その日から私は いのともシカマルとも話していない---------------





もともと班も違うし、任務が重なることも無かったから、幸いどこかで会うなんてことも
無かった。

任務後はなるべく里をフラフラするようなこともせず、まっすぐに家に帰った。
里で偶然10班に出くわすこともあるだろうから・・・

もう顔をみるのも辛いから・・・・





トボトボと坂をあがって、家へと向かう。
私が向かうのは誰もいない真っ暗な家。
そこが私の帰りたい場所で在るはずが無い。

足取りも自然と重くなる。

毎晩のように、真向かいのシカマルの家に夕飯を食べに行っていた私。

今はまったく行っていない。


シカマルも呼びに来ない。





だって、お互いもう必要としない存在なんだもんね・・・
別に私がいなくてもシカマルは平気だろうし・・・
私だってシカマルの顔を見なくても、全然平気なんだから・・・・


そうだよ・・・シカマルが今一番大事なのは・・いの・・なんだから



『あれは俺が酔ってしたことだ。あいつのせいじゃねー。いいか! お前といのはまた
 親友に戻れんだよ!!』



シカマルは最後までいのをかばった・・・
そして自分を嫌いになれと言った。

いのと元のように親友にもどれと・・・・・

あなたを失ってまで・・・そんなこと・・・出来るはずないでしょ?
唇をグッと噛みしめる。



夕焼けに伸びる私の影。



目の前にもう一つ人影が見えた。




懐かしい声。






「おばさん・・・・」

シカマルのママが玄関先で私を待っていた。



「今日、うちで久しぶりに夕飯食べない?」

笑った優しい顔。

「ごめんなさい・・・私・・・・」

「うちのバカ息子・・今日はいないのよ。 夜勤で遅くなるって連絡があったの・・・・」

シカママはどこまで知っているんだろう・・・

「おいで、。一人で食べる夕飯なんておいしくないでしょ?」

優しい声。




シカマルと私とシカママとシカパパと・・・笑いあってた食卓を思い出す。





『おまえはいつまでたっても中忍の風格ねぇよなぁ・・・』

シカパパが箸をシカマルに向けて、ケラケラと笑う。

『うるせーな。俺は別に中忍なんてなる気も無かったんだっつうの。めんどくせー』

シカマルは鯖煮を口に頬張りながら、ぶすっとした顔でこたえる。

『あーーら。やる気の無いところとか、いまだに風格無いとこなんかあんたソックリじゃない?』

シカママがチラリとシカパパを見る。

『あーーーぁうちの人間は分かってねーなっ この俺の隠れた威厳をよ!ったく。
 なぁ ちゃん?』

シカパパは決まって私の頭を撫でてくれた。

『なににこびてんだよ?ったく だらしねーな。親父。』

私の頭に置かれたシカパパの手をギュッとつねるシカマル。

『うるせー!!お前、ちゃんにこんなことも出来ねー ガキのくせにっ』

シカパパは座っている私を強引にひっぱって抱き寄せた。

『きゃっ////』 

私が真っ赤になると、

離せよっ!このエロ親父!』

シカマルは、シカパパの腕から私を引っ張り出して、自分の胸へと押し付けた。 

『お前こそ・・・親の前でずいぶん大胆だなっ』

シカパパはそんなシカマルにニシシと笑った。

『あーーーら、うちのバカ息子も結構やるじゃない?』

シカママもニシシと笑った。


すごく照れて、シカマルと私はパッと体を離す。
そして、私達はお互いに顔を見合わせて真っ赤になった。


何も言わなくても、言葉にしなくても、お互いに離れられないほど大好きだって
分かりあえてたつもりだった。

私にとって・・・シカマルと一緒にいられる時間が一番大切だったんだよ。
ずっとずっと好きだったんだもの。  何よりも大事だったんだもの。


まさか、私の目の前から、こんな幸せな光景が消えちゃうなんて夢にも思ってなかったもん。


今私は真っ暗な世界にいるようだよ。


私はきっと、シカマルがいない真っ暗な暗闇の穴に落ちてしまったんだね・・・・
一生這い上がることなんて、きっと出来ない・・・深い深い穴の底に・・・








・・・おいで。」

優しい声に導かれるように、私は懐かしいシカマルの家へとシカママの背中についていく。


(大丈夫。今日はシカマルはいないんだもの・・・平気だよ・・・・)


本当はシカマルを失って壊れそうな心を毎日必死で抱えて生活していた。
少しでもシカマルを思い出すようなものを見たら、私はきっと取り乱してしまうかも
しれないと自分でも不安だったから・・・・


でも、きっと大丈夫。
シカマルに会わなければ・・・きっと平常心でいられるよね・・・・・
それでも私の心臓はおさえなければ壊れていまいそうなほどドキドキしていた。



玄関の戸がガラガラと音をたてて開けられる。



懐かしい音・・・・



それすらも、私の心を熱くさせた。








いつものシカママのあたたい匂いがする食事。




誘われるようにリビングの机へと向かった。



すでに用意されている2人分の食事。


「今夜はね、お父さんも任務でいないのよ」

シカママは恥ずかしそうに呟いた。

「それじゃー女2人で水入らずですね」

私もニコリと笑った。
久しぶりに笑った気がする。
心がポッと温かくなる感じがした。


「おいしい?」

「はい。とっても!」

私とシカママはときおり ふふふ と笑ったりして、静かに、でもとても温かい気持ちで
食事をとった。

「ねぇ・・・。」

ほとんどの食事を食べ尽くしたところでシカママが私の目を見つめて言った。

「は・・・い。」

なんとなく心臓がドキドキした。

「あの日・・・お祭りのあったあの日・・・何があったの?」

心臓がバクバクする。
何も言えなかった・・・私はうつむいてしまった。

「そうね。今思えば、その前からあんた達はどこかおかしかったものね。」

シカママは考え込むように、目線を右下にもっていった。

「けど・・・またいつものくだらない喧嘩だと思ってたわ・・・一緒にお祭りに行けば、
 また笑って2人して帰ってくるって・・・・」

笑ったシカママの顔がすごく悲しそうに見えた。


「まさか、あの子があんな風に変わっちゃうなんて・・・初めてだったから、ちょっとびっくり
 しちゃってね・・・」

「あんな・・ふう・・に?」

シカママの言葉の意味が分からなかった。
シカマルがどう変わったの?シカマルに何があったの?





「あのバカ息子さ・・・あのお祭りの日からずっと笑わないのよ・・・」





寂しそうに少し微笑んだシカママの顔。

「もちろんさ、あの子はいつだって無愛想なぶっちょう面だけどさ・・・でも、違うのよ。
 全然、笑わないの。まるで心を閉じちゃったみたいにね・・・」

顎に組まれた手。
まるで私に助けを乞うような寂しそうなシカママの顔。

「私・・・」

何も言えなかった。
だって今の私にはどうすることもできない。

でも・・・まさか・・・・

シカマルが笑わなくなったのは・・・・私のせい?・・・・・・









その時




ガラガラ----------------------




急に玄関の開く音がした。


「あら?お父さん?」

シカママはゆっくりと立ち上がって、玄関に向かっていく。

私は今日はシカパパとも話しずらいので、挨拶だけして帰ろうと玄関に向かう。



でも、--------------------



「シカマル!あんた夜勤は?」

シカママの声に私の体は玄関に入る入り口の前でビクリと止まった。

(ど、どうして? 嫌だ!会いたくないっ シカマルの顔を見たら私・・・)

足がガクガクと震えた。


「中止だとよ。」

乱暴に靴を脱ぐ音。

(やだ!入ってこないで!)

私はとっさに玄関にでた。




!!」

見開かれたシカマルの目。

私の目の前には、シカマルが呆然と立ち尽くしている姿が見えた。



「そうよ・・今日はがいたのよ・・・」

シカママの手が私の肩に置かれた。
そしてママはリビングへとゆっくりともどっていく。




玄関には私とシカマルの2人だけが残された。





あぁ シカマルだ。


------------------------シカマルがいる--------------------------



ほんのちょっと会ってなかっただけなのに、また背が伸びた気がする。
それに少したくましくなったかな?
あいわからず、やる気なさそうにポケットに突っ込まれた両手。
頭のてっぺんに高く結われた髪。


シカマルの匂いがほのかにした。


たまらなく心地よい匂い・・・・私のすべてを包んでくれるようなそんな気持ちがした。





でも・・・私にはもう・・・すべて関係のないこと・・・・・
シカマルに必要とされなかった私という存在。
私にはもう手の届かないシカマルの全て。



私は無言でシカマルの横で靴をはく。


早く・・・帰ろう・・・・・


やっぱりここは私の来るべきところじゃなかった・・・・









すれ違う瞬間、グッと腕をつかまれた。

「元気・・・だったか?」

お互いに目も見ないで、シカマルは呟くように聞いた。

「うん・・・シカマルも元気だった?」

シカマルにつかまれた腕に伝わるぬくもり。

「・・・・死んではねーみてーだ」

苦笑いしたシカマル。

(シカマルが笑ったことに少しホッとした)

「そう・・・それじゃーね」

「あぁ・・・じゃあな・・・・」


つかまれた腕が離されて、私の心の温かい部分もシカマルの離れた手と一緒に
どこかに落っこちた。







開いた扉をゆっくりと締める。






それから私はシカマルの家の玄関から逃げるように走って、自分の家の玄関に飛び込んで、
急いで扉を閉めた。



そしたら、こらえていた涙が一気に溢れてきて。
私はずっとずっと玄関にしゃがみこんで泣き続けた。

体中の水分が全部流れ出ちゃうぐらい・・・胸をしめつける苦しい想いが私の体を
ガタガタと震わせ続けた。

シカマルに抱きしめて欲しかった。

今ここにシカマルがいないことがリアルな現実として突きつけられた。

そしてその事がこんなにも私を動揺させて、こんなにも惨めに傷つけることになるなんて・・・・
出口のない思いが体をめぐっている。


シカマルの心の中にいるのは いの なんだって分かってるのに・・・
なのに、なんでっ なんで私は・・・こんなにもシカマルを想ってしまうの?・・・


だって・・・だってさ・・・仕方ないよね?


私はまだこんなにもシカマルが好き。今だって、一番大事な人はシカマル以外にいないんだよ------------------















忘れようと必死になった。
今まで一番俺の近くにいて、今まで一番俺が大事だと思っていた女。


好きで好きで、隣にいるお前の柔らかい髪が俺に触れるだけで、心臓がドキドキした。


本当はいつだって、お前にキスして、俺だけの女にしたかった。


でも、俺が選んだんだ。





「俺を嫌いになれ」





だってそうだろ?

俺はお前を泣かせてばっかで、お前にキスする勇気もなくて、なのにいのとキスしちまった
最低な男。

いのからお前を奪う権利なんて無い。

お前の側にいる資格も無い。


だからこれでよかったんだ。


なのに俺の心は一向にその思いを受け入れられなかった。
完全に拒絶して、むしろ、ますますを必要とした。

会いたくて、会いたくて、毎日に似た姿を探した。

の姿を一目でもいいから見たかった。




でも、実際にお前のその華奢なかわいい姿を見たら、愛しい声を聞いたら、俺は自分を抑える
自信が無い。

どんなにお前に嫌がられても、どんなにお前に拒絶されても、俺はきっとお前を抱き上げて、
きっとどこかに連れ去ってしまいたくなる。

どこかに閉じ込めて、俺だけを見させて、俺だけのものにしたくなる。


乱暴にでもお前を奪いたくなる。






そんなことを思う自分がすげー怖いんだよ。





もう、俺はお前以外、誰も必要となんてしていない。
他とかかわることが、めんどくせー。





だから俺は自分から心を閉じてしまった。




心配する母親の顔も、理由を問う父親の声も、優しいチョウジの言葉も、落ち込んだいのの顔も
すげーうざってー。



俺を一人にしてくれよ。
もう誰も俺なんか心配すんなっ
ほっといてくれ・・・



俺が欲しいのはだけだ-----------------











なのに、なんでだ?

目の前には、ずっと望んでいたの姿がある。
でも、俺はに言葉をかけてやることも、ましてや抱き上げて連れ去るなんてまねも、
できなかった。

ただただ お前にみとれていた。


少し会わない間にまた綺麗になった。
前よりもっとやせて華奢になった。
長くて柔らかい髪からいつもの甘い匂いがした。
小さな唇が愛しかった。


でも・・・お前の目を見た瞬間・・・俺の体が硬直した。



冷たく、寂しく、悲しい目。


あの日。
お前と会わないと決めた、あのお祭りの日、最後に俺を見て言ったお前の言葉。


『私が・・・他の男の子のこと好きになっても・・いいの?』

心臓がえぐられるほどの衝撃だった。
そんなこと・・・許せるわけねーよ・・・・でも・・・・

『仕方・・ねーだろ?・・・お前がそうしたいなら・・・・』

そう言うしかねーだろ?
そうしなきゃ、お前といのが仲直りできねーなら・・・
俺がそう答えるしかねーだろ?
本心なんか言えねーよ。


お前にはいのが必要だと思った。
どんな時でも、いのはお前の心を救ってやれるだろう。
俺じゃぁお前を傷つけちまうんだよ・・・・これから先も泣かせちまうんだよ・・・


俺が側にいてやれないなら、お前を守ってくれんのは いのしかいねーだろ?
お前には・・いのが必要なんだよ・・・そうだろ?・・




でも・・・俺は・・・・・・本当は・・・・・




お前が俺以外の男に向けた笑顔なんて絶対見たくなかった。
お前の体を他の男が触るなんて考えたくもなかった。

お前のかわいい唇に他の男がキスする姿なんて・・・絶対許せなかった。


そんなところを見ちまったら、俺はその男を一生憎んで許さないだろう--------


その瞬間 ハッ とした。





俺といのがキスした・・・・・

はどんな思いでその事実を受け入れたんだろう。


俺にが最後に言った言葉。




『さよならシカマル。元気でね』



その時に見せた の目。
冷たく、寂しく、悲しい目。




今俺の目の前にいるは、あの時と同じ目で俺を見ていた。




どうしていいか頭が混乱した。



俺の隣であわてて靴を履く・・・・


このまま帰したら、もう2度とお前に会うことは無いだろう・・・・
そんなの絶対いやだと、俺の心がとっさにお前の腕を掴ませた。


拒絶されるのは分かってた。
でも・・・


『それじゃあね・・・』


これで本当に最後のさよならを聞いた気分だった。


『あぁ・・・じゃあな』


は俺の横を通り過ぎていった。


優しい甘い匂い。
俺を安心させる柔らかい匂い。
全然変わってない。

それなのに、俺達はもう変わってしまった。

あの日のたった一度の過ちが、大事なものを全部壊してしまった。



まだ俺達は大人になりきれていない子供だから?
だから少しの亀裂が、気づかないうちにこんな大きな穴になっちまったことに、
俺はただ立ち尽くすことしかできなかった。

その穴を埋める手段を模索するうちに、穴はもっと大きく広がって、気づいたら
もう手遅れだったんだよ・・・・


俺の目の前にできた真っ暗闇の大きな穴は俺の感情の全てを吸い込んで、みるみる
心を黒に変えていった。



だから俺はもう何も見ない。
何も考えない。
もう何も必要としない。



閉じられた玄関の扉の音。
遠ざかるの靴音。



俺はゆっくり目を閉じる。




俺はまだお前が好きだ・・・今だって、一番大事なやつはお前意外にいねーんだよ---------------
忘れるなんて・・できっこねーだろ?・・・
嫌いになんて・・なれっこねーだろ?・・・


俺の思いがもうに届くはずなど無い事ぐらい分かってる。


だったらもう・・・俺は感情なんていらねーよ・・・・






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