私は自分の部屋に帰って、高鳴る心臓の音と
涙と、上がる息を必死で整えようとしていた。

さっきは、とっさにシカマルから逃げるように帰ってきて
しまった。
シカマルは私の行動をどう思っただろう・・・・

「好きでもないやつと付き合うのかよ?お前って最低だな」

さっきのシカマルの言葉。

そうだよ。私は最低だ。
そんなこと分かってる。
彼は私を本気で好きだと言ってくれてるのに、私はそんな彼
の気持ちを知りながら、心は彼を求めていない。
それなのに、私は彼と付き合うことを了承した。

シカマルに何を言われても、仕方ないよね・・・私って本当に最低だ。

だけど、でも、もう私・・・・・・辛くて、耐えられなかったんだもん。



こんなにシカマルの事が好きなのに、シカマルはいつだって、私の事
など全然気にもとめないで、いつも私より遠くの先を眺めてる。

その気持ちを知りながら、隣で笑っていることがとっても悲しくて、
寂しくて、誰でもいいから私を好きだって言ってほしかった。
シカマルをこれ以上好きになる自分が怖かったんだもん・・・・・



私は玄関先でうわーーーーっツと泣いてしまった。



幸い家には誰もいないから、泣いても理由を聞く人もいない。
けど、その事がもっと私を孤独に想わせた。


本当は、本当はね、あなたに好きだって言ってほしかったんだよ・・・・シカマル。









次の日の朝。


私は任務があって朝一で家を出なきゃならなかった。
昨日の事があったから、シカマルとは顔を合わせたくないな・・・・

そんな事を考えながら、玄関をあけて歩きだそうとすると、
目の前の玄関も同時に開いた。



シカマルだ!!



「お、おはよ・・・・・」
「おぉ・・・・」

2人で気まずい顔になった。

「私・・・その・・・今日は朝一で任務なの・・・・」
「そうか・・・・・俺もだ・・・・・・」

その後は2人して無言で一緒に歩きだした。
隣を歩くシカマル・・・・ずっと遠くを見据えながら、歩いている。

そう・・・その目・・・・・・シカマルはいつだってそんな風に私を通り越した
先を見ているんだ・・・・


私はシカマルには気づかれない程度に小さく溜息をついた。








(なんで朝からに会っちまうんだ・・・くそっ
  なんて話しかければいいんだよ・・・・・)

俺は内心かなり動揺していた。

昨日はあれから寝付けなかった。
に謝るべきなのか、そのままそっとしとくべきなのか、
アレコレ考えたけど、やっぱり答えが見つからなくてよ。

の事になると、俺の思考は停止しちまうらしい・・・・
戦略が通用するような相手じゃねーんだよな。

は単純なやつだけど、俺が予想しないことで急に泣きやがるし、
急に怒るし。 かと思えば甘えてきたり・・・・


はぁー・・・・・これだから女ってのはめんどくせーな・・・・・・



でも・・・・・・・


俺は無言のまま隣を歩くをチラッと見た。


いつもなら、俺を見つけるなり、腕にひっついてきて、俺ですら
ドキッとするようなかわいい笑顔で笑う・・・・
でも今は俺の顔も見ずに、少し間をとって俺の隣を歩いている。

俺はそのことに違和感を感じていた。

いつもは腕にひっつく
「もうちょっと、離れて歩け!」とか言ってる。

けど、今は・・・・違和感なんて言葉じゃ片付かねー・・・・
このほんの数センチの距離が、俺にとっちゃー何メートルにも
感じる。

すげー寂しい。
俺を見ないお前がすげー遠いやつになっちまったみてーだ・・・・


俺は・・・・今、お前に何をしてやればいい?
何をすれば、お前をつかまえておけんだよ?・・・・・・





『大丈夫だよ、シカマル・・・・だってシカマルには影真似の術があるじゃない!』




それは以前、チョウジが俺に言った言葉・・・・・・

なんで急に今になって思い出すんだ?




はぁーーーー・・・・・無理だぜ、チョウジ・・・・



だってよ、影真似すれば、確かにの体をつかまえておくことは出来る
だろうけどよ・・・・・・
心まではつかまえておくことは出来ねーだろうが・・・・・・






「じゃ、私はこっちだから・・・・・」

ふいに隣を歩いていたが俺の顔を見て言った。

「あ、あぁ そうか。」

俺は急に意識が現実にもどされた事で、少しどもって言った。

「じゃあね。」
「おぉ・・・・・」

俺にくるりと背を向けて、別れ道を歩いていく
小さくて、細いの背中を抱きしめたいと思った。

今ここで強引に抱きかかえて、どこかに連れていっちまおうか?

俺はそんなことをぼんやりと思いながら、どんどん小さくなる
背中を見つめていた。

「でも、そんなこと俺にできるわけねーよ。」

溜息と苛立ちがまじったような苦い感覚。
俺はを他の男に渡すことしか出来ねーのかよ・・・・・・
俺はうつむいて、目を閉じる。

もう一度顔をあげたとき、の姿は既に見えなくなっていた。









お昼になった。
私達のチームの任務は無事に終了した。

私が帰ろうとしたら、後ろから声をかけられた。

ちゃん!」

あ!

彼が私に駆け寄ってきた。

息があがっている。

「良かったーー。ちゃんの姿が見えたから、急いで
走ってきたんだ」

肩で息をしながら、彼は額の汗を片手でふき、ニコリと笑った。

「あ、ごめんなさい。私、気づかなくて・・・」
「いいのいいの!」

彼は両手を顔の前で振りながら、申し訳なさそうに言う。

「俺が勝手に追ってきただけだから・・・・あはは」
照れたように笑っている。
私もつられて笑った。

(この人はなんでこんなに私を大事にしてくれるんだろう・・・
  シカマルだったら有り得ないなー。私の為に走ってくるなんて・・・)

私の頭の中に、涼しい顔をして、けっ なんて悪態をつくシカマルの顔が
浮かんできた。


い、いけない・・・・なんでこんな時にシカマルを思いだすのよ・・・・


「ところでさ・・・・明日のデートなんだけど・・・・・」
彼はちょっと目を伏せ気味にしながら、頬を紅くしてボソッと
つぶやいた。

「え・・・映画見にいかない?」

「うん。いいよ。」

私がふたつ返事でそう答えると、彼は目を見開いて、

「本当?良かったぁ!実はもうチケット買っちゃったんだよね!」

満面の笑みで、私の目の前でチケットをひらひらとふって見せた。

クスッ

なんか、良い人だなーこの人・・・・・
シカマルだったら・・・・・・・

私ったら、またシカマルのこと考えてる・・・・・・・

私は彼につくり笑顔をみせながら、心ではシカマルのことを思っている
自分を反省した。



その時



ガサガサッ


草をかけわける数人の気配。
私と彼が音のするほうを振り向くと、そこには・・・・・・・



シカマル!
いの!
チョウジくん!



3人もやっと任務が終わったらしく、手足に無数の細かい傷を
負っていた。

「あれー?!」
いのが大きな声で言った。

「あ・・・・・う・・ん。」

「ははーーーん?これが例の彼ね?」
いのは サササッ と彼の前にやってきて、顔を覗き込んで、目を細めて、
ふふふと笑った。

「ど、どうも・・・・」

彼は顔を紅くしながら、恥ずかしそうにいのの顔を見た。

「ねー案外ハンサムなのねー!見て見て!の彼氏だってさ!」

いのは後ろに立っている、シカマルとチョウジ君に叫んだ。

「いのー!やめなって。彼、困ってるよー。」
チョウジ君はちょっと小さい声でいのを手招きして、呼び寄せよう
としている。

私は恐る恐るシカマルの顔を見た。

シカマルは眉間にシワをよせながら、無言で彼の顔を見ている。



「君がシカマル君・・・・だよね?」


え?


私は彼を振り返って顔を見上げる・・・・
(何?)
突然、彼がシカマルの名前を呼んだので、私はびっくりした。

「君にひとつ断っておくよ。明日、とデートする。」

彼の声はさっきとはうって変わって、低くて少し凄みがあった。

「だから、何だよっ」
シカマルはすごく怒った顔で彼の顔を見つめている。

「いや・・・・ただ君に伝えておきたかっただけだ・・・・
 はもう僕のものだってね・・・・・」

周りにいたチョウジ君といのは彼とシカマルのやりとりを、オロオロしな
がら見つめていた。

ポケットに両手をつっこんだまま、彼を見下すように、シカマルが言った。

「けっ お前、ずいぶん自信がねーようだな。
    俺にを取られるのが怖えーんだろ?」




シカマルがそんなことを言うなんて以外だった。




「なに!」
彼がシカマルに食ってかかろうとしたのを見て、私はとっさに
彼の体にしがみつき、
「やめて!」
と言った。
彼は興奮した様子で肩で息をしている。
ハァハァと上がった息が私の頭にかかっていた。

こんな姿の彼を見るのは初めてだった。
私はすごく怖くなった。
「やめて!! ねー お願い。」
必死で彼の体にしがみついて、止めた。






「おい。 いの、チョウジ、行くぞ。」

私達に背を向けてシカマルは歩き出した。
「ま、まってよ!シカマルーーー」
チョウジ君が後から追いかける。
「あ、あのさ、なんかごめんねー!またね、!」
いのが申し訳なさそうに、手を振りながら、シカマルの後を追って行った。



私は3人の後ろ姿をずっと見つめていた。

(俺にを取られるのが怖えーーんだろ?)

シカマルの言葉・・・・・冗談・・だよ・・ね?

私の心臓がドキドキと高鳴っていた。

「ご、ごめんね。なんか恥ずかしいところ見せて・・・・」

彼に声をかけられて、ハッと我に返る。

「え?あっ・・・・ううん。・・・」

私はとっさに首を横に振ったけど・・・でも・・・・・でも・・・・・
もしあの時、本当に彼がシカマルに殴りかかっていってたら・・・・

そしたら私は一体どっちをかばっていただろう・・・・

その答えは言葉にしなくても、自分でもわかってる・・・・
私の心の中にいるのは・・・・彼なんかじゃない・・・・
私は彼を・・・やっぱり愛してあげられないよ・・・・・・


















「くそっ」

俺はいのとチョウジと別れて、一人で草むらに寝っころがって、
とあの男の顔を思い浮かべていた。

あたたかい太陽の光が俺を包み込んでくれてるっていうのに
胸のあたりがムカムカして、俺は目を閉じながら、眉間にシワを
よせていた。



「ちょっといいかな?」


頭の上に人の気配を感じたと思ったら、名前を呼ばれた。
俺はそれが誰だかすぐに分かったから、かったるそうに目を
ゆっくりとあけた。

「まだなんかあんのかよ?めんどくせー
    それとも俺を殴りにでも来たのか?」

俺は寝転んだまま、フンッと鼻をならして、また目を閉じた。


「さっきは悪かった・・・でも、僕は君の気持ちをはっきり聞きたい
 んだ・・・・」

俺は何も言わず、男の顔をじっと見た。

は・・・・きっと君のことがまだ好きなんだろう・・・・
 そんなことは分かってる。でも、君はのことなんて好き 
 じゃないんだろう?」

男はいいとも言ってないのに、俺の隣に座って、そう呟いた。

「僕はが好きだ!全てを愛してる!僕はいつだって彼女を
 見つめてきた。君なんかより、僕の方がのことをよく分かってる
 つもりだ!」



「あ?」



さすがの俺もその言葉にカチンッときた。

(お前が俺よりを知ってるだと?ふざけんなよっテメー)

俺は上半身だけ、ゆっくりと起こし、草の上にあぐらをかいて、
男の顔を見た。

「お前がの何を知ってるんだよ・・・・・・」







男はゴホンッと一つ咳ばらいをした。

「僕はちゃ・・ん・・・いや・・彼女の料理が得意な女らしい一面を
 知っている」


「は?」
が料理が得意で女らしい?)
俺は正直、こいつは誰のことを言ってるんだ?という気持ちだった。



「この前、僕の為にお弁当を作ってきてくれた・・・その時食べた
 きんぴらはすっごく美味かった。」

男はその時の味でも思い出してるっつような幸せそうな顔で言った。



・・・・俺は正直、ズルッとこけそうになった。

(おいおい・・・・・・あのなー。の得意な料理ってぇのは、
 お前の食った、きんぴらと俺の好物の鯖煮だけなんだよ!
 あとの料理なんざ、食えたもんじゃねー。
 ・・・そういうのは料理が得意っつうのには入らねーだろっ)


はぁーーーーこいつはとんだ勘違いしてんじゃねーのか?

俺は深い溜息をついた。
「で、それから?」


「僕は彼女が術の訓練を遅くまで頑張ってやっているのを知っている。
 ボロボロになりながらも必死で修行している彼女は努力化で、
 すばらしい人だ」

目を輝かしながら、語る隣の男を見て、俺は一層猫背になり、溜息も
だんだん深くなっていった。


(確かに、が強くなりたいと修行を重ねているのは俺も知ってる。
 ・・・・・・・・けどな・・・その後、俺の部屋に転がりこんできて、疲れただの
 文句ばっか言って、挙句の果てには八つ当たりまでされてんだぞっ俺は!)


俺は頭をガリガリとかいた。
「それから?」
なんかもー 聞くのもめんどくせーな・・・・・


「なんといっても彼女は他人に優しい。よく後輩の悩みを聞いてあげて
 いる姿をみかける。他人の気持ちになって考えてあげられるような
 心の広い人だ」


あーーーはいはい。確かに聞いてやってるわな・・・後輩のくっだらねー相談
とかいうやつをよ・・・・・・


(けどな・・・・・は他人の相談とやらに懸命になりすぎて、自分のことのように
 怒りだしたり、泣いたりしやがってよ。 それを毎回なぐさめてやってんのは俺だ
 ってーんだよ!あーーー めんどくせーー)

俺はこの男の大きな勘違いに少し同情した。
「まだ・・・・あんのかよ?」

もちろんだ!とか言ってやがる・・・こいつ・・マジ、めんどくせー。

「僕が少しぐらいの無理を言っても、必ず笑顔で合わせてくれる。
 彼女は今時めずらしい、男の3歩後ろを歩いてくれるような
 大和撫子だ!」


俺は本気であくびがでそうになった・・・・


(まぁ・・・確かにな・・・・・・合わせることはするやつだ・・・・・けどな・・・
 その後、何かにつけて、あの時は私が折れてやったんだから今回は
 言う事聞けだの、なんだの、結局最後はのわがままを聞くはめに
 なんだよっ)


この男は・・・・天然か?それとも・・・・マジでバカか?

あーーー どっちにしても、これでハッキリしたぜ・・・・・・・
俺の気持ちも・・・・・な・・・・・・





「どうだい?シカマル君。僕のに対する本気の気持ちが
 分かってもらえたかな?」

男は自信たっぷりに俺の顔をみている。


「あぁ。 よーーーっく分かったぜ・・・・・・・」


俺は一つ伸びをして、答えた。









「悪ぃが、やっぱ、お前には渡せねーや・・・・・」





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