シカマル君が出て行った玄関。


床に倒れたまま、私はぼんやりと閉じられたままの扉を見ていた。



私の脳裏には、私から逃げるように出て行ったシカマル君の背中が、
まるで今でもそこに残像が残っているかのように、目の中に焼きついていた。







シカマル君の背中・・・・泣いてるみたいだった・・・・






私は何もしてあげられなかった・・・・
結局、私はシカマル君を傷つけただけだ・・・・






床の冷たさで体がひえきって、指先までジンとしている。


(いつまでもこうしている訳にはいかない・・・・)


ゆっくりと体を起こして、冷え切った自分の体を両手で抱えながら2階に
あがる。


トントンと私の足音だけが虚しく響いた。


扉は開けて、一人きりの部屋に入る。
ふと違和感を感じて、顔をむけると、部屋の片隅にたてかけてある鏡に自分の姿が
うつっていた。


体中の力が抜けた。



引き裂かれた衣服。
乱れた髪。
涙のあと。


今さっきシカマル君にされた事が現実だったんだと改めて気づかされた。





体がガタガタと震える。




あの時、私はシカマル君が本当に怖かった。
シカマル君に本気を出されたら、絶対にかなわないと思い知らされた。
シカマル君はやっぱり男なんだ・・・・



鏡に指先で触れる。



情けないほどメチャクチャになった自分の姿。


頭、顔、首・・・ツーーーと線を引くように鏡に跡をつけた。


でも、胸元で指が止まる。



私の胸のふくらみの上に赤くなって残る痣。



シカマル君の熱い唇の感触と、ギュッと吸われた時の痛み。
さっきの光景が頭をよぎった。



実際の痣にそっと指先が触れる。



まだヒリヒリと痛みと熱さが伝わってくるようだった・・・・




「痛いよ・・・シカマル君」




鏡の中の私も同じようにそう言った。


名前を言葉に出しただけで、胸がギュッと痛い。


痣の痛みは、私を想うシカマル君の想いの強さ。愛情の深さ。
この痛みはシカマル君の痛みなんだ・・・・



「ごめんね・・・」




鏡の前に膝をついて、私は溢れる涙をとめられなかった。
























あの時、は俺に何も言わなかった。


俺に乱暴に床に倒されたまま、押さえつけられたまま・・・
涙をいっぱいに溜めて、悲しい顔をしたまま俺を見つめていた。




「・・・言えよっ なぁ・・・言ってくれ・・・・」



俺を壊してくれ・・・・







それでもはただ体を震わせて、泣き崩れただけだった。





なんでお前は何も言ってくれねぇんだっ
こんなに最低なことをした俺を、どうして許そうとすんだよっ





俺を壊して、傷つけて、突き放してくれたら、どれだけ楽だっただろう・・・・





俺の中のお前を想う気持ちの全てが粉々に砕けてくれたら・・・どれだけ救われただろう・・・・





なのになんで? お前は俺を受け入れようとすんの?














頭が混乱して、どうしていいか分からなくて、俺はお前から逃げた。













俺が傷つけて、ボロボロにしたお前を置いて、俺は逃げたんだ。











ごめんな・・・
俺は最低だ。





















気づいたら、俺は里の繁華街に来ていた。
風の音。人の笑い声。


われに帰ると、何事も無かったかのように、平然と人ごみに紛れて歩いている自分。


そんな自分がすげぇ嫌だった。
消し去りたいほど醜かった。


「・・・何でこうなっちまうんだよっ」


の傷ついた姿が脳裏に焼きついて離れない。
自分がしてしまったことの重みが俺の胸を締め付ける。
拳を握り締めて、俺はそのまま行く宛もなく歩き続けた。














「シカマル!見つけたぞっ」












ふいに肩をグッとつかまれた。


(え?)


振り返った俺の目には・・・・・











「ゲンマさん・・・・・」




























取り残された部屋の鏡の前で、私はいまだ床にしゃがみこんだままだった。

何も手につかない。
立ち上がる力もない。
これからどうしていいのかも分からない。


それに・・・
シカマル君はどこに行っちゃたんだろう・・・・


もしかして、このまま会えなくなっちゃったら私・・・・・っ





どうしようもない悲しみと不安とで、私は絶望していた。




この先、私とシカマル君がもう一度向かいあって、笑い合っている姿は想像できなかった。





「シカマル君・・・やだよ。離れて行かないで・・・帰ってきて・・・・」




涙ばっかり流れてきた。
泣いてばかりの弱虫な私。
これが本来の私の姿なんだろうか・・・
私はこんなにも弱く、脆い女の子だったんだろうか・・・・


記憶のもどらない私には、それさえも分からない・・・・・


でも、こんな自分が嫌だった。
もっと強い私だったら、シカマル君を傷つけずにすんだのにっ・・・・






その時、1階からバタンと扉が開く音がした。




誰かが部屋の階段を上がってくる。




私は破かれた衣服を隠すように、ギュッと自分の体を抱きしめて、この部屋の扉が開く瞬間をまった。








バタン





目の前の扉に立っていたのは・・・・




「シカマル君・・・・・」


・・・・」






しゃがみこんだまま、私はシカマル君を見上げていた。



「さっきは・・・悪かった・・・ごめん・・・」


シカマル君は無造作にかかっていた上着をそっと私にかけてくれた。
体がポッと温かくなる。



「シカマル君・・・あの・・・」



言葉の続きが見つからなくて、そのまま黙ってしまった私。
でも、シカマル君は何も言わないまま、大きな袋を取り出して、衣服や忍具を詰めだした。




「シカマル君っ・・・まさか・・・出ていくの?」



それは私が一番恐れていた答えだった。
私を傷つけたことで、自分を許せなくなったシカマル君が、だれかのところへ行っちゃうつもり
なんじゃないかと思った。


でも、そんなの絶対に嫌っ!!





「やだよっ 行かないでっ!!」




とっさに叫んだ私に・・・・





「バカ違う。任務だ。火影様に呼ばれたんだよ・・・・急な任務で俺にも内容はまだよく分からねぇが、
 俺に受けて欲しいらしい・・・・」


急な任務・・・
その言葉だけで、すごく不安になる。


「大丈夫なのその任務? 怪我とかしない? ねぇ・・・危なくない?」



思わずシカマル君の腕を掴んだ。
記憶を無くしてから、初めてのシカマル君の『忍び』としての任務。
私には、内容も何も分からないから、余計に不安だった。


「行って欲しくないっ ねぇ・・・行かないでっ
 シカマル君に何かあったら・・私・・・・」


不安で怖いよっ
シカマル君死んじゃったらどうしよう・・・・



シカマル君は驚いたって顔をした。



「お前って本当・・・お人よしだな・・・」


優しく笑う顔。



「俺にこんなことされてまで・・・俺を心配すんのかよ?」


かけられた上着の前をギュッと閉められる。



「俺なんかもうほっとけって・・・」


「シカマル君っ」


また胸がギュッと痛む。




・・・怪我とか任務に出りゃ当たり前の話しだ。それに今回は・・・・
  ちょっと長引きそうな任務らしい」



長引く・・・・?



「しばらくの間、俺は里を離れなきゃならねぇ。その間、お前はこの家の人間として、自由に
 俺の部屋でもどこでも使ってろ・・・」



何それ?それってどういう意味?



「シカマル君・・・ちゃんと元気に帰ってくるよね? 大丈夫なんだよね?」



私の心臓はドキドキしていた。




「・・・まだよく分かんねぇよ・・・・」


「やだよっ!そんな危ない任務!!断って!!急にそんなの・・・どうしてシカマル君なの?」



なんだか嫌な予感がするの。
シカマル君に行って欲しくないっ

取り乱す私をシカマル君はなだめるような優しい声で言った。



「落ち着けよ、。・・・お前は強いぜ。俺の知ってるお前は、そんなことでビクビクするような弱い女なんかじゃねぇ。」


弱い女・・・・
そう、今の私はただの弱くてうざい女。


 
「たとえ俺がこの任務でどうなろうと・・・お前はずっとここにいていい。分かるか?」




シカマル君?



・・・俺が今日お前にしたことは最低な事だ。お前が許してくれても・・・俺は自分を許せねぇんだよ。
 だから、俺達少し離れた方がいいんだ。」



どうしてそんな事言うの?




「めんどくせぇけど、俺はこの任務、どんな内容だろうと、引き受けるつもりだ。だけどな、それはお前のせいじゃねぇ。
 俺自身の問題だ。だから・・・だからよ・・・・・・・」






心臓がドキドキうるさいの。
もうその先は聞きたくないっ




「お前は幸せになれよ。まっすぐ信じた道を行け。俺に遠慮なんかもうすんなって前にも言ったろ?
 そんなのは・・・お前らしくねぇんだよ」




目の前でシカマル君は優しく笑ったけど--------------------
私は笑えないよっ


なんでそんな事言うの?
私が・・・本当にサスケ君を好きだと思ってるから?
それとも、もう本当に私がサスケ君のものになればいいって思ってるの?













「シカマル!!準備できたか?」





家の下で声がかかる。







「はいはい。今出ますよっ!!」





シカマル君はめんどくさそうな声で窓に向かってそう叫んだ。




「めんどくせぇ・・・・」



シカマル君は荷物を肩にかけて、そのまま窓枠にヒョイと飛び乗った。



「んじゃな。。」



「え・・・あっ」




行ってらっしゃいも言えないまま・・・
シカマル君はそのままふわりと下へと飛び降りた。




「待って!お願いシカマル君!!」




このまま別れたら、永遠にシカマル君に会えない気がして・・・・



とっさに窓から身を乗り出して、叫ぶと、シカマル君とシカマル君を呼びにきた先輩らしき忍びの男の人が
上の私を振り替えった。




「ちゃんと元気に帰ってきて!!じゃなきゃっ私・・・シカマル君を許さないからっ!!」



だって私、必死だったんだよっ
シカマル君と離れたくないっ
このまま、シカマル君が死んじゃうなんて、絶対に嫌だからね!!!


























にあんな事をしちまってから、俺は目的もなく歩き続けて、里の繁華街まで来ていた。
突然、肩を掴まれたと思ったら、そこにはゲンマさんがいて・・・・



「シカマル。至急、長期任務の備えを持って、火影様のところに行ってくれっ 急ぎの任務だ」


ゲンマさんの額には汗が流れていた。
それだけ急を要する任務だってことだろう・・・・?
で・・・なんで俺なんだ?


「今から・・・っすか?」


突然、今日からの任務を言い渡されるなんて、ただ事じゃないとすぐに分かった。


「あぁ・・・何やら他里で不穏な動きがあるらしい。相手にも頭のきれる策士がいるらしくてな。
 今まで気づかずに見過ごしてしまったミスが響いてるらしい。
 で・・・お前の頭脳がかわれたって訳だ。」


「俺の・・・頭脳?」


「まぁ・・・話しだけでも聞いてみろ。そこで引き受けるか否かはお前自身で決めるこった。
 今回は命に保障もねぇような任務になるだろうからな。ランクは・・・Sだ。」




断る理由なんて俺にはねぇ・・・。


今はと距離をおきたかった。
俺にはもうどうしていいのか分からなかったから・・・
このまま消えちまいたいほど自分が嫌だったから・・・




「分かりました。10分で支度しますんで。」



そのまま街中の人と逆走するように、おしのけるように急いで家まで走り続けた。


坂をあがって、自分の家が見えた時、とっさに足が止まった。


もし、このまま玄関の扉を開けた先でお前がまだその場で泣いていたらどうしようと
考えていた。



でも、今はそれでも帰るしかない。


玄関ノブを勢いよくまわして、扉をあけた。


そこにいたはずのお前の姿がないことに俺は内心ホッとしたんだ。



でも、2階の扉を開けた時、
俺の部屋で座り込んだままのを見て、俺がどれだけお前を傷つけてしまったのか
分かった。


俺を見上げたは、まだ震えているように見えた。
だけど、お前は俺を責めることもしない。


だからこれで良かったのかもしれない。



お前と別れて、ここで任務を選ぶ方がマシだ。






そうすれば、お前は俺のいない間、俺に気を使うことなく過ごせるだろ?
サスケにだって自由に会えるんだぜ?
家の中で俺に怯えなくてすむだろう?
俺と顔を合わせるたびに、嘘の笑顔でいられるのも、俺には辛い。
それに、俺だって、もうどうやってお前と接していいのか分からない。





だから





俺はこの任務。
それがたとえ過酷なものであったとしても絶対に受けるつもりでいた。







何かを言いたくて、でも言えないでいるお前。




でも、今は俺にかける言葉は何も欲しくなかった。



俺を切り捨てるその言葉以外・・・優しさも同情も何も欲しくなかったから・・・・





『んじゃな。




このままお前の前から消えたかった。















なのに・・・・











『ちゃんと元気に帰ってきて!!じゃなきゃっ私・・・シカマル君を許さないからっ!!』









窓枠から落ちるんじゃないかって思うくらい身を乗り出して、泣きながら必死で叫んだ
姿に、驚いた。




(お前は・・・やっぱカワラネェな・・・・・)





記憶のあった頃のお前もそうだったよ。
任務に行く前、絶対に俺に『行くな』とか『心配だ』って言葉は口にしなかった。

でも、

最後は必ず必死に言うんだ。


『ちゃんと元気に帰ってこなかったら、私許さないからっ!!』










「バカだな・・本当お前って・・・・」







行くなって言われたら、心配だって言葉にされたら、きっと俺はそんなお前を残して任務に
行くことが辛くなる。
だから、はいつだってその言葉をグッとこらえていたんだろう・・・


だけどな・・・・


『ちゃんと元気に帰ってこなかったら、私許さないからっ!!』


涙をこらえて、懸命に強がって、そんなことを言うお前を見たら、余計に俺はお前と
離れたくなんかなくなるっつうの。
かわいくて、抱きしめたくなるんだってんだよっ



本当、男心を分かってねぇなぁ・・・お前って・・・












「かわいいねぇ・・・お前の女」


ゲンマさんに腕をこづかれて、我に返った。


「違うっすよ。あいつは・・・もう俺の女じゃない」


自分の言葉がグッと胸に突き刺さる。


「そうなの?・・・まぁ・・・いい。 んじゃシカマル行くぞ」

「はい」


ゲンマさんは目の前で印を結ぶ。
このまま火影様の屋敷まで直行だ・・・・・・・


(んじゃな。・・・)



俺は心の中でさよならを言った。
俺が里に帰ってくる時には、お前は完全にサスケのものなんだ・・・・・
でも・・・それでいい




(お前が幸せなら、俺はそれでいいんだからよ)




でも・・・姿を消す前に俺の耳にかすかにの声がしたっ

















「無事に帰ってきて・・・・大好き・・・・シカマル君」



















『大好き』





















なんで?













幻聴なのか?



















消えそうなほど小さなの声がいつまでも耳に残って、俺の体は・・震えた。














嘘だ。絶対。












それはきっと、俺が望んで願って、自分に聞かせた幻聴だ。














だってよっ が俺を好きだなんて・・・・ありえねぇ・・・・・
















「どうした?シカマル」






火影様の部屋の前に着いて、ゲンマさんに振り向かれる。





「いや・・・なんでもないっすよ」




なんなんだよっ くそっ 動揺すんなって俺。
あんなの・・・あんな言葉一つで・・・こんなに震えてる自分が情けねぇ



あれは俺が自分に都合のいいように聞かせた幻聴だって・・・



さっきからずっと自分に言い聞かせているってぇのによ。
なのに、俺の耳にはやけにリアルにの声が残っていた。

<<大好き・・・シカマル君>>




お前なんで・・・・なんでだよっ 















「シカマル」


ゲンマさんの声に我にかえる。


「は、はい」


「シカマル。もう一度言っとくぞ・・・お前がこの任務内容を聞いて、無理だと思うなら、
 今ちゃんと火影様の前で断れっ・・・迷うならやめておけ・・・・」



ゲンマさんに心を見透かされているのが、すげぇ嫌だった。
まるで子供じゃねぇか。

俺はこれでも中忍だ。

こんな感情一つで、任務を放棄できっかよっ




「いや受けますよ俺。めんどくせぇのは苦手だけど、今回はやるつもりです」


「そうか・・・・なら、覚悟決めろ」


「はい」






火影室の重い扉が開く。




「遅かったなっ シカマル。大事な任務だ。話しだけでも聞いてくれるか?」






逆光の向こうで、いつものように顎に手を置いた火影様の声がキンと響く。







迷ってる暇なんかねぇ。
命がけの任務が待ってんだっ


俺はみんなの命を預かるんだっ




だから、のことは忘れろっ!!!











「めんどくせぇけど、話しを聞いたら出発しますよっ ゲンマさんをよこしてまで俺を呼ぶってことは、
 俺を必要とする任務なんすよね?」




「相変らず生意気だなっ けど・・・その通り、今回はお前の頭脳が必要だっ やってくれるか?」



「はい。・・・でも一つだけお願いがあるんすけど・・・」



「お願い?なんだ・・・言ってみろ」




























シカマル君は行ってしまった。
何も言わずに、何も答えずに・・・・・



思わず言ってしまった『好き』って言葉。



だけど・・・今更もう遅いのかもしれない・・・それとも・・・シカマル君には
届かなかったかな・・・でも・・・その方がいいのかもしれない・・・

だって、伝えたところで、私には何も出来ないもの・・・

記憶がもどる訳じゃないもの・・・








シーンとした家の中。







シカママやシカパパがいないこの家に、一人きりでいるのがすごく不安だった。






シカマル君がいない部屋。
シカマル君がいない木の葉の里。



それだけで、私には何の意味もない気がする。



無事で帰って来るって信じてる。
信じてるからね・・・シカマル君。




そう願いながらも、不安で体が震えていた。



誰かに側にいてほしい・・・・・・
一人は嫌だよっ・・・・
















ピンポーン














インターホンが静かになる。










「は、はい・・・」







誰だろう・・・・
私は急いで衣服を着替えて、そっと玄関へと降りる。










ガチャリッと静かに扉を開けた。







「はーーい!!!」




そこには、いのちゃんが立っていた。



「いのちゃん?」


「さっ 出かけよっ ね? !!」


























太陽の下で私の手を引くいのちゃんの綺麗な金髪が揺れていた。


「ねぇ・・あの・・いのちゃん?どこに行くの?今日はどうしたの?」


私は訳も分からずいのちゃんに手を引かれて歩いている。




「ふふん。どーせ、はシカマルが任務に出ちゃって暇でしょ?だから誘いに来たのよっ」

「いのちゃん・・シカマル君が任務だって知ってるの?」

「え?・・・あぁ・・・まぁね〜。」



今回の任務はシカマル君自身もまだ内容もちゃんと知らないような急な任務だったはずなのに、
いのちゃんがそれを知っていて、しかも私のところにいち早く来てくれた事に驚いていた。




「とにかく、ウジウジしててもしょうがないじゃない?おいしい物でも食べて元気出そうよ!ね?!」




いのちゃんが笑うと、まるで太陽みたいだって思った。
キラキラと輝いて、私のモヤモヤした気持ちまで晴れ渡るような不思議なパワーを感じる。
私はきっと記憶があった頃からいのちゃんが好きだったに違いない。
この人といると幸せな気持ちになっていたに違いない。



連れてこられたのは、以前チョウジ君やみんなで来た甘栗甘だった。




「ねぇ・・いつもの席。覚えてる?」


いのちゃんは くす っと笑う。


「あ・・・うん//////」







そう・・・覚えてる。
その席だけは、記憶が無い私の脳裏に無意識に焼きついていた。
ここは、シカマル君と今の私をつなげてくれる唯一の場所なんだ。





ゆっくりと二人で向かい合っていつもの席に座った。



「おばちゃん!あんみつ二つね〜」



弾かれた音符のように軽やかないのちゃんの声が店内に響いた。





目の前に置かれたあんみつ。


「いっけないっ ついいつもの癖で勝手に頼んじゃった!!、これで良かった?」


「え?あ。うん・・・私も食べたいと思ってたよ」


そう。不思議だけど、この席にいのちゃんと二人で座った瞬間から、私はあんみつが食べたいと
思っていた。


「そう。やっぱりねぇ〜♪」



いのちゃんの笑顔。



と私はいっつもこの店では あんみつ 食べてたのよ。やっぱり記憶なんて
  無くたって、あんたはよ!!」



<<記憶が無くたって私は・・・・・・・>>



その言葉に思わず顔がこわばってしまった。



だって・・・違う。
私は前の私と同じじゃない。
今の私は、やっぱり記憶のない半分かけてしまった<私>でしかない・・・・




目の前でいのちゃんが顎に両手を置いて、私を見つめている。




「ねぇ。何悩んでるの?」

「え?」

「嘘ついても無駄だかんね!!私達親友じゃない!!」

「いの・・ちゃん」



胸がズキンと痛かった。
親友・・・・
その言葉が突き刺さった。


だって、私はいのちゃんのこと忘れて・・・何もかも忘れて・・・




「ねぇいのちゃん。今でもそう思ってくれる?私のこと親友だって・・・」



体が震えた。
だって、こんな私でいいの?



「そんなの当たり前じゃない!!・・・・どうしたの?


いのちゃんは優しく笑った。


「いのちゃん・・・私・・・私ね・・・・・・」



私は記憶をなくしてから、今までのことをとめどなく話した。


初めて思い出した記憶の中の男の子をサスケ君と間違えたこと。
そして私はサスケ君に恋をしたと勘違いしたこと。
いのちゃんの知らないところでサスケ君に会ってしまったこと。
でも、それは友情だって分かって・・・私はシカマル君のことを本気で好きなんだって
気づいてしまったこと・・・
でも、私はシカマル君を傷つけて・・・過去のじぶんに勝てないとあきらめようとしたこと・・
それでもまだシカマル君をあきらめ切れないでいる私・・・


どうしてこんなに素直に今までのことを言えたのか分からない。
シカマル君にはいつだってうまく言えないのに・・・
いのちゃんの前では、心で思うより先に言葉になって、どんどん気持ちが転げて
溢れていった。




「でもね、ダメなの。過去の私に今の私が勝てる訳ないもん・・・」




話しながら泣いている自分が情けなかった。
いのちゃんはずっと黙って、私の話しを聞いてくれていた。
でも、はじめていのちゃんは口を開いた。





・・・あんた本当にそう思ってる?」

「え?」

「過去の自分に勝てないって・・・そう思うの?勝てないからシカマルをあきらめるって・・・」




いのちゃんは静かにそう言った。




「だって私は・・私はシカマル君のこと、全部忘れてしまって・・傷つけて・・・それで・・・」


「答えになってないよ。過去の自分には勝てないって本気でそう思ってるのかって聞いてるの」


「いのちゃん・・・」


いのちゃんが怒っているように見えた。
過去の自分に勝てないって思ってる・・・?
そう・・・思ってるよ。
だって、本当にそうだもの・・・・・・


だけどどうしても言葉に出来なかった。
私は俯いたまま自分の手をギュッと握った。



「お茶・・・もらってくる」



いのちゃんが席を立った。
その瞬間、ガタンと椅子が動く音がして・・・・


目の前がグラリと揺れた。




















『やったね!ちょうどこの席空いてるぅ』

いのちゃんの背中。






<<これは・・・また過去の記憶の断片??>>






『おいっ あんまはしゃぐなよ!いの。 店のおばちゃん睨んでっぞ』


『お団子食べてないのに、追い出されるの僕嫌だからね!』


くすくす


いつもの10班のやり取りに私は笑っていた。



『だってぇ。やっぱこの席はいいわよねぇ〜里の真ん中がよく見えるしぃ。サスケ君が通るのも
 見えるも〜ん。はいはいチョウジ!早く入って!』

チョウジ君はノソノソと窓際に座る。
いのちゃんはきゃっきゃと笑って、その隣のいつもの席につく。

『めんどくせぇけど、俺らも座るぞ 

『うん。何食べようかな・・・』

シカマル君はよっこらしょって、チョウジ君の前の窓際に座った。

『お前、ダイエットやめたの?』

シカマル君は意地悪な顔で私を見る、

『や、やめてないけど・・今日はちょっと休憩なの!!』

『ダイエットなんて意味ねぇな。お前、絶対食わねぇ間の時間より食ってる時間の方が長げぇもんな』

シカマル君はくくくと笑ってる。

『そ、そんなこと無いもんっ!!ちゃんと痩せてるよ!ね!いの!』

『そうよぉ!も痩せた痩せた!』

いのちゃんは私に グー と親指を立てた。


『そうか?どこらへんがだよ?』

シカマル君にほっぺたを ムギュッとつままれた。


『痛ーい。シカマルのバカーーーッ』

私はそんなシカマル君を涙目で睨んでいた。


『なんかよっ 妙に弾力あるぜ?お前のほっぺた』

『うーーん。確かにのほっぺたなんかおいしそうだよ』

『確かにね』

チョウジ君といのちゃんまで笑ってる。




『もうっ!!』




あははっはは


それで4人で笑った。











《記憶のあった頃の私・・・すごく楽しそう・・・》









『サスケ君の為にもがんばって痩せなきゃー』

『サスケって痩せてる子が好きなの?』

『ばっかねーチョウジったら!男はみんなそうでしょ?』

いのちゃんは 当たり前でしょ? って顔をした。


『そうとも限らねぇぜっ 男はどっちかってぇとぽっちゃり系が好きってのが多いしな・・・』

『え?そうなの?』

シカマル君の発言に敏感に反応している自分がちょっと恥ずかしかった。




『知らねぇけど・・・まぁそう・・・なんじゃねぇか?』

シカマル君はめんどくさそうにコップの氷をコロンと鳴らす。


『ねぇ、シカマルも? シカマルもそうなの?』


私ったら真剣に聞いてる・・・・・


『あ?///////』


驚いたシカマル君も聞いた私も赤くなっている。



『それはないよ。・・大丈夫大丈夫』

チョウジ君はにししと笑う。

『そうそう!シカマルの好みは、そのものだもんねぇ!!』

いのちゃんはからかうように笑った。



『え?//////』


すごく嬉しくて、でも恥ずかしくて、ドキドキした。



『バカ言ってんなっ お前ら死ねっ!!』


『やーだっ シカマルってば、なに今更真っ赤になってんのーーっ』


『みんな知ってるよねぇ』


いのちゃんとチョウジ君にからかわれて、シカマル君は額に怒りマークを
つけて黙ってしまった。



あははっは



目の前で二人に大笑いされて、私もシカマル君もさっき以上に真っ赤になってる。













<<なんだろう・・・この気持ち。胸がジーンとした。
  この店で、いのちゃんとチョウジ君と・・・そしてシカマル君といつも一緒にいた。
  私、すっごく幸せだった・・・>>










それから、過去の記憶の中のいのちゃんはとめどなく話しをはじめた。







あぁ・・・この記憶は・・・以前、ナルト君が現れる前に思い出しそうになった記憶の断片の
続きだ・・・・



















『それでね、サクラったらいっつもサスケ君とイチャイチャして!!もうっ悔しいったらないわー』

スプーンを揺らして怒ってるいのちゃん。

『落ち着いてよ いの。あんみつこぼれてるよっ』

隣でなだめてるチョウジ君。


『でもさ、サクラはサスケ君と一緒のチームだし、仕方ないよぉ・・・いの』


私は目の前でプリプリ怒るいのちゃんをなだめている。


『あのねー!!そうやって他人事決めてるけど、シカマルだって中忍になって、うちらと別任務
 増えてきたしさぁ・・・一緒のチームにかわいい女の子がいたらどうすんのよぉ!!』


いのちゃんの怒りの矛先が自分に向けられて、動揺している私。
でも、その意見は一理あるなぁとか真剣に考えこんでしまった。


『そっか。いくらシカマルでも、かわいい女の子と一緒のチームになったら、ちょっと嫌かも・・・』


モゴモゴと言葉にならない不安を呟いてる私。


『そうそう!!いくらシカマルでも、万が一、そんなシカマルがいいって女の子がいるかもしれ
 ないじゃない!!そしたら、・・・どうすんの〜♪』




からかってるいのちゃんの言葉・・・分かってるけど、内心ドキドキしている私。



『どぉでもいいけどよ、さっきっから、いくらシカマルでも とか 万が一 とか、俺だけ随分な
 扱いだな。いのっ』


『きゃはは。シカマルが怒ったぁ〜』

いのちゃんはシカマル君をからかうように笑う。


『うるせぇっ』


『大丈夫だよシカマル。万が一にもそんな事ないから!これからはポッチャリ系の時代でしょっ!』

『言ってくれんなっチョウジ!けどな全然フォローになってねぇっつうの!!』




あははは



笑ってる3人に紛れて自分も笑ってたんだけど、心のどこかで、でももしかして誰か他の子に
シカマルを取られちゃったら・・・とか心配している私。





-----------------------------------でも----------------------------------------




『ところでさぁ!!今回の任務でさぁ・・・』


いのちゃんが別の話題をしはじめたとき・・・・
机の下で私の左手にそっとシカマル君の右手がぶつかって・・・


『あ・・・・』


私は思わず声を出してしまって・・・・


『なんだよ』


シカマル君はなんでもないようにチラリと私を見る。


『あーーもう何二人でイチャついてんのよぉ!!』


いのちゃんがとっさに私達の異変に気づいてつっこまれた。



『なんもしてねぇよ。ったく、めんどくせぇな』



そしらぬ顔でシカマル君がそう言うから・・・



だから初めは、シカマル君の手が私に触れたのは偶然なんだって思ってた。




だけどその手は、誰にも分からないように机の下で、私の手を上からギュッと握った。




(え?/////////)




もしかしたら、目の前の二人に気づかれちゃうんじゃないかって、内心ドキドキしてた。
でも、それでも、私もそっとシカマル君の重ねられた手を握り返した。



照れ屋で、無愛想なシカマル君が、どれほどの想いでそうしてくれてるんだろうと
思ったら、その手を絶対に離したくなかったんだよ私。


それは、シカマル君が私の不安を見抜いて、私を安心させる為にしてくれたんだって分かったから。
だからそれだけで嬉しくて、幸せで・・・・。



私の左手はグングンと熱をもって、その熱で私の体はカーッと熱くなって心臓がドキドキした。




いのちゃんの話しに相槌を打ちながらも、気持ちが追いつけなくて、隣のシカマル君はどうなんだろうって、
そっと横顔を見てみたら、シカマル君はシラっと外を見ている。




目の前の二人もまさか机の下で私達が手を握りあってるなんて、絶対に気づくわけない。




それでもシカマル君みたいに平然と出来ない不器用な私は、その時間の間中、ずっとドキドキが収まらなくて、
私、ちゃんといのちゃんやチョウジ君の話しにいつもの笑顔で笑えてるかって心配になるぐらい///////
























そう・・・私、すごく好きだった。
シカマル君が好きだった。
幸せで、大好きで、もうそれだけで私の中身なんて、いっぱいになっちゃうぐらい。
大好きだったよ。







ねぇ・・・こんな想い。



どうして、今更思い出すの?



だって、私。思い出すたびに、もっともっとシカマル君を好きになっちゃうよ。






たまらないぐらい好き。泣けちゃうほど好き。







<<私はシカマル君が好き>>




























・・・・・」



「いの・・・ちゃん・・・・・」



目の前に置かれたお茶のやわらかい湯気が私の過去の残像を消し去った。





。あんたはね、まっすぐ自分の信じたことに迷うことなく突っ走っていく子よ。
 もう見てる私のほうがヤキモキしちゃうぐらいにね。それからね・・・・・」



いのちゃんはマジメな顔で私をじっと見た。



「あんたは言葉になんかしなくたってシカマルが大好きだって、全身でそう言ってたような子だった。」



(全身で・・・シカマル君を・・・・・・・・)



「もし、今のが過去の自分に勝てないって想ってるなら・・・だからシカマルをあきらめるなんて
 本気で想ってるんだとしたら・・・だとしたら、今のは本当に過去の自分には勝てないと思うわ。」


「いのちゃん・・・・」




(それは決定的な言葉だった。このままでは、本当に私は過去の私に勝てない・・・・)




「負けちゃっていいの?。このまま、過去の自分にシカマルの心を取られたままでいいわけ?
 シカマルをあきらめちゃうの?」




胸が痛いっ 本当は私・・・私は・・・・



(私はシカマル君が好きっ 過去の自分にも、誰にも、渡したくないよっ)



「わ、私は・・・・・・・・・」


言葉が詰まった。

(シカマル君を誰にも渡したくないっ) 

その一言を言葉にしようとすると、さっきの出来事がまるでその言葉にストップをかけるみたいに思い出されるの。



<<玄関を出て行ったシカマル君の後ろ姿。私はどれだけシカマル君を傷つけて、苦しめたの?>>




だから私はいのちゃんに何も言えなかった。
はぁはぁと息だけが上がる。
言葉に・・・出来ないの。どうしたらいいの?いのちゃん・・・・・
私・・・どうしたら・・・・・




・・・。あとは自身で答えを出して・・・。決めるのは自分だよ。」




その言葉に ハッ と我にかえる。



そう・・・全ては今の私自身が決めること。
いのちゃんに答えを求めてはいけないんだ。




「でもね・・・私は今のあんたを信じてる」




そっと席を立ったいのちゃんの優しい静かな笑顔だけが、その場に残された私の心に焼きついた。




(私は・・・・シカマル君を・・・・・・・)




頭に巡る様々な想いを、心の中で消化しきれないまま、私は何時間も一人その席に座りこんでいた。




(私は・・・・シカマル君を・・・・)



その答えを自分が出さなきゃっ
出さなきゃだめなんだっ






















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