どれぐらい時間がたったんだろう・・・・


水を替えに来た店のおばちゃんが冷たい目で私を見ていた。
はっと我に返る。



「あ・・・えーと・・・」

「まだ注文あるのかい?」

「いえ・・・もう出ます」



いのちゃんに言われた言葉。
私自身の気持ち・・・


でも・・・・



(答えは・・・本当はもう出てるんだ。)





店を出て、太陽の光に目をつぶる。





(私はシカマル君が好き。・・・だけどそれを伝える勇気が今の私には無いだけ。
 記憶のもどらない私をシカマル君に受け入れてもらえるのか・・・不安なだけ・・・・
 だから私は逃げてるんだ・・・・)




















それから幾日か経った。











シカマル君達の任務については、何も連絡がこない。






「あの、今日は何か連絡ありませんでしたか?」


キッチンでいつものようにテキパキと仕事をしているシカママに私は毎朝
同じ事を聞いていた。



「そうね。まだ何も。でも大丈夫よ 。シカマルは元気にしているわよ」



シカママはいつも通りの笑顔で笑って、私の頭を撫でてくれた。



「はい。」



どうしてそんなに平然としてられるのか不思議だった。
一人息子のシカマル君が急な任務で、しかも大変な任務を任されて里を
離れているのに・・・


シカママは平気なの?




「さ、たまった仕事もあるし、私もそろそろ出かけなきゃ」



シーツをパンと干して、シカママはキラキラと笑った。



私はその光景を眺めたまま立ち尽くしていた。







「あのなぁ。」


「え?」


振り向くと、これから任務があって出かけるというシカパパがすぐ後ろに立っていた。



「信じて待つことだ。それが忍びとして生きる男達を支える女の役目ってやつだ」


「信じて・・・待つ・・・・」


「そう。強くていい女だろ?うちの母ちゃん・・・ちょっと気が強過ぎだけどなっ」


シカパパはニシシと笑った。

心臓がドキドキした。

その笑顔にシカマル君の姿がダブって見える。




「あんた!任務の時間でしょ!!遅れたらどうすんのっ!早く行きなさいっ!!」


「あーぁ見つかっちまったか。へいへい。母ちゃん怒らすとまためんどくせぇからな」


「なんですってぇ!!」


「冗談冗談っ」







ニシシと笑って、両手でシカママの反撃に備えようと構えるシカパパと、いつものように
怒ったふりをしているシカママ。




お互いにお互いを理解しあって、支えあって、信じあっている二人は素敵な夫婦だと思った。





私もシカマル君のお嫁さんになったらあんなふうに・・・・・










思わず想像した。







縁側の外で笑うシカママと、部屋の中からそんなシカママを見ているシカパパの姿が
シカマル君と自分だったらいいのにと心からそう思った。

きっとシカマル君と結婚したら、毎朝こんな光景に出会うんだ。





『あーーぁ。こんないい天気に任務かよっ めんどくせぇ』


シカマル君はきっと縁側の前にたって、お日様をあびながら、眠そうな目でふあぁとあくびをする。



『だめ!早くしないと任務の時間に遅れちゃうよぉぉっ!!』


私はきっとシカマル君の部屋着を後ろからひっぱるんだ。


『あぁ。はいはい・・・・で?今晩の夕飯何?』


シカマル君は横目でチラリと私を見ながら、ノソノソと支度をはじめる。


『もちろん、シカマル君の大好きな鯖煮だよvv』


『へぇ・・・そりゃ、さっさと任務終わらせて帰んなきゃなっ』


中忍ベストに着終えたシカマル君は、ふん と鼻で笑うんだ。
そして・・・


『・・・行ってくる』



最後に伸ばされたしなやかな手はきっと私の髪に触れる。


『いってらっしゃい。ちゃんと元気に帰ってきてね』



シカマル君の目はきっとまっすぐに私を見てる。
他の何もうつらないくらい、まっすぐに私だけを・・・・・


『んじゃな・・・


そう言って、シカマル君が任務に行く背中を私は見送るんだ・・・・










『んじゃな・・・











そのセリフを想像したとき、リアルなシカマル君の声と、任務に行くシカマル君が向けた最後の後ろ姿が
私の目の中に映し出された。



窓枠から下へと軽やかに飛び降りたシカマル君の背中・・・・・




(シカマル君・・・今、あなたはどうしてるの?)



(ねぇ・・・ちゃんと元気にしているの?)






ズキンズキンッ





まただ・・・シカマル君と離れてから、シカマル君を想うたびに、シカマル君につけられた胸元の痣に痛みが走る。
それはまるで、忘れてはいけない出来事だと体が警告しているように・・・・・




でも、その痛みを感じるたびに、私の体は熱くなる。
ドキドキが止まらなくなって、あの時の真剣なシカマル君の顔、強く抱きしめられた体の痛みと一緒に、
深い深い愛情がまだ私に向けられていたことを思い出す。



(大好きって何度も言葉に出したいぐらい・・・私もシカマル君が好きだよ。)



シカマル君がいなくなっちゃったら・・・側にいられなくなっちゃったら・・・
私・・・もうどうしていいのか分からないよっ






シカマル君の姿が見られなくなってから、心に空いた穴が不安と恐怖で少しづつ広がっていく。
良くない結果ばかりを考えてしまうの。



胸元がまたズキズキと痛みだす。



お願い・・・無事に帰ってきて・・・シカマル君。

















ピンポーンッ







その時、インターホンがなる。







。いのちゃんが来たわよ」



玄関先から、シカママの声。



「いっ いのちゃん!!」




私は玄関まで駆け出していた。
シカマル君がいないこの現実から私を救い出してくれるのは、いつもいのちゃんだった。


「いのちゃんっ いらっしゃい」


息を切らした私。


「どうしたの?そんなに慌てて、ったら可笑しい/////」


いのちゃんは あはは と笑って目を細めた。


「なんでもない//////」



あれから、いのちゃんは私の不安を見透かすように、毎日、私に会いに来てくれた。
その間だけが、私の心を楽にしてくれる。
一人でいると、シカマル君のことが心配で、何も手につかなかったから、いのちゃんが来てくれる
ことだけが、私の救いだった。





「いのちゃん。今日はどこに行く?」

「そうねぇ・・・川でも見に行く?」

「うん///////」



たわいもない話し一つだって、いのちゃんが隣にいてくれるだけで、私はホッとした。






あれから、いのちゃんはわざとなのか、シカマル君のことは私に一言も言わなかった。


<<・・・。あとは自身で答えを出して・・・。決めるのは自分だよ。>>


あの時の、いのちゃんの強い言葉。
でも、いのちゃんは本気で私の為に言ってくれた。
だから、その答えを私がちゃんと出せるまで、いのちゃんは待っていてくれるつもり
なんだろう・・・



その優しさが、私の心に痛いほど伝わる。
















外は気持ちが良いほど晴れ渡っていた。
何気ない会話をかわしながら、私といのちゃんは笑いあいながら歩き続けた。







「やっぱりここは気持ちいいわね〜」


「うん」








川べりの草むらに腰をおろして、私達はキラキラと光る川の流れを見つめていた。






ここは・・・そうこの川は、幼い頃、川でおぼれた私を助けてくれたシカマル君との思い出の場所だ。
そして、夜の川でおぼれそうになった私を助けてくれたシカマル君と、別れを決めた場所だ。




ズキリッ




また・・・シカマル君を思い出すたび、胸元の痣が痛みを増す。





私はいのちゃんに気づかれないように、熱を帯びたその痣の上に手を置いた。










「シカマル君・・・元気・・・かな」


思わずポツリと呟いた。


「そうね・・・何の便りも無いってことは元気な証拠じゃない?」


いのちゃんは優しく笑った。
川が反射した太陽の光が、いのちゃんの金髪をキラキラと輝かせた。



「いのちゃん・・・いつ終わるのかな・・・シカマル君の任務」


あまりに綺麗なその髪が私の目の中までキラキラさせて・・・まぶしい・・・



「そうね・・・もうすぐよ。きっと・・・・」


そっと俯くいのちゃんを見る。


「う・・・ん」


そしたら、自分でも無意識に私の頬に涙がポロリと零れ落ちた。


!」

「いのちゃん・・・私・・・・」


まぶしかったから涙が出ただけ・・・

そう言わなきゃ、せっかく毎日私の為にいのちゃんが来てくれてるのに・・・
それで、どれだけ私が救われているか分からないのにっ

だけど、この川を見たら、私は涙がとまらなくなった。






シカマル君の声がいくつもいくつもあの時の言葉になって聞こえるから・・・







『俺が忍びになったのは・・・忍びでい続けてる理由は・・・大事なものを守りたいからだ・・ただそれだけだ。』


(あの時私は、シカマル君にとっての大事なものが私だったって事に気づいてあげられなかった。)


『バカ!そう簡単に死んでたまるかよっ!!お前はこの手を絶対離すなよっ!!』
『大事なもん守るのに、理由なんかいるか?・・・・・』


(サスケ君のもとに行った私をそれでも命掛けで助けてくれたシカマル君を私が責めて、傷つけた)




『俺は本気だった・・・・お前のこと好きだった』
『でも・・・もう終わりだ。  俺達、もとに戻るぞ。 小さかった頃と同じ、ただの仲のいい幼馴染によ・・・・・・・・』



(私は最後までシカマル君の事をちゃんと思い出してあげられなかった。あなたの深い愛情にこたえられなかった)







いくつもいくつも私とシカマル君が過ごしてきた時間の欠片が、頭に映し出された。



『しゃべんなっ!俺の名前なんか呼ぶなよっ』
・・・大っ嫌いだって・・・顔も見たくねぇって・・・・そう言って俺をフってくれ。』




『んじゃな。。』





私が散々傷つけて、別れを決めて・・・・シカマル君を私のせいで、辛い任務に行かせてしまった。




なのに・・・私が言う資格なんて無いって分かってるのにっ


でもっ







まだこんなに胸に残る痣が痛むの。
シカマル君の気持ちが、まだここに残ってる。
そして、その傷が痛むたびに、私は思い知らされるの・・・



好き。
私はシカマル君が大好きだって。










「いのちゃんっ 私、もう一度シカマル君に会いたいっ 会いたいのっ
 シカマル君に会いたいっ!!」


私の声は叫びに近かった。
胸の痣を抱きしめたまま泣き崩れた私を、いのちゃんが座ったままギュッと抱きしめた。



「大丈夫!シカマルはちゃんと帰ってくるから、泣かないでっ!!」

「私のせいだよ。私のせいでシカマル君はこんな大変な任務にっ・・・」


シカマル君の事を考えるだけで、不安で怖かった。
涙が止められなくて、子供のように泣いた。


のせいじゃないよっ そんなの絶対違う。大丈夫だから一緒にシカマルの帰りを待とうっ 」

「でも・・・私怖いの。いのちゃんっ。シカマル君が死んじゃったら・・・私・・・」

「大丈夫!大丈夫よっ っ」






本当は毎日不安でしょうがなかった。
いのちゃんに会っていても、シカマル君のママやパパと一緒にいても、どこにいても、
私はずっとシカマル君のことを忘れたことなんて無かった。




シカマル君に会いたくて、元気な姿を見たくて、声が聞きたくて
毎日私は震えていたの。



(会いたいっ 生きていてっ 絶対かえってきて・・・シカマル君っ!!!)





















その時、私達の後ろから声がした。




「いの!!! !!!」




聞き覚えのある声。



「キバ!あんたどうしたの?」


いのちゃんがとっさに振り返る。



ザザッという砂利を蹴る音がして、砂埃の向こうにキバ君の姿が見えた。


私達の後ろまで駆け寄ってきたキバ君ははぁはぁと息を荒げ、一緒に着いてきた
赤丸君までも、苦しそうに舌を出して、はぁはぁと息をしていた。



「シカマル達の隊が帰ってきたらしいっ けどよ、怪我人が多数でてるって話しだっ」



心臓がドキドキする。



「怪我人?・・・とりあえず全員生きてるのね?」


いのちゃんは隣で眉をしかめた。

 
「まだ分かんねぇ。今、隊員達がぞくぞくと帰ってきてっから、とにかく俺らも木の葉の門
 に急ごうぜっ!!」


キャンキャンッ



キバ君がどれだけ必死に走ってきたのか分かる。
息を荒げて、額に汗をたくさん流して、そして、顔色はキバ君には似使わないほど悪く見えた。




「分かったわ。!行こう!!」



とっさに立ち上がったいのちゃんに振り向かれた。
でも、私はキバ君の言葉に体が震えて・・・・

立ち上がれなかった。
だって・・・シカマル君が・・・シカマル君は・・・?



ズキンズキン



胸の痣がまるで心臓の音のように不安げに痛みだす。



「わ、私・・・・」


動揺した私の涙がツーッと頬を垂れた。


「ばかやろう!何泣いてんだよっ!!大丈夫だって!おら!シカマルに会いに行くぞっ!!」


キバ君にグイッと腕をつかまれる。
私はとっさにその手を振り払った。


「やだっ!怖い・・・怖いよ・・・どうして?シカマル君は本当に大丈夫なの?」


頭が混乱して・・・もし、シカマル君が大怪我して・・・もし死んでしまっていたらどうしよう・・・・
胸の傷がズキンズキンと痛いっ。


でも・・・・







!!!」



いのちゃんが私の肩を掴んだ。



「シカマルは死なないよっ!!しっかり前を向きなさいっ!!シカマルを迎えに行くのよっ!!」










青い瞳は綺麗だった。
真っ赤に紅潮した頬に、きりっとした眉。

いのちゃんは強い。

その凛々しい姿に思い知らされた。
私はなんて弱いんだろうっ ダメだよ こんなんじゃっ!!
私もしっかりしなきゃっ!!




痣の痛みもいつの間にか消えていた。




「うんっ 行く。私もシカマル君を迎えにいく。」


私は立ち上がった。


「よっしゃ。とにかく急ぐぜっ!!」

キャンキャンッ













キバ君を先頭にいのちゃんと私とで、とにかく走った。



忍びだった頃の自分は思い出せないけど、何故か不思議とその頃の自分を体は覚えているようだった。


だって、キバ君やいのちゃんのような強い忍びの仲間と一緒に、私は遅れる事なく付いていけたんだよ。


息はあがって苦しかったけど、だからって絶対に止まろうなんて想わなかった。
シカマル君に会うまでは・・・その元気な姿を見るまでは・・・絶対っ!!!


痣のあるあたりに手をあてる。
体の奥にこもった熱を感じる。


あなたは絶対に生きてるっ!!!























「おいっ あそこだっ! 見えるか?」



先頭のキバ君が私といのちゃんを走りながら振り返る。





見えるっ!!






木の葉の大きな門が開かれて、そこに続々と忍びのみんなが群がっていた。












心臓がドキドキする。










近づいて行けば行くほど、今回の任務の過酷さが手にとるように分かった。








木の葉の門から帰ってきた隊員のほとんどは、腕や足にぐるぐるに包帯を巻き、その場で出来るだけの
応急処置をされて、出迎えた医療班と思われる白衣の人達に抱きかかえられるようにして歩いている。


怪我のひどい隊員は、担架に乗せられていった。








たくさんの忍び達が仲間と再会する為に集まっているが、無事とはいえ、みんな一様な怪我をしている
ようだった。






「ひっでぇな・・・」



門の近くまできて、キバ君はそっとつぶやいた。



「どうして・・・こんなことに・・・・・」


いのちゃんも言葉を失っているようだった。





私は必死で辺りを見回した。






(シカマル君は?シカマル君はどこなの?)





その時、大勢の出迎える忍びの仲間達に紛れて、私は見覚えのある人を発見した。





「チョウジ君!!」



とっさに叫ぶ。
人ごみに紛れながらも、チョウジ君もまたシカマル君を探していたのだろう。

でも、私の声に気が付いて、こちらに来てくれた。



っ・・・いの・・・キバ・・・・・・・・」



チョウジ君も必死でシカマル君を探していたんだ。
額からいくつも汗の粒が吹き出ていた。
いつもののんびりとした穏やかな雰囲気は微塵もなく、チョウジ君も真剣な顔をしていた。





「おいっ!チョウジ!・・で?シカマルは?シカマルはどうした?」


キバ君がチョウジ君に駆け寄る。



「探したよ。でも・・・見つからない。さっき怪我人リストも見せてもらって、木の葉病院に搬送された
 人を確認したんだけど・・・いないんだ・・・シカマルの名前は無かった。」







(何?・・・それってどういう意味?)






「チョウジ・・・今回の任務に・・・その・・・死者は・・・・出たの?」




いのちゃんが言葉を詰まらせる。




「・・・・・・うん。」



チョウジ君は目をそらさずにそっとつぶやいた。



「まさかっ!! んな訳ねぇよ・・・シカマルがっ」



キバ君がギュッとチョウジ君の肩をつかんだ。



「おいチョウジ!!お前ちゃんと探したのかよっ!!シカマルなんてどうせ、シラッとその辺の木陰かなんかで
 休んでるに決まってんぜっ!!」


「でも・・・いないんだ。なんど探しても・・・シカマルがいない。」










「や、やだ・・・シカマル君は・・・・シカマル君は生きてるよね?ねぇチョウジ君!!」






足がガクガク震える。
喉がカラカラになって、飲み干す唾もなかった。





目の前に突きつけられた『死』という暗い影。






「心配すんなってっ!!俺と赤丸の鼻でシカマルをすぐに見つけてやっから!!」




それでも、キバ君が私の頭を撫でる手は冷たい汗でびっしょりと濡れていた。


「キバ君・・・」





「行くぞっ 赤丸!!」

キャンキャンッ!!
キバ君は赤丸君を連れて、走っていった。
 





残されたチョウジ君といのちゃんと私。





どうしていいのか分からなくて、私はただただ震えている。




「チョウジ・・・確認した?・・・死者のリスト・・・それから・・・遺体・・・・」

「まだ・・・」


いのちゃんの言葉に目の前が真っ暗になる。
血の気が頭からサーッと引いて、倒れそうになった。



(シカマル君が・・・シカマル君がまさか死・・・・・・・・)





「僕が・・・行く。遺体を確認するのは・・・二人には無理だと思うから・・・・」



チョウジ君はそっと私達に背を向けた。



「私は・・・もう一度リストを確認しに行くわ・・・・・」


「いのちゃん!私・・・私・・・行かないっ 見たくないっ 何も知りたくないっ」


とっさに目をギュッと閉じた。
心臓がバクバク言ってる。






もう誰の何の言葉も聞きたくないよっ




シカマル君は死ぬはずないよっ




私を置いて・・・ねぇそうでしょ?シカマル君は絶対に私を置いて死んだりしないよね?






・・・まだ何も確定してる答えなんて出てないわっ・・・あなたはここでシカマルを待ってて?
 大丈夫。心配しないで。シカマルを信じて待ってて?」




いのちゃんの笑顔は寂しそうだった。悲しそうだった。



確定していない答えが現実に確定してしまったらどうしようという不安を隠して、いのちゃんは私の為に必死に
無理をして、私に笑いかけた。




でも、その辛さが、不安が分かってしまったから、私の体は震え続けた。



走っていくいのちゃんの背中をみつめた。



私は必死で門から帰ってくる人々の中からシカマルを見つけ出そうとしていた。



















 
 





待つ間の時間はどれぐらいだったんだろう・・・・・




門から帰ってくる人影は無くなり、大きな門は閉じられた。



門の前の広場にはまだ怪我をした人達や出迎えの人でごったがえしている。
私が見落としたって場合もあるはずっ
この人達の中にシカマル君の姿を絶対に見つけたいっ!!

私は門前の広場の中を歩きまわった。



でも・・・なんで?



なんでこんな大事な時にシカマル君の姿を見つけられないの?




行き交う人の姿をどんなに追っても・・・どんなに目をこらしても・・・その場にシカマル君の
姿を見つけることが出来なかった。




手の先まで震えて・・・



私は最悪のことばかり考えていた。






(私のせいだ・・・・私がシカマル君を苦しめて・・・・
 だからシカマル君は無理をして、こんな過酷な任務にでて・・・それで・・・それで・・・・・)
 












その時、







っ!・・・」




私を呼ぶ苦しそうな声。




「え?」





人ごみの間に倒れている男の子。
倒れこんだその人は医療班の人に肩を抱かれていた。


傷ついたその声は










「ナルト君!!!」



私は思わず駆け寄った。
ナルト君もこの任務に参加していたんだっ!!!



っ 聞いてくれっ」



ナルト君は苦しそうに私を見上げている。



「ナルト!しゃべるなっ 傷口が開く!!」


医療班の人がナルト君を抱きかかえながらそう言った。



「うるせぇ・・・俺はに伝えなきゃなんねぇことがあるんだってばよっ」


はぁはぁと肩で息をした、立ち上がる気力すら無くしているような状態で
ナルト君は傷をおったお腹を押さえながら私を見上げた。


服の上にもうっすらと血がにじんで見える。



「ナルト君っ 無理しないでっ!!しゃべっちゃダメだよ!!」


目の前で傷ついたナルト君を見たら、涙がこぼれた。
死なないでっナルト君

誰も死んでほしくないっ





でも






っ!聞けっ・・・・」




さの先は聞きたくないっ


ねぇ言わないでっ


シカマル君が死ぬなんて・・・私信じないっ








「泣くな、・・・シカマルは・・・・シカマルは・・・・生きてる・・・」



(!!)



シカマル君は・・・生きてる・・・・














私は震えた体のまま、倒れたナルト君の前で呆然と立ち尽くした。








「生きてるんだってばよっ シカマルは大丈夫だ。だから・・・泣くな」



ナルト君は私を見上げて  へっ と笑った。



「ほ、本当?ナルト君・・・本当?」



泣くなって言われたのに、私はその場で わーーっ と泣いた。







『バーカ。何泣いてんだよ。めんどくせぇ。そう簡単に死んでたまるかっつうの。』

目を細めて、ふんっと鼻を鳴らすシカマル君の姿が見えた気がした。







心にかかった闇がやっととけて、青い空から覗くあたたかい太陽の光を全身に感じた。







のアホ。シカマルが死ぬわけねぇだろ?・・・けど・・・うっ」



「ナルト君!!」



苦しそうに顔をゆがめてうづくまったナルト君の前に私はとっさにしゃがんだ。



「ナルト!もうダメだっ 早く木の葉病院へ!!」


医療班の人がナルト君を抱きおこす。




はぁはぁ。
自力で立てないナルト君は痛みで歪んだ顔で、それでも必死で笑ってくれた。



「木の葉に戻ってくんのは明日だ・・・だから・・・お前のその涙は、明日シカマルが
 帰ってくるまでとっとけってばよっ・・・」



ナルト君がのばした手はシカマル君より少し小さくて、それでも力強い血管が浮き出ていて、
男の人の手だった。



その手は私の頬に流れる涙にそっと触れる。







(あったかい・・・まるでシカマル君みたいに・・・・・・・・・)






その瞬間、ナルト君の手はダラリと下に落ちた。




「ナルト君!!」



「大丈夫。死にはしないよ。ただ、ナルトは無理しすぎなんだ・・・・」



医療班の人がそっと続けた。



「怪我をして仲間におぶさられて帰ってくる時もずっと、言い続けていたそうだ・・・・」 



「え?」












『俺を病院に連れてく前にどうしても会わなきゃならねぇ奴がいる。そいつに会うまではぜってぇ
 病院には行かねぇかんな!! 会って真実を伝えてやるまで・・・じゃなきゃ、大事な友達を
 泣かせることになっちまうんだよっ』










「ナルト君・・・・」



涙がこぼれた。



「大事な友達。・・・それは、あんただったんだな。シカマルの無事をどうしてもあんたに
 伝えたかったんだろ?ナルトは」



背中で意識をなくしたままのナルト君を、医療班の人が優しく振り返る。



「ナルト君・・・ナルト君・・・ありがとう。」



私は、気を失っているナルト君の耳元にそっとつぶやいた。




私は・・・いつも誰かに助けてもらってる。



いのちゃん・キバ君・チョウジ君・・・・ナルト君・・・・そしてシカマル君。



・・・記憶のない私のことを、みんなを忘れてしまったこんな私のことを・・・
それでも、みんなが私を支えてくれる。





胸が苦しかった。

私は何から逃げていたんだろう・・・・
私が失ったのは記憶だけじゃないっ
仲間を信じる心。






私は記憶をなくしてから、そんな自分を受け入れてもらえないんじゃないかって、心のどこかでみんなを
信じきれずにいたのかもしれない・・・


















病院に搬送される者、家路へと帰るもの、仲間や家族に迎えられ、
一人、一人と木の葉の門の前から人が減っていった。






シカマル君の無事は、後から戻ってきたいのちゃんやチョウジ君やキバ君に伝えた。





みんながシカマル君の無事を知り、ホッとため息をついたのが分かった。


「ったくっ おどかしやがって・・・まぁ、あいつがそう簡単に死ぬわきゃねぇよなっ」
きゃんきゃんっ


「だね。シカマルのことだから、急いで帰るのもめんどくさいって、どこかで休みながら
 帰ってくるんじゃないの?」


「そうねぇ。天然の温泉でも見つけて、ゆっくりつかってたりして?猿と一緒にさっ」


「違いねぇな」


あははは。


キバ君もチョウジ君もいのちゃんも笑いあっていた。
その姿を見て、私もホッとした。


「よく頑張って耐えて待ったな。


キバ君は最後に笑ってくれた。


「黙って待つことがどれだけ辛いか・・・僕達にも分かるからね」

「そうね。・・・偉かったね」




「みんな・・・」



胸が痛くて、嬉しくて、安心して、私はまた泣いてしまった。



3人に


「まーーた泣いたっ 泣き虫〜」


頭をぐしゃぐしゃされて、3人とも、ナルト君がいる病院や、それぞれの家に帰って行った。






私もまたシカマル君の家へと帰る。





帰り道はすでに陽も沈み、夜の闇に近づくほどになっていた。
なんて長い一日。
そして、シカマル君が生きていると分かった。
なんてすばらしい日。



私は、明日が待ち遠しく、小走りで家へと急いだ。




シカマル君の情報はいつの間にかシカマル君の家にも届いていたらしく、
出迎えてくれたシカパパとシカママと抱き合って喜んだ。




「明日、シカマル君を迎えに行ってきます!!」

「えぇそうして?」

シカママは笑ってくれた。

が待っててくれたら、あいつも喜ぶだろうなぁ・・・な?母ちゃん」


二人はふふふと笑った。

ドキドキする心臓・・・







(明日会えるっ シカマル君に会えるっ!!)






















この時はまだ信じてた。





シカマル君に明日必ず会えるってっ
シカマル君は生きてるんだってっ





明日が来るのが待ち遠しい夜だった--------------------------------------------












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