あの日からどれだけ時間が過ぎただろう・・・


会わない時間を数えるのは辛いから、カレンダーも日付も必要な時以外
なるべく見ないようにした。


なのに薄れないシカマルの記憶。


意地悪でぶっきらぼうな声
指が長くて、骨ばった大きな手
細身のくせにがっしりした体
私を安心させる優しい匂い
眉間によせたシワとへの字に曲がった口
時折みせる優しい笑顔



私を呼ぶ心地よい響き。





どうして忘れられないのかな?





どうして今でもこんなに好きなのかな?




シカマルはきっと私のことなんてもうとっくに忘れてしまっているのにね・・・

だって・・・

真向かいのシカマルの部屋。
窓にはいつもカーテンがひかれている。
窓から続くシカマル特製の縁側にシカマルの姿は今日もない。

こんなに近くにいるのに、あなたの声はいつも聞こえない。




任務が重なることも無く、あんなに偶然のように里の繁華街で会っていたのが嘘のように
私たちが顔を付き合わせることは無かった。

まさか、前はシカマルが偶然を装って私を探して会いに来てくれてたのかな?

そんなことを考えてしまうほど、私達をめぐり合わせる偶然は起こらなかった。

でもその方がいい。
シカマルといのが一緒にいる姿を見るなんて、絶対に嫌だから・・・
シカマルの顔を見たら、私はまた泣いてしまいそうだから・・・







今日は夕飯のおかずが何もなくて、私は夕方にトボトボと繁華街のスーパーへと向かう。


もう今は偶然とかありえないって思えるまでになった。
忍びとして任務をこなしているうちは、任務の場所や終了の時間が重なることなんて
まず無いんだなぁ・・・なんて考える。

それに、これだけ会えないってことは、シカマルとは本当に縁も切れちゃったんだろうし・・・






案の定、私とシカマルの家へと続く1本道で、今日もシカマルに会うことは無かった。





スーパーで適当なものを買い、私はすでに薄暗くなった外に出る。

なぜかため息がひとつでた。

「はぁ・・・」









「お前もだいぶ弱ってんなー・・・」


え?


懐かしい声。
私の頭がその声の主が誰なのか考える間も与えず、私の目の前には大きな人影が
立ちはだかっていた。


キャンキャンッ


「キバ!!」

「よぉ!久しぶりだな。。」

キャンキャンッ



鋭い眼光。
ツンツンとがった頭。
なんか懐かしいなぁ・・・・


「お前に話しがあんだけどよ・・・ちょっと付き合え。」

「え?」

私がまだ返事もしていないのに、キバはクルリと踵を返して、スタスタと歩き出す。

「ちょっとちょっと!待ってキバ!」

私は慌ててその後を追った。

でも、キバは何も言わず、振り返りもしないでドンドン先に行ってしまう。

「ねぇ・・・どこ行くの?」

「別に・・・俺はどこだっていいんだけどよ。お前と話しできるとこならな。」

「う・・・・うん」
強引だけど、そんなキバがすごく懐かしくて、会えたことが嬉しかった。

多分私は重ねてしまってるのかもしれない・・・・
シカマルの隣には必ずキバ達がいた。
だから目の前にいるのはキバなのに、なんだかあの頃のシカマルに会えたような錯覚をしている
のだろう・・・


「まぁ・・・ここにすっか。」

キバが立ち止まった喫茶店。
私が大好きな抹茶あんみつが置いてあって、よく渋るシカマルを無理やり連れて一緒に
食べに来てたところ・・・・

「う・・・うん。」

キバがここを選んだのは偶然なんだろうけど、私の胸はますます目の前のキバとシカマルを
錯覚してしまいう。

壊れそうなぐらいにドキドキしてきてしまった。




カランッ



懐かしいドアベルの音。



--------------シカマル-------------------



まだ思い出に出来ない私に楽しかったシカマルとの思い出が頭を巡る。








『ねぇシカマルーーー抹茶あんみつ食べたいよぉ』

『は?俺は別に食いたかねー』

本から目を離して、シカマルは思いっきり眉間にシワを寄せて応える。

『私は食べたいっ 食べたいよぉ』

ばたつく私に

『んじゃ食ってくりゃいいだろ?うるせーなお前は・・・』

シカマルがそっけなく言った。

『やだ!私はシカマルと一緒に食べたいの!』

『何訳わかんねーこと言ってんだよっ 食えるかっての、そんな甘いもんなんてよ!』

シカマルはふんっと顔をそらした。

『いいもんっ 一人で行くもん。でも寂しいから、また知らない男の人に声かけられちゃったら、
 今日は付いていっちゃうかも・・・』

チラッとシカマルを見たら、やっぱりシカマルは本から目を離して眉間にシワを寄せていた。

『なんでそうなるんだよっ』

バシンと床に置かれた本

『あのなぁっ どこの誰かも分かんねー男なんて、何されるか分かったもんじゃねー・・って、
 いつも言って・・』




『それじゃぁ 守ってvv シカマルッ』

『え?・・・・・』

その後はしばらく無言で、真っ赤な顔で。・・・・・シカマルかわいい!!何照れてんの?

『はぁ。これだからお前がいると、めんどくせーんだよ。』

文句タラタラ、おまけに肩をコキコキ。

でも、

『仕方ねーな。 今日だけだかんな。ったく、めんどくせー・・・』

嘘嘘、本当は心配してくれてるんでしょ?
それでもって、私が甘えたら嬉しいくせにさーっ
素直じゃないよねーっvvv


『あ?お前、何笑ってんだよ?』

『笑ってなんてないよぉ。嬉しいだけだよ』

『バーーカ』

でもね、シカマルはギュッって手を握ってくれる。

『仕方ねー。んじゃ行くか』

『うん』






顔をつき合わせて、

『ね?おいしいでしょ?』

『あーーー結構イケるな。うまい。』

『ねぇ・・じゃぁここの抹茶あんみつが食べたくなったら、シカマル誘っていい?
 その時は絶対一緒に行ってね?』

『・・・・なんだよ・・それ・・・強引な約束だな・・』

『いいの!いいの!約束だよ?』

私はシカマルの小指に自分の小指をからませて、強引に振る。

『ったく・・・めんどくせーやつ。 けど、うまいから、まっ いいか』

ふあぁとあくびを一つするシカマル。


でも、その日からずっとシカマルと会いたい日はここの店に来たいとだだをこねた。
どんなに忙しい時だって、シカマルはちゃんと来てくれた。
いつもの席でいつもように2人で向かいあって、2人きりの楽しい時間だった。


本当はね、ここの抹茶あんみつが好きなんじゃなかったのかもしれない。
ただ、シカマルと外でデートできて嬉しかったから・・・









、お前何ボーッとしてんだよ?」

キバの声にビクリと反応する。
一瞬にして色々な思い出が頭を巡っていたことに自分でも驚いてしまった。
でも、もっと私を動揺させることをキバが言うから・・・・

「あそこ座るか」

「え?キバ・・・どうして?」

その席はいつもシカマルと私が一緒に座っていた席。

「なんだよ。いいだろ?どこだって」

キバはまたズカズカと歩き出して、いつもシカマルが座っていた席にドカッと腰をおろした。

私の心臓がドキドキと音をたてる。
店内の明るい照明が外の薄暗さをかき消して、私の目にくっきりと形をうつした。

目の前にいるのはやっぱりシカマルじゃないっ キバなんだ・・・

その現実に胸が苦しかった・・・
私は何を勘違いしてるんだろう・・・何を期待してたんだろう・・・
ここにシカマルがいるはずなんて無いのに・・・
もうシカマルなんて関係ないのに・・・・
もうあの頃に戻れるはずもないのに・・・・

私もそっと席についた。




「なんだよ?俺じゃ不満か?」

キャンキャンッ

キバが意地悪な顔で私を覗き込む。

「そ、そんな訳ないでしょ?ただ・・・」

「ただ?」

(ここはシカマルと一緒に座ってた席だから・・・・)

でも私はそれ以上なにも言わなかった。

「お前さ、かわいい顔して以外と強情なんだなっ」

「え?」

私の言葉なんて全然聞いてなくて、キバは店内をきょろきょろして

「ねえちゃん 注文!」

とウエイトレスを呼んだ。

「ご注文は?」

綺麗な女の人がメモを片手にやってきた。

「えっと・・・」

私の言葉を遮るキバの言葉

「抹茶あんみつ、2つな!!」

「キバ!!」

どうして?この場所を選んだのは偶然じゃないの?この席に座ったのは?

「なんだ?驚いたって顔してんなー」

 ニシシと笑ったキバ。

「だって・・・なんでキバが私の好物を知ってるの?なんでこの場所を・・・」

「シカマルがうるせーから覚えてたんだよっ」


キバの言葉からシカマルという名前がでたことに私の心臓はドキドキした。


「あいつさー、めずらしく俺に白状しやがったんだよっ」






『あーー胸やけした・・・・』

『なんだよ?シカマル、お前辛そうじゃん』

『まぁな・・・昨日の抹茶あんみつがきいた・・・』

『抹茶あんみつだぁ?なんだそれ?』

俺は胸をさすって眉間にシワを寄せているシカマルの顔を覗き込んだ。

と約束しちまったんだよ。あいつが食べたいって言ったら、必ず付き合うってな・・・』

『だっせーー んなの、今日は食わねーって断わりゃいいじゃねーか』

『それが出来ねーから苦労してんだろうが・・ったく 死ねバカ・・・』

『なんで?お前が怖いんか?』

『その逆だ・・・・』

『は?』

『あんな嬉しそうな笑顔を見せられたら、断れるかっつうの。』










「俺が根掘り葉掘り聞いたらよ、店の名前とかいつも座ってる場所まで教えてくれてよっ
 あいつもバカだよな?お前の笑顔見たさにこの店に来てたらしいぜ。」

ニシシと笑うキバ。


知らなかった・・・・

シカマルが無理して付き合ってくれてたなんて・・・
私の笑顔が見たいから?
シカマル・・・本当?・・・私・・・胸が痛いよ・・・・







目の前に置かれた2つの抹茶あんみつ・・・・



キバはパクリと食べた。

「甘えーーー。シカマルよくこんなの毎回食ってたぜ。」

「・・・・・」
何も言えない・・・・

「あいつ、お前にべた惚れだかんなっ」

キバはまたパクリと食べて、苦い顔をした。
キバの言葉に私の胸はズキンと痛む。

「そんな・・・訳・・ない・・・シカマルが好きなのは、いの・・だったんだから・・・」

「そんな話しは聞いたことねーな・・・」

キバは私の目をジッと見つめた。

「でも・・・そうなんだよ・・・だから・・私・・別れたんだから。」

「やっぱりそうかよ・・・お前もシカマルの為に別れたんだな?
 いのの事が好きなシカマルに、自分が側にいちゃ悪いと思って・・・そうだろ?」

キバの真剣な顔。

「・・・・そうだよ・・・・・」

はっきり言われると悔しい気持ちが湧いてくる。
本当はいのに渡したくなんか無かった・・・・

「お前、本当にバカだな。なんであいつを信じてやらなかったんだよっ」

「信じる・・・?」

「シカマルもな・・お前の為に別れたとか言ってやがった・・・・」

「え?」

私のため?・・・・

「俺はな・・・お前らが別れようと、別に興味ねー。 けどな・・・・お前ら見てると
 ムカツクんだよっ お互いまだ好きなくせによぉ・・お互いの気持ちを尊重してやろう
 なんざ勝手な言い分だ。」

「キバ・・・・」

「相手を思って別れただと?んじゃ、お前ら2人とも今幸せなのかよ?」


シカマルと別れて幸せ?・・・そんなことありえない。


「お前、シカマルが今どんな状態か知ってっか?」

首を横に振る。
何も知らない。
だってあれからシカマルに関する情報にはいつも耳をふさいできた。


「あいつ無理して遠征の任務にばっか就きやがってよ。最近はスリーマンセルの任務に顔
 すら出してねーらしい。」

キバはグラスの水をゴクリと飲んだ。





だから・・・私はシカマルと会えなかったんだ・・・・
シカマルは木の葉にいないんだ・・・





そういえば、ここ最近、人手不足の他里に出稼ぎを募る募集があったことを思い出す。





「お前さ・・・いいのか? もしシカマルが見知らぬ土地で死んじまってもよぉ」

「え?」

シカマルが・・死ぬ。
何言ってるの?キバ・・・・
心臓がバクバクいって、目の前が真っ暗になる。

「このまま意地張って、シカマルに会えないまま、あいつが死んでもいいのかって聞いてんだよ!!」

「やだっ !! そんなの嫌だったら!! 」

私は思わず机から立ち上がる。


食べ残した抹茶あんみつがガチャンとゆれた。




「だったらもう意地張ってねーで、あいつに会ってこいっ!! もうすぐシカマルが遠征からもどって来るんだよっ
 この機会を逃したら、また何ヶ月先に会えるか分かんねーぞっ」



シカマルが・・・もどってくる?
シカマルに会える?
でも今更どんな顔で会えばいいの・・・

でも会いたい・・・シカマルに会いたい・・・たとえ拒絶されても、一目見るだけでもいいから・・・・


「キバ・・・私・・・どうしたらいいの?・・・・」

「そこまで面倒みきれるか!お前が自分で考えろっ 俺が言えるのはここまでだからな。
 行くぞ・・・赤丸・・・」

キャンキャンッ

キバは赤丸をフードにつっこんで、席を立った。

私は何も言えずにキバの後ろ姿を見ていた。
キバはくるりと私を振り返る。

「お前らのこと・・みんな心配してんだぞ・・・俺達、仲間だろ?」

キバは最後に優しい顔でニシシと笑った。
キャンキャンッ 赤丸も笑ってくれた。


「ありがとう」

最後にかけた私の小さな言葉、キバは振り向かずに片手だけあげて
帰っていった。


カランと音をたてて閉じられる扉。





キバの話し・・・本当なの?

私のために別れた・・・
スリーマンセルに顔すら出していない・・・・
シカマルといのは・・・付き合ってないの?


だって・・どうして?  





『好きだ・・・

お祭りでシカマルに言われた言葉が今になって私の胸にこだまする。


『ちがうの!!』

泣きじゃくるいのの顔。
私を引きとめようと必死だったいのの顔が思いだされる。




私とシカマル・・・・私といの・・・・
私達の選択した別れは・・・本当に正しかったの?

私達・・・・

違う・・・この別れを選択したのは・・・私だ・・・・・・


今更、私の心は後悔でいっぱいになった・・・
どうして私はもっと2人の話しをちゃんと聞けなかったんだろう・・・
本当のキスの訳を・・・
本当の2人の気持ちを・・・

そしたら私達はこんな辛い別れをしなくてすんだの?・・・・


キバが最後に言ってくれた言葉・・・大切な仲間・・・


私達はまた昔のように戻れるようになるの?
また大切な仲間に戻れるの?

でも・・・私は今更どんな顔して会えばいいの?

頭と心が混乱する。
会いたい・・・でも・・・・

心臓がドキドキして、私はしばらく席を立ち上がることも出来なかった。




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