彼女の買い物に一通り付き合ってやった。
女ってのは、どうしてこうも買い物好きなんだ?
しかも、選ぶのが長げーよ・・・・・
俺は溜息をついた。

すると、彼女は急に俺の顔を覗き込む。

「ねー 疲れちゃったの?」

「別に・・・・・」
本当はちょっと疲れて、俺は不機嫌そうに答えて
しまった。

彼女はそんな俺の顔を覗き込んで、

「これから来るの大丈夫?本当にいいの?キバ君」

「あぁ。飯食わせてくれんだろ?俺が断る理由なんかねーじゃん。」

「そういう事じゃなくてさ・・・。彼女に悪いじゃない・・・」
俯いて、考えこむような顔をする彼女。

「だから、もう関係ねーって言ってんだろうが・・・・」
キバは吐き捨てるように答えた。

キャンキャンッ!
足元で吼える赤丸。

「赤丸は違うって言ってるみたいだけど?」
彼女は少し笑って、キバの顔を覗きこんだ。

「うるせーな。んじゃ行かねー。」

「嘘嘘!もう!本当に子供ねー・・・・」

ふてくされたように無言になるキバに彼女は微笑んでみせた。


「それじゃ、行きましょうか。私の家はすぐそこだから・・・・」



彼女の家・・・・・・


俺は女の家っていったらの家しかあがった事なんてねー。
しかも一人暮らしの女の家・・・・
の家にはお袋がいるから・・・・
正確には、女の家にあがるのは初めてだ・・・・

でも・・・・なんつうか・・・・・緊張とかとまどいとか・・・
そんな感情はこれっぽっちもねぇ・・・もうどうでもいい気分・・・・







「キバーーーーーーー」

俺と彼女が並んで歩いていた後ろから、の声がした。


俺は驚いて振り返る。




は俺達の前まで追いつくと、はぁはぁと苦しそうに肩で息を
しながら、俺の顔を見上げて言った。

「やっと・・・・見つけた・・・・」

「な、なんだよ!俺になんの用だよっ」

突然のの登場に俺は動揺していた。


「キバ・・・・私・・・・キバと仲直りしたいの・・・・・・」


俺の心臓はドクンドクンと音をたてた。


「今更おせーーんだよ・・・・」

心にも無いセリフ。
でも、俺だって男だし・・・・はいそうですかって訳にはいかねーよ。

の寂しそうな顔・・・
俺の胸はズキズキと痛んだ。


「キバ・・・・・・どうしても今日、キバと会いたいの・・・・・・
 うちに・・・・うちに今晩来てほしいの・・・・・」

「今晩?」

「夕飯・・・作って待ってるから・・・・・」

「今日は無理だ・・・・約束がある・・・・」
俺はぶっきらぼうに答えた。

「何時になってもいいよ!私、待ってるもん」
・・・・お前泣きそうじゃねーか・・・・・

「行かねーぞ・・・・・」
胸がキリキリ痛む


「それでもいいよ・・・・キバが決めて・・・・・・」


それじゃぁと消え入るような声で言うと、はくるりと背を向けて
走っていった。



小さくなるの後ろ姿。


今更・・・何・・・言ってんだよ・・・・・・
俺のことなんて、好きじゃねーくせによ・・・・・


けど、俺の心は動揺して体が石みてーに硬くなって
しまった。





「やっぱり、やめておく?キバ君。無理しなくていいのよ」
溜息をついた彼女の余裕な顔

動揺している俺を見透かして、子供扱いされた事がすごく
腹立たしかった。

「さっきら、俺はあんたのとこに行くって言ってんだろ」


キャンキャンキャン!
(だめだよキバ!のところに行こうよ!)


赤丸・・・・・お前の声なんてとっくに聞こえてる・・・・
でも、俺は聞こえないフリをした。


「そう・・・・・それじゃ、行きましょ。今日の夕食はシチューなの」
女はフフと笑った。

シチュー・・・・・か・・・・・・・
俺の心はまたズキっと痛む。
の得意な料理だ・・・・・そんで、俺はそれがスゲー好きだった・・・


「シチュー嫌い?」
顔を覗き込まれる。

「まさか。大好物だぜ・・・」
俺はとっさに笑ってみせた。





小さいけれど、こ綺麗なアパート。
彼女の部屋は2階の隅にあった。



「あがって」
彼女は先に部屋にあがった。

「おぉ・・・・」
靴をぬいで、部屋の中に入る。
俺は思わず赤丸を抱き上げた。


部屋の中はきちんと整理整頓されていて、
ゴミ一つない。

大げさに言えば、空気まで浄化されてるみてーに
綺麗だ。
こんな部屋に赤丸を野放しに床に下ろすことに
すごく抵抗を感じた。

無駄なものなど何ひとつない。
しかし、逆にそれが女としての温かみさえ、消し去って
しまっているように見えた。

「ずいぶん綺麗な部屋だな・・・・」
俺は部屋の中を360度キョロキョロと見回した。

「そう?女の子の部屋なんて、みんなこんなものでしょ?」


(いや・・・それは違げーだろ・・・・・・・)

の部屋はくだらねーぬいぐるみや俺なんか全然興味
ねーような恋愛雑誌が置いてあって、いかにも女の子って
匂いがプンプンしていて、まったくガキっぽい。
この部屋と同じところなんて、たぶん一つもねーよ。



でも、俺はの部屋から感じる、のかわいらしさや
あたたかい雰囲気が好きだった。



「ここ・・・座ったら?」

俺があまりにキョロキョロと落ち着かないので、彼女は
苦笑しながらリビングの椅子を指差して言う。


「あ・・・あぁ・・・そうする・・・・・・」

俺は隣の椅子に赤丸を置いて、大人しくしてろ!と言った。

クウンッ
(この部屋嫌い・・・・・)

『うるせー 黙れ!』
俺は小声で赤丸を叱る。




「なに騒いでるの?」

トレーの上に2人分のシチュー。
あたたかな湯気がたちこめた、皿から、唾がでそうな程の
おいしい匂い。


「はい。どうぞ。」

彼女は俺の前にその一つを置いた。

「おお・・・サンキュー・・・・・」




「あっ 忘れてた・・・赤丸君にもあげなきゃね。」

彼女は小さな皿に新しくシチューをもって、机の下に
置いた。

「悪ぃな・・・・・・」

赤丸はゆっくりと椅子から降りて、自分用に置かれた皿を
覗く。

キャンキャンッ!




「それでは、ようこそ我が家へ!乾杯ね!」

もちろん中身はジュース。

「あぁ・・・・・こちらこそ・・・・呼んでくれて、ありがとな・・・・」

これはさすがに照れる・・・こうゆうの初めてだ・・・・




チンッ



グラスがあわさる音

「あーーーえっと・・・誕生日・・・おめでとう・・・・」
「ありがと」
満足気な彼女の顔



そう・・・今日が彼女の誕生日らしい。

昨日の朝修行で偶然あって、少し話しをした。
その話しの中で、彼女の誕生日の話しがでた。

誕生日は明日なのだが、いつも一緒に祝ってくれるはずの
友達が偶然任務が重なってしまって、今年は一人で誕生日を
祝うので、寂しいと彼女が言い出した。

俺はとケンカしていて、そんな彼女の話しに、思わず、
それじゃー俺が一緒に祝ってやると言ってしまったのが
そもそものキッカケだ・・・・・



「で?プレゼントは?」
意地悪い顔で彼女は俺を見た。


あ・・・・忘れてた・・・・・・・


俺は内心焦って、オドオドしてしまった。


「いいの!いいの!私はキバ君の彼女じゃないんだもの!
 そういうのは彼女にしてあげるものよね!」

彼女はあははははと笑った。


「悪ぃ・・・・」

本当、俺って気のきかねー男だよな・・・・・・
の誕生日だったら、プレゼント選ぶのに1カ月は
かかるってぇのによ。

俺には目の前の美しい女ですら、にくらべたら、
どーでも良くなっちまうのか・・・・
自分の本当の気持ち・・・でも、今更遅いんだよ・・・・


「さ!食べましょ」

「いただきます」

口に入れた途端、俺は驚いた。


これは本当にただのシチューか?



まるで高級レストランで食うような味だ。
複雑な味。
なんつうかな・・・・俺には縁遠い味・・・だ。


メチャクチャうめーな。


「すげーな・・・プロ並の味だぜ」

「そう?」
彼女は満足気に笑う


「この中身はね・・・・」

彼女はスラッとシチューのレシピを話し出す。
でも、俺には食材の名前すら聞いた事もないもの
ばかりでさっぱり分からねー。

「私、料理は素材もこだわって作るの。やっぱり高級な食材
 を使えば、味も高級になるわ・・・・」

手を組んだ仕草・・・・やっぱりコイツは大人の女。



けど、俺には・・・・・この女もこの味も合わねーな・・・・・・



俺の頭の中に、ごつごつと形の揃わないじゃがいもと、
自分が嫌いだからという理由で細かくきざまれた人参と
俺の為にと、やたらデカク切られた肉の入った、不器用な
のシチューが浮かんだ。


『今日、会いたいの・・・・』
『夕飯作って待ってるから・・・・』
『ずっと待ってるから・・・・・』


急にの言葉が頭をまわりだす。



俺の心臓はドクドクドクと激しく高鳴りだした。


とっさに壁にかざられた時計を見上げる。


夜の8時半・・・・・・・・



ガタッ

大きな音をたてて、俺は急に立ち上がってしまった。

「どうしたの?キバ君?」

彼女は驚いて、目を見開いていた。

「あ・・・えっと・・・」


どうすんだよっ・・・・

キャンキャン!
足元の赤丸の声
(早くのところに行こうよキバ!)


でも・・・・・こんな状況でいけるかよ・・・・・

俺は机の下の赤丸を睨む。



その時・・・・・

はぁーーーーー

彼女が溜息をついた。

「行ってきなさいよ。」

「え?」

「彼女のところに決まってるでしょ?」


俺の心を見透かした彼女


「違う・・・俺は・・・ただ・・・・・・・」

「もう!ガキッ!自分の気持ちに正直になりなさい!」
彼女は机を片手でドスンと叩くと、俺を睨んだ。


「だってよ・・・・・あんた一人置いていくの・・・悪ぃし・・・・
 誕生日、一人で過ごすの嫌なんだろ?」

そうだよ・・・俺はたとえ好きな女じゃなくても、女を泣かせる
ほど悪人じゃねー

「馬鹿ね・・・・私の誕生日を祝ってくれる男なら他にもたくさん
 いるわ・・・・こんなにいい女をほっとく男なんていないわよ・・・
 そうね・・・キバ君ぐらいかしら?」

彼女はわらっていた。
その笑顔に嘘は無い気がした。
俺も正直にならなきゃいけねーんだ・・・きっと。

「そうだよな・・・あんたはすげー綺麗だ。けど、俺はやっぱ
 一番好きだ・・・・」



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