次の日の朝




私はあれからキバと一言も話していない。

せっかちなキバは私とケンカをした時は、いつだって
その日のうちに仲直りしようともちかけてきた。

とケンカしたままじゃ、眠れねーんだよ」

これがキバの口癖だった。

だから昨日も、あの後、私は家でずっとキバからの電話を
待ち続けた。
でも結局、キバからは何の連絡もないまま朝になった。



「キバ・・・・私のこと、本当に忘れるつもりなの・・・・」


私は少し不安な気持ちのまま、教室に向かった。









自分のクラスまであとちょっと・・・・・・

私は急に立ち止まった。






目の前の廊下で、キバと女の人が話しをしている・・・・
私の心臓はドキドキと高鳴った。




だって、キバと一緒にいる女は、その女の人はキバが唯一褒めた女。




私達とは3歳しか歳が変わらないけれど、彼女は既に
中忍で、イルカ先生が風邪で休みをとった時に、指導に
きたことがあった。

その日の帰り道、キバは彼女の姿を思い出しているかのように、
ボーッと空を見上げながら、

「あんないい女、先生にしとくのもったいねーよな。
    俺達と3つしか変わらねーのに、妙に色っぽかったし」

といった。

「キバ・・・・・」

私はすごく動揺したのを覚えている。
だってキバが私以外の女の子を褒めたことなんて今まで一度もな
かったから。

私は急に不安になって、気づいたら、涙が出てしまった。
立ち止まって、声も出せずに泣いてしまった。


キバは私が泣いたのに気がつくと、急に真っ赤な顔で、

「バ、バカ!何泣いてんだよ!俺にはが一番だって!」

懸命に肩を揺すられたけど、私の涙はとまらなかった。

・・・・ごめん。そんなつもりで言ったんじゃねーんだって。
 なぁ・・・・・・」

優しくて、少しとまどったようなキバの声。

「だって・・・・・」
それでも涙が止まらなくて、私は下を向いたまま泣き続けた。

すると、いつものフードジャケットの中に突然ガボッと体を入れられた。
あったかくて、少し犬臭いキバの匂いがした。

キバの服の中で泣く私を、キバががっしりと抱きしめてくれた。
キバの体が密着して、心臓の鼓動が聞こえる。

「キバ・・・あの人が好きなの?」

見上げた私にキバは真っ赤な顔で言う。

「バ、バカ!んなわけあるか!!」
そして、フードの襟をたてて、誰にも見えないように優しくキスしてくれた。

キバはやっぱり真っ赤な顔をしていた・・・・
キスの後はいつも照れてる・・・・そんなキバがかわいくて好き・・・・・
「お前が一番だって!」
頭をなでる大きな手・・・あったかくて、私を安心させてくれるキバの手・・・・








彼女がその後、私達のクラスの指導にきたことは一度も無かったけど、
でも、私の頭の中に彼女の顔だけは鮮明に残っていた。
キバはああ言ってくれたけど、やっぱり気になっていた。
だって彼女は  キバが唯一褒めた女・・・・







その女の人とキバが2人で話しをしている。
私に焼もちをやかせようとして、彼女を選んだのだとしたら、あまりにも
ヒドイよ・・・キバ・・・・


私の心臓はドキドキと高鳴ったまま、足はそれ以上前にも出せず、
私は廊下で立ち止まって、キバと女の人を見つめていた。


クウン・・・キバの足元で赤丸が鳴いた。
ふいにキバが私に気づく。
でも、キバは気まずそうに視線をそらした。




その時、始業のベルが鳴り響いた。



「キバ君・・・それじゃ、また後でね」

とても優しい声。

「あぁ・・・・」

キバのまじめな顔。



そのまま、私を見ることなく、キバは教室に入っていった。
その後ろを、赤丸が悲しい目で私を見ながら、キバの後に続いていった。

「嘘?・・・・キバ・・・彼女と本気で・・・本気で付き合うの?」









授業の内容なんて、全然覚えてない・・・・
キバのことで頭がいっぱい・・・・
終了のベルがなったと同時に、教室からみんなが待ってましたとばかり
に飛び出していく。

私は必死でキバの姿を探した。

(行かないで・・・キバ・・・・・彼女と一緒に行かないでよ・・・・・)


でも・・・・キバの姿はもう見えなかった。






いつもなら、キバと笑いながら帰る道。
私は左隣にキバがいない寂しさを必死でおさえながら、とぼとぼと
歩いていた。


先の方で聞きなれた声。


「キバ・・・・・」


キバと彼女が2人で歩いていた。

親しげに笑いあう姿・・・・私は近寄れなかった。
少し距離をとって後ろを歩いた。


「でも、驚いたわ!キバ君、随分男らしくなったよね」
「なんだよッまるではじめはただのガキだったような言い方だな」
「だって、そうじゃない?はじめて授業で見たキバ君はただの悪ガキ
 だったよ」
「あんたが大人びてただけだろ?」

親しげに笑い合う2人。



やっぱりキバが彼女を誘ったんだ・・・・・
私のこと忘れるって本当だったんだ・・・・


体中の力が抜けていく感じがした。




もう・・・戻れないんだ・・・・私達・・・・・



勢いよく、背を向けて、私はキバ達と反対方向に走った。

キャンキャン!
赤丸がほえている声が後ろで聞こえた・・・・





「あら?あの子・・・・キバ君の彼女じゃない?」

キバは驚いて振り返る。
走っていくの後ろ姿が見えた。

・・・・・・」

「追いかけたら?間に合うわよ!誤解しちゃったかもよ?
 私達、今朝、偶然修行の場所で再開しただけじゃない・・・・」

「いいんだよっ もう・・・・とは終わったんだ・・・・
 だから関係ねー」

キャンッ!赤丸がキバの足元で吼える。

「うるせーな!赤丸!」
キバはプイッと顔を正面に向けると、歩きだした。









次の日


学校に行くのが憂鬱だった。
キバに会うのが怖かった。


でも、仮病を使って休む勇気もない。
私はヒナタの後ろのいつもの席についた。


ジリジリジリ


始業のベル



教室のドアが勢いよく開いて、遅刻ギリギリでキバが
教室にかけこんできた。

「お?ぎりぎり遅刻じゃねーじゃん、キバ!
 廊下に立たされるのが日課なくせしてよー!!」
ナルトがからかうように叫んだ。

「でもさ、どうせ授業中に居眠りでもして、立たされるよね。きっと」
チョウジがニシシと笑った。

「めんどくせーな。お前、今から廊下で立っとけよ」
シカマルもフンと笑っている。


でも、キバは・・・・

「うるせーな。 黙ってろ・・・・」

いつもなら一緒になってギャーギャー騒ぐキバが、凄く冷静に
静かに言った。

3人はそんなキバをキョトンと見つめている。


私の心臓がドキドキと高鳴った。


キバはいつもの癖なのか、私の方をチラッと見た。
でも、プイッと顔をそらして、別の席にドカッと座った。



胸がきりきりと痛むような感覚。
私、本当にキバに嫌われちゃったんだ・・・・・・・



キバ・・・・・


!』
キバが私を呼ぶ声が何度も何度も頭の中で響いた。
大好きだって!』
キバはいつだって私にそう言ってくれた。
キバが笑った顔が好きだった。
すぐ抱きつく癖も、首すじを噛む癖も、キスした後真っ赤になるところも、
威張ってるくせに、優しいところも全部全部好き・・・・

私はキバが一番に想ってくれてることに甘えていたんだよ・・・・


本当は誰よりキバが好きだったのに!!

どうして、もっと私はキバに素直に好きだと言ってあげなかった
んだろう・・・キバはあんなに私を好きだと言ってくれてたのに・・・・
私はどうして言ってあげれなかったんだろう・・・そうすれば


キバを安心させてあげられたのに・・・・・





思い出にしたくないのに、キバの存在が遠くに感じた。




気がつくと、とっくに授業は終わっていた。



ちゃん?帰らない・・・の?」

ヒナタが心配そうに私を見ていた。

「え?あ・・・うん。まだ用事が・・・あるんだ・・・・」

私のとっさの嘘など、きっとヒナタも分かっただろう。
でもヒナタは私を気遣って、

「そう・・・じゃぁ・・・またね」
少し微笑んで帰っていった。



そう・・・・もう一人にして・・・・・・一人になりたい・・・・・




誰もいなくなった教室で私はヒクヒクと声を出して泣いた。





今日もキバは彼女と帰るのだろう・・・・・・






教室の机にうつ伏っして、私は泣き続けた。
教室の中に傾いた陽が差し込み、夕方の時を告げるチャイムが
遠くで鳴っている音がぼんやりと聞こえた。


ガラッ


教室の扉が開いた。

私は驚いて、顔をあげる。


「・・・・・・・・・お前何やってんだよ?」

誰?

薄暗い教室・・・・でも、その姿形で誰だかすぐに
分かった。


「シカマル!!」

暗がりに頭をかきながら、けっと舌打ちする。

「こんな時間まで、お前一人で何やってんだよ・・・・」

「シカマルこそ・・・何してんのよ」
私は鼻をぐすっとすった。

「あーーー俺はめんどくせー修行につきあわされてた。
 今、帰るとこ・・・・」

(あーー いのかチョウジのね・・・・・・)

シカマルはゆっくりとこっちに歩いてくる。

・・・・お前、泣いてたんだろ?」
はーーーと溜息をつくシカマル。

私は無言になった。

「原因は・・・・キバ・・・・だな」

私はうなずきも、返事もせず、ただ俯いた。

「ったく、本当にバカだな、あいつも・・・・」
シカマルはガリガリと頭をかいた。

・・・キバなら今日もあの女と帰ったぜ」

「そ・・・う・・・・。」

やっぱり・・・ね・・・・




ガタン

シカマルは机の上に腰かけて、腕組をして、溜息をひとつついた。

「めんどくせーから一度しか言わねーぞ。」

(なんのこと?)
私は黙って、シカマルの顔を見つめる。

「キバな・・・・が作るシチューが好きなんだとよ」

「え?」
突然・・・なに?

「あれ食ったら、すげー幸せなんだと・・・・」

シカマルの言う意味がよく分からなかった・・・

キョトンとしている私にしびれを切らしたかのように、
シカマルは眉間にシワをつくって言った。

「あーもーめんどくせーな。だからよっ まだ間に合うだろ?
 お前、あいつにまだなんも言ってやってねーんだろ?」


シカマルの真剣な目・・・・・


「あ・・・・・・」


そうだよ・・・・私はまだキバに私の本当の気持ちを伝えてない・・・・
私は誰よりもキバが好きだって・・・言ってないじゃない・・・・






「シカマル・・私まだ・・許してもらえるかな・・・」

「当たりめーだろっ ホラはやく行けよ・・・・めんどくせーな・・・・・」
シカマルはまた溜息をついたけど、私は笑顔でシカマルに手を振った。

「ありがとう。シカマル!」




そして、走った。

辺りはすでに夕方から夜の匂いに変わっていたけど、
私は絶対、キバを探してみせる!
そして伝えるの!
だから間に合って!お願い!


「キバ・・・・・・」


私はあなたを絶対見つけてみせる!



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