素足で降りる階段。

1段下るたびに、足の裏がひんやりした。






トントン・・・・・





自分の足音以外、他に何も聞こえない・・・いや。もう一つ。俺の心臓の音だけが、ドクドクと規則的に
俺の胸を叩き続けた。




苦しい・・・逃げ出してぇ・・・この現実から、目を背けて、どこか遠くまで走って逃げてぇよ・・・・・・




二人でいつも一緒にいた縁側。
とキスした場所。
お前が一生忘れないといったあの言葉・・・・


その思い出も全部・・・俺の目の前でこなごなに砕けちまった。








お前は本当に何もかも忘れちまったんだな?








けどな・・・俺にはまだあんだよ・・・お前を好きで好きでしょうがねぇ気持ちが・・・・
ずっと胸の奥に突き刺さって、抜けねぇトゲみてぇに・・・・


お前が忘れちまっても・・・俺のこの痛みは治らねぇんだよ!!
お前がサスケを好きになっちまったとしても・・・一生・・・・治らねぇんだよ!!


・・・俺の目にうつり続ける女はきっとこれからもずっとお前以外いねぇ・・・・

















けどな・・・けど・・・・もう終わりだ・・・・



俺のこの感情があるかぎり、俺はもうただの幼馴染としてお前を見ることなんてできねぇ。


その気持ちにお前が気づいたら、
お前はきっと俺とサスケの間で苦しむだろう・・・・・

さっき以上に泣くんだろう・・・・・?

そしてお前は
きっと、最後に(俺)を選ぶんだ・・・


一番お前のそばにいて、お前の記憶には無い『思い出』という中で俺達が愛し合っていたことに気づいたお前は、
きっと俺を気遣って、俺を想って、サスケへの気持ちを忘れようとするだろう・・・・






そんな気持ち・・・俺は欲しくねぇ。






俺が本当に欲しいのはお前の全てだ。
心も体も俺を好きだと言ってくれた、あの時と同じお前の全てだ。

気持ちが欠けたままのお前を欲しいなんて・・・俺は思っちゃいねぇ・・・・






だから、ごめんな。
こうするしか思い浮かばなくてよ・・・・・・




IQが高いとか成績優秀とか・・・・そんなもん・・・・・本当くっだらねぇな。
大事な時、なんも役にたたねぇ。











『めんどくせぇ』







そんな事、思っちゃいねぇよ。






きっと俺のベットで途方にくれて泣いているを想像して、今は胸が痛む・・・




でも、これでいいんだ。



人の気持ちを強引に留めることなんて、誰にもできねぇ。



お前は俺の感情に縛られることなんてねぇ。
苦しんで泣く必要もねぇ。


記憶とか、思い出とか、そんなの今のお前に求めて何になる?


その問いは、今のお前を苦しめるだけだ。


今お前の欲しいものはお前自身が決めて、手に入れたらいい。



たとえその対象が俺じゃなくても・・・・仕方ねぇよ。
仕方ねぇだろ?
それが、の答えなら・・・俺が受け入れるしかねぇ・・・・・・

お前の心を取返せねぇのは俺が悪いんだ。
全部俺自身のせいだろ?




(そうだよ。そんなこと分かってる。けど・・俺はを・・・手放したくなんかねぇんだっ)




もう一人の俺が必死でそう叫んでる。




納得しろっ!!
あいつはもうあの頃のじゃねぇっ
俺を好きだ と言ったはもう戻ってこねぇっ

あの頃のはもうどこにもいねぇんだよっ

そして・・・俺との記憶を無くしちまったが選ぶのは、間違いなくサスケだっ!!





だってよ・・・・・俺がサスケに勝てるわけねぇだろ?








「分かってるよ・・・・・そんなこたぁ・・・・めんどくせぇ・・」






くそっ



何人もの俺の声が頭の中で重なり合ってる。結論なんて出てきやしねぇ・・・・
頭の中がぐちゃぐちゃだ。

何が「いつも冷静沈着」だよ・・・・・聞いて呆れるぜ。
普段の上忍どもの俺への評価なんて、本当あてになんねぇな。

そんなのは俺の中の一部分の俺だ。

を想うもう一人の俺は「臆病」で「意気地なし」なダメな男だ。






ギシッ





俺の足はどうやら長い階段をくだって、床に降りたらしい。







それでも、俺はその場から動けなかった。

が選んだ答えを俺が受け入れるんだ)

その結論も、まだ俺の中で消化できずに、俺の心臓をたたき続ける。





だってよ。消えねぇんだよ・・・あの時の記憶が・・・・俺の中に鮮明に残り続けてるんだよ・・・・
そして、
お前のあの声が俺の頭の中に何度も何度もまわり続けてるんだ・・・・・・







『私は何回だって、シカマルに恋をするよ』

























「シカマル?あんたどうしたの?」

「・・・・」







階段下で突っ立っている俺に母ちゃんが声をかけてきた。
俺の意識は急速に現実に引き戻されていく・・・・・

(何やってんだ・・・俺)


「なんでもねぇ・・・・」


少し心配そうな母ちゃんの横を通りすぎて、俺はまっすぐ歩いていった。




「風呂・・・・入ってくる」


















ガラガラと風呂場に続く木の引き戸を開ける。






左にある洗面所の鏡に、自分の顔をうつした。





「あいつ・・・・今頃また泣いてっかな・・・・・」










『なにやってんだバカ!お前本当にそれでいいのか?』

もう一人の俺が鏡の中からそう言いたげだ。






「うるせぇ・・・・」




鏡に右手が触れる。
ヒンヤリと冷たかった。



間違ってねぇ・・・・そうだろ?
結局俺はの為に身を引くんだぜ?・・・・・・



「俺、今、メチャクチャイケてんじゃねぇ?」



笑ったつもりなのに・・・
鏡の中の俺はいつもよりさらに無表情に見える。
風呂場の湯気のせいか、その顔はすぐに曇って、ボヤケてしまった。




「これで俺もめでたくイケテねぇ派卒業だなっ ざまぁみろ!ナルト!」




ぼやけた鏡を手でぬぐった。
何度も何度も・・・・・・・・・・




俺は愛する女を守る為に強くなるんだろ?
間違ってねぇだろ?


心では分かってる・・・・・




なのに・・・・・





「本当・・・・バカみてぇ・・・・・」





なんで俺、泣いてんだ?
なんで涙ばっか出てくんだよっ くそっ 





気持ちが・・・お前を想う俺の気持ちが全然割り切ってくんねぇんだよ・・・・・・




なにが、の為だ!
なにが、大切な思い出だ!!




くそっ



ガツンッと自分の手が壁に当たる。
ズキンと手に痛みが走った。


でももうこの拳が壊れたって構わねぇ・・・・


今の自分が、お前にどうしようも出来ない自分が、ムカつくほど歯がゆくて・・・・もうどうしていいか分かんねぇよ。












蛇口から勢いよく水を出す。
はねかえる水しぶきが俺の腕や顔をぬらした。


その水を手にとって、バシャバシャ と音をたてて顔を洗った。






「ぷはっ」





顔をあげても・・・なんも変わらねぇ。
なんの答えも出せねぇ。


答えを出す勇気がねぇ俺は・・・本当にどこまでも腰抜けだ。 






なぁ・・・・



お前は今、何を想ってる?
俺は・・・・どうしたらいい? 
どうしたら・・・・・俺達はこれからどうしたらいいんだ?・・・・・
































私はベットの布団にしがみついて、声をころして泣いた。


やわらかい布団はいつもの匂い。
悔しいほど優しくて、どことなく懐かしい・・・・シカマル君の匂いがした。


『めんどくせぇよ!』

そう言ったシカマル君の冷たい目・・・・・






だけど・・・・まだ信じられなかった。
だって・・・あなたはいつだって、最後に必ず私を守ってくれた。
記憶のない臆病な私に笑いかけてくれた。
あの優しさは絶対嘘じゃないっ!!!





そして、





あの日、私とシカマル君がこの縁側で忘れられない思い出を作った。

「一生忘れないよ」

そう言った私に微笑んだシカマル君の笑顔は間違いなく本物だった。



私達は、幼馴染だけど・・・それだけの関係なんかじゃなくて・・・



お互いに愛しあっていた。



そうでしょ?シカマル君。



いつからそうだったの?
あの大事な思い出は何だったの?









『私とシカマル君て、前にもこんな風にここで話しとかした事ってある?』



私が無神経なことを言ったから怒ったの?
それともこんな私に本気で呆れた?



だけど・・・



その答えを聞く勇気も、私達の関係を問いただす勇気も、私には無かった。



またさっきみたいにシカマル君の口から


『めんどくせぇ・・・・』


そう言われてしまったら、今度こそ私の心はきっと粉々になってしまいそうで・・・・怖かったの。








それからどのぐらいの時間がたったんだろう・・・・
高ぶっていた気持ちも少し落ち着いて・・・





私はベットに仰向けに寝転んだ。




それからゆっくりと考えた。




私は・・・やっぱり確かめに行くべきなのかもしれない。


心にひっかかるサスケ君の存在。



『サスケに会いたきゃ、会いにいけよ!』



シカマル君の言葉が頭を巡る。

私はシカマル君の言うとおり、私の今の気持ちに正直に、そしてハッキリと気持ちを確かめて来よう!!



たとえそれがシカマル君をまた傷つけたり、怒らせたりする結果になってしまったとしても・・・
このままずっとシカマル君に甘えている訳にはいかないんだ!!!







私自身がハッキリと前を向くために!!!






ベットから体を起こして、シカマル君の部屋を見回した。




記憶が無い私をあたたかく迎えてくれた部屋。
なぜかどの場所よりも私の心を穏やかに包んでくれた部屋。


無造作に鉛筆が転がった机。
難しい文字がひしめく本棚。
使い古した座布団。
座ると軋む、少し小さめのベット。

シカマル君の匂いがする布団・・・・・



「シカマル君・・・・・」



なぜかシカマル君の優しい笑顔が浮かんできた。



シカマル君。
ごめんね。
私がここ数日ずっとシカマル君に迷惑をかけ続けて・・・・
そして、記憶の無い私は、知らない間にきっとあなたを傷つけてきた。


だからさっきの『めんどくせぇ』はあなたの本心なのかもしれない・・・・・


でも、それでも私。
シカマル君のこときっと好きだよ。


今は素直に感じる。


記憶を無くして不安な私の頭をなでてくれた大きな手に安心した事も、
初めて私を病院から連れて来てくれた時の笑顔にドキドキした事も、
川でおぼれた記憶の恐怖に思わず抱きついてしまった事も、
いのちゃんと仲良くしている姿に嫉妬した自分も・・・・・

それは全部

私がシカマル君を好きだから・・・・









だから確かめさせて?
その(好き)にちゃんと向き合うために・・・・



-----------------------------------------------------------------------------













階段をゆっくりと下りる。


今はシカマル君と顔を合わせるのがなんだか辛い。

でも・・・・


時間が無いんだ。
今すぐこの気持ちに決着をつけたいの。
もう・・・ここで立ち止まるのは嫌だから・・・・・




リビングにはシカママがいた。
シカマル君の姿はない。




はぁ・・・・




少しだけ ほっとしてため息が出た。


「シカマルならお風呂よ」

「え?//////あっ・・・はい」


シカママに心を読まれた気がしてドキドキしたけど、
大丈夫。
もう迷ってなんかないもん。



・・・どうしたの?」


立ち尽くしている私にシカママが声をかけてくれた。


「・・・あの・・・・キッチンお借りしてもいいですか?」


シカママは少し驚いた顔をした。
でも、すぐに笑顔で答えてくれた。


「ええ。いいわよ。あなたの好きに使って」




















「出来た・・・・・・」


小さめのタッパー3つ。
食材は野菜を多めにお肉も少しづつ、奈良家の冷蔵庫から借りた。









ガチャリ







全ての作業が終わったところに、ちょうどお風呂から出たシカマル君が入ってきた。







私は、さっきのシカマル君を思い出して、なんだか少し怖くて、ドキドキしながらタッパーを袋に
詰めた。





「なに・・・やってんだよ・・・お前」


先に話しかけてきたのはシカマル君の方だった・・・・・




言おう・・・言わなきゃ。
だって私が決めた答えじゃない!!
ここで逃げたらダメ!!!


心臓が ドクンドクン と音をたてる。


もしかしたら、私のだした答えは間違っているのかもしれない・・・・・・


そう想うだけで足が震えた。


でも---------------------------------------------------------------------------



今私が出せる精一杯の答えがこれなんだ!!
だから・・・言うんだ!



ドクンドクン。



「シ、シカマル君・・・・お願いがあるの・・・・・・」



そっとシカマル君の顔をみあげる。
シカマル君は真剣な顔で私を見つめていた。



「なんだよ」



シカマル君の目はまっすぐに私を見てる。
まるで私の言おうとしている事をすべて分かっているかのように・・・・・
冗談もからかうこともしないで、真剣な顔をしたまま、まっすぐな瞳で・・・・・



目の前に立つシカマル君をじっと見つめる。



しなやかな指と大きな手の平。
長身の細いからだ。
形よくついた筋肉。
眉間によったシワ。
いつもへの字に曲がった口元。
高く結われた黒髪。


シカマル君の体全部を見る。




この人は私の中からスッポリと抜け落ちた『過去』という記憶の中で私を想ってくれた人。




だけど・・・・ごめんね。
ごめんなさい。
私はきっとまたあなたを傷つける。



シカマル君・・・私、あなたが好きだよ・・・・



記憶が無い私をからかいながらも、意地悪言いながらも、見捨てないでいつも傍にいてくれた。
気がついたら、心の中にいつもあなたがいた。


私はいつのまにかシカマル君に・・・恋をしていたんだ。


だけど・・・・ごめんね。
私はまだまっすぐにあなたを見れていない。
心にずっとひっかかり続ける幼い頃の記憶の中の彼への気持ちを確かめてからじゃなきゃ・・・・・



私はまだ、シカマル君と向き合えない。






だから---------------------------------------------------------------------------------------













「私をサスケ君の家に連れてって」
































その言葉が俺の目の前を真っ暗にさせた。



サスケ----------------------------------------------------------------





あぁ・・・やっぱり・・・・


そう想う気持ちと、認めたくねぇ気持ちが俺の心でぶつかりあって、俺の心臓は壊れそうだ。





「サスケの家・・・・に・・・・・今から行くのか?」


嘘だと言って欲しい。
そんな真剣な目で言うなよ、



「うん。わがまま言ってごめんね」



大きな黒い瞳にうっすらと涙がにじんで・・・・・
強い瞳とは裏腹に、下で握られたの手は震えていた。





分かるよ。俺には・・・・・





のその姿を幾度となく見てきた。


重大な決心をした時、お前はいつもそんな顔をする。
だけど、いつだって、体や手は少し震えてて・・・・・・


だから俺はいつもそんなお前に気づかないフリをしてやってた。


(本当は怖いくせにっ 無理すんなバカ)


そう言っちまったら、せっかくのお前の決心が崩れちまうだろ?


だから・・・本当は恐怖に震えたお前の体を抱きしめてやりたかったけど、
それでも俺は気づかないフリをしてきた。


『めんどくせぇ』


そう言って、お前の決心に付き合った。
だってよ・・・そん時のお前はいつだって本気だったから・・・・
自分なりの答えを出そうと必死だったから・・・・






あぁ・・・だから分かるよ。
今、出した答えがそれなんだろ?

本気なんだろ?・・・お前・・・





けどな・・・・今回ばかりは・・・・俺だって!!!・・・・・っ






「シカマル君。私、確かめたいの・・・自分の気持ち。過去の思い出。全部・・・・・サスケ君に会って、
 はっきりさせたいの・・・・・・・」



「だからって、なんで今なんだよっ」



なんでそういきなりなんだ?
なんでいつも俺を振り回すんだ?

記憶をなくしたあの時と同じように・・・・

なんでいつもお前は勝手に暴走して、俺を置いて一人でいっちまうんだよ!!




「はっきりさせてどうすんの・・・お前」

「そ、それは・・・・」

「サスケの家で一緒にでも暮らすつもりか?」




冗談だろ?
本気でサスケを好きだって分かったら・・・お前、この家から出ていくのかよ?
俺達・・・別れるってことかよ・・・・・



そんなのっ!!!



「俺は嫌だぜ。行きたきゃ一人で行けばいいだろ?なんで俺が連れてかなきゃならねぇんだよっ」


できねぇ・・・そんな事・・・絶対っ!!!
お前をサスケに渡しに行くようなまね・・・出来るわけねぇだろ!!!


の顔をまともに見れねぇっ
俺はプイッと顔をそらした。



「一人じゃ無理なの・・・・私、サスケ君の家知らない・・・・」

「だったら頼むなよ・・・そんなことっ」


 
行くなよっ !!
 









なのにお前は必死な声で・・・・・





「今日じゃなきゃダメなの。決心が鈍っちゃう。私また甘えちゃう。このままじゃ前に進めないっ」




の手が俺の袖をギュッと掴んだら、俺の体にもお前の小さな震えが伝わってきた。










ずりぃよ・・・お前。










そんな泣きそうな顔して、小さな震えが俺にはたまらなく愛おしくて。
すげぇ胸が痛てぇ。
すげぇ苦しいっ
俺は、俺はどうしたらいいんだよ!!









「前に・・・進めない。このままじゃ私ダメなの・・・お願い・・・シカマル君」










ポタリ・・・ポタリと大粒の涙が俺の手にあたった・・・・・・









・・・・







泣くなよ。

泣かないで。

俺だって泣きてぇ。









もう・・・俺じゃ・・・ダメなんだな・・・・・・・







それが・・・・・・・・・・お前の答えなら・・・・・。































心臓が破裂しそうだった。
泣いちゃダメだって分かっているのに涙が止まらなくて・・・・
体中がガクガクと情けないほど震えていた。



シカマル君はきっと私を軽蔑した。
サスケ君を好きなんだと誤解した。



大事な思い出も忘れて、お互いに好きだった記憶も戻らないままで、サスケ君のこと気にかけて、



それでもずっとシカマル君は私のそばにいてくれたのにっ



もう取り戻せないかもしれない。
もうきっとシカマル君は私から離れていってしまうだろう。
もう二度と口もきいてもらえないかもしれない。



私のこの行動は間違ってたんだ。




けど・・・今更



『そうじゃないの!私はシカマル君のことが好き。』



そんなこと言えないっ
それはまた今までの私の堂々巡りになるだけ。


シカマル君を想いつつ、いつでもサスケ君をきにかけて・・・・


そんなのっ またシカマル君を傷つけるだけじゃないっ!!


サスケ君の存在を心に残したままで、そんな中途半端なまま、「好き」なんて軽々しく言えないよ。




だから・・・・・









私はこの決心が間違いだったと後悔する前に飛び出したかった。




それでも、一人じゃどうしようもできない。
私はそのままどうしていいのか分からず
シカマル君の服の袖を握り締めたまま、立ち尽くしていた。

でも・・・・




「めんどくせぇ・・・・」



シカマル君は私の腕をそっと引き剥がして・・・・プイッと背をむけて歩いて行ってしまった。



「シ、シカマル君」


やだっ 待って!!


無意識にその背中を追った。


心臓がドキドキしてる。





私・・・どうしよう・・・シカマル君に見捨てられたんだ。
・・・・これからどうしたらいいの??










ふいにシカマル君の背中が立ち止まる。




「早く・・・準備してこい・・・おいてくぞ・・・・」

「シカマル君・・・・・・」




シカマル君の歩いていった場所は玄関で・・・・シカマル君はドカッと玄関先に座って靴を履きはじめた。





あぁ・・・やっぱりこの人は優しい・・・・
私の決心が揺らがないうちに、私の背中を押してくれたんだ・・・・・




もうこの人に甘えるのは最後にしよう・・・・・
そしてちゃんと自分なりの答えを出してこよう・・・・・



私は、キッチンからさっきの袋をとって玄関にもどる。





「準備・・・できたよ・・・・」


それでも心がまだ動揺していて、声が震えた。


「あぁ・・・・」


シカマル君は一度も私の顔を見なかった。











ガチャリッ



扉の開く金属音。
耳の奥に重たく響いた。








ビュッ










夜の冷たい空気が玄関から吹き込んでくる。
まるで『行くなっ!』といわれているかのように、体がおしもどされるような強さだった。



それでも私達は何も言わずに玄関を出た。



ガタンッ




重く閉じられた玄関の扉。






目の前には真っ暗な道。
空には星。
静かな・・・・とても静かな夜。




「行くぞ・・・・」

「うん・・・・・」



ゆっくりと歩き出す大きなシカマル君の背中・・・・・・・

闇にまみれて、見失いそうだよ。
まるでその闇に吸い込まれていくように私達は歩いて行った。

横に並べずに、シカマル君の背中を追って、私は歩き続けた。






シカマル君は一度も振り向いてくれなかった。
私も何も言えなかった。







(これでいいんだよね? 間違ってないよね? シカマル君とちゃんと向き合うために・・・)







何度も何度も頭の中でそう言葉を繰り返して歩いていたのに・・・・
それなのに、前を歩くシカマル君の無言の大きな背中に、私の胸はズキズキと痛み続けた-----------------------






ねぇシカマル君。
あなたは今どんな想いでいるの?
私の選んだ答えを受け入れて・・・自分の気持ちを押し殺して・・・・・



それがあなたの優しさだって分かってしまうから、私の心はもっともっと痛かった・・・・・・



星空がやけに綺麗だから、モヤモヤした私の心があまりに汚く感じてしまって、ずっとずっと苦しかった。



人を好きになったら、恋する気持ちに気づいてしまったら、どうしてこんなに辛いの?苦しいの?



ねぇ・・・恋をしたら、誰でもそうなるの?
誰か教えてよ----------------------------------------------------------------------------







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