俺は朝からぼんやりと空を眺めていた。


青い空には白い雲がゆっくりと流れていく・・・・


めんどくせーな・・・本当・・・・
なんでこんなことになっちまったんだよっ・・・
の顔が浮かんでは消える。

『シカマルーー』
お前が俺を呼ぶ声が頭の中でこだまする。
その後、俺だけに見せるかわいい笑顔が見てーな。
『ねぇシカマルあのね・・・』
そう言っては、お前はいつも俺の腕にひっついてきた。
俺はいつも腕に伝わるお前の温かさに安心してた。

お前の仕草の一つ一つが愛しくて、たまらねー・・・
もっかい抱きしめてキスしてーな。
今度はあんな乱暴なキスじゃなくて、お互いに求めるようにしてーよ

雲が流れて消えるように、あの飲み会の過ちも、綺麗に消えて、時間が戻れば
いいな・・・

そんなガキみてーな事を思う自分が、すげーイケてねーなって俺は苦笑いする。






夕方、がやってきた。


「こんばんわ・・・・」

玄関先で伏目がちに小声で言う
目が赤い・・・・・また泣いたんだな・・・

「あがれよ」

「う、うん・・・・」

は最後まで俺の顔も見ないで靴をぬいで家へとあがった。

「あら!!いらっしゃいっ 待ってたのよ」

母親の嬉しそうな声。

「はい。今日はお願いします」

はニコリと微笑んだ。

(かわいいな・・・無理してる笑顔も俺には愛しいんだよ)

「シカマル!何ボケっとしてんの!着替えるから、あんたソファーで待ってなさいっ」

「分かったよ。うるせーなっ ったく。」

俺はボスッと音をたててソファーに座ると、閉じられた奥の座敷を見つめる。

この奥で、は俺の母ちゃんが用意した新しい浴衣を着てるんだ・・・







いつもならきっとお前は少し照れた顔で

『ねーねーシカマル!どう?かわいいかなー?』

きっと真っ赤な顔でそう言うだろう・・・

だから俺は絶対かわいいとは言わずに

『馬子にも衣装ってとこか?』

っとか言って笑ってやるんだ。

『もうっひどーいっ』

そうそう。お前のその顔が見たいから・・・・
ふくれっつらがまたかわいいんだよ。

けど、俺が

『冗談だよ・・・まぁ・・・かわいいんじゃねーの』

そう言ったら、お前は太陽みたいに笑うんだよ・・・
俺の心臓がバクバクいって、顔が真っ赤になっちまうぐらいの、最高の笑顔でよ・・・






そんな風に毎年俺のためにそのかわいい浴衣姿を見せてくれるはずだった。
でも今日は・・・お前は誰にその姿を見せたいって思ってるんだよ・・・

それが俺じゃない事がわかってるから、胸がチクチクと痛んだ。








座敷の襖がゆっくりと開けられる。




中から紺地に色とりどりの花火の模様が描かれた鮮やかな浴衣姿のが現れた。

「綺麗だな・・・・」

頭で考えるより先に言葉がでてきた。
俺の目の前にいるは少し大人びていて本当に綺麗だった。
俺はしばらくみとれて呆然と立ち尽くした。

「やっぱりこの浴衣はにぴったりだわっ お前いつまでみとれてんのっ
 バカだね、本当にこの子はっ」

母ちゃんがクスクスと笑った。

「うるせーよっ」

俺はとっさにの手を引いた。

「行こうぜ・・・祭り。」

「う・・・うん。」

俺よりずっと華奢で小さな手。
俺が本気でギュッと握ったら、折れちまうんじゃないかって、俺は時々心配に
なったりしてた。

人ごみを歩くときも、こけそうになるお前を支えるときも、本気で握らないように、
いつでも少し力を抜いて握るようにしてたんだ。

でも、それは俺にとっちゃぁ当たり前のことで・・・・

いまさら、そんなお前の手をこんなにも愛しく感じるなんて・・・思ってもみなかった。









玄関を出ると、ゆっくりと手が離れた。

いつもはそのまま俺の腕にしがみつくは、俺と少し距離をとって隣を歩いている。

の寂しそうな横顔が見える・・・胸が痛てーな。

「お前・・・マジで綺麗だぜ」

俺はをチラリと見て、そっと呟いた。

「そう?・・・・ありがと・・・・」

微笑む顔はやっぱりつくり笑いだ。
俺の言葉・・・お前にはとどかねーよな?やっぱ。
俺、本気でそう思ってんだぜ?


俺はしばらく俯き加減で歩いていた。
隣のもそれっきり何もしゃべらなかった。

居心地の悪い時間が数分続く。
お前といてこんな気持ちになるのは初めてだ・・・・



そんな沈黙をやぶったのはの言葉だった・・・




「シカマル・・・見て・・・・」

突然のの言葉に俺は驚いて、前を向く。


約束の場所でいのとチョウジが手を振っているのが見える。




「シカマル・・・いの綺麗だねっ」

は俺に優しく笑った。




え?



いのの浴衣姿・・・

俺がいのを好きだと思ってるから、お前はそんなこと言うんだな・・・・・・

(バカ・・・お前の方がずっと綺麗だって・・・・)

俺は言葉をグッと飲み込んだ。








「2人とも遅いーーー!!もうお祭り始まっちゃうわよーーー!」

いのは頬を膨らませている。

「ったく、ちょっと遅れただけだろーが。いつもはお前が1番遅えーくせによぉ」

俺が悪態をつくと

「なーーーんですってぇ!!シカマルっ あんた遅れてきて何なの!その態度!!」

いのがいつものように俺の胸倉を掴む。

「はいはい。悪かったな・・・・」

「まぁまぁ2人とも、早くお祭り行ってお菓子いっぱい食べようよっ ね?」

チョウジが半ばあきれた声を出した。



いつもの俺達10班のやり取りだ・・・・

でもよ・・・・




「本当に仲が良いね。シカマルといのってさっ・・・すっごく似合ってるよ」

はそう言って少し笑った。
の言葉にいのは驚いた顔でを見る。

「え?」

いのが俺の胸倉からパッと手を離す。

「そ、そんな訳ないじゃない?何言ってんのよ、っ!」

俺は俯くことしかできなかった。

の誤解をとくことも、にバレたって事をいのに言う勇気も
今の俺には無い。
いのにもにも何も言えない俺・・・本当情けねーな・・・・

「照れなくていいのに。」

は無理して笑っていた。
そんな顔すんなよっ・・・俺の心臓がまたズキッと痛む。

「さ、行こう!」

はソソソとチョウジの隣に行く。

「ねぇチョウジ君。お祭りでいっぱいお菓子ゲットしよーねー」

「うん!そうだねっ!もたくさん食べようねっ!」

前を行く2人を唖然と見つめるいの。

「ね、ねぇシカマル・・・今日の変だよね・・・」

いのはすごく心配そうな顔をした。
今、伝えるしかねーか。

「あぁ・・・あいつ誤解してんだよ・・・・」

俺は頭に手を組んで、ため息をついた。

「誤解って・・・まさか!!」

いのも気づいたようだ・・・そうあの日の俺達の過ちをが気づいたってことに

「嘘!嘘でしょ?シカマル・・・どうして・・そんな・・・」

いのはまたオドオドしはじめる。

「落ち着け!いのっ 俺達は結局なんでもねーんだし・・・」

かといって、それをにどう説明するかが問題なんだけどよ・・・

怒ってるよね。あんな事して・・・私のこと許してくれないよね。どうしようシカマル!!」

いのは今にも泣き出しそうだ。

「大丈夫だ・・・お前とは親友だろ?」

「う・・・うん」

いのは俯いて、唇をかんだ。


そうだよな。お前とは親友だ。
どんな悩みも2人の間では包み隠さず話してきてたのを俺も知ってる。

俺、いの、チョウジのイノシカチョウコンビと同じぐらい、といのも腐れ縁の
大事な仲間なはずだ。
たぶんお前らはお互い誰よりも大事に思っていた親友同士だもんな・・・・



「とにかくあいつは誤解してる・・・この祭りでなんとかするぞ・・・」

「でもどうすんのよっ!!」

「俺が知りてーよ!!っつうか、お前同じ女だろ?しかも、の性格はお前の方が俺なんかより
 ずっとわかってるはずだろ! 何かいい案ねーのかよっ」

もう俺はお前に頼るしかねーんだぞっ

「そんな事、急に言われたってさぁ・・・」

いのは不安気な顔で考えこんだ。

「と、とにかくっ 私達は何でもないんだもんっ いつも通り、私はサスケ君を追いかける。
 だからシカマルはの側にいんのよっ!!分かった?」

「結局そうなるしかねーのかよっ」

それが得策だとはとても思えなかったが、それ以上に何ができるわけでもねーか。

「いつも通りよ!いつも通り・・・今は言葉より態度でしめすしか無いって気がするの・・・」

いのの真剣な顔。お前、顔色悪ぃぞ。
久しぶりに見たな・・・こいつがここまで動揺して、混乱してる姿。
お前にとっても、やっぱは大切なんだな・・・・

「分かったよ・・・やるだけやってみっか。」

俺は はぁ と一つため息をついた。

(でも、どうしてもこの誤解だけはといておきてー。めんどくせーが、を失うわけには
 俺もいのもいかねーだろ?)


俺達はずいぶん前を歩くとチョウジの後ろ姿を見つめながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。











祭り会場には既に7班、8班のメンバーの姿があった。
結局、俺達はいつもアカデミー時代の気の合う仲間と一緒にお祭りを回るんだ。


『遅っせーぞ!10班!それから!!』

キバが冗談で怒鳴ってる。

『そーだってばよっ 』

ナルトも大声で叫んだ。


「うるせーバカ!」

俺も2人に怒鳴り返した。

『シカマル・・・頼んだわよっ』
いのの小声

(頼まれてもなー・・・俺に何ができんだよ・・・)
俺は頭をガリガリかく。


「サスケくーーーーんvv」

その瞬間、いのはサスケに向かって走りだしたっ



「こ、こらーーいの!サスケ君から離れなさいよーー!」
「あーーらデコリンちゃんいたの?」
いつものあいつらの行動だ。

いのはわざと大げさにサスケの腕にしがみついてみせた。
たぶん、に自分がサスケが好きだってことをアピールする為なんだろ・・・
くそっ ベタなやり方しやがって・・・いののアホ。

けど、俺達2人、どうしていいかわからない状態で、それぐらいでしか、に伝える
すべが浮かばねーんだよな。仕方ねーか。

「お前ら・・・う、うざい・・・」

サスケの腕をひいて、サクラといのとサスケは祭りの人ごみにまぎれていく。





その時、キバが俺の隣にやってきて小声で呟いた。

『祭りに一緒に来たってことは、お前ら、仲直りできたんだな?』

なんて応えればいいんだよ・・・・・

言葉を詰まらせた俺にキバは

『安心したぜ。俺、心配で飯がノド通らなくてよー』
赤丸がキバの胸の中でクーーンと鳴いた。

とっさに、俺はキバにも迷惑をかけてたって事を知った。

あーーダメだ。やっぱ言えねーよな・・・本当のことなんてよ・・・

『大丈夫だから、お前はもう心配すんなっ』

『そっか。良かったなシカマル!んじゃ、俺達も行くかっ 赤丸!』

キャンキャンッ




キバが大声で叫ぶ。


「俺達も行こうぜっ!」

『おぉ!』

キバの声をかわきりに、

ゾロゾロと祭りに向かってみんなで歩き出す。











俺はその中からの姿を探した。

その時、が複雑な顔で俺を見ている事に気づく。
目が合った瞬間に パッ と顔をそらされた。

(いのがサスケを追っていった事で、お前はまた混乱してんだろ?・・・でも・・
 そうか!それは好都合かもな・・・
 誤解を解くなら、やっぱ今しかねー・・・・)


俺はゆっくりとに近づく。

は俺の姿にハッとして、チョウジの後を慌てて追おうとした。

「ねぇ・・チョウジ・・く・・ん」

の手がチョウジに伸びようとした瞬間、俺はの手をひいた。

「逃げんなよ」

「きゃっ」

後ろにひきもどされて、はよろけて、俺にぶつかる。
俺はの手を握り締めた。

「痛いよシカマル!なんで?」

「お前が逃げるからだろ」

「逃げてなんかないよ・・・変なこと言わないで。それよりいのを追わないの?
 サスケ君にとられちゃうよっ!!」

は俺が握った手にとまどっている。

「なんで俺がいのを追うんだよ・・・めんどくせーな」

俺は頭をかく。

「シカマルもいのも・・何考えてるのか全然分かんない。どうして2人一緒にお祭りに
 行かないのよっ・・・」

俯く

「いのはサスケが好きだからだろ?」

「何・・・言ってるの?・・・いのが好きなのは・・・・」

はその先の言葉が言えなくて、グッと唇をかんで黙ってしまった。



俺だとは言わねーのか?・・・・・



(は俺といののことを認めるのが辛いんだ・・・俺のことまだ好きだと思ってくれてんのか?)

俺は握った手をギュッと強めに握り返した。


「いのもシカマルも・・・わかんない・・・・私、全然分からないよ・・・」

涙声でそれだけ言った

たまんねーよ。こうゆうの。なんでお前に届かねーんだよ。俺の本当の気持ち。







「なぁ・・・なんか食おうぜっ おごってやっからよっ」

俺はの手をひいて、人ごみに逆らいながら、みんなとは逆方向に歩き出す。

「え?ちょっとシカマルっ!」

は驚いて、俺の顔を見た。
お前をこのままどこかに連れ去っちまいてーな・・・・
でも・・・そんなこと、今の俺に出来るわけねー・・・

「めんどくせーな。おごってやるって言ってんだろっ 黙ってついて来いよっ」

「だって・・・いの・・・が・・・・いるくせに・・・」

ときおり、人にぶつかって、グラつくお前を、はぐれないようにギュッと手を
握って、俺はずっと歩きつづけた。

伝わらない想いにイライラする。

「だから違うって何べんも言ってんだろーが。いのが俺と付き合ってんだったら、サスケなんか
 追ってくかよっ!!」

「でも・・・・」

は俺の顔を恐る恐る見上げた。

「お前がサスケを追って行ったら・・・俺は影真似して行かせねーけどな・・・」

「え?・・・・・」

急に俯いて無言になる・・・はとまどってる・・・俺の気持ち、少し伝わってるんだろう・・・
あと少し・・・もう少し・・・俺の本当の気持ちに気づけよっ !!
俺を信じろよっ!!



「好きだ・・・



心臓がドキドキした。
お前に気持ちを伝えるだけで、俺はこんなにも動揺して、今まで抑えてきた気持ちが溢れ出
しそうだ。
俺は握ったの小さな手を、もう一度ギュッと握った。

「シ、シカマル・・・私・・・」

の言葉はそこで途切れた。


分かってる・・俺といのがキスしたこと・・・お前は許せねーんだよな・・・


は真っ赤な顔をしながら俯いて、すごく複雑な顔をしながらついてくる。
それがどういう意味なのか俺は分からずに、俺はまた無言になる。
俺はまたお前を傷つけちまったのか?


でも・・・・



「シカマルの・・・バカ・・・私、絶対許さないんだから・・・」




は人ごみに紛れて俺の腕にギュッとしがみついてきた。


え?・・・・・


から、俺の体に触れてくるなんて、それは俺が予想もしていなかったことだった・・・・・



柔らかいの体が俺の腕に密着する。
あたたいぬくもりと一緒に甘い髪の香りがした。

いつだって、お前と一緒に歩くときは、お前から俺の腕に抱きついてきた。
毎日のように感じていたお前の体のぬくもりが、今、俺を激しく高ぶらせる。

心臓が壊れるぐらいドキドキ高鳴る。

好きだって気持ちが突き上げてきて、お前の顔をみたら、俺はもう我慢できなくなりそうだ・・・


今ここで、思い切りを抱きしめたい・・・
すげー深くキスしたい。
なんどもなんども舌を絡ませて、お前をずっと感じてたい・・・
もう離したくない・・・・


でも・・・俺は・・・・・・


絶対にを見なかった。
何も言葉にしなかった。

何かしてお前の顔を見てしまったら、愛しい声をもう一度聞いてしまったら、
俺の感情は理性を壊してしまうだろう・・・・


俺は腕に伝わるのぬくもりに欲情する自分を必死でおさえて、歩き続ける。






だってそうだろ?


もうあんな乱暴なやり方でお前を奪うようなマネはゼッテーしたくねーよ。


もうお前を傷つかせたくねーよ。








NEXTへ




戻る




55 STREET / 0574 W.S.R / STRAWBERRY7 / アレコレネット / モノショップ / ミツケルドット