病院の個室。

すでに面会謝絶の札が掲げてあった。




あわただしい医師の出入り。


私もいのもそしてアスマや他のメンバーも廊下でジッとそんなシカマルの部屋を見つめていた。

「心配なのは分かるが・・・今日は解散だ・・・ここにいても病院に迷惑になるだけだからな」

アスマの声に私達の班のメンバーが立ち上がる。

・・・お前がいれば・・きっと大丈夫だよな・・・」

「うん・・・・ありがとう・・・」

2人はそっと帰って行った。

アスマとチョウジは屋上にいるとだけ告げて、この場を去った。


いのと2人きりになる。


私達は無言のまま、膝を抱えて廊下に座り込んだ。

「ねぇ・・・・・・・」

いのがポツリとつぶやく。

「お祭りの日・・・私達3人ともあれ以来会わなくなったわよね。」

「うん・・・」

「シカマルね・・・すごく辛そうだったよ・・・」

「う・・・ん・・・・」

私も辛かったよ・・・シカマル・・・・・・
膝をギュッと抱える。

「私ね・・・あの日、シカマルに言ったの。」

いのはその日の出来事を思い出すかのように、ポツリポツリと話しだした。



『どうしてあんたがと別れなきゃならないの?私のせいなんでしょ?
 だったら私がなんとかするから、こんな辛い別れはやめてよっ!!』

私も辛くて、悲しくて、頭がパニックになっちゃって・・・
思わず泣き出しちゃって・・・・

でも、シカマルは・・・

『いの・・お前のせいじゃねーよ。俺があいつを守りきれなかったんだ。
 このままじゃ、はダメになる。 
 だから、俺達は別れるしかねーんだよ。それがあいつの為なんだ・・・』

『だって・・・あんたはそれでいいの?と別れて、他の子と付き合うわけ?
 そんなことあんたに出来るの?』

私には分からなかった。
だって、シカマルはいつだってだけを見てきたのに・・・。
そんなに簡単にを手放して、忘れられちゃうの?って・・・・・
シカマルのへの想いなんてそんなもの?って。
・・・そしたらさ・・・・


が俺を憎んで、嫌っても、俺がを思う気持ちは変わらねーよ。
 俺はをどんな時でも守るつもりだ。
 たとえ、が一生俺のものにならないとしてもな・・・』

シカマルのやつ、すっごく辛そうで、すっごく無理してるのが分かるんだもん。
このままでいいわけないって思ったの。

『あんたってバカね!そんなに好きなら別れる必要なんて無いじゃない!!!
 どうして諦めるの?なんでそんなに簡単に別れるなんて言うのよ!!
 力ずくでも、を取り戻してみなさいよっ!!』

『簡単?・・・簡単にそんな事・・・言えるかよっ』

『え?』

『力ずぐで取り戻せだ? んな事できる訳ねーだろっ!そんなことしたら、またあいつを傷つける
 ことになっちまう・・・
 もう・・・泣かせたくねーんだよっ!!』

『シカマル・・・』

『俺に会うと、あいつ泣くんだよ・・・もうが泣く姿なんか見たくねー。』

『でも・・・・は今だってあんたの事が好きなんだよ・・・』

私はわかってた。がシカマルと別れたのはシカマルのことを嫌いになったからじゃない。
私とのことで傷ついて、辛くて仕方なかったからなんだろうって。

けどシカマルはね、

『俺はいつもを傷つけてばっかだ。俺じゃあ、あいつを幸せにしてやれねーんだよ。
 だから・・・が俺を忘れるまで、俺はもう会わねーって決めたんだ。』

『あんたを忘れるまでって・・・がシカマル以外の男を好きになるまでって・・こと?』

『さぁな・・・でも、そうかもしれねーな・・・・』

シカマル・・辛そうな顔してた。

『ずっと陰から見守るの?』

『・・・それしかねーだろ?』

『悲しいよ・・そんなの・・・・』

私は慰めの言葉もみつからなかった・・・
どうして自分の気持ちを押し殺してまで、の幸せを願うの?
それがあんたの愛し方なんだったら・・・そんなの・・・辛すぎるよ・・・・・

『仕方ねーだろ?俺はあいつしか好きになれねーみてーだしな。
 それに・・・俺はもうあいつを裏切ることはしたくねーから・・・・』

それ以上、何も言ってあげられなかった。
シカマルのへの想いが深すぎて。辛すぎてさ。

『いの・・・を頼んだぞ』







「それが私とシカマルが交わした最後の言葉。それからシカマルは遠征の任務に
 出ていっちゃったからね」

胸がズキズキと痛んだ。
シカマルの本当の気持ちをはじめて知った。

「私、思うの。シカマルはきっと、の為に木の葉から出て行くような任務ばかり選んでいたんだって・・・
 あんたを傷つけないために・・早く自分のことを忘れられるようにって・・・」






『あいつ無理して遠征の任務にばっか就きやがってよ。最近はスリーマンセルの任務に顔
 すら出してねーらしい。』
あの時のキバの言葉が頭を巡った。

だから・・・・だからなの?シカマル・・・私のためだったの?






「・・・そんなの勝手だよ・・・」

私はどう言葉にしていいか分からずに、いのにそう呟いた。

「そうだね・・でもあいつ不器用だからさ・・・自分を犠牲にしても、
 笑顔を取り戻してやりたいって思ってたんじゃない?そういうやつでしょ?シカマルは・・・」



あぁ・・そうだね・・・シカマルはそういう人だ・・・・



「ねぇ・・・・」
いのは俯いて、膝をかかえた。

「なぁに・・・・・」

「あの日・・・私がシカマルとキスしたのはね・・・私がシカマルに言ったの・・・
 キスも上手にできないようじゃ、に嫌われるって・・・・だからシカマルは・・・」
 
「そっか・・・・」

2人のそんなやり取りは、なんとなく想像できた。

「本当は少しからかってやるつもりだったの・・・だってとシカマルっていつだって
 仲良しでさ、お互い好きあってて・・・たまにね・・ほんのちょっとだけ・・本当に少し
 だけだけど、そんなあんた達がうらやましく思えてさ・・・」

「うん・・・・」

なんだか涙が出そう・・・

「私・・・本当に好きな人に振り向いてもらえなくて、ずっと寂しかったりしてたからさ・・・」

「うん・・・・」

いのはまだサスケ君の事、本当に好きなんだ。
なのに、私の前では強がって、いつも大丈夫だって言ってたんだ。
他の男の子と付き合っていた、いの。
サスケ君の事忘れたんだって、ずっと思ってた。
だから私は平気でいのの前でもシカマルと仲良くしていた。

本当は寂しかったの?いの。

「私ね、が大好きだよ。あんたは私のかけがえの無い親友だもん。本当はね、
 もっと一緒にいたいと思う時もあった。でもいつだってあんたの隣にはシカマルが居てさ。
 うらやましい気持ちもあったけど、本当はシカマルがを取っちゃう事が悔しかったのかもっ」

「いの・・・・」

「おかしいよね?女同士なのにさっ でもね、は私にとって本当に何より大事な友達だったんだもん。」


私はどうして、いのの気持ちに気づいてあげられなかったのかな?親友なのに・・・
いのの寂しい思いにどうして気づいてあげられなかったんだろう・・・
私はいつだっていのを頼って、あんなに相談にのってもらってたのに・・・

なのにどうして私は・・・・・


「ごめんね、。シカマルにあんなことして・・・私はもうあんたの親友なんかじゃないよ。」
いのは必死で涙をこらえながら言った。

違うよ・・・いの・・・。悪いのは、いのじゃないっ・・・・

「ねぇ。私を嫌っていいよ。もうこれからは口もきかないでもいい。
 私を憎んで嫌っていいから、だからシカマルを許してあげて。
 あんたを失って、何もかも諦めたようになったシカマルを救ってあげてよ!
 あいつはしかダメなんだから・・・」



ハッとした・・・・



『いいか?。・・・いのは悪くねー。だから、いのともう喧嘩すんな。
 その変わり、俺を嫌いになれ。
 それでお前の気持ちがおさまるなら、俺のこと一生憎んで、嫌いになれよ。』

前にシカマルは私にそう言った。





いの・・シカマル・・・・・・・
こんな私のために、どうしてそんなに泣くの?どうしてそんなに自分を傷つけるの?

「いののバカ・・私が本当にいのを嫌いになってもいいの?」

「辛いけど・・でも・・それであんた達が仲直りできるなら・・・仕方ないよ・・・・」


シカマルも同じことを言っていた・・・
胸が詰まって涙が溢れてきた。

「ねぇ・・・いの・・・・・・」

「う・・・・うん」

いのは目をゴシゴシこすってる。
こんな時でも私の前で涙を見せないように強がってるいの。

「私はね・・・・いのもシカマルも大好きだよ。これからだってずっとね」

!!!」

胸が熱くなった。今までずっと心にはられていた真っ黒な闇がスッと溶けて、
心の中が浄化されたように感じた。

「いの・・・ごめんね」

「私こそ・・・ずっと謝れなくてごめんね」

私といのは廊下にぺたんとお尻をついたまま抱き合って泣いた。



私達、また昔のように戻れるんだね!!!



「いの・・・シカマル・・死なないよね?生きてくれるよね?」

「当たり前でしょっ 今死んだらを不幸にすることになるんだよ?そんなこと
 あいつが望むわけないじゃない。」





いのと仲直りできた嬉しさと、シカマルがこんなに自分を愛してくれてたことの嬉しさと
シカマルを失うかもしれない不安と・・・
急激に襲ってくる様々な思いに耐え切れずに、私は真っ暗な廊下で大きな声をあげて泣いて
しまった。

そんな私の背中をさすりながら、いのも一緒にずっと泣いていた・・・

私はずっと心の中で祈り続けた


『シカマル!私、いのと仲直りできたんだよ!だからシカマル!今度はあなたが帰ってくる番だよ!
 私はシカマルともずっと一緒にいたいっ!これからもずっと私の側にいて!』


------------神様、お願い。この声をシカマルに届けてっ!!-------------------------



「シカマルーーーーー!!」


廊下に響き渡るぐらい大きな声で呼んだ。
ねぇ・・・聞こえるでしょ?私の声。
どこにいたって、聞き逃したなんて言わせないからっ
だって、シカマル。あなたはいつだって、私の側にいてくれた。
呼べば必ず来てくれたじゃない。

「めんどくせー」

っていいながら、頭をガリガリ掻きながら、眉間にシワをよせて。

だから信じてる!!あなたはきっと私の声に気づく。
たとえ神様があなたを呼んでいたとしても、あなたはきっと私を選んでくれる!!
地獄の淵からでも、きっと必死に私のもとに帰ってきてくれる!!

だって、シカマル。
私達、こんなにも愛し合ってるんだもん。
こんなにも愛してる。シカマル・・・大好きだよっ!!


・・・・・・シカマル!シカマル!シカマル!・・・・・・





『ったく うるせーなっ』






「え?」

私はその声に ビクリと反応した。

「どうしたの?

いのの驚いた顔。
いのには聞こえなかったの?
だってあれは確かにシカマルの声だった・・・・・・









その後どれぐらい時間がたっただろうか。
シカマルの病室からゾロゾロと医師が出てきた。
様々な器具が運び出されていく。
医者の一人が私達の側にやってきた。

「綱手様が見てくださったからもう大丈夫。峠は越しましたよ。彼はよく頑張りましたから」

いのと私は顔を見合わせて、それから抱き合った。

病室から綱手(火影)様があらわれた。

・・入りな・・・お前とシカマルのことは知ってる。今回は特別だよ。
 目が覚めるまで側にいてやんなっ」

「は・・・はい・・・・」

いのは私の耳元で囁いた。

「いい?もう絶対離しちゃだめよ」

「うん」


転がるように廊下を走って、シカマルが眠る病室の前に立つ。
ゴクリッ
喉が鳴るのが分かった。

冷たい扉のノブに手をかける。

開けるのがなんだか怖い気がして、私はとっさに後ろを振り返る。
そこには笑顔のいのが私を見ていた。

「いってらっしゃい。」

その声に私は安心する。

「うん。シカマルをむかえに行ってくるね!」










ゆっくりと真っ暗な病室の扉を開ける。

カーテンでしきられた奥にベットが見えた。

私はそっとベットに近づく。

ベットには酸素マスクをつけて眠っているシカマルがいた。
隣には心拍を計る機械が規則的に音をかなでている。
シカマルが生きていることを証明する音だ・・・

でも、機械の音なんかじゃなく、シカマルのあったかい胸から、生きた鼓動を聞きたかった。
シカマルの腕に抱きしめてほしかった。
ベットの端に膝をついて、無表情なシカマルの耳元に声をかける。

「シカマル・・・よく頑張ったね・・私がずっと側にいるから・・だからもうどこにも
 行かないで・・・・」

上にかけられた真っ白な掛け布団から、シカマルの左手が見えた。
今はまだ血の気もなく、真っ白に見える。
私はそっとシカマルの手を握った。

でも、シカマルは握り返してはこない・・・・

胸が締め付けられそうに苦しい。
私があんなひどい事を言って、強情な私はシカマルを許せずに、泣いてばかりいて、
シカマルを傷つけてきた。

それなのにシカマルはこんな私のために・・・私をかばって・・・・・

力の無いシカマルの大きな手をギュッと握り締めた。

幼い頃からシカマルは「めんどくせー」って言いながら、私をずっと守ってきてくれた。
寂しいときも悲しいときもシカマルは何も言わずに側にいてくれた。

小さい頃は私の方がちょっぴり背が高かった。でもシカマルの方がずっとしっかりしていて
私はいつもシカマルを頼っていた。
いつのまにかシカマルに背を抜かれて、今では、シカマルの方がみあげるほど大きくなって
しまったけど、それでも変わらず私達はいつでも一緒にいた。

子供の頃と違うのは、私が泣くとシカマルはいつも抱きしめてくれるようになった。
大きな体にすっぽりと埋まってしまう私をシカマルはいつも覆うように大切に抱きしめて
くれた・・・

シカマルの体はいつもあたたかかった。

いつしかお互いに幼馴染ってだけじゃ埋められないほど、相手を愛しく思うようになった。

シカマルに、はっきり言葉で伝えてもらったことはなかったけど、なんとなくシカマルの気持ち
は分かってた。
私を誰より大事に思ってくれてること・・・
そして私もシカマルを誰より大事に思っていた・・・・


この思いは永遠に続くと思ってた。


でも・・・・・私はシカマルのたった一度の過ちを、許せずに意地をはった。
シカマルはそんな私のわがままを許してくれた。
何も言わずに・・・だまって耐えて・・・見守って・・・・・

本当は一番傷ついて、悩んで、辛い思いをしたのはシカマルだったのに・・・・




ごめんね・・・・シカマル。




「シカマル・・大好きだよ・・・ずっとずっと側にいて・・・」

シカマルの手にキスをした。
大きな手の甲に顔をうずめて泣いた。

(早く目を覚まして・・・もう一度私のこと見てよシカマル!!・・・)


「シカマル!シカマル!」

たまらなくて、何度も何度も名前を呼び続けた。













「シカマル?」

私は驚いてシカマルの顔を見る。
月明かりに照らされたシカマルの顔はまだ無表情のままだ。
でも、確かに私を呼んだ声はシカマルのものだった・・・


急に胸が張り裂けそうになった。
ずっとずっと私だけを見ていてくれたシカマル。
私のために自分を犠牲にして守ってくれたシカマル。

愛しい声を思い出したら、途端に目の前で動かないシカマルに不安になった。

カチコチカチコチ・・・・

時計の音だけが、まるでこのまま何も変わりはしないと言うように、冷たく、
一秒の乱れもなく、音をたて続ける。

一体どれだけの時間こうしてるの?
あとどれだけ待ったら、シカマルは目を開けるの?
本当にシカマルは生きてるの?


耳障りな時計の音が私の頭をまた混乱させる。



シカマルの背中にぐっさりとささっていたクナイ。
暗闇に落ちていく体・・・・


もうやめて!
もう待てない!!



「シカマル、シカマル、会いたいよ・・・シカマル・・・起きて!!起きて!!・・・」


私は泣きながら、腕をゆすった。
お願い起きて!!!
涙が止まらなくて、途中でなんども苦しくなって・・・・


「お願いシカマル・・・目を・・・開けてっ」





----------------------------!!----------------------------------------




シカマルの手が私の目の前にあげられる。







それはまるでスローのVを見ているように、ゆっくりじんわり私の目に焼きついていく。

シカマルの手・・・私の大好きな・・・大きくてしなやかで、でも骨ばった男らしい手。
綺麗に整えられた爪。長い指。血管が浮き出る力強い手の甲。
私は一つの特徴も見逃さないように、シカマルのその手が私に近づく時を見つめていた。


そして、その手がそっと私の頬を優しく撫でる。


じんわりと頬に伝わる熱。



「シカ・・マル・・・・・・」


涙でうるんだ視界が晴れると、黒い優しい瞳がジッと私を見つめていた。





--------------------あぁ・・シカマルが・・・かえってきた・・・--------------------------





口にあてられた酸素マスクの中でシカマルが呟いた。


『バカ・・・もう泣くなって・・・・・さっき・・言ったろ?・・・・』


苦しそうに一瞬目を細めながらも、シカマルは へっ と笑う



胸が・・苦しいよ・・・
ねぇ・・・本当に生きて帰ってきてくれたの?・・・私をちゃんと見てる?・・・
ねぇ・・・もう・・どこにも行かないよね? どこにも・・・行かないでっ!!


「シカマル!!」

私はシカマルの体にしがみつく。


もうこの胸から離れたくないっ
抱きついた腕をシカマルの体にギュッと巻きつけた。

そして、シカマルの左手が、まだぎこちない動きで、ゆっくりと私の頭を撫でる。

心臓がどきどきする。
あぁ・・・本当にかえってきてくれたんだね!!

安心したらまた涙がドッと溢れてきた。




シカマルは私の頭をポンポンと優しくたたくと、ゆっくりと口元の酸素マスクに手をかけた。

「シカマル?」

私はボーッとその光景を見つめていた。

シカマルは酸素マスクを外し、ゆっくりとべットにひじを立てる。
ベットがギシッと音をたてた。

「ねぇシカマル!大丈夫なの?」

ゆっくりと上半身を起こしたシカマル。
私を見て、フッ と笑った。

「シカマル?」

夢を見てるみたい・・・さっきまで血の気のない真っ白な顔をしていたシカマルが嘘のように
顔には生気が戻り、私を見つめる目にも力を感じた。

心臓がまたドキドキした。
こんな時にこんなことを思う自分はどうかしてるかもしれないけれど・・・
目の前にいるシカマルがすごくかっこよかった。

「あーーーーぁ お前がうるさく俺を呼ぶから、せっかく気持ちよく寝てたっつうのに
 起きちまったろーが。めんどくせーっ」

いつものシカマルの言葉。少し鼻にかかる低い声。頭をガリガリ掻く仕草。
口を不満げに尖らせて、フンッと笑う顔。


シカマルだ・・・本物のシカマルがいる!!


「シカマルのバカ!!」

私はとっさにシカマルの胸にしがみついた。
シカマルの心臓の音が聞こえる。
夢じゃない!!シカマルは生きてる!!!

シカマルが私の体に腕をからめて強く抱きしめた。
あったかいシカマルの体。
押し付けたられたシカマルの体からいつものシカマルの匂い。
優しくて安心する私だけが知ってるシカマルの匂い。

「シカマル」

「俺を呼んでくれて・・・ありがとな・・・・・・」

優しい声が私の耳に心地よく伝わる。


(あぁ・・届いたんだね? 私の声が・・・・・)


胸が熱くなる。
やっぱりシカマルは私の声をちゃんと聞いてくれる。
どこにいたって、私が呼べば必ず来てくれるんだ。

「シカマル・・シカマル・・」

愛しいあなたの名前を呼んだら、また涙が溢れた。
胸が熱くなって、心臓がドキドキして・・・

「バカ。もう泣くなっていってんだろっ お前はいつでも笑ってろっ」

シカマルは大きな手の平を私の頬にあてて、流れ出る涙をぬぐってくれた。

「うん・・・」

私はシカマルの胸に顔をうずめた。
シカマルももう一度私の体を強く抱いた。
心臓の音が重なる。あったかくて安心する。


好きだよ・・・シカマル。もう離れたくないよっ・・・・










「気がついたようだね?」

抱きしめあっていた私達のすぐ後ろで火影様の声。


私とシカマルは驚いて、パッと体を離す。


「悪い悪い。邪魔するつもりは無かったんだが。元気になったのなら、早く家に
 帰んな。お前の両親も心配してるからなっ」

「火影様・・・・ありがとうございました。」

シカマルの真剣な顔。

「どうだ?怪我する前より体が軽くなったんじゃないか?私の医療忍術もまだまだ
 現役だな」

ニシシと笑う火影様

「確かに怪我まえより元気になった気が・・・」

シカマルが腕を軽くまわす。

3人で笑った。

「なぁに・・・お前の彼女が必死でお前を呼んでたからね、私も必死になっちまった。
 お前は幸せな男だな?シカマル!」

火影様は私を見てニコリと笑う。

「さぁ早く帰んなっ 愛を確かめ合うんだったら、悪いが他でやってくれっ ここは病院
 だからなっ」

ニシシと笑われて、私達は真っ赤になった。



病室を出ると廊下にいのとチョウジ君とアスマの姿が見えた。

!シカマル!」

駆け寄るいのに私は抱きついた。

「シカマル!無事でなによりだなっ」
「あぁ・・心配させて悪かったな・・・・・」

アスマに照れてるシカマル。

「僕はこんなことでシカマルが死ぬなんて思ってなかったよっ だって死ぬのもめんどくせー
 って言いそうだもんね。シカマルってさ。」

「うるせーよチョウジ!」

「違いねーなっ」

アスマの一言でみんなで大声で笑った。


「お静かにっ!」

見回りの看護婦に怒られて、私達はそーーッと病院を抜け出す。





空には月が出ていた。

まるで私達をみつめているかのような柔らかい光をあびる。

「潜伏していた敵は全員捕獲できたそうだ。これで今夜はゆっくり酒でも飲めるなっ」

『そりゃー アスマだけだって!!』

みんなから突っ込まれるアスマ。
私達はゲラゲラと笑った。



あーーーーいつもの10班のメンバーの最高の笑顔。
いのが笑ってる。チョウジ君とシカマルが肩を組んで笑い合う。アスマがそんなみんなを見つめて笑う。

そして、その輪の中に自分がいて、私もみんなと一緒に笑いあう。
なんて幸せな空間なんだろう・・・・・・

会えずにいた時間なんて、ほんの一瞬で消し去ってしまうぐらい、私達は
昔と変わらず、笑いあい、抱き合った。
やっぱり私達・・・本当の仲間なんだ・・・私の居場所はここなんだ・・・・


そんな大事な事を今になって初めて感じた。
こんなにも心があったかい。


「よし!今日はこれで解散!明日からまたスリーマンセルで頑張れよ!お前ら」

『えーーーもう任務ぅ?』

3人は顔を見合わせる。

「まぁ、シカマルだけは大事をとって、明日だけは休みってことにしてやるかっ」

「っつうか、ふつうするだろ?俺死にかけたんだぜ?」

「バーカ。自業自得だ!これにこりたら、もうちょっと修行つんで強くなれよ!シカマル!」

「へいへい。」

また4人で笑い合った。

いのがいて、チョウジ君がいて、アスマがいて・・・そしてシカマルがいる!!
夢なら覚めないで。
ずっとずっと待ち続けていた幸せな光景が今、目の前にあるんだ・・・
胸の鼓動がドクンドクンと私を高鳴らせる。体がこんなにもあたたかくて、私はまた泣いてしまいそうだよ。


私達は名残惜しい気持ちを残しつつ、
それぞれに家路へと向かう。

「ばいばーーーい」

みんなが見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
また明日、みんなにまた会えるんだっ
それだけで胸がいっぱい。

暗闇に陰になりながらも、いのもチョウジ君も手を振り続けてくれた。

みんなの姿が見えなくなる。








・・・帰るぞ」
「うん」

シカマルと私は並んで家へと歩きだす。
その時、シカマルの手がそっと私に触れて、そしてギュッと握られた。


あったかい。


シカマルの手はあたたかさと一緒に私に好きだって気持ちも伝えてくれている。


だから
私も好きだよって気持ちと一緒にギュッと握りかえす。


その後、私達は無言で歩きつづけた。

シカマルがいなかった時間、私は死んだように真っ暗な世界の中にいた。
会えずにいた空白の時間の出来事・・・すごくすごく辛かった。
きっとシカマルも同じように辛い思いで過ごしていたんだろう。


でも今私達の間を引き離すものなんて、何もない。
私とシカマルの距離はきっとどこにも存在しない。
私達、今しっかりと結ばれてる。
そうだよね?

もう心配なんていらないんだよね?

私達は何も話さず歩き続ける、しっかりと手を握り締めて。
手から伝わるたくさんの想いをお互いに感じながら。








玄関先ではシカマルのママとパパが待ち構えていた。
泣きながら、シカマルを抱きしめるシカママ。

みんなシカマルが帰ってきたことを心から喜んでるんだよ!シカマル!

私も胸が熱くなった。

でも、次にシカママは私を抱きしめてくれた。

「ありがとう。シカマルを呼び戻してくれて・・・・」

「おばさん・・・・」

「生きて帰ってきてくれただけじゃないわ・・・あの子嬉しそうに笑ってる。
 ・・あんたが取り戻してくれたのね・・あの子の笑顔を。」


そうだった・・・以前、シカマルが心を閉ざしてしまった時、シカママはすごく心を痛めて
いたんだ・・・


「おばさん・・・私もうシカマルと絶対離れないっ シカマルが世界で一番大好きだもの・・・」

「ありがとう。あのバカ息子・・よろしくね」


小声で語り合った言葉をシカマルはきっと知らないよね?
私達がみんなに支えられているってこと・・・今、分かった気がする。








シカマルは私を部屋へと呼んだ。

「うん」


階段をあがって2階の部屋へと着いていく。
シカマルと別れてから、ずっと来てなかったシカマルの部屋。
ドアをあけるとき、心臓がどきどきと高鳴った。

懐かしいシカマルの部屋。
安心する空間。
なにも変わってないんだね・・・・・・





扉が閉まる瞬間、シカマルに抱きしめられた。
ギュッときつく絡まるシカマルの腕。

・・・・やっと会えた・・」
「うん。」
そうだね。シカマルはいつだってこの部屋で私を待っていてくれた。

「お前はやっぱ、あったけーな」

シカマルの鼓動が私と重なっている。
すっぽり私の体を覆うように抱きしめてくれるシカマル。

それはいつものシカマルで・・・顔をくっつけたシカマルの胸から聞こえる鼓動に
すごくホッとして、私はいつものシカマルの優しい匂いに安心した。

「シカマル・・・大好き・・・」

シカマルの胸に顔を埋めたまま、私は言った。

「あぁ、知ってる。お前は俺がいなきゃダメなんだろ?
 泣いて呼んでたもんな?シカマルシカマルってよっ」

シカマルが意地悪く笑った。

「もう意地悪。シカマルだって私がいなきゃダメなくせにっ////」

恥ずかしいから、私もわざと意地悪にシカマルを見た。

「へっ」

シカマルはいつものように鼻で笑った。
それから、急に真剣な顔をした。

「・・・・でも・・・・そうだな・・・・俺にはお前しかいねーよ」

そっと前髪を優しくかきあげられる。

思いも寄らないシカマルの言葉と行動に、私はなんだかドキドキして、
シカマルの顔をじっと見つめていた。

「めんどくせーこと言っちまったなっ/////」

シカマルは急に恥ずかしそうに真っ赤になった。
その姿が私を安心させる。

いつものシカマルだ・・・本当に変わらずに私の目の前にいてくれるのは、
今まで通りのシカマルなんだっ!!

嬉しくて、なんだか夢みたいで、また心臓がドキドキした。

「かわいそうだから、ずっと側にいてあげるよっ」

私はニシシと笑った。

「ったく、調子のんなっ」

シカマルもニシシと笑って、でこピンされた。
お互いに顔を見合わせてまた笑う。

それから、シカマルはゆっくりと大きな手で私の頬を包む。
シカマルの真剣な目が私を映している。


その先は・・・・分かってる。


「いい・・・か?

「うん。いいよ」

私は目を閉じて待つ。

『好きだ 

呟いた言葉の次に、シカマルの唇が私の唇を柔らかく塞ぐ。
優しくて長い長いキス。


あったかい・・・・ 


シカマルを疑って怒って傷つけたあの日
何度も泣いて、別れを決めたあの日
シカマルに会いたくて辛くて壊れそうだったあの日

悲しい記憶が頭を巡った。
でも、今こうして、シカマルは私の目の前にいてくれて、私達はキスしてる。

シカマルの優しい唇と体が悲しい記憶をきっと溶かしてくれる。

嬉しいのか、悲しいのか分からない。
でもなんだか胸がいっぱいで涙が出そうになる。

もう絶対失いたくない。 もうシカマルと離れたくない。
シカマルを失うのが怖いんだよ。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。


シカマルの肩口をギュッと掴んだ。


シカマルはそっと唇を離した。

・・・どした?・・・大丈夫・・か?」

私がまた泣きそうになった事がわかったから、シカマルはまた私を傷つけてしまったの
かと心配している・・・

「違うよシカマル。私嬉しいんだよ。だって、こんなに優しくキスしてもらったんだもん」

そうだよ。
もう心配なんて必要ないんだよね。
だってシカマルはここにいる。私の目の前に。

「ばーか/////」

照れた顔・・・いつものその顔が大好きだよ。

私はシカマルにそっと呟く。

(ねぇ。こんなキス・・・今度は絶対に私以外の人としちゃ嫌だよ!)

(する訳ねーだろ?もうお前以外の女とするキスなんて、まっぴらだっつうのっ
それに・・・・)

(それに?)

(俺はお前以外愛せねーんだよっ)


心の中に蓋をして仕舞い込んでいた感情が一気に流れ出ていく。
もう止まらない。


私達はもう一度キスをして。
何度も何度も求め合う。





あの日『俺を嫌いになれ』と言ったシカマル。
その時のシカマルの寂しそうな、でも真剣な目を思い出す。


あの日『さよならシカマル』そう言って俺に背を向けた
その時見せたの泣きはらして真っ赤になった悲しい目を思い出す。


胸が苦しい。
もう嫌だ・・・あんな思いは・・・・・・







離れては、また、お互いの唇を追う。

はじめて感じる深い深いキス。
私と絡まるシカマルの舌は夢中で私を追い求める。
もっともっと私を求めて。





シカマルのいない真っ暗な時間。
夜中に何度も目が覚めて、いつまでも明かりのつかないシカマルの部屋を見て
泣き続けた夜。


のいない見知らぬ里での任務。
忘れようと必死になって、それでもお前に会いたくて、声が聞きたくて、膝を抱えて
震えていた夜。



もう嫌だ・・・あなたが(お前が)いない夜なんて・・・・・



「シカマル・・・・・」

こんなに幸せなキスをしてるのに、なんで思い出すの?
どうして体が震えるの?

「シカマル・・シカマル・・・」

思い出すだけで、不安で怖くて・・・だから私は・・・目をギュッと閉じた。

・・・大丈夫だって。俺もう離さねーから・・・安心しろ」

目を開けたら、シカマルは優しく笑っていた。
どうしてあなたは・・・いつだって私の心を見透かして、私の為に無理をして、
そんなに私を好きでいてくれるの?


本当は私を抱くあなたの腕も震えてるくせに。


お互いが失うことにあまりに臆病になって、それでも私達は必死で繋ぎとめようと
している。この時をもう二度とこぼれ落とさないように。
あなたの想いが優しすぎて、胸が痛くて、たまらないよ。

「シカマル、大好き」

心からそう言える。

・・・俺もうぜってぇお前を泣かせたりしねーから・・・」

抱きしめるシカマルの腕と体の熱さが私の体を埋めつくす。
愛しいあなたの手が私の体を何度もなぞる。
すべて欲しいと体中を掴む。

頭の中がからっぽになって、夢中で求め続ける。


ねぇ・・・もう全部一緒になりたい。
もう数ミリだって離れていたくない。




唇も体も私の全てをあなたにあげる。















「くしゅんっ」

寒い・・・か?」

「ううん。平気/////」

「もうちょっとこっちこいって////」

シカマルにグイッと腕をつかまれて、布団の中でくっついて、見詰め合う。


・・・・もう、平気か?」

体の震えもとっくに治まっていた。

「うん。もう平気。シカマルの事信じてるもんvv」

「あっそ////」

照れてるの?顔が赤い。

「ねぇ・・・・」


私はシカマルの耳にそっと唇を近づける。


(大丈夫。もう絶対迷ったりしない。
シカマルを信じて、愛して、どこまでもついて行くよ。)


「お前のことだけは、めんどくせーなんて言わねーから、安心してついて来い」

シカマルが私の髪に優しく触れた。



そして私達は静かに見つめあう。

『シカマル』



一緒にいよう。
これからずっと。
離れているなんて不自然だから。



悲しい記憶はきっと永遠に消えることはないだろう。
そして私達はときおり不安になって、胸を痛める日もあるだろう。
そう・・・過去の記憶を消し去ることは、誰にもできないのだから。
でも、そしたらまたキスしよう。そして抱きしめあおう。
もう二度とこぼれ落とさないように。
この想いをしっかり抱きとめよう。

そしてまた新しくはじめればいい・・・・・



だから


・・・俺を信じるか?」
「うん・・・シカマルの事、愛してるもんっ」
「ばーか////」

コツンとおでこをぶつけあって、指を絡めて・・・・・





そして優しくキスをして





もう一度ここから新しくはじめよう・・・私とシカマルの幸せな物語を---------------------------------------





















戻る



55 STREET / 0574 W.S.R / STRAWBERRY7 / アレコレネット / モノショップ / ミツケルドット