「なんでこんな日に雪なのよぉ・・・・」


はぁ・・・


私の白い息が、雪に逆らうように空にあがっていく。
今日はクリスマス。
一人きりで歩く雪道はいつもよりずっと寂しく感じた。


「寒い・・・」


手袋もしていない私の指先は哀れなほど赤く染まっていた。





もしこの場にシカマルがいてくれたら・・・・・
そしたら、きっと----------------------------------------




懐かしい思い出が頭を巡る。









『普通忘れっか?こんなクソ寒ぃ日によぉ』

待ち合わせ場所で、シカマルは呆れたって顔で私を見下ろした。


『だって、急いでたんだもんっ』


手袋の無い私の手。私は自分でその指先に はぁ と息をふきかける。


『真っ赤じゃねぇか。ったく・・・めんどくせぇ』


吐き捨てるように言われて、私はぶーーっとふくれる。

『ひどーーいっ 何よ シカマルには関係ないじゃんっ!!』



でも、


『ほっとけねぇだろっつうのっ』

『きゃっ』


私の顔にぺしりとあたる、シカマルの片方の手袋。


『な、何?』

『はめとけよ』

『片方だけ?』

『いいから・・・』


私はしぶしぶブカブカのシカマルの手袋を右手にはめる。


『温っか〜い////////』


右手だけは手袋にシカマルの体温がまだ残っていて、ぬくぬくと暖かい。


『ほら、行くぞ』


『え?あ、うん//////』


返事するのと同時にシカマルの右手が私に伸びてきて・・・・


(え?)


シカマルは何も言わずにぐいって私の左手をとって、指を絡めて、自分のコートのポケット
にぶっきらぼうにズボッと入れた。



『え/////こうして歩くの?////////』

『仕方ねぇだろっ 俺だって右手が寒ぃんだよ///////』



私達、ちゃんと付き合ってて、恋人同士のはずなんだけど、こういうラブラブな感じって
なんか縁遠くて・・・
だってシカマルってば、いっつも冷たいし・・・

だからかな?

メチャクチャ嬉しくて、でも恥ずかしくて、私の顔はこんな雪の日だっていうのに、
真っ赤にほてってしまった。


シカマルの手のぬくもりが、手から伝わって、心臓ドキドキ。
まさか、繋いだ手から、このドキドキがシカマルに伝わったりしてないかな?って
変に意識しちゃって・・・

何をどう話していいのか分からなくなっちゃった///////



二人並んで歩きながら、なんだか私だけしどろもどろ。

『ゆ、雪が綺麗だね』

『そうか?寒ぃだけだろ?歩くのもめんどくせぇよ』


シカマルは平然としてる。



『あのさ・・・えっと・・・』

『あ?』

『ううん////なんでもないっ』



やっぱりまだ恥ずかしくって、うまくしゃべれない。



『なんだそのタコみてぇな顔。バーカ』


シカマルはそんな私を ぷぷぷ と笑った。


『//////だって恥ずかしいぃよぉ//////私達まるで恋人同士みたいなんだもん/////』

『ちがうのかよ?・・・・』

『ち、ちがわない・・・・か/////あはは////』

『アホか////』


変な会話。


そしてまた歩き出す。






ギュッ ギュッ



二人で踏んで歩く雪道。
ポケットの中で繋がれたままの手。

シカマルの指の感触が私の手を敏感にさせるから・・・・///////

それ以上、会話が続かなくなって、雪を踏みつける足音ばっかり耳に響いた。







『なぁ・・・なんかしゃべれよ。お前らしくねぇ・・・どうすんだこの空気』


シカマルは はぁ って、ため息をついた。


『だって、だって、シカマルが柄にもなく、かっこいいことするからだよぉ/////』

『なにが?』

シカマルは眉間にシワを寄せて、私を見下ろす。


『だって、シカマルから私と手ぇ繋いでくれるなんて、初めてだもん////////』


『お前が手袋なんか忘れてくっからだろっ///////』


プイッと顔を背けられた。


『そうだけど・・・・でも・・・・』


『なんだよっ』


ぶっきらぼうなシカマルだけど・・・でも、でもね////





『嬉しいよ///////ありがとシカマル////////』


私はポケットの中で握られたままの手を少しきつくギュッと握った。


『バカ///こっちまで照れんだろうがっ///』


それでも、シカマルの手も私の手をギュッと握る。



雪の中、それだけで、私達わかり合えてる気がしてた。
シカマルが私を想ってくれている気持ちが、ちゃんと伝わって・・・・
胸がギュッ///とした。









それから、私達は何気なく空を見上げる。



空から降る雪がポツポツと顔にあたった。
落ちてくる小さな雪のつぶが、なぜだかとても気持ちよかった。
シーーーーンとした無音の世界が、神秘的で美しかった。







『なぁ・・・・

『うん』



私達を空を見上げたままだった。
だって、雪が綺麗で。

シカマルの声だけがまっすぐに私の耳に届く。




『・・・・好きだ』

『・・・私もだよ』




雪が包みこんだ私達の言葉は、お互いの耳から、きっと雪のようにじんわりと
心に染み渡る。


それ以上の言葉なんて、お互い必要なかった。
それだけで充分。


すっごく幸せだった。
シカマルが隣にいてくれて、私を想ってくれる。

それだけで、もう死んでもいいかなって思うほど幸せだった。


ずっと続くと思ってたよ。
私達は永遠に離れることなんて無いんだって・・・信じてた・・・








でも、永遠なんてありえない。















『私、他に好きな人がいるのっ』



それは、あの日私がとっさについた嘘。
私がシカマルに、はじめてついた嘘。


ひきとめて欲しかった。
叱って欲しかった。



でも・・・




『・・・・・・・・そうか。分かった。』



シカマルは私に背を向けた。








人の想いなんて、こんなに簡単に途切れてしまうんだよ。
永遠なんてありえない。

私達は、それっきり・・・・・・
別れたんだ。






--------------------------------------------------------------------------------------




もうきっと、あんな幸せな日々はやって来ない。
シカマルに代わる人なんてどこにもいない。

でも、
シカマルともう一度なんて絶対に在り得ない。


なのに、分かってるのに、私って本当にバカだ。








ザクザクザク







一人きりで歩く雪道。






繁華街の雪は、人に踏まれて、黒ずんで、あの日、シカマルと見た綺麗で神聖な雪とは全然違う。

汚れて、踏まれて、哀れだった。


まるで私みたいに・・・・・・






「素敵vv」
「最高のクリスマスだね」



隣を行き過ぎていったカップルが、幸せそうに笑う。






私は無言で歩き続ける。






カランッ
知っている限りの店をはしごした。






「やっぱり無理なのかな・・・・」







それでも、また店を探して歩き回る。






雪が・・・・冷たい。















「ありがとうございました」


店員さんの軽やかな声を聞いて店を出る。
何時間かかっただろう・・・・

その店を出て、私は一人、店で買った箱を胸に抱きながら、真っ暗な道を家路へと急いだ。




今日はクリスマス・・・そして雪景色。



いつもなら、こんな素敵なクリスマス、きっと最高の気分で笑っていたはずだ。


去年の私だったら・・・きっとシカマルの隣ではしゃいでる。



でも



もうシカマルは私の隣にはいない。



「一人ものの私には辛いなぁ・・・・・・」



独り言を小声でつぶやいたら、白い息がまた空へとあがっていく。



「はぁ・・・」


凍える指先に息をふきかけて、私はまたザクザクと歩き出す。












帰り道、途中で見えるお店。


店内はカップルでいっぱい。
ガラス越しに、その楽しそうな笑い声が聞こえてきそうだった。


(あそこは・・・・)


私もシカマルと一緒に何度もあんみつを食べにきた店だ。


いつも、店の一番奥の窓ぎわの特等席に二人で座って、誰にも内緒でそっと指を絡めた。

『シカマル、食べづらい?』

気兼ねして聞く私に、

『・・・・別に』

シカマルは普通にそう言った。

あんみつ食べながら、ドキドキしてる私に

『お前よ、いい加減慣れろよ。バカ////』

シカマルは、楽しそうに笑った。










ザクザク




思い出のつまったその店をあまり見ないように、私はまた歩きだす。



でも・・・・




その先にある、繁華街から一本入る細い横道を歩くと・・・・


(あ・・・ここは・・・・)


そこにあるいつも閉まってる店。


その裏にシカマルに手を引かれて連れていかれた事がある。

『なぁに?』
『いいから』

その店の裏手には道を隠すように大きな木が立っていた。


『きゃっ』

『家まで待てねぇ』


突然その木に体を押し付けられて、びっくりしてシカマルを見あげたら・・・

『内緒な?』

そのままシカマルに押さえつけられて、キスされた。


それから私達・・・任務の帰り道には、二人の秘密のこの場所で、人目を避けて、
何度もキスした。








ザッ ザッ




まだ覚えてるシカマルの唇の感触・・・・・



(思い出すの辛いっ)


私は胸に抱いている箱をギュッと抱いたまま、早足でその場を歩く。





でも、


その後に横道に沿って見える小さな公園。


任務で失敗してその場から逃げるようにここまで来た私。
自分が情けなくって、ブランコに座って一人泣いていた。

『なぁにいじけてんだよっ』

後ろから声をかけられても、振り向くことも出来ない意地っ張りな私に


『一人で泣いてんなよっ・・・俺がいんだろ?・・・』


シカマルはブランコの後ろから、ギュッと抱きしめてくれた。








ギュッ ギュッ






なんで?






歩くたびに、景色が変わるたびに、思い出すのはシカマルのことばっかり・・・・・・






(もうヤダっ )




あの日、あんなにひどい別れ方をしたのにっ
なのに、どうして忘れられないの?

どうして今でも私の心の中はシカマルでいっぱいなの?


胸に押し付けた箱がつぶれるほど、私は強く抱きしめた。
まるで、誰かに抱きついているみたいに・・・


そうでもしなきゃ、あの日の辛い思い出に押しつぶされて、
この雪の中に溶けて消えてしまいそうだったから・・・・・・・・・





-------------------------------------------------------------------------------------------------







シカマルとはずっとうまくいっているつもりだった。



任務が終わったら、いつもの店で待ち合わせして、一人暮らしをはじめたシカマルの家に
遊びに行く。


幸せだった。




でも、シカマルが中忍になって、下忍の私とは任務の内容も責任の重さも変ってきた。
その頃から、だんだんシカマルに会える時間も短くなったし、シカマルは時に任務で何日も里を離れて
しまう事もあって、私は不安で寂しくて、たまらなかった・・・・


『・・・・もっと会いたいよシカマル』

シカマルの部屋のソファーで、シカマルの肩にもたれた私はポツリと呟いた。

『しょうがねぇだろ?任務なんだからよっ』

シカマルは私の頭をくしゃりとなでる。
だけど、いつだってシカマルは冷静なんだもん・・・

『シカマルは私と会えなくて平気なの?』

私はいつも子供みたいにシカマルを困らせた。

『本気で言ってんのか?』

『だって・・・・』

『んな訳ねぇだろっ』




シカマルにソファーに押し倒されて、強引に何度もキスされる。



『大好き・・・シカマル・・・誰より好き』


キスされてる合間に、私は何度もそう言って、シカマルにしがみついて、
シカマルの深いキスを何度も受け入れた。


『あんま、かわいい事言うなよっ・・・マジで止めらんねぇ』


シカマルの手が私の服をたくし上げて、私を愛そうとする。
でも・・・





ブブーーーッ




家のブザーが鳴って扉を叩く音がする。



ドンドンッ






『悪ぃ。任務だ・・・・・』



シカマルの手が、体が、私からそっと離れてく。
まるで、気持ちまでそこで途切れさせられてしまった様な寂しさが私を包んだ。




そして、いつもの綺麗な声が玄関の扉の外からシカマルを呼ぶ。




『シカマル。任務よ。準備できてる?』



私の心臓はその声にいつも反応してドキドキと高鳴った。



そう・・・・・・・・



この声の女が原因で私達は別れたんだよ・・・・











最近、新しく木の葉にきた女上忍。


忍術のレベルも高いうえに、背も高くて、しかも道行く男、誰しもが振り返るような美人。


この人がシカマルと組んで任務をこなすようになってから、シカマルの任務は前以上に多くなって、
大変になって、私といる時間より、シカマルはこの女上忍といる時間の方があきらかに多くなった。



それを言っても、



『あいつと俺の忍術がちょうど二対で任務に適してるからだ。特別な意味なんてねぇよ』


シカマルはいつもそう答えるだけ。


『でも、この前だって喫茶店で二人でいたじゃないっ』

『だから・・・任務の打ち合わせだ・・・他に話せる場所が無かったんだよっ』




あの人がシカマルと組んでから、私は怖くてたまらなかった。
二人の並んで歩く姿があまりに似合っているから・・・・
私よりずっと彼女の方がシカマルの彼女っぽく見える気がして・・・・



『だったら・・・絶対シカマルの家には彼女を呼ばないでね?部屋で二人っきりで打ち合わせ
 されたら嫌だもんっ もちろん、任務以外でも呼んじゃヤダっ!!』

『はぁ・・・分かった。』



シカマルはめんどくさそうに頭をかきながらも、私とそう約束してくれてた。




でも・・・



先に裏切ったのはシカマルの方。










その日、めずらしく泊まりで隣国の任務の手伝いを命じられた私達の班。
でも、予定より頑張ったかいもあって、任務はその日の明け方には完了。


日の出まじかの時刻に、木の葉に戻ることが出来た。


私は疲れきった体をひきずるように自分の家へと向かう。



でも、


なんとなく遠回りしてでも、シカマルの家の前を通りたかった。
少しだけでも、シカマルのそばに行きたかったの。



歩きながら、『こんな朝早くにたずねて行くのは迷惑だよね?』なんて考えながららも
ドキドキしてた。





小さな古ぼけたアパートの2階がシカマルの部屋。

そのアパートが私の目前にせまっている。





(シカマル・・・まだ寝てるんだろうなぁ・・・・)




日ごろの疲れもあるし、きっと今頃は熟睡してる頃だろう・・・・






だから行かないつもりだった。
アパート前を通り過ぎて、自分の家に帰って、お昼頃にたずねてみようと思ってた。




だけど・・・・




見上げたシカマルの部屋のドアが、予想外に ギギッ と開いた。




「あれ?シカマル?・・・・」


私はその場で思わず立ち止まり、扉を見上げた。
でも、そこから出てきたのは・・・・・上忍の彼女だった。



「嘘・・・・でしょ?」


彼女を見送るように部屋から出てきたシカマルは、部屋着で・・・・
それはいつもシカマルが寝る時に着ているスウェットだった。




彼女はシカマルの頬にそっと手を添える。
シカマルの唇が「大丈夫だ」そう言った。




(何が大丈夫なの?・・・私に見つかってないから大丈夫だってこと?)



グルグルと不安に巡る私の心。
彼女は印を結んで、ボンッとその場からあざやかに消えた。







心が氷ついていく。





シカマルの部屋から、明け方に出てきた彼女。
彼女を・・・・あの部屋に泊めた・・・・の?







いつもキスしてたソファー
抱きしめ合って一緒に眠るベット
一つのコップにささった私とシカマルの歯ブラシ。
お揃いで買ったカップ





あの部屋には、絶対に彼女を呼ばないでって・・・約束したのに・・・・・












体が硬直して、その場で動けなかった。









そしたら、部屋にもどろうとしたシカマルが私に気づいた。
慌てた様子で2階の玄関前の廊下を走って、こっちに来る。






っ!!』




カンカンと音をたてておりてくる足音。



待てっ そこにいろよ!!』


シカマルの動揺した声を聞いたら、すごく逃げたくなった。
シカマルの言い訳なんて、聞きたくない!!!
シカマルがつく嘘なんて、聞きたくない!!!


シカマルなんて大っ嫌い








逃げ出した私の腕をすぐさま追いついたシカマルにグッと握られる。





『待てってっ!!!』

はぁはぁと息をあらげてシカマルが怒ったような声を出す。
それでも、何も言えず、私はシカマルの顔が見られなくて、うつむいていた。



『お前・・・任務・・・は?』

整わない息でシカマルはそう聞いた。


『早く終わったの。でも、終わっちゃいけなかったみたいだね。二人の秘密も知っちゃったし』


凍りついた心。私の声は自分でも驚くぐらい冷たかった。


『私に内緒で会ってたんでしょ?いつからそんな関係なの?』

『バカ。誤解だ。』

『誤解?こんな時間にまた一緒に任務?シカマル・・・中忍ベストはどうしたの?それいつもの部屋着
 じゃないっ!!!』


キッと睨んだ。
私だけが知ってる、普段のシカマル。任務以外でのその姿を彼女になんか見られたくなかった。

涙がにじんで、泣きそうだったけど、こらえた。
悔しくて、必死でこらえた。


『違う・・・任務じゃねぇ。けど、マジあいつを泊めた訳じゃねぇし・・・
 部屋に入れてもいねぇからっ』


(嘘つき!!!)


『だったらどうしてこんな時間にシカマルの部屋から出てくるの?』

『昨日まで俺が寝込んでたんだよっ んで、昨日の任務に穴あけちまったんだ・・・
 今日も大事な任務があってよ・・・『行かれねぇかもしれねぇ』って連絡したら、あいつがあわてて薬を持ってきたんだ。
 今日の任務はどうしても休まれたら困るからってよ・・・薬だけさっき受け取った。それだけだ』


『そんなにシカマルが大事なんだ。私より親切だよね。わざわざこんな時間に・・・
 別れ際も辛そうだったよ。シカマルのほっぺた触ったりしてさっ!!』


どうしても信じられなかった。
その前から、彼女のことをずっと疑っていたからっ


『だから違うって。あいつがこんな時間に来たのも、今日は俺がどうしてもいなきゃならねぇ任務だからだっ 
 さっきのは・・・俺の熱が引いたか確認しただけだ』


『そんなの口実で、シカマルの気を引くためかもしれないじゃないっ』


言いすぎたって自分でも分かってるのに、どうしても止まらなかった。


『んな訳ねぇだろ?』

『あの人は頭も良くて綺麗でもん・・・それぐらいすれば、シカマルなんてコロッと
 騙せるって思ってるんだよ!!』




『いい加減にしろっ・・・あいつはそんな奴じゃねぇよ・・・・・』



シカマルの冷ややかな目が余計に悔しかった。
私の気持ちも知らないで、そんな風に彼女をかばうシカマルが憎かった。


『何よっ なんで彼女のことかばうの?シカマルのバカっ』


こらえてた涙がボロリと頬に流れ落ちた。


『別にかばってるわけじゃねぇよ・・・バカ・・・泣くなって』


私の涙をそっと拭うあったかいシカマルの指先。
でも、それでも怖かった。
彼女がいつかシカマルを取っていっちゃうっ



『あの人なんて・・・大っ嫌い・・・』


・・・・・』




涙も、ひどい言葉も止まらなくて、私はその場に立ち尽くしたまま、泣いた。
シカマルはその間ずっと、何も言わずに私の涙をぬぐってくれてた。


ぐすんぐすん・・・・


どれぐらい二人でそこにいただろう・・・・
それでも、シカマルの優しさが辛かった。
まだ信じられなかった。



『もう・・・こんなケンカやめようぜ。お前が心配するようなことはなんもねぇからよ・・・・』


シカマルはまた冷静にそう言って、まだ泣き続ける私の体を抱きしめようとした。


でもそれはいつまでも泣き続ける私がめんどくさかったからだって思った。

今だけは、シカマルに抱かれるのは絶対嫌だったの。

だから、シカマルの体を両手でおしもどした。





『もういい。』

・・・・』

『ちょうどいいから・・・私達別れよ、シカマル。』


その時、私の心の中には大きな闇があらわれていた・・・・



『なんでそうなるんだよ・・・・はぁ・・・・・』



シカマルは大きくため息をついて、額に右手を押し当てた。


『ちょうどいいじゃない。シカマルにはあの人がいるし。』

『だから、いい加減にしろよ お前っ』

『それに・・・・私・・・他に好きな人がいるの』

『・・・・・何言ってんだ。お前。意味わかんねぇよ』


シカマルは呆れたって顔をしてた。
でも、私のついた嘘は止められなかった。


『シカマルとすれ違ってばっかりで、寂しくて、不安で、ずっとその事を相談してた人がいるの』



それは嘘じゃない。
私が習っている医療忍術の男の先輩。
その人に、忍術を教わりながら、その帰り道、いつもシカマルとのことで愚痴を聞いてもらっていた。
でも、もちろんその人に恋愛感情なんて無い。


『それって・・・・・・お前の・・・・医療忍術の・・・・』

『うん』


彼の存在はシカマルにも話していた。
優しい先輩がいるって・・・・



『嘘だろ?』



シカマルは眉間にシワを寄せた。


でも、シカマルにとって、私はいつだって、シカマルを想って、追いかけてくる女の子だって
思われることが悔しかった。


『嘘じゃない。シカマルといても辛い事ばっかりなんだもん。苦しいんだもん。私、全然幸せじゃないんだもん。
 彼なら・・・私をホッとさせてくれる。彼といる時はもっと私笑ってるっ!!!』


私と同じように、シカマルもちょっとは苦しめばいいって思った。
私が彼女とシカマルのことで、どれほど傷ついたか、知って欲しかったの。


『俺といると・・・お前・・・辛いのかよ?・・・・』



シカマルの目がすごく悲しそうだった。
でも、私のことを心配してくれてるみたいで、それが嬉かった。


『最近ずっとケンカばっかりしてて・・・辛かった。私・・・毎日泣いてたよ・・・・』


彼女のことでシカマルとは何度も言い合いになった事があったから。
その時は本当に苦しかった。
本当に泣いてばかりいたよ。



『だから・・・別れて・・・シカマル。』




・・・シカマルに言って欲しかった。



(あいつのとこになんて行くなよ!!俺が幸せにしてやるから!!)



私を引き止めて、叱って欲しかった。




でも・・・・・・




『そうか・・・・・分かった。』



(え?)


シカマルの声は消えそうなぐらい小さくて、最初は聞き間違いかと思った。


シカマルの指先が私の髪に伸びて、そっと撫でられて・・・・・
私の心臓はドキドキしてた。


『ごめんな。・・・・・・・・』








シカマルはそう言うと、私に背を向けた。













どうしてシカマルがごめんって言うの?
どうして「分かった」なんて言うの?

どうして別れること認めちゃうの?









どうしてシカマル?





















--------------------------------------------------------------------------------------




「また・・・・思い出しちゃった」



ふと気がつくと、雪の道の途中で立ち尽くして、私の肩には何センチも雪が積もっていた。



「バカみたい・・・もう終わったことなのに・・・」







ザクザクザク





思い出をかき消すように、私は雪を思い切り踏みしめて歩いた。





遠くで、ジングルベルの音楽が聞こえてくる。




そうだよ・・・今日はクリスマスだから・・・
子供達はきっとサンタからのプレゼントを受け取っておおはしゃぎだろう・・・・


「サンタさん・・・か・・・」



さっきより粒が大きくなって、綿毛のように舞い落ちてくる雪の空をそっと見あげる。


店で買った包みの箱・・・・
ちゃんとまだ胸に押し当ててもっていることを確認してホッとする。



「バカみたいだよね・・・私・・・・」



この世に本当にサンタクロースがいて、私に何かくれると言ってくれたら、
そしたら、私は間違いなく、答えるのにっ











「メリークリスマス」



「え?」



さっきまで気づかなかった私の目の前に真っ赤な服を着て、真っ白なひげをたくわえたおじいさん。


今の今まで全く気づかなかった。

私はこれでも忍びなのに・・・情けないなぁ・・・・

それにしてもこのおじいさん。
今日はクリスマスだから・・・バイトかな?・・・・


でも、とっても微笑ましかった。


「こんばんわサンタさん」

「こんばんわ。かわいいお嬢さん。まだプレゼントあげてなかったねぇ」


おじいさんサンタはニコリと笑う。


「くれるの?」


私はつられて笑う。



「あぁ・・・あげるよ。今日はクリスマスだからね。さぁ・・・なんなりと」


片目を閉じて、いたずらな子供のように笑ったサンタさんがかわいかったから・・・だからつい・・・



「あたしが欲しいのは、たった一つ。シカマルだけよ」



叶うはずもないプレゼント・・・・・・
言われたサンタさんも困るよね・・・・



でも・・・







「そりゃ良かった。彼と同じ望みだったとは・・・手間が省けたわい。」


「え?」






ブワッ















足元に積もっていた粉雪が一斉に空へと舞い上がる-------------------------------






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