と最後に別れてから、俺の心は完全に闇の中だった。


色のない無機質な世界の中で、俺はただ黙々と任務をこなし続けた。


生きてるのか死んでるのかも分からねーような、真っ暗な世界。

まぁどっちみち俺は昔から、めんどくせーことは嫌いだったからな・・・
誰とも関わらず、目の前のことに目をつぶって生きてるほうが楽なのかもしれねーけどよ。

なのに俺を苦しめるこの感情はなんなんだ?



俺はときどき世界に色を夢みた。



髪の長い華奢な女を見かけるたびに、閉じていたはずの心が一気に覚醒する。
それは、俺がの夢を見ているに過ぎないと分かっているのに・・・
ここにがいるはずねーんだからな・・・



そう・・俺はあの日から、自分から進んで里外の任務にでた。



が傷つく姿を見たくなかった・・・
俺を見て泣き出すをこれ以上見てられなかった・・・
もう泣かせるのは辛すぎて、俺は自分から逃げたんだ・・・・









夜になると、夢を見る。

チョウジがいて、いのがいて、アスマがいて・・・。
大事な仲間だった。

いつも側にいた。

キバやナルトやシノ達の顔も時折浮かぶ。

あそこが俺の居場所だったはずだ。



そして最後はいつもの笑顔を思い出した。

胸が締め付けられる。

誰よりも好きだった・・・もう一度、お前を抱きしめたい。
あったかくて柔らかくて優しい匂いがした。
あの温もりをもう一度腕の中に感じたい。

空を切る自分の腕を自分で掴んで俺は膝をかかえる。




大切なものを俺は失った・・・・いや・・自分で手放したんだろ?・・・・





出口のないこの感情が俺の心をぐるぐるとめぐっている。
本当は分かってるんだよ。
を忘れろ・・・俺は別れたんだ・・・あいつに俺は必要ねぇ。







暇な時間はひがな一日雲を見て過ごした。
雲には感情なんてめんどくせーもんがねーからよ。
楽そうだよな・・・・

あぁ・・・俺・・・雲になりてぇ・・・・・

女を好きになるなんて、めんどくせー感情を人間に植え付けた神様とやらに
文句の一つでも言いたい気分だぜ。

だってよ・・・好きだって感情を心の奥底にしまい込む為に、俺の心を痛めるこの感情は
どんなことより耐えがたい苦痛だ。


いっそ感情なんて無くなっちまえばいい。


なのに、俺はを忘れられねーんだ。



どうしてお前を思い出すんだよっ
どうしてお前が夢に出て来るんだよっ
どうしてお前を今でもこんなに好きなんだよっ


この感情はどうしてなくなってくれねーんだよっ・・・・・・・・・



膝を抱えて、一人で布団をかぶって、見知らぬ土地の見知らぬ部屋で、俺は暗闇の中に
ずっとずっと落ちていた。
月明かりだけが、やけに寂しく、やけにリアルに俺の影を照らしていた。


抱えた膝がカタカタと震える。
なんでこんなに泣きたくなるんだよっ くそっ

なんでこんなに俺は弱えーんだよっ・・・・・


お前がいないっていうだけで・・・なんで俺はこんなにダメになっちまうんだ・・・



お前がこんなにも好きだから、俺は絶対お前という夢から覚めることはできねーだろう。
どんなに離れても、どんなに時間が過ぎても、この気持ちが無くなることはねーんだろう。

だから、俺はお前を守るためだけに生きてるんだ。

お前が俺より先に死ぬことが怖い。
たとえ側にいられなくても、お前を失うのだけは嫌だ。
だから俺は命をかけて守ってみせる。

たとえお前が別の男を見て、優しい笑顔で笑って、そして俺を忘れても・・・・
それでも俺はきっとお前を忘れることなんて出来やしねーんだからよ・・・・












他里での任務も終了して、俺は木の葉に帰ることになった。


火影様に任務の報告に訪れる際にだけ、俺は木の葉の状況を細かく確認した。
木の葉に異常が無いか・・・
それは、今の俺がに唯一してやれるお前を『守る』という行為だ。

何かあった時は命をかけてお前を守る・・・
そう俺は決めたんだからな。
陰からでもいい。
お前を絶対守るって決めたんだ。







見慣れた里の町並みが、余計に楽しかった過去を思い出させては俺を苦しめる。
お前の顔を見る勇気なんて今の俺には無い。

任務報告の帰り、アスマが俺を待っていた。

『よぉ・・・シカマル!元気だったか?そろそろスリーマンセルにも顔だせよ』

懐かしい顔。思わず顔がほころぶ。

「悪ぃが、もう俺は10班としての任務をこなすつもりはねーよ。
 他のやつを入れて、新生10班として結成しなおしたらどうだ?」

アスマは顔をゆがめる。

『お前に手伝って欲しい任務がある。まだ極秘だが重要な任務だ。』

「俺には関係ねー。俺はまた里外の任務に出るんだからなっ」

『木の葉が狙われてる。・・・木の葉にはお前が守りたい人間もいんだろ?』

アスマの言葉にビクリと反応する。

(木の葉が・・・狙われてる?どういうこった。・・・まさかまた戦・・・)

とっさに俺の脳裏にの笑顔が浮かんだ。

『里の緊急事態ともなれば、下忍レベルの忍びも全員徴収されるだろう。
 敵の襲撃を阻止するための攻撃、捕獲、やってもらう任務は山程ある。』


(下忍レベルも・・・・も・・・・)


「どういう情報だよ・・・」

『まだ確認しきれていない極秘ルートでの情報だが、木の葉にスパイが送りこまれる
 かもしれないんだよ・・・今夜・・・襲撃の噂が流れているらしい・・・』


ドクンドクンと心臓が高鳴る。


は・・・・絶対死なせねーっ
守るのは俺だ・・・・
















アスマの後について、久しぶりにいのやチョウジと顔を合わせる。

2人が俺を見て、笑ってくれた。
その笑顔を見た時、俺はなんだかホッとした。
俺の帰る場所はやっぱりここなのか?
そう思った。

でも、俺は何も語らなかった。
お前らと関わって、またお前らに俺の心配をさせて、一緒に悩ませることはもう嫌だった。

だってよ・・お前らは人が良すぎんだ。





『合同チームにはのチームと組むぞ』とアスマが俺に言った。

気をきかせたのか?それともそれが最適な組み合わせだったのか、俺は知らねー。




でも俺はに話しかけるつもりも、顔を合わせるつもりもねぇ。
俺が出来ることは陰からお前を援護するぐらいなもんだ。

そう思っていた。


でも、実際にの姿が見えたとき、俺は動揺した。

心臓がバクバク言って、お前の動く仕草を見るだけで、俺は興奮した。
もしお前が側にいたら、きっと無意識に抱きしめちまうかもしれねー。

自分にとって、まだという存在がこれほどまでに大きい事に自分でも驚いた。
陰から見守るなんて・・・俺に出来るのか?
俺はまた、お前の側にいたいなんて浅はかな夢を見ちまいそうな自分を必死で抑えようとした。



お前と目を合わせる事すら出来なかった。


また好きだって気持ちが暴走したら、俺はなんのために必死でお前と別れて、里外の任務について、
お前から離れたのか分からねーじゃねーかよっ

だから、お前を見ることも、そばに行くことも俺はしなかった。

それでいいんだ・・・

何かあったらを守ってやる・・・俺がお前にしてやれる事はそれだけだ。

必死でそう言い聞かせた。









・・・なのに俺は暗闇の中で、の気配だけに集中して、お前を守ることだけに神経がいっちまって
大事なことを見落とした。

先読みが得意なはずの俺が、あんなちゃちな幻術を読み取るタイミングを誤った。
結果、が幻術にひっかかり、他からの攻撃を受けることになったんだ。

俺のせいだ・・・


でも・・・



俺の体はを守るために敏感に反応してくれた。


背中に刺さる肉をえぐる音。
するどい痛み。
傷口からドクドクとながれる血液・・・



きっと俺は死ぬんだろ?




だけどな・・・
俺は嬉しかったんだぜ。
だってよ・・・お前がもう一度俺の名前を呼んでくれたんだからな。

『シカマル!!』

それは、俺がこの世で一番愛しい女の声だ。

俺はお前を守れたんだな?

だからもう泣くなよ・・・俺の為に泣くなよ・・・俺はお前の笑顔が好きなんだ。























暗闇に落ちていく自分を感じていた。

手をのばして止める力も、あがく力も今の俺にはもう無い。

もういいか・・・めんどくせー・・・どうせ俺はこのまま死ぬんだろ?

最後にが俺を呼んでくれたんだから・・もういいだろ?充分だ・・・






でも・・・・・









『シカマル!』








俺を呼んでる・・・・お前が呼んでる・・・・・



暗闇の中、俺のつかれきった体が必死で何かを掴もうと、もがいて動く。



暗闇にこだまするの声

『シカマル!シカマル!』




「ったく うるせぇな」

俺は苦笑いする。
いつだって、お前は勝手な女だ。
俺がめんどくせーってあきらめようとする度に俺を呼ぶんだよ。


だけど俺はそんなお前に、めっぽう弱ぇ。
お前に呼ばれたら、行くしかねーんだろ?
そうじゃなきゃ、またお前に怒られる。
その方がよっぽどめんどくせーんだよ。

けど、分かってんだ。

俺がちゃんと会いに行けば、お前はいつだって笑ってくれる。
心臓がドクドク音をたてるぐらい、かわいい笑顔でよ。

本当は俺、お前のその顔を見てーんだ。

だから、俺は必死でお前に会いに行く。





『シカマル、シカマル!!』

必死で叫ぶ、の涙声。



「あぁ・・・あいつが泣いてる・・めんどくせーけど、俺、行かなきゃな・・・・・」

無意識に言葉にした。

、俺はお前が好きだ・・・お前にもう一度会いてーよっ


暗闇に落ちる前にお前に会いに、もう一度俺は帰らなきゃな。
お前が呼ぶなら、あきらめるわけにはいかねーだろ?
お前が泣くから、俺が抱きしめてやるしかねーだろ?
どんなにめんどくせー事がこの先に待っていようと、地獄の門の前でエンマが道を塞ごうと、
俺は絶対帰るぜ・・・


だってよ・・・が俺を呼んでんだ・・・・・・・







NEXTへ




戻る


 
55 STREET / 0574 W.S.R / STRAWBERRY7 / アレコレネット / モノショップ / ミツケルドット