさせてんだよっ


お前以外の女にこんなことぜってぇしねぇって、分かってんのかよ?










それだけ、お前のこと、俺はもう本気で好きだってこと・・・・
いい加減気づいてくれよっ

なぁ・・・




















気づくと陽は傾きかけていた。


それはすげぇ幸せな夢を見た後のようだった。


お前の笑顔を思い出すだけで、俺の心の中はポッと火を灯したようにあたたかくなる。
不思議なほど満たされていく。



・・・」



ぼんやりと名前を呟く。










柔らかい優しい笑顔。
かわいい声。
ふくれて怒った顔。
綺麗な泣き顔。


『シカマルー』


俺を呼ぶ声。



今まで俺が見てきたすべてのの姿がいくつもいくつも浮かんで消える。




・・・俺は・・・」




お前の全てが愛しい。好きだ。愛してる。






会いたくて、でも、命の保障も残っちゃいねぇ今の俺にはもうどうしていいのか分からねぇよ・・・
頭を抱えて、結われた髪をギュッと握った。






でも、その時、聞こえたんだ。











------------------『大好き・・・シカマル君』----------------------








あの時のお前の必死な声が・・・









俺の手は知らぬ間に力が入っていた。







(なぁ・・・もう一度聞かせてくれよっ)



それは俺の勝手な幻聴だったかもしれねぇ。
でも、それでも俺は・・・



グッグッと、もう一度拳に力を入れてみる。



(まだ行けるっ!!)



最後の力を使い切っても俺は・・・・・






「めんどくせぇけど・・・やっぱ行くっきゃねぇな・・・」








<<お前のその答えが知りたい!!>>









雨はまだ降り続いている。
だが、このままいけば直にやむだろう・・・・





腹に力を入れる。



(もうひと踏ん張りだ。)




「くっ」


じんわりとさっき巻いた包帯に血がにじみ出たのが分かった。
だが、痛みはあるが、まだやれるっ!



俺はゆっくりと立ち上がる。




もう一度





----------------お前に会うためにっ!!!-------------------
























引きづるように洞穴を出た。



まずは、水分だ。
昨日から何も入っていない俺の胃はキュッと締め付けられるような痛みがあった。



幸か不幸か、降り続く雨のお陰で、雨水がいたるところに溜まっている。



その透明度を確かめて、俺は手にすくって飲んだ。



干からびかけていた俺の喉から胃まで、水が滑り落ちていくのを感じる。



それはまるで、『俺はまだ生きてる』と烙印を押されたような気分だった。





「はぁはぁ・・・・」









苦しい息をどうにかおさえながら、俺はゆっくりと落ちてきた崖の前に立った。








「めんどくせぇけど・・・本気でいくぜっ ・・・・んっ!!」





印を組んで、俺の体の奥底に残っているわずかなチャクラを呼び覚ます。




「足に集めて一気に行くっきゃねぇっ!!」



グググーーーーっ



腹のあたりから、残されたチャクラが体を巡ってくるのを感じる。



「まだまだだっ!!!もっともっとこいっ!!!」



ググググググッ







『シカマル君!無事に帰ってきて!』

『会いたいよ。』

『シカマル君 シカマル君』


俺の頭の中での声が何度もそう言った。







「あぁっ 俺は帰るぜっ こんなとこでくたばってたまるかよっ!!・・・お前に会うまで
 俺は死なねぇっ!!」






グワンッ





最後のチャクラが俺の足裏に溜まった。
そこから強烈な熱を感じる。




「へへ・・・これで・・・どうだっ!」



ゆっくりと印を解く。








・・・俺はお前にもう一度会いに帰るからよ・・・だから・・・」



なぁ・・・もう一度聞かせてくれよ。
お前のあの言葉をっ!
あの言葉の本当の意味を!








カチャッ



手にクナイを握る。







『大好き・・・・シカマル君』





不思議なぐらい。
その声は、まるで、今、目の前でお前に言われているかのように頭に響いていた。



ゆっくりと崖を見上げる。



降りしきる雨と、薄い霧で頂上まではやはり見えなかった。






・・・俺を導いてくれっ  あの崖の上まで。)











足裏のチャクラがギュルルッと音をたてた。










「行くぜーーーーーーーっ!!」


















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