暗闇の道。
星空と月明かりだけが道を照らしている。


この世に俺達たった二人だけになっちまったようだ・・・


いっそこのまま、お前と二人だけになりてぇ。


そしたら、・・・お前をサスケに渡さなくてすむんだろ?
ただの幼馴染だなんて・・・妹だなんて嘘を言わなくてすむんだろ?









繋いだの小さな手。
隣でずっと泣きつづけるお前に俺は気づかないフリをした。

苦しくて、苦しくて・・・俺は逃げてんだ。


『どうした?』


そんな優しい言葉をかけてやれるほど心に余裕なんてねぇ・・・・
お前の涙の理由を知る勇気すら今の俺には残っちゃねぇんだ。



<<同情なんて欲しくないっ>>



俺はお前の・・・お前のたった一言



『シカマル・・・好き』



あの時のその言葉だけが・・・欲しかった。






俺はもう何度も言ったよ。
心の中でずっと言い続けたよ。

お前が欲しくて、欲しくて、何度も言ったんだぜ。


でも、お前には届かなかった。


お前の心はもう・・・サスケのものだ。






だから・・・泣くなよ。
これ以上、俺を苦しめないでくれ・・・・



お前を泣き止ませてやれるのは・・・俺じゃなくて・・・・サスケなんだからよ・・・・
















繋いだ手のぬくもり





もう二度と伝えちゃいけない想いだって分かってる。
全てを忘れてしまった今の私には、シカマル君の深い愛情に
答えてあげる事・・・出来ない・・・




だけど、それでも私はシカマル君が好き。誰よりも好き。




あなたが私をずっと守って想ってくれてきたように、私は失った記憶を埋められない分、
あなたを想う気持ちだけは絶対に裏切ったりしないっ



たとえ報われることのない想いでも、それでもきっと私はずっとシカマル君を想い続けるよ・・・



記憶のない私が、それでも本気であなたに恋をした。
もう絶対、口に出して言ったりしないから、あなたを傷つけたりしないから、



だから・・・・せめて・・・・



心にしまったこの恋だけは、ずっとずっと想い続けていい?




仲のいい幼馴染でもいいから・・・妹でもいいから・・・・
一緒にいたい。
これからもずっとシカマル君の一番側にいていい?・・・




ずっとあなたの隣にいていい?



















「ただいま」





気づいたら、二人、手を繋いだまま玄関に立っていた。



「お帰り・・・あら・・・どうしたの?手なんか繋いじゃって?」



玄関先でシカママは フッと笑った。




「別に・・・寒かったから・・・そんだけだ・・・・」



「あらそう?・・・」



シカママは少しだけ不思議そうな顔をしたけど、そのままリビングに戻って行った。





シカマル君の手がそっと離れる。




失われた体温。



あぁ・・・これで全部おわり。
私の想いは心の中に封印しなきゃ。
だって、私はシカマル君の妹になるんだもん・・・・・・



空っぽになった自分の手をギュッと握って、俯くしかなかった。











部屋にあがる途中。
靴を脱ごうとしたシカマル君はゆっくりと私を振り返る。



「お前、風呂入ってこいよ。まだ髪先まで濡れてんだろ?」



心臓がドキドキする。


まだ私の手に残る温かくて大きいシカマル君のしなやかな手が
私の目の前に伸びてきた。



(どうして今更、こんなにもこの手が愛しいの?)



私の髪先に伸ばされる指先が、頬に近づくだけで、その温かいぬくもりが伝わってくるようで、
思わずギュッと目を閉じた。




「・・・悪ぃ・・・・」




私が緊張したのが分かったから?
シカマル君の手は私の髪に触れる前に、下におろされた。

シカマル君は眉間にシワを寄せた。
それは困惑している顔に見えた。


(違うの。嫌だったからじゃない。
 私はシカマル君がこんなにも好きだから・・・だからどうしていいか分からなかっただけ・・・・)



でも、その想いもきっと伝わらないっ

もうどうしたらいいのか分かんないよっ




「私の髪・・・濡れてる?・・・触ってみて?」


「え?」


驚いたシカマル君の顔。


「お願い・・・確かめてよ・・・シカマル君」



バカなこと言ってるって分かってる。
涙が出るよ。
だって・・・妹だったら・・・幼馴染だったら・・・もう触ってもいけないの?
こんなに近くにいるのに・・・どうしてこんなに私達離れてるの?



「・・・濡れてるよ。触んねぇでも分かる。雫が垂れてんぜ・・・」



薄く笑う顔。
シカマル君が私に触れることは無かった。




「とにかく・・・風邪ひくから・・・早く風呂入ってこい・・・」




シカマル君はそのまま私に背を向けて、リビングの方へと歩いて行ってしまった。







もう・・・私に触れてはくれないの?





記憶をなくしてからの私に、何度も何度も触れてくれたシカマル君の優しい手。
でも・・・もう・・・あの暖かい大きな手は私に触れる事は・・・・ない。






洗面所の扉を閉じて、情けなく弱弱しい自分の顔を鏡で見たら、どうしようもなく泣けてきた。



(どうして私は記憶をなくしてしまったの?)
(どうして私はシカマル君を忘れてしまったの?)
(どうして私は・・・こんなにもシカマル君を好きだって気持ちにもっと早く気づけなかったの?)
(どうしてこんなに好きなのに、私達、結ばれないの?)


後悔と、寂しさと、不安と、色々な感情がとめどなく涙となって溢れた。



「うっ・・・うぅ・・・・」



絶対に声を出さないように我慢して我慢して、それでも涙が溢れ出す。




ダメだよっ 笑ってなきゃ。
ちゃんとシカママやシカパパやシカマル君にいつもみたいに笑顔を見せて。



じゃなきゃ、私はこの家にも居られなくなっちゃうかもしれない。



だから泣いちゃダメだ。



<<もうこれ以上シカマル君と離れるのは嫌だよっ>>









部屋にもどる階段を上がる時、ソファーに腰をおろしているシカマル君が見えた。


ふざけてる時と全然違って、真剣な顔をしたシカマル君はいつもよりずっと大人に見えてドキドキする。
どうして私は今更こんなにもシカマル君を好きだって意識してしまうんだろう・・・
この胸の鼓動をどうやって抑えたらいいの?


シカマル君は?
シカマル君は今どんな気持ちでいるんだろう・・・










「シ、シカマル君・・・あの・・・」

そっと側に行った。


「なんだよ」


そっけない返事。
それだけでも胸がギュッとする。
私のこと・・・もうめんどくさい?


「あのね・・・シカマル君が2階の部屋で寝て?今日から私がソファーで・・・」


いつも通りにこれからもシカマル君の部屋を使うのは悪い気がして・・・
だって私はもうシカマル君の彼女でもなんでもないんだもん・・・


でも・・・・



「あそこはお前の記憶が戻るまでお前の部屋だっつったろ」



シカマル君はソファーに座ったまま、立ち尽くす私を見上げた。



「で、でも・・・・」


「いいから。俺に気ぃ使うなよ。そういうのめんどくせぇんだよ。」


シカマル君はソファーにボスッと寝転んで、床に落ちた毛布をそっと拾い上げた。



「ふあぁ・・・お前ももう寝ろ。疲れたろ?」

あくびをして、目をこすっている。



「え?・・・で、でも・・・」


どうしてそんなに普通なの・・・さっき玄関で私に触れずに困惑していたシカマル君とは
別人みたいだった。
今のシカマル君はいつもと全然変わらない。
今度は私が困惑しちゃうよ。


「なんだよ。まだなんか俺に言いたい事でもあんのか?」

「・・・えっと・・・・」



言葉に詰まる。
私はただ、このままどうしていいのか分からなくて・・・・



「なんだよ・・・サスケとのノロケ話なら聞く気ねぇぞ・・・そういうのは、いのとしてくれっ」



心臓がドキリとした。


サスケ君と私は・・・そんな関係じゃないのにっ
私、ちゃんとシカマル君が好きだって、サスケ君に伝えてきたのにっ




「ち、違うよ・・・そんなんじゃないよっ」




声が震えた。
誤解しないで・・・シカマル君。
私はサスケ君のこと・・・好きなんかじゃないよっ



どう答えていいのか分からなくて、私はその場に立ち尽くした。



「んじゃなんだよ?・・・まさかお前、一人で寝れねぇとか言わねぇよなぁ?」



なんでそんなに私のことからかうの?
こんな時、妹だったら、ただの幼馴染だったら、どういう冗談で答えるの?
私はまだオドオドする。



「めんどくせぇな。んじゃ、ここで一緒に寝るか?」



シカマル君は意地悪な顔で片手で毛布をあげて見せた。
ソファーには私とシカマル君2人が寝るほどのスペースはもちろんない。



「そ、そんなの無理だよ//////私落っこちちゃうっ//////」



私は あはは と笑った。
普通にしなきゃ。ちゃんと笑ってみせなきゃ。






「抱いて寝てやろうか?お前一人ぐらい抱えて寝る力ぐらいあっからよっ」
 




どうしてそんなこと言うの?
ただのいつもの意地悪なのにっ 分かってるのにドキドキする自分にとまどう。







「///////」







何も言えなくて、私はきっと真っ赤な顔をした。






「バーカ。冗談に決まってんだろ。いくらお前が妹でも、そりゃねぇわな」





シカマル君は ははは と笑った。








「そ、そうだよ・・・ね・・・」


まるで、友達みたいな会話。
これが、ただの幼馴染になるって事なんだよね・・・・


妹って言われるのにも・・・慣れなきゃ・・・・

でも、





<<こんなに胸が痛い。>>






シカマル君が冗談みたいに笑う姿に傷ついている自分にどうしていいのか分からなくなった。



「私・・・もう寝るね。・・・おやすみシカマル君」



逃げるように、2階にあがる階段を駆け上がった。




だって、私まだちゃんと笑えないのっ
こんなに好きだって気持ちが消えてくれなくて、私はますますシカマル君のことが好きになって
いってしまいそうで・・・
だから、まだ普通に笑ってるシカマル君をちゃんと見れない。








扉を閉めたら、シーンと静まりかえった部屋。
体中の力が抜けて、ベットに倒れ込んだ。






私・・・明日から気持ちをきりかえて、シカマル君みたいに、今までとおり、普通の会話
したり笑ったりできるの?

こんなに好きだって気持ち。
おさえたまま、私、普通にしてられる?




枕にギュッと顔を埋める。




その時、また心臓がドキドキした。



それはシカマル君のにおいだから・・・・・・・



どうしてこんなに好きになっちゃうの?
遅いよ。もう遅いのにっ!!


シカマル君のこんなに深い愛情に気づかなければ良かった。
知らずにいたら、今頃私はシカマル君に『好きです』って言えてたかもしれない・・・・


でも・・・・


それでも私はいずれきっと気づかされるんだ。



過去の自分と今の自分の決定的な違いに。








シカマル君はきっといつだって記憶のあった頃の私の側にずっといてくれてたんだ。
私はいつもここでシカマル君と一緒にいたんだ。




私がこの部屋で、布団の中で安心した気持ちになったのは、それがすべてシカマル君の匂いだから。




布団の中で体をまるめる。




記憶のあった頃の私はシカマル君にずっと守ってもらってたんだね。




悔しかった。
過去の自分に嫉妬する愚かな自分。



でも、やっぱり私には過去の自分には勝てないんだっ
そう想うだけで、情けないけど、また涙がでてくる。



シカマル君と一緒に過ごしてきた時間の中で、過去の私はきっと100%、あなたに向かい合っていた。
好きで好きで、きっとその想いをあなたにぶつけていたに違いない。



だけど今の私には何もない。



私だってこんなにシカマル君を好きなのに。



なのに・・・記憶のない私の好きだって気持ちが宙ぶらりんに浮いてみえる。





<<私は過去の私に勝てないっ!!>>





情けなくて悲しくて涙が止まらない。




だけどダメだよ。
明日からもうオドオドしたりしちゃダメだ。
普通にしてなきゃっ


シカマル君の側にいられなくなるっ
そんなの嫌。
側にいたいの!!



私は一人、布団の中でうずくまった。




















の手を離すことが怖かった。


だって、離したら終わっちまう。
俺が好きだった、俺の愛したじゃなくなる。
お前を妹だって言い続けなきゃならねぇんだろ?


けど・・・仕方ねぇんだ・・・もうそう決めたんだから・・・・


手を離すとき、指先がそっと触れた。
ズキッとする痛みが体中に流れる。


<<好きだ。。お前だけだよ・・・・・・>>


出せない言葉が体をグルグル巡る。


玄関先で、お前の髪に触れようとした。
それは無意識で。


でも、目の前で、はギュッと目を閉じた。





そうか・・・そうだよな。




好きでもねぇ男に気軽に触られて平気なほど、お前は遊び慣れた女なんかじゃねぇから・・・
いつだって、本気で恋してまっすぐな想いをぶつけてくる奴だから・・・



だから、俺なんかがもう触っちゃいけねぇんだ・・・・



お前が本気で触れて欲しいのは サスケ だけ・・・・








すげぇ悔しい。マジで。
ほんの数日前まで、お前に触れられる男は俺だけだったはずだ。
なのに・・・
今、俺はお前の髪にさえ、触れちゃいけねぇなんて・・・・・・









リビングに戻る途中。
俺は気持ちを断ち切ろうと決めた。




忘れなきゃダメだ。
こんな気持ち抱えたまま、と一つ屋根の下で暮らすなんてできねぇ。

妹だと思えるように・・・・

お前を忘れなきゃならねぇんだっ












風呂あがりのが俺のいるソファーに歩いてくる。

その距離が近づくたびに、ほのかに石鹸のにおいがした。
濡れたままの髪や体から、まだやわらかい湯気があがっているようで、それがあまりに綺麗でまともに見れねぇ。




そっけない返事を返して、平然を装った。





お前は、俺に気を使って、困った顔ばかりしてやがる。





そんなが遠すぎて、俺はまた傷ついていく・・・・・





(お前は俺に何を望んでんの?)




目の前でオドオドと立ち尽くすお前が、一言でもサスケの名前を出したら、
俺はきっともう普通でいられなくなるっ




冗談にして、わらって・・・そしてそのまま部屋に帰って欲しかった。
これ以上側にいられたら、俺はまた余計な気持ちが溢れそうだったから・・・・




だってそうだろ?

お前は俺なんか男としてみてもいねぇんだろ?

俺はこんなにもお前が女に見える。
好きで、好きで、その腕を掴んで、今すぐにでも抱きしめたいって想ってる。


俺はもう壊れそうだっ










ちょっとからかってやるつもりだった。


『んじゃ、ここで一緒に寝るか?』


お前の心の中にいるのがサスケなんだったら、俺に何言われたって、もうどうでもいいんだろ?


でももし・・・・お前が笑って、『うん。一緒に寝る!』って言ったらどうする?
ただの仲良しの男友達だから全然平気だなんてお前が思ってるんだったら俺は・・・






そしたら俺は・・・本気で何すっか分かんねぇよ?





<<そうだ。いっそ壊しちまえよっ >>
腹の奥底にいるもう一人の最悪な俺がそう言ってる。




















でも・・・









目の前でお前は真っ赤になった。





冗談だって分かってんだろ?





なのに、いつもの子供のようなの顔が急に女の顔に見えて、俺はすげぇ動揺する。







やめてくれっ
そういう顔すんなよっ





ありえねぇのに、お前はサスケを選んだくせにっ



さっきだって、散々思い知って傷ついて・・・なのに俺はまたお前のその態度に
好きだって気持ちが溢れそうになる。



ダメだ。もうっこれ以上っ




『バーカ。冗談に決まってんだろ。いくらお前が妹でも、そりゃねぇわな』




また心にも無い言葉を言った。
妹だって言い切って・・・・・・
それしかもう無理なんだ。
嘘言うしか、この気持ちを断ち切れねぇんだよっ






はそのまま俺から逃げるように部屋に上がっていった。






まだ俺の心臓はドキドキしたままだ。






お前のサスケを想う気持ちを知るたびに傷つくくせに、お前を妹だと言葉にするたびに俺はまた傷つく。




俺は・・・・どうすりゃいいんだ?







無理にかぶった毛布の中で、俺は体をまるめたまま目をギュッと閉じた。



























チュンチュン




鳥のさえずり。
朝がきたんだ。


昨日は一睡も出来なかった。





私はゆっくりと服を着替えて、階段を降りる。






床に落ちた毛布。
ソファーにはすでにシカマル君の姿はなかった。






シーンと静まり返る部屋。
きっと、シカパパもシカママもいないんだ。




かすかに聞こえる水音。
そっと歩いて、洗面所に近づく。
扉が開けっぱなしになっていて、いつものシカマル君の結った髪先が見えた。


「シカマル君・・・」


普通に『おはよう』って声をかけよう。
昨日みたいにとまどってる姿を見せたら、シカマル君を困らせちゃう。



シカマル君の顔を洗っている少しまるまった背中。



こんなにじっくりとシカマル君の後ろ姿を見たことがなくて・・・
その頼もしい広い背中を見たら、私の胸はまたキュンと痛んだ。


私はこの人にいつも抱きしめられてたんだ・・・・


急にそんな事を考えてしまって、心臓がドキドキした。


私に気づかずに、顔を洗ってりるシカマル君の腰あたりにたるんでいた
部屋着のトレーナーをギュッとひっぱる。



「うわっ な、なんだよ。お前起きたのかよ? おどかすなっつうの。めんどくせぇ」



水でずぶ濡れたままの顔でシカマル君はあわてて私を振り返る。


「あはは。シカマル君てばおかしいぃ。忍びでも驚くことってあるの?」


シカマル君は今までとおりの態度だった。
私がサスケ君を想っていようと、シカマル君は決して態度を変えたりしない。
シカマル君はきっと私を妹として、割り切ったんだ・・・・・

だから私も今からちゃんと妹にならなきゃいけないんだっ




「あははは」



私はいつまでも笑った。
だって、そうでもなきゃ泣きそうだったんだよっ



「あ?笑うなっつうの!」


「だって、シカマル君たらビショ濡れだよ?」


「誰のせいだよっ 誰のっ!」



シカマル君におでこをピンッと弾かれる。



「きゃっもうっ!痛いよぉぉ!シカマル君のバカ!」


ちょっとだけ仕返しするつもりだった。
たとえただの幼馴染でも、妹でも、こんな風にじゃれるだけなら許してもらえるでしょ?


でも、


同じように親指で人差し指をグッととどめて、シカマル君のおでこに向けて、一回だけ
バチンとお見舞いしようと思ったのに・・・・・


「残念だったな。動き遅っせーよ」



忍びのシカマル君はあっさり私の攻撃をかわして




「きゃ・・・・」




私は前につんのめるようにバランスを崩した。





ドスン




床に倒れ込んだ私の体に痛みがなくて・・・・・




「めんどくせぇ。お前って、本当相変らずドジだな」



私の体を抱きとめて、シカマル君は転んだ私の体の下にいた。
こんな時ですら、シカマル君は私のことを考えて、大事にしてくれる。


どうして?


だって、シカマル君にとって私はサスケ君を思っているような薄情な女なはずでしょ?
ただの妹なんでしょ?


なのに・・・・・






気づいたら、ポロポロと涙が出てきた。
もう胸が苦しいよ。
私、どうしたらいいの?
好きで好きでしょうがないよっ



・・・なぁ・・・なんで泣くんだよ。」

「だって・・・・」


泣いちゃダメって思えば思うほど、涙が止まらなくて・・・



・・ごめん。俺が悪かった。ごめんな。」



悪いことなんて何もないのに、シカマル君はいまだ動けずに腰のあたりに座ったままの私の
顔を覗き込んで謝り続けた。





「謝らないで。違うの。違うから」




でも、それ以上何も言えなくて、私は泣き続けた。


苦しくて、でも大好きで、でも私にはどうする事もできなくて・・・もどかしくて
辛くて・・・・
涙の理由は何度も何度も私の感情を揺り動かす。

止まらない。











シカマル君の指先がそっと近づく気配がして、頬に触れないまま、私の涙にだけ優しく触れる。
私の涙はシカマル君の指先を伝って、下へと流れ落ちた。



「もう泣くな・・・


それでも、言葉も出せなくて、私はぶんぶんと頭を振った。


「どうしたらいいんだよ・・俺・・」


小さく呟くような声。




「泣くなよ・・・・ずるいんだよお前。俺の前で泣くなっ」 




シカマル君の声がつまって・・・
その瞬間、座ったままギュッと抱きしめられた。




「サスケのくせに・・・俺じゃねぇくせに・・・泣き顔なんて見せんなよっ」



「シカマル・・・君?」




ギュッと抱きしめられる腕の強さ。


もう、絶対に触れてくれないと思っていたシカマル君の手が私を抱きしめてる。


何がなんだかわからなくなって・・・・


私の涙は一瞬でとまった。
大きな胸におしつけられて、ドキドキが止まらない。



(違う。シカマル君に必要なのは記憶のあった頃の私で、今の私じゃないんだよ!!)



心の中で何度もそういい続けているのに、気持ちとは裏腹に 好き って感情が溢れてくる。





「やっぱ・・・無理だ俺。・・・・お前が側にいたら・・・・どうしても我慢できねぇ」



シカマル君は私を抱きしめる腕にグッと力を入れた。



さっき以上に体がギュッと締め付けられて、本当は苦しかった。
でも、私はそのまま動かなかった。
離さないでほしい。このままずっとこうしてて欲しい・・・・・


(たとえ、それが昔の私への変わりだっていい。)


でも・・・・
肩を掴まれて、グッと体を離された。



「へっ・・・何やってんだ俺。・・・・どうかしてるぜっ」



「シカマル君・・・・」



「お前、早くどっか行けよ」



シカマル君はプイッと顔をそらした。

でも、

床におちた手にギュッと力を入れているのが分かる。



その手を見た時、シカマル君も辛いんだって分かってしまった。



妹だからとか、ただの幼馴染とか・・・私達2人とも、割り切れてなんかないんだよねっ・・・




だから、このままシカマル君から逃げるように、ここを離れるのは嫌だよ。


私だって、まだこんなにシカマル君を想ってる。





「やだ。私どこにも行かないっ」

「バカ言うなっ 俺に同情なんかすんなっつってんだろ」




<<同情なんかじゃない!!私は記憶のあった頃の私に負けないぐらいシカマル君が好きなのっ!!
   ねぇ、どうしたら、あなたの愛情にこたえられるの?どうしたら昔の私に今の私は勝てるの!!>>


言葉にできない気持ちが、溢れそうだよ。
私はそのままジッとシカマル君のことを見つめていた。



「どけよ。じゃなきゃ、本当に俺はっ・・・・・」


「どかないもんっ」


シカマル君は眉間にシワを寄せて、私をにらんでいた。
だけど、シカマル君の手は震えてて・・・


「くそっ」


シカマル君は片手で額をおさえた。



苦しいの? 私・・・あなたを苦しめてるの?



「シカマル君・・・私・・・」



思わず 好き って言いそうになった。

でも・・・・




「しゃべんなっ!俺の名前なんか呼ぶなよっ」




その瞬間、目の前がグラリと揺れた。







え?







今までシカマル君の上にいた私の体は、気づいたら床に倒れて、天井を見上げている。
目の前に真剣な顔で私を見下ろしているシカマル君がいる。







どうして?












・・・俺はっ・・・」




グッと目の前で私のシャツがひっぱられて、肩と胸元が剥き出しになった。




え?





シカマル君が私の胸もとに顔をうずめた。
その瞬間、 ギュッ と痛みが走る。




「や・やだ」



シカマル君が何をしようとしてるのか分かった。
もう抑えられない衝動が、シカマル君を突き動かして、きっと今、私の目の前にいるシカマル君は
いつものシカマル君じゃない。


シカマル君が急に男に見える。
すごく怖くて、体が震える。



「なんで、そんな震えてんだよ。



シカマル君の声はいつもより低くて・・・



「だ、だって・・・」

「そんなに震えても無駄だぜ。お前が悪ぃんだ。だから言ったろ?どっか行けってよ。」



シカマル君の目は、冷たくて・・・・



「俺の気持ちも知らねぇで・・・全部お前のせいだぜっ」


(全部・・・私のせい・・・・・)


「もう、お前が怯えたって・・・俺、やめねぇから」



シカマル君は私をまたいだまま、私の手首を床に押し付けて へっ と笑った。
今まで見たこともない冷徹な表情で。





「シカマル・・・君・・・・」




こんな形でシカマル君とするのはイヤだ。
でも・・・でも・・・・




「なんだよ。俺が怖いのか?そうだよな。今のお前にとっちゃぁ俺はただの幼馴染のめんどくさがりの
 鈍い男だもんな。けど・・・」



心臓がドキドキする。
怖いよ・・・怖い。シカマル君がはじめて怖く見える。



「けどな。俺だって、ずっと守り続けてきたのは、小せぇ頃からずっと俺の側にいてくれた
 記憶のあった頃のだっ 俺を忘れたお前なんかっ ・・・・」




目の前で引きちぎられる服の端がスローモーションのように見えた。




(記憶のあった頃の私・・・・)



その言葉が私の胸を突き刺して、動けなかった。





「あの頃のと同じ顔で笑って、同じ声で話して、同じようにじゃれてくんじゃねぇよっ!!
 ムカツクんだよっ お前!!」








やだ・・・やだよっ やめてシカマル君っ!!






でも、シカマル君にのられた体は身動き一つとれなくて、片手で軽々と押さえつけられた私の両手は
ガッチリと床に抑え付けられたままで動かなくて・・・何より目をそらさずに私をジッと見るシカマル君の
真っ黒な瞳が怖くて・・・


私は言葉もなくただ震えていた。





「今のお前がサスケのことを想っていようと俺には関係ねぇ・・・もうめんどくせぇんだよっ」



吐き捨てられた言葉がトゲのように刺さる。
体がガクガクと震えてとまらなかった。




・・・俺が怖かったら、泣き叫べよ。もっと抵抗してみろよ。じゃなきゃ、マジでヤっちまうぞ!!」





こんなこと・・・シカマル君が言うはずないよ。
これは・・・この人はシカマル君じゃない。



怖いっ



でも、それでも・・・・目の前にいるのは、間違いなくシカマル君なんだ・・・・・
記憶のあった頃の私がずっと好きだった、今の私が本気で恋したシカマル君なんだ・・・・・


だから私・・・・















「いいよ・・・」









シカマル君は目を見開いた。






ねぇ・・・シカマル君。
本当は一番辛いのはシカマル君なんだよね?
誰よりも信じて、誰よりも愛していた・・・その人に裏切られた。
本当はそれでも、ずっと側で守ってあげようとあなたは必死で普通を装ってくれてた。
でももう限界なんだよね・・・辛すぎて、もう壊れそうなんだよね?



そして、シカマル君をこんなにも苦しめているのが私なら・・・・
私はもう、どんなに辛くても、どんなに苦しくても、シカマル君のその想いを受け入れるよ。
それで、シカマル君の気持ちが少しでも治まるなら・・・好きにしていい。


私を壊してもいい。




























本当は昨日から全然眠れなかった。
ソファーまで来て、俺に遠慮して、気を使うが遠い存在に思えて、やりきれなかった。



でも、夜中中、俺なりに考えたんだ。



このまま、から離れるなんて出来るわけねぇ。
だから、ただの幼馴染としてだけでもいいから、あいつの側にいたい。



そう決めたんだ。
バカな男だって笑われたっていい。
俺はお前以外考えらんねぇんだよ・・・・


出来るだけ普通に。今まで通りに、冗談言ったり笑ったりしてようって・・・・・



それしかもう、お前の側にいる理由がないのなら・・・そうするしかねぇって・・・・






なのに俺は・・・・






二度と触れないと誓ったの体に触れた途端にドキドキした。






「相変らずドジだな」




そう言うだけで精一杯だった。
そして、それで終わるはずだったんだ。



なのにお前が泣くから・・・こんな近くで、俺の近くで・・・どうして泣くんだよ。



どれだけ苦しいか分かるか?



好きな女が目の前で泣くのに、俺には何もしてやれないこの気持ちがお前に分かるか?



サスケしかお前を救えないって分かってるのに、こんなに愛しいと想う気持ちを俺はどうやって
静めたらいいのか分からなかった。


だから言ったんだ。


「どっか行けよ」って・・・なのに強情なお前が断ったりするから・・・・



頭が混乱して、俺はもう自分が分からなくなった。














本当は、本気でお前をメチャクチャにしてやろうと思ってたんだぜ。
お前が抵抗して、暴れて、嫌がるのを力で押さえつけて・・・・・・


ムリヤリ自分のものにしようと思ってた。


でも、そんな最低なことしたら、きっと俺は自分が許せなくなる。
お前もきっと俺を許さないだろう?
だからそうして・・・・何もかも壊してやろうと思ったんだ。





なのに!!なのによ・・・・



なんで、お前は---------------------------------------------












「いいよ・・・」




お前は体を震わせながらも、そう言った。



違う。違うんだよ。
俺は・・・・・・そんな答えが欲しかったんじゃない。



体中の力が抜けおちていくような感覚を覚えた。
頭にのぼっていた血が一気に逆流するように、血の気が引いた・・・・



自分がとんでもなく最低なことをしようとしていたのが、ようやく理解できた。












「何言ってんだよ・・・お前。」





目の前で、意地を張っているを見下ろす。
お前が何故そう言ったのか・・・俺には分からなかった。
サスケが好きなくせに・・・他の男に抱かれて、お前は平気なのか?
それも・・・同情なのかよ?




「俺に何されっか分かってんのか?こんなこと・・・許されるわけねぇだろ?」



分かんねぇ。
お前の本心が・・・・・






「シカマル君が したいならしていいよ」





薄く笑ったの目からは涙がこぼれて、目の端から床に流れ落ちた。
どれだけ我慢をして、こんなこと言ってんだよ・・・・
俺なんかの為に・・・どうしてこんなことまで許そうとすんだよっ






「バカ言うな。・・・・こんなの・・・・こんなの最低だろ」

「シカマル君・・・・」





たまらなくて、お前の顔をまともに見れなくて、俺はグッと片腕で目元を押さえた。





「なんで殴らねぇんだよ。俺のことなんか最低だって言えよっ」





そうだよっ!!そしたら俺は・・・お前への気持ちを本当にここで終わらせるつもりだったんだっ
なのに・・・





「言えないよ・・・そんなこと・・・だって、私、シカマル君の大事にしてくれていた記憶の
 あった頃の私にもどってあげられないんだもん・・・辛いのはシカマル君の方だもん。
 ごめんね・・・シカマル君。 記憶・・・もどせなくて・・・本当にごめんね。」



頭が真っ白になった。
指先まで震えた。



・・・・


違う!!・・・そうじゃねぇ・・・
あれは・・・お前を傷つけるためについた嘘なんだ・・・・・・・




「さっきのは・・・全部嘘だ。俺は・・・・まだお前のこと・・・・」



(たとえお前に記憶がなくたって、お前がサスケを好きだって、俺はお前が好きなんだ)



言えない言葉を飲み込む。







もう・・・無理だ・・・
俺にはもう、お前を壊すことも、俺自身で全てをメチャクチャにしちまうことも出来やしねぇ。
俺はお前をあきらめて、この想い全てを壊すなんてできねぇよ・・・・



だったら、いっそお前の手で俺を壊してくれ・・・・・・・・























・・・大っ嫌いだって・・・顔も見たくねぇって・・・・そう言って俺をフってくれ。」
























------------------------どうして?---------------------------










(どうして、人を好きになったら、こんなにも苦しいんだろう・・・)


(どうして、本当に守りたい人を守ってあげるのはこんなにも難しいんだろう・・・・)




だって私は、あなたを・・・・ただあなたを好きでいたいだけなのに。



報われなくたっていいって言ったじゃない?
伝えられなくったって、構わないんだよ。



だたあなたに笑っていて欲しいだけ。
ただあなたの側にいたいだけ。




そんな些細なお願いさえ、神様はかなえてはくれないの?






(ねぇ・・・どうして恋をしたらこんなに苦しいの?)


















シカマル君が玄関から出て行く背中を、床に倒れたまま私はぼんやりと見つめていた。






























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