カチカチと灯りを消す。
真っ暗になった部屋のソファーに仰向けに寝転んで、天井を見上げた。


さっきの出来事が頭をぐるぐる巡る。




俺に顔を近づけられて真っ赤になった顔。
恥ずかしそうに俺から逃げるように2階にあがる小さな後姿。


(あれはどういう意味なんだよ?・・・・)



思い出すたびに胸が熱くなる。




好きだ 好きだ 好きだ。



耳をふさいでも、俺の心がそう叫んで、俺の頭はでいっぱいになる。



お前が欲しい。
俺を見てくれよっ ・・・・



相手が誰だろうと・・・俺はを渡すつもりなんかねぇ。



でも・・・強引に奪えばお前の心はきっと俺から離れていく。
お前から俺を好きになってもらわなきゃ、俺にはそんなの何の意味もねぇ。


だけど・・・俺はきっとこれからもお前に気の利いた言葉なんてかけてやれねぇだろうし・・・
特別なことなんて何もしてやれねぇだろう・・・


俺が出来ることっていやぁ、やっぱお前を信じて待つことぐらいだ・・・・







それでも、は俺をもう一度見てくれんのか?







答えのでない、問いばかりが俺の頭をめぐる。








「あーーーーーーーーーーーっ もう眠れねぇ!!!」




















ベットに寝転んだら、さっきのシカマル君の近づいた顔を思い出した。



シカマル君の目がすごく優しくて、私のことだけを見つめているようで、まだ心臓がドキドキしてる。


どうしてあんなに優しくするの?
いのちゃんにも同じことするの?
私はシカマル君にとってどんな存在?


聞きたくて、でも聞けなくて・・・・



うずめた枕から香るシカマル君の優しい匂いが私の体を包んでしまうから・・・・



好き・・・/////



どうしたんだろう?・・・私、そんなことばっかり想ってる。



だけど・・・・・






『助けてっ!!』

水の中でたくさん水を飲んで、息が苦しくて、怖くて、必死で叫んだ。


っ!落ち着け!お前はこの手を絶対に離すなよ!』


命をかけて守ってくれた人・・・・
抱える腕の力強さと優しさ・・・・



サスケ君のどこか寂しげな瞳を思い出す。



私には、やっぱり忘れられない記憶がある・・・・・




好き   って一体どういう気持ち?








答えの出ない、問いばかりが私の頭をめぐる。





「どうしよう・・・やっぱり眠れないよぉぉ//////」




















外はまだ薄暗い・・・・・・


やっぱり昨日の夜はなんだか眠れなくて・・・・
私はやけに早くに目が覚めた。


ベットに仰向けになって、布団をひっぱりあげた。
何もしないでこうしていると、昨日の夜と同じ問いを繰り返してしまいそう・・・



答えなんて、やっぱり出るわけないのに・・・




「顔だけ洗ってきちゃおうかな・・・・・・」



ゆっくりとベットから起き上がって、伸びをした。


下の階に足音をなるべくさせないようにそっと階段を下りていく。
階段のてすりの隙間から、ソファーでシカマル君が眠っている姿が見えた。






シカママやシカパパはもうすでにいないみたい。





良く見ると、いつもはシカマル君の体にクルリと巻きつけられている毛布が床に
落ちていて、シカマル君は眠りながらも寒そうに体をちぢ込めていた。


その様子をみたら、なんだか くすり と笑ってしまった。


背が高くて大人びたシカマル君が子供のように縮こまっている姿が妙にかわいくて・・・


「風邪ひいちゃうよ・・・・・」


私はそっとソファーに近寄る。





足元の毛布を拾い上げて、シカマル君にかけようとしたら、毛布が大きくて・・・・
両手を上に伸ばして背伸びしたら、思わずバランスが崩れて・・・・


「きゃっ」


上まであげ切れなかった毛布の端に足をとられて、私はシカマル君の上にボテッと
倒れ込んだ。




「ご、ごめんなさい・・・シカマル君・・・」


絶対起こしちゃった・・・・
私はあわてて起き上がってシカマル君の顔を見る。


そこには半分目を開けて、あきらかに寝ぼけたシカマル君がジッと私を見ていた。


「俺の腹の上で何してんだよ・・・・」

「だって・・・毛布落ちてて、風邪ひいちゃうかなって・・・って・・・え?」


シカマル君にグイッと腕をひっぱられる。


「きゃっ///////」


ボスッと私の頭の後ろにソファーのクッションがあたった。


あれ?


私はシカマル君の寝ていたソファーに仰向けに倒されていた。


「え?あの・・・シカマル・・・君?」


目の前にはシカマル君の顔があって・・・シカマル君が私を見下ろしている。
動こうとしたら、私の両手首をシカマル君がガッチリと掴んでいた。


「ねぇ・・・シカマル君?」


心臓がドキドキする。


「もう少し優しく起こしてくんねぇかな・・・・」

「違うの・・だから毛布・・・・」

「俺、まだ眠ぃし・・・・」

「う、うん・・・ごめん。」

絶対寝ぼけてる・・・人の話し全然聞いてないし・・・
シカマル君の目・・・すわってるもんっ


この状況をどう脱したらいいのか、頭がふる回転しているせいで、汗かいてきた。
でもやっぱり私の体はシカマル君が捕まえていて、身動き取れない・・・・
どうしていいかわかんない・・・・


「今何時?」

ぶっきらぼうに聞かれて・・・・


「え?えっと・・・・・」

倒されたまま、唯一動かせる首を左右に振って、部屋を見渡す。
窓に近い壁に時計がかかっていた。

「5時・・・5時半ぐらいかな・・・・・・」



「まだ起きる時間じゃねぇよな・・・めんどくせぇ・・・お前も寝とけ。」



ボスッ



え?



シカマル君が私の上に倒れてきた。
っていうより、上からギュッと抱きしめられた。
シカマル君の顔が私の首もとにあって、呼吸が首筋に当たる。


「シ、シカマル君?ねぇ・・・・」


どうしよう!!


「黙って・・・寝かせてくれ・・・俺、昨日寝不足で・・・・・ふあぁ」


本当に眠そうな声は最後にあくびになった。


(寝かせてあげたいけど・・・でもなんかこの状態はやっぱりまずいよぉぉ////////)


なんとかそっと逃げ出せないかと私はゆっくりと体を動かした。
できればシカマル君はもう少し寝かせておいてあげたいし・・・・



片足をなんとかソファーの外に出せれそうだったのに・・・・



「・・・行くなよ・・・・・・」



シカマル君が私の腰をギュッと握った。
首筋にギュッと痛みが走る。



(え?なに?・・・・・)



シカマル君の唇が私の首元に押し付けられている。


「シカマル君・・・やだ・・・ねぇ・・・」


どうしてこんな事するの?
いきなりなんで?


首もとが熱い。
そこにだけ神経が集中してしまうみたいに、シカマル君の唇の熱さや柔らかさが
妙にリアルに感じられた。


私が抵抗しようとすればするほど、シカマル君の腕がキツク体に絡まってくる。


・・・」


力を込められるたびに、私の体が硬直する。

見た目は細いのに、密着する体はすごくがっちりしていて、
力を入れられているはずなのに、なぜだかその腕は優しくて、
私よりずっと大きな体は私をすっぽりと包んでしまう。

シカマル君はやっぱり男の子なんだって妙に意識してしまって・・・



でもそれは、
イヤなんじゃなくて・・・怖いわけでもなくて・・・



気持ちの整理も出来てないくせに、こんな状況になっても、
『シカマル君ならいい』って思ってる自分が凄くイヤだったのっ!





「シカマル君はなしてっ」


私は大きな声を出した。








ビクリッとシカマル君の体が硬直した。





次の瞬間、ガバリ!とシカマル君は私から体を離して・・・・




さっきまで半分閉じかけていたシカマル君の瞳は驚きでいつもの倍ぐらい大きくなっていた。



「お、お前・・・ここで何してんだよ?」


いつも冷静なシカマル君がここまで動揺する事ってあるんだって顔をして、
シカマル君はまるで人事のように、ソファーに倒されている私を指差した。



(なんか私がシカマル君に何かしたみたいじゃない?/////失礼しちゃうなぁもう・・・・)





「シカマル君・・・もしかして覚えてないの?」

半信半疑で唖然としているシカマル君を見上げていた。


「覚えて・・・ない・・・・」


シカマル君は頭に片手をおいて、今までの寝ぼけていた記憶をなんとか思い出そうとしているみたい。
でも、はっきりと思い出せないのか、目はオドオドと泳いでいた。


「信じられない・・・ヒドイよ・・・・」


なに?その動揺しまくった顔////笑える。
それは私のちょっとした出来心で・・・・


「もしかして・・・俺はお前に・・・何か・・・したのか?」


シカマル君の顔はみるみる真っ青になっていった。


「した・・・・」


ちょっと意味ありげに困った顔などをしてみた。


「な・・・な・・・なに・・・を?」


シカマル君あたふたしてるっ!!
いつも冷静で何があっても自分のペースを乱さないシカマル君のこんな姿見たことない!!



もしここで私が、押し倒したとか、抱きしめたとか、首にキスしたとか・・・そういうの言ったら、
シカマル君てば、どうなっちゃうだろう???


そう思うと・・・・どう説明したらいいのか・・・・・


私が黙っていると、




・・・悪ぃっ いや・・・悪かった。ごめんっ。 俺、マジで寝ぼけてて・・・
 いや・・その・・・・今のは忘れてくれ。いやっ っつっても俺はお前に何をしたのかも
 覚えてねぇんだ・・・マジで・・・でも・・・やっぱ俺が悪ぃ・・・ごめんな。」


支離滅裂で、あたふたしてて、おまけに顔も耳も真っ赤で・・・・
たぶんこんなシカマル君を見たことあるのは私一人だけなんじゃないかって思えて・・・



なんかすっごくおかしくなった。



「ぷぷぷ////////」

「な、なんで笑うんだよっ//////」

「だって、なんか笑えるんだもん/////」

「笑うなよ・・・俺マジで焦ったっつうの/////寝ぼけてお前にへんな事でもしたかと思った・・・///」

シカマル君は片手の平で額を抑えて、俯きながら はぁ とため息を吐いた。




そんなシカマル君もかわいいと思うけど・・・でも・・・私は少しだけ腑に落ちない事があって・・・



だから、私は少しだけ意地悪してみた。



「したよ・・・ほんのちょっとだけだけどね・・・・」


「は?」


シカマル君が驚いて顔をあげる。


「私のことソファーに押し倒した・・・・・」

「・・・・・・・嘘・・・・だろ?・・・・」

「それから無理やり抱きしめて・・・・・」

「!!」

シカマル君は真っ青な顔をして目を見開いた。



「シカマル君があんなことするなんて思わなかったよ・・・・」

「ごめん・・・俺最低だな・・・・」



シカマル君はがっくりとうつむいて、額に片手をおいた。



シカマル君はかわいそうなぐらい落ち込んでる。
ちょっとかわいそうかも・・・・

だけど、やっぱり私、・・・真意を確かめたいっ!!



「寝ぼけてたら・・・女の子には誰にでもああいう事しちゃうんだシカマル君」


「え?」


「そんなの最低〜!!」


言いすぎたって分かっているのに・・・でもシカマル君がそういう気持ちなんだったら、本当に嫌!!
だからって、別に私だけ特別にして欲しいとかそんなんじゃないけど・・・
うん。そんなんじゃない・・・・・・絶対違う・・・はず。


でも、本当は、そんなシカマル君を勝手に想像して、私が不機嫌になる理由が自分でもよくわからない・・・



「・・・・・・・・」



シカマル君は無言で私を見ていた。



「シカマル君のH・・・」


だって黙ってるって事は否定しないって事は、やっぱり誰でもそうしちゃうんでしょ?



「そんなんじゃねぇよ」


シカマル君の眉間にはシワが寄っていた。


(あれ・・・私怒らせちゃったのかな・・・・・・)


今度は反対に私が責められてる気分。


「だって・・・・」


意地悪した罰なのか。シカマル君が急に怖く感じた。


「誰でもなんて・・・そんな訳ねぇだろ・・・」



(え?)


一瞬思考が止まった。
だって・・・だってそれってどういう意味?



だけど、シカマル君が急にソファーから立ち上がって、私にプイッと背中を
向けたから、私はその事にビックリして・・・・




あっ  やっぱり私、シカマル君を怒らせちゃったんだっ




「シ、シカマル君!」



とっさに私もソファーから立ち上がる。
私、シカマル君にそっぽ向かれると、すっごく辛いんだよ。





ノソノソと歩いていくシカマル君の背中を追いかける。


「待って!待ってよぉぉ!!」



シカマル君のシャツにあと少しで手が届きそうなぐらいの時にシカマル君は急に立ち止まって、
振り返った。



「なんでついてくんだよ・・・・・」


振り返った顔はやっぱり眉間にシワが寄っていて・・・・


「だって・・・・」


うぅぅぅ 朝から泣きそう・・・・


「なんだよ?お前。・・・・はぁ」


ため息までつかれて・・・もう最悪〜・・・・・

なのに・・・・





「しょんべんまでついてくんなっつうの!!」

「へ?」

「連れションまでは勘弁してくれっ」

シカマル君はニシシと笑った。

「バカーーーー!//////そんな事しないもんっ!!!」



あぁびっくりしたぁ///////
シカマル君怒ってないよね?良かったぁ///////




2人で笑ったら、なんかすっごく幸せな気持ちになった。
こうしていると、シカマル君と私・・・他人だなんて到底思えないすっごく近い存在に思える。

それは家族のような・・・恋人のような・・・・・・・////////














寝ぼけていたとはいえ、にそんな事をした自分がすげぇ情けねぇ。
それはきっと、昨日の出来事が、まだ俺の心の中にくすぶっているからだろう・・・・。


動揺したの顔。
赤らんだ頬。


昨日の夜、なかなか寝付けなかった俺は何度も浅い夢をみた。






『シカマル/////』

優しく微笑むが俺の目の前にいる。

『お前・・・記憶は?』

俺はそっと呟く。

『記憶?記憶って何?』

は不思議そうな顔をした。
俺はそんなにすげぇ安心した。

『そっか・・夢だったのか・・・何もかも全部夢だったんだな・・・・そっか・・・良かった・・・・』

の記憶が無くなるなんて・・・全部忘れちまうなんて・・・そうだよな。そんなの夢だ。
俺はずっと悪い夢を見てたんだ。

目頭が熱くなって、心臓のあたりがジンジン痛んで、俺はたまらなくなって、の細い白い腕を自分へと引き寄せる。



『シカマル大好き//////』



照れて小さくなったかわいい声が俺の耳元にこだまする。
の細い腕が俺の体をギュッと掴む。




・・・俺も、俺もすげぇ好きだ//////』



俺は壊れるぐらい強くを抱く。

もう絶対お前を離したくない。記憶が無くなるような危ない目にだけは絶対あわせたくないっ
もうあんな悪夢はこりごりだ・・・・



なのに・・・・



『誰か・・・呼んでる?・・・・ねぇシカマル・・・サスケ君が呼んでるよ?』

『え?』

俺の腕の中での体が硬直した。

っ・・・・』

『サスケ君・・・どこ?』


あんなに力をこめて抱いたのに・・・はいつの間にか俺の腕からスルリと抜けて、辺りをキョロキョロ見渡している。
目の前に俺がいるのに・・・はもう俺の存在すら忘れたかのように、不安げな瞳で遠くを見つめていた。


っ 行くな!』


俺はもう一度その華奢な体をグッと抱きしめた。

なんで?なんでだ・・・・
サスケのとこになんか行くなっ・・・・


お前を愛してるのは俺だよっ ・・・・


何度も何度もを強く抱いた。
行かせたくねぇんだよっ お前をサスケのとこになんか・・・俺が絶対行かせねぇっ!


胸が苦しいっ
お前が俺を見ていない事が分かるからっ
お前がサスケのとこに行こうとしてるのが分かるからっ


俺じゃやっぱダメか?
俺じゃぁお前を幸せにしてやれねぇのかよ?



こんなにお前が好きなのにっ!!!










でも、



ボスッ!!!



俺の腹に何かが落ちたような衝撃が・・・・・・



「ご、ごめんなさい・・・シカマル君・・・」



その出来事とその声は、突然俺を現実に引き戻した。



俺は一体、何やってたんだ?
うっすらと目を開ける・・・・・


ぼやけた視線の先に人影。

 


         ・・・?




俺はその時、完全に寝ぼけていた・・・・



『なんだ、やっぱ夢だったのか・・・そうだよな・・・お前の記憶が無くなる訳ねぇし・・・・
 それに、なんでがサスケのとこなんか行くんだよ・・・ありえねぇよ・・・・』


俺は俺の腹の上にくっついているを完全に昔のと勘違いした。
幸せだったあの頃のがそこにいると、あの時俺は本気でそう思っていた・・・・・


だけど、その先はよく覚えてねぇ・・・・


いつものように、俺の近くにを抱き寄せた事だけしか・・・・・









まさか押し倒してたなんて・・・強引に抱きしめたなんて・・・


嘘だろ?嘘だと言ってくれっ・・・夢だと言ってくれよっ!!!
俺は一体何やっちまったんだよ!!!!!


絶対お前に引かれたと、その時、完全に俺は落ち込んだ。顔から血の気が引いた。







だけどお前に



「誰でもこういう事しちゃうんだ?」「シカマル君のH」

そう言われた瞬間に、頭に血が上った。
そんな顔すんなよっ
俺、そんな軽い男に見えんのか?
俺が今までどんだけお前の為に我慢してきたか・・・お前分かってんのかよっ!!

正直、すげぇムカついた。


「誰でもなんて、そんな訳ねぇだろ!」


とっさに吐き捨てるように言っちまった俺・・・・



けどよ・・・・いや・・・・まて・・・・俺もたいがいにしろよっ!!
このセリフはまずいっつうの!!
それじゃまるで、俺はお前が特別に好きだって告ったようなもんじゃねぇかよ!!!
記憶の無いお前が俺のことをちゃんと思い出すまで、この気持ちを絶対にに感づかれたくなかった。

だってそうだろ?

お前は情にもろいから・・・・俺の気持ちを先に知ったら、同情で俺を見るかもしれない。

俺はそんなの絶対に嫌だから・・・・
俺はお前から俺を求めて欲しいんだよっ・・・・

お前の心が欲しいんだっ!!



とっさに言ったバカげたセリフをかき消すように、俺は立ち上がった。


でも、動揺したが俺を追って来るのが分かったから・・・
俺はとっさにをからかって、その場をどうにか煙に巻いたって訳だ・・・
ようするに、自分の気持ちを誤魔化したって事だ・・・・



はぁ・・・・・



イケテねぇな・・・やっぱ俺って・・・・
















「だいたいお前、なんで俺のソファーにいんだよっ そもそもそれがおかしいっつうの!」


青い歯ぶらしを口に咥えながら、シカマル君は鏡にうつった私の顔を見る。


「失礼ね!私はシカマル君の為に毛布をかけてあげようと思ってたんだよ!!」


私専用の赤い歯ぶらしに歯みがきこをつけながら、私も鏡の中のシカマル君の顔を見た。


「あっやしぃなぁ・・・おい。俺の事襲う気だったんじゃねぇのか?・・・」


シカマル君は ふふん なんて涼しい顔をして、シャコシャコと奥歯を磨いてる。


「だーーーれが!シカマル君なんか!」


なんか恥ずかしくて、プイッと顔をそらして私も奥歯をシャコシャコした。



ピンッ 



その時、いきなり頬を弾かれた


「な、なによぉぉぉ///////」


「顔真っ赤だぜお前・・・・・ったく、お前は俺の前でそういう顔すんなっつうの//////」


そんな事言うシカマル君も何故だか真っ赤な顔をした。


「な、なにそれ?」


「なんでもねぇよっ あぁうるせぇ/////」


「意味分かんないっ バカじゃないシカマル君っ//////」


お互いに ふんっ て顔を反らした。


だけど、そっとシカマル君の顔を見たら、やっぱり真っ赤で・・・
そういう私もやっぱり真っ赤で・・・・

なんでか私にも分からないんだけど、でもなんか嬉しいような恥ずかしいような変な気持ち。









「さっさと飯にすっぞ!」

シカマル君は台所のなべの蓋を開けた。



「どれどれ?」


私もなべの中を覗く。
そこには甘いミソで絡められた魚が2匹残っていた。


「良かったね!シカマル君の大好物の鯖煮だよvv」


ふとそう言っただけだったのに。


「なんでお前が・・・それ知ってんだ・・よ・・・」


何気に言ってしまった言葉・・・・
シカマル君の驚いた顔を見て、私自信も驚いた・・・
だって・・・なんで私、鯖煮がシカマル君の好物だって知ってたんだろう・・・・



「わ、わかんない・・・ただそう思っただけ・・・・・」


「そ、そっか・・・・」



記憶が・・・少しだけどなんとなく戻ってきているのかな?
それともこの記憶だけ残っていたってこと?


それはすっごく些細な事だけど、私にはすっごく嬉しいことだった。
もしかして、もうすぐ私の記憶は戻るんじゃ・・・・・??

早く全部思い出したいよっ・・・・
私は自分の右手首を反対の手でギュッと握りしめた。


早く早く!!!


心臓がドキドキする。





「あんまり焦んなよっ・・・ゆっくりでいいんだからよ・・・」



シカマル君はまるで私の心を見透かしたように、そっと頭に手を置いてくれた。


その瞬間、 はッ と我にかえる。



「う、うん。」



そうだよね。
ここで焦ったらダメだよね。
だってまだ私は9割以上、何も思い出してなんかいないんだもの・・・
















心臓がドキリとした。

「シカマル君の大好物の鯖煮だよvv」

振り返って笑ったの顔。




なんで・・・俺の好物をお前が知ってんだ?
そんなの・・・俺の家族とお前以外はほとんど知らないような、ほんの些細な事のはずだ・・・


なのに、お前はそんな俺の小さな出来事まで、頭の隅にちゃんと忘れずに覚えていてくれたんだな・・・


やべぇ・・・すげぇ嬉しいかも///////


もしかして、今ここでに色々質問とかしたら、もしかしたら、もっと他にも覚えている事とか
あるかもしれねぇ・・・



俺の気がまたはやりだした・・・・







だけど・・・・


目の前で、の体が硬直しているのが分かった。
握られた手首に力が入っていることも・・・




何あせってんだよっ バカ
俺が焦ってどうするよ?
を落ち着かせろ。
まだすべて思い出せるようになるまで、お前には時間が必要なはずだ・・・・


焦らせたらダメだ。



俺はまだ・・・・待てる。
あぁ・・・ちゃんと待ってみせるからよっ




お前の心のどっかに俺の記憶を残しておいてくれただけで、充分俺は今は幸せなんだ。





だから・・・・・





「あんまり焦んなよっ ゆっくりでいいんだからよ」




それは俺の精一杯の強がりだ。














「それじゃ、私がお味噌汁を作ってあげるねvv」


冷蔵庫にはお豆腐やお野菜がまだたっぷり残っていた。


「いい。遠慮しとく・・・お前、料理得意じゃねぇし」


シカマル君は本気で嫌がっているように見えた。


「そうだったの?」


記憶がないからよく分からないけど、でもお味噌汁の作り方ぐらいは常識だから、
記憶に関係なく作れると思う・・・


「大丈夫よ!任せてっvv シカマル君は座ってていいから!!」


「マジで・・・やるのかよ?


「うんvv」



まずは野菜を切ろう!!












台所でが味噌汁を作りはじめた。
背中をむけて、まな板の上でトントンと何やら野菜を切っている。



本当・・・あの頃と変わらねぇな・・・・



「へっ」


お前、忘れてると思うけどよ・・・
毎朝、お袋と一緒にこうやって台所に立って、俺の為だって言って何かしら作ってくれてたんだよな。









『シカマルってば、昨日もまた筋トレさぼったでしょ?』

じゃがいもの皮をむきながら、チラリと俺を振り向く

『あら?そうなの?』

母ちゃんはの顔を見る。

『そうなんです!!』

『シカマル!あんたサボらずキチンとやんなさいよ!!』


朝から母ちゃんの説教だ・・・あぁ うるせぇ・・・


『筋トレなんてめんどくせぇんだよ・・・・』

俺は机にひじ着いて、何やら懸命に作っていると母ちゃんの後姿を見ながら、はぁ とため息をついた。


『そんな事だから、男子の中でも腕力とかドベなんだよ!シカマルは!!やれば出来るのに、本当もったいない!』


振り返ったの手にはまだ包丁が握られていて、その刃先がブンと俺に向けられた。


『そんなん どうでもいいってのっ  つうか、お前、包丁向けるなよ!あぶねぇだろ?』

『あっ ・・・ごめん』

『ったく・・・俺を殺す気かおめぇは!!』

『違うよ!シカマルの為に料理してるんじゃない!!』


はまた俺に背をむけて、トントンと野菜を刻みだした。


『シカマルよぉ。お前は幸せだなぁ こんなかわいい子から毎朝手料理作ってもらえるなんてよぉ』

俺の向かいの席で、木の葉新聞を読みながら、
親父はいつも俺との仲をからかって、笑った。
こっちも朝からうぜぇ・・・・


『あぁはいはい。ありがてぇよ。けどな、。頼むから食えるもの作ってくれなっ・・・』

『うるさい/////』



母ちゃんも親父も、いつだって、そんな俺達の会話を笑いながら見てた。



本当、ときたら、まったくお節介で、うるさくて、母ちゃんが2人いるみてぇだった・・・・
だけど、なんでか、が早朝任務で姿を見せない朝は心に穴があいたみてぇに感じた。


『出来たよ!特製のこの野菜たっぷりお味噌汁で力つけてね!!』


はい!お父さんにも!!なんて、俺と父ちゃんの目の前にゴロゴロと不ぞろいの野菜が浮かんだ、味噌汁というには
豪快な野菜のごった煮汁が目の前に置かれた。


不味いってほどマズくはない・・・だからって決して、すっげぇ旨い!って代物でもねぇ・・・
しいていうなら・・・『個性的な味』


『うまいうまい!!』

味音痴の親父はおいといて・・・・


『相変らず・・・なんとも言いようがねぇ味してんな・・・・』


不ぞろいの野菜を口の中でもごもごと砕きながら、俺はいつもそう言った。


『たまにはおいしいって言ってよ・・・・』


少し凹んだりしてるが、俺には本当はかわいかったりした。
だからついついからかいたくなるんだよ。


『微妙・・・・』

『シカマルの意地悪・・・』



だけど、本当は、毎日そんなん食わされてっから、俺にとっては味噌汁っていえば、のこの野菜ごった煮だと
思うまでになっちまってたんだぜ?
つうか・・・最近じゃ、これはもしかして旨いんじゃねぇか?なんて心のどっかで思っちまうほど、俺はこの味に
慣れ親しんできてたんだ。


そういやぁ・・・お前に一度も言ったことなかったよな?


『結構好きだぜ・・・お前の味噌汁』


本当はいつか言ってやるつもりだったんだ。















「シカマル君、ねぇ出来たよ!」

「え?」


前のことを思い出してて、ボーッとしていた俺の前に、コトンと遠慮がちな音をたてて、
器が置かれた。
あわい湯気がほかほかたっている。



俺はそれを見て・・・思わず息を呑んだ。
そして、はぁ とため息をついた。




(やっぱ、お前はお前だ。  すげぇ好きだよ・・・)




俺の器に中には、不ぞろいに切られた野菜がゴロゴロと入っていた。




「変わってねぇ・・・///////」


思わず へへへっ と笑った。


「なんで?なんで笑うの?シカマル君」

「なんでもねぇよ///////」


こんな些細な出来事すら、俺の心を震えさせる。
・・・お前にはやっぱ俺はかなわねぇよ///////













記憶を失ってから、はじめて作った料理。
手順ははっきりと覚えていた。
まるでいつも作っていたみたいに・・・・

だけど・・・おいしいかどうか・・・シカマル君が気に入ってくれるかどうか、すっごく心配で・・・
シカマル君の隣の席で私はしきりにシカマル君の顔を覗いていた。


別に嫌がっている訳でもなく、シカマル君は大きく切りすぎたじゃがいもを口にいれて、
もぐもぐと無言で食べていた。


「ね・・・ねぇ・・・シカマル君?」

「あ?」

頬に頬張りながら、シカマル君はとなりの私を見る。
心臓を高鳴らせながら、私は勇気を出して聞いてみた。

「お、おいしい?」






「微妙・・・・」

シカマル君は目を細めて、くくく と笑った。


「い、意地悪・・・・////////」






でも、シカマル君はそんな事言いながら、最後の汁まで全部飲み干してくれた。





「あーーー 食った食った。 ・・・ごちそうさん」


「あ・・・うん///////」



なんかすごく嬉しい・・・・
シカマル君のお腹の中に私の作った料理がおさまって、それがシカマル君のエネルギーになって・・・
なんか毎日でも作ってあげたい気持ちになっちゃう・・・


なんとなく食器を流しに置いたら、2人で洗うかんじに自然となった。


シャコシャコと洗剤をつけて、お皿をスポンジで磨く。


「シカマル君のお母さんのさば煮、おいしかったね」

「そうか?毎朝食ってっから・・・よく分かんねぇな」


シカマル君はお皿についた洗剤を水で洗い流す役。


「毎朝おいしい朝食を作ってもらえるなんて、幸せ者だよ!シカマル君は!」


そう言って、隣のシカマル君に泡だらけのお皿を渡す。
シカマル君はそれを当たり前のように受け取って、


「んなの・・・どこの家でも同じだろ?」


お皿の泡を綺麗に水で洗い流して、食器置きにたてかける。
カシャンとお皿がぶつかる軽い音が響く。


「同じじゃないよ・・・だって・・・・」


そうだよ。だって、両親がいない子達はこんなおいしい食事だって、食べられないんだよ!!!



両親が・・・いない・・・・・・・





私の頭の中に急にサスケ君の顔が出てきた。






どうして?私は今、シカマル君とすっごく幸せな時間の中に一緒にいるはずなのに・・・
なのに・・・どうしてこんな時に急にサスケ君を思い出すの?




でも、そんな気持ちとは裏腹に、サスケ君のことを思い出したら、もう止まらなくなった。



こんな時に・・・・サスケ君はいつもどんな食事をしてるんだろう・・・・
家に帰っても一人なのかな?
それより何より、ちゃんと食事作れてるのかな?・・・・

記憶もない私がシカマル君の家でこんなに大事にしてもらっているという事実に胸が痛んだ。


サスケ君はいつも一人なんだ・・・・
私がシカマル君と笑っているときも、シカママやシカパパと話しをしているときも・・・・


サスケ君が無表情に、人の輪から外れて歩いていく姿が浮かぶ。


寂しそうな背中。
でも、冷たく鋭く光るナイフのように繊細な彼には誰も心の中まで近づけない。


そして今日もサスケ君はきっと一人で修行しているんだろう・・・
いつものあの場所で・・・・


家に帰っても一人きりの食事・・・・・
笑声も普通の会話すらも聞こえない、シーンと静まり返った部屋。



サスケ君は毎日どんな思いで過ごしてるんだろう・・・・・



サスケ君のいつものクールな表情が、今はすごく寂しい顔に思い出される。







・・・どした?」


私はお皿を握り締めたまま、ずっとそんなことを考えて、1点を見つめていたらしい・・・
気が付いたら、水道の水がジャージャーと私の手をぬらしていた。
そして、シカマル君に顔を覗かれていた。


「な、なんでもない//////」


シカマル君に気づかれたくなかった。
サスケ君のことが心配で仕方なかったなんて・・・・・

どうしても言えなかった。



私はズルい・・・




シカマル君の優しさに甘えていたいから、サスケ君への気持ちをシカマル君には隠そうとしてる。


シカマル君が自分を特別に想ってくれることを本当は望んでるから・・・
認めたくないと想っても、私はやっぱりシカマル君のことも好き。

そしてサスケ君のことも・・・・


2人を同時に好きだなんて、そんな私をシカマル君に知られたくないから・・・・
軽蔑されるのが怖いから・・・・


この気持ちをどうしていいのか、本当に分からない自分が情けなくて、汚くて、ズルくて、嫌。



いつかはっきりさせなきゃいけない・・・こんな非常識で汚い私の気持ち・・・・











気づいたら、シカマル君がジッと私を見ていた。


「な、なに?シカマル君////」


とっさにした作り笑顔。



「お前さ・・・・今・・・なに・・・・考えこんでた?」



シカマル君の目はあまりにまっすぐで、あまりに強くて、今の私には直視できない。
こんな私を見ないで。シカマル君。



「別に・・・なんでも・・・なんでもないよ?///////」



焦って出した言葉はどこかぎこちなくて、嘘だらけで・・・・
また自分が嫌になった。



しばらく無言でシカマル君は私をじっと見て・・・・・・



「そう・・か。・・・ならいい・・・・・」


シカマル君は冷静に、静かにそう言って、顔を反らした。
シカマル君が食器を置く カシャン という冷たい音だけが私の心に響いた。




やだ、そんな顔しないで?





私はとっさにシカマル君に笑いかけた。



「洗い終わったねvv」


「あ?・・・・・・そうだな。」


シカマル君は最後のお皿を食器置きに置いてから へっ と笑う。





ねぇ、もっと笑ってシカマル君。
私の気持ち・・・お願い・・・・今は気づかないでいて?何も聞かないで?



私はシカマル君の前で精一杯の笑顔を作って見せた。




私はズルい女だ・・・・





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