翼×美

とても静かな夜だ｡
厲閣山の一角の山賊達の住処から見下ろす場所に､広い草原が続いている｡
そこにある大きな岩に体をより掛け､翼宿は一人､座っていた｡
山賊の屋敷からは大きな岩に隠れて､翼宿の姿は見えない｡
「なんや､ここは静かやなぁ･･･」

久しぶりに鬼宿と美朱が向こうの世界から帰って来て､
今､翼宿達山賊の屋敷の中では七星士達や山賊の仲間が集まって､どんちゃ
ん騒ぎの真っ最中なのだ｡

本来なら宴会好きの翼宿が参加しないなんて考えられないところだが､
今日の翼宿は宴会もそこそこに集団に紛れて､一人でこんなところに
来ていた｡

(あいつ綺麗になっとったな･･･あっちで幸せにしとったんやろな･･･）
(なんであいつとまともにしゃべれへんのやろ･･･)

翼宿は自分自身の複雑な感情を抑えきれないでいた｡鬼宿と美朱が寄り添い､笑いあう姿を見ていられなかったのだ･･･
「ったく｡やきもちかい！アホらし･･･」
翼宿は空を眺めた

サクッサクッサクッ

草を踏んで誰かが近づいてくる音がした･･･

｢翼宿～こんなとこで一人で何してるの?｣
　暗闇から美朱が顔を出した｡
｢美朱！｣
今までの自分の感情を見られてしまったようで､翼宿は動揺した｡
｢どうしたの翼宿？顔赤いよ？｣
｢うっさいわ！んなわけないやろ！なんで俺が顔赤なんねん！｣
｢クスクス｡変な翼宿！｣
美朱は笑っている｡

｢お､お前こそなんや？なんで俺がここにおんの分かったんや?｣
｢エヘへ｡翼宿が一人で外に出て行くの見えたから｡こっそりついて
きちゃった｣
｢アホ｡こんな夜遅ーに　お前がおらへんかったら､タマが心配しよるで｣
｢大丈夫だよ｡魏は酔っ払って寝ちゃったみたいだから･･･｣
美朱は立ったままうつむいた｡
｢まっ　しゃあないやろ！久しぶりにこっちの世界に帰ってきよって､
七星士が勢ぞろいしたんやし｡酔いつぶれてもな｡」
｢うん･･･そうだネ｡｣

｢隣･･･座っていい？｣
｢ん｡ええよ｣

屋敷でのどんちゃん騒ぎが嘘のように､ここでは風が草を揺らす音
しかしない｡
空は満天の星だ｡
｢ねぇ翼宿はここで何してたの？星･･･見てたの？｣
｢アホ｡俺はそんなロマンチックな男やないわ｡ちょっと考えごと
しとっただけや｡｣
美朱は翼宿の腕をつついて､からかうように言った｡
｢え？翼宿が考えごと？うそうそ？悩みなんてないくせにーー｣
｢お前なぁ～　どついたろか！！｣
翼宿はそう言って､美朱の頭をコツンと叩いた｡

サワサワサワ　　　草が揺れる｡
風が少し冷たくなったようだ｡
｢厲閣山って空に近いのかなぁ｡星･･･きれいだね」
美朱は冷たくなった手を口元にあてながら､空を見上げた｡
｢そうか？毎日見とるで､俺よう分からんけど･･･｣
｢もう！翼宿は全然ムードないんだから！！｣
｢おうおう悪かったのぅ！鬼宿みたく優しい男になれへんで！
　お前なー｡星見たいんやったら､タマとこいや｡俺なんかとおって
　も気のきいたこと言えへんしな｡｣
そういうと翼宿はムスッとして顔をそらした｡
｢翼宿･･･怒ったの？　ごめん｡ごめんね｡そんなつもりじゃないよ
　私･･･今日は翼宿といたかったから･･･｣
｢な､なんや･･･それ･･･｣
美朱の以外な言葉が翼宿をまた動揺させた｡

｢本当だよ･･･私､くしゅんっ翼宿と･･くしゅん」
美朱は体を縮めた｡
｢お前､風邪ひいたんとちゃうか？こんな寒ー中ずっとおった
からや｡お前はもうもどれ｡俺が屋敷までつれてったるから｡｣

美朱の手を引いて､体をおこそうとした瞬間､美朱が翼宿の腕に
しがみついた｡
｢やだ！帰んない！まだここにいたい！｣
｢そやかて､お前　こんな寒いとこにいたら風邪ひくて｡｣
腕に美朱のぬくもりを感じる｡動揺しながらも､翼宿は美朱の体
を離そうとした｡
しかし､美朱は翼宿の腕にしがみついたまま､じっと動こうとしな
かった｡
｢･･･わかった｡そんならもう少しここにいよか｡｣
｢翼宿･･･うん｡ありがと｡｣
二人は岩陰に沈みこむように座った｡
｢そやけどお前はこれ着とけ｡｣
翼宿は自分の上着を脱いで､美朱にかけようとした｡
｢だめだよ｡そんなことしたら翼宿が風邪ひいちゃうじゃん｡｣

｢そやな･･･んなら｣
翼宿は美朱の腕をぐいっとひっぱり､自分の膝の間に抱えこむよう
にして座らせた｡
｢これなら､ええやろ？｣
｢う､うん｡｣
翼宿の声が美朱の耳元で聞こえてくる｡
背中に翼宿のあたたかい胸があたっている｡
美朱は自分の顔が赤くなっているのがわかった｡
翼宿は腕をまわして､美朱を抱き抱えた｡
「なんやずいぶん体冷えとるやん･･･」
翼宿の鼓動が伝わってくる･･･
（ドキドキドキ）←美朱の胸が高鳴った｡
｢まったくっ｡お前はいつも無茶しよるからな｡
　一人にでけへん｡心配でほっとけないんや｡｣
｢なによー　人を子供みたいに！私だってもう大人です！｣
｢わーーっとるわ｡暴れんなや｡じっとしとけ｡　もうすぐ体あったまるから｣
翼宿は美朱をギュッと抱きしめた｡
｢う､うん｡ありがと｡今日の翼宿､優しいね｡｣
｢アホ｡俺はいつも優しいわ｡｣
｢うん｡そだねっっ｣
｢アホ｡お前が認めたら､俺なんか恥ずかしいやんけ｣
｢クスクス翼宿また顔赤い･･･｣
美朱が少し後ろを振り向いて言った｡

｢翼宿･･･」
翼宿の腕の中で美朱はつぶやいた｡
｢なんや｣
翼宿は耳元で優しい声で答えた｡
｢私達､どうしてまたこっちの世界に来たか､分かる？｣
｢ん？そういわれてみれば･･･なんでや？｣
｢私が魏にどうしてもってお願いして､連れて来てもらったんだよ｣
｢････？｣
｢私･･･どうしても知りたかったの･･･｣　
｢何をや？｣
美朱は抱きかかえていた翼宿の手をほどいて､後ろにむきなおし､翼宿の
顔をみた｡
｢あのね･･･翼宿･･･私･･･｣
急に深刻な顔をした美朱の顔を翼宿は何も言わずに見つめた｡
｢聞きたかったの･･･翼宿の本当の気持ち･･･｣
｢俺の･･ほんとの･･･気持ち？｣
夜風が美朱の髪を揺らす｡美朱は翼宿の目をじっと見つめて言った｡
｢あの時･･･飛皐の術にかけられた時･･･あの時翼宿の言ったことは
全部術のせい･･･な･の･･？｣

翼宿の胸が高鳴った｡
｢お前､急になにを･･･｣
美朱はじっと翼宿を見つめている｡
その時､美朱の目から涙がこぼれ落ちた
｢私･･私ね･･･魏といて幸せなはずなのに･･なのに･･･だめなの｡
　いつも翼宿の顔､想い出すの｡どうしてるんだろうって｡会いたく
　って苦しくなるの｣
｢美朱･･･お前､なに言うて･･･｣
美朱が翼宿の袖をぐっと掴んだ｡
｢あのとき翼宿､俺といたらずっと笑わしたるって･･･飛皐の術のせいだ
って分かってるのに･･･私･･･｣
｢美朱････！なぁ､もうやめえや｣
(その先を言われたら俺は･･･)
｢いや！だって私､翼宿のこと！｣
(なんで･･･なんでや美朱･･･)
｢もうやめえて！｣
｢翼宿･･･私､翼宿のことが好きなんだよ｣
美朱は翼宿の胸にしがみついた｡
｢美朱！｣

美朱の言葉に､翼宿の奥底にしまっておいた感情が
一つ一つこぼれ落ちていく｡
｢俺は･･｡俺････は｡」
｢翼宿･･･好きだよ｡苦しいよ｡私もう魏とは帰れない｡｣

その瞬間､翼宿はずっと抑えてきた感情をとめられなかった｡
強く強く美朱の体を抱きしめた｡
｢なんでや？お前､なんでそんなこと言うねん｡俺ずっと･･･お前のこと･･
　そやけど､ずっと我慢して･･なのになんでそんなこと言うんや｣
｢翼･･宿･･わた･し･･｣
美朱の言葉をさえぎるように翼宿は美朱に激しくキスをした｡
｢俺はお前のこと愛してる･･･ずっと隠してきたんや｡お前に言うつもりも
　無かった｡お前､傷つけるのもう嫌やった｡そやけどもう無理や｡
　鬼宿に返したない｡もう俺止められん｡｣
｢翼宿･･･私も離れたくないよ･･お願い離さないで｣
二人の気持ちが一つになる｡
美朱と翼宿はあたたい舌を絡めあい､長いキスをした｡
(翼宿･･･)(美朱･･･)
抑えられない感情が湧き上がる｡
(もうあかん｡鬼宿･･･俺は･･･もう譲れへん)
「美朱！」
翼宿は美朱の肩を掴んで､草むらに押し倒した｡

遠くでかすかにみんなの笑い声が聞こえる｡
２人がいないことは､まだ誰も気づいていないようだ｡
そして今､２人がここでこうしていることも･･･

草むらに倒された美朱が震えているのが翼宿の手に伝わってきた｡
その瞬間､翼宿はハッと我に返った｡
（あん時と同じや･･･俺はまた美朱を傷つけて･･･）
美朱の両腕を抑えつけていた手を離し､翼宿は言った｡
｢美朱｡お前､俺が怖いんやったら､今すぐあいつんとこもどれ｡
　俺はもうお前を傷つけたない｡｣
｢怖くなんかないよ･･･｣
美朱の瞳は強く翼宿を見つめていた｡
｢ほんまにええんやな･･･俺､本気やで｡｣
｢うん｡好きだよ･･･翼宿｣
(それがたとえ魏を裏切ることだとしても･･･)

翼宿は美朱の服の胸元を開いた
星明かりの下で､美朱の体は白く､透き通るように美しかった
｢美朱･･･お前の体､きれいやな･･･｣
翼宿は美朱の首筋にキスをした｡
翼宿の熱い手が美朱の体を優しく這い､胸を掴んだ｡
｢あっ｣
美朱は思わず声をもらした｡
翼宿の舌がゆっくりと美朱の胸元に近づいたとき､美朱に激痛が走った｡
翼宿の牙が美朱の胸元にささり､美朱の体に傷をつけたのだ｡
｢美朱痛かったか？我慢･･してな･･｡しるし･･つけたんや｣
｢え？｣
｢お前は俺のもんってしるしや｣
｢たす･･き･･･｣
それから翼宿は温かい舌を美朱の胸に這わせ､手は下へと伸びて
いった
体がしびれるほどの快感に､美朱の体はびくびくと震えていた｡
｢たす･･き･･たす･･き｣
美朱は何度も何度もそう呼んだ｡
「美･･朱･･･たまのこと､今俺が忘れさせたる･･･ええか？」
｢う･･･ん｡｣
美朱の体に翼宿が入ってくる｡
（魏とも何度も交わっているのに｡全然違うの･･･翼宿､どうして
　　こんなに優しいの･･･どうしてこんなにあたたかいの）
「翼宿､私もう溶けちゃいそうだよ」
｢美朱･･･もう俺お前をどこにもやらん｡めっちゃ愛してる｡｣
｢たす･･き･･･｣
翼宿の体の動きが激しくなるにつれて､美朱の意識は遠のいていく
魏とは違う快感で頭が真っ白になっていく｡
まるで､あたたいしゃぼんの中に包まれてるみたい･･･
翼宿････愛してる･････｡この気持ち､もうとめられないよ

それからどのくらい時間がたったのだろうか････
美朱が目覚めると､翼宿の腕の中だった｡

はだけた服はきちんとなおされていた｡
「美朱･･･こないなとこで俺､乱暴やったな･･すまん」
｢ううん｡私が望んだことだよ｡それに私も翼宿と一つに
なりたかった･･･｣
｢美朱｣
翼宿はもう一度美朱をぎゅっと抱きしめた｡
それから決心したように言った｡
｢そろそろ屋敷に戻らんと･･･みんなが探してる頃やろ｣
｢うん｡そうだね･･･｣

２人は歩きながら一言も話しをしなかった｡
心の中では､これからどうしたらいいのか整理のつかない
気持ちでいっぱいになっていた｡
しかし答えがでないうちに､みんなの待つ屋敷は目の前にきていた

｢あーーーーーいたいた｡いたわよーーー!｣
屋敷の手すりに体を乗り出して､柳宿が叫んだ｡
｢あんた達ーー！何やってんの！探したじゃない!!｣
｢まったく翼宿も美朱もどこにいっていたのだ！｣
今度は井宿が顔を出した｡
｢すまんすまん｡ちょっとな｡｣
翼宿は頭を掻いた
｢幻狼のアホんだら！お客はんに迷惑かけんなや！
お前がおらんせいで､おれのとっておきの漫才ネタ､
披露できんかったやんけっ｣
相棒の功児がすっとんきょうなつっこみをいれた｡
｢知ーるかアホ！お前のネタはボケが甘いんじゃ！｣
翼宿もわけのわからない返しをした｡
｢まーーーったくぅ｡魏が心配して､壊れかけてたのよ美朱！早く
あがってらっしゃい!｣
｢何言ってんだよ柳宿！美朱､良かった｡翼宿と一緒だったんだな｡
翼宿も早く上がってこいよ｣
鬼宿が笑って言う｡
翼宿の表情が曇る｡翼宿は何も答えなかった｡
｢み､みんな心配かけてごめんね｡今そっち行くよ｣

魏をみて､美朱の顔がこわばった｡
美朱は不安そうに振り返って､翼宿の顔を見上げた｡
翼宿は黙って､美朱の手を握りしめ､屋敷の階段をあがった

屋敷の廊下では翼宿以外の七星士が勢揃いしていた｡
｢美朱｡翼宿｡いったいどこに行っておったのだ｡｣
星宿が言う｡
｢美朱が酔っぱらっとったから､酔い覚ましに星見に行ってたんや｣
｢一言言って行くのだ｡みんな心配したのだ！｣
｢張宿まで心配でずっと起きていたんだぞ｡」にゃー｡
軫宿の肩の上で猫のタマも不満そうな声をあげた｡
｢そりゃすまんかったな｡張宿｡｣
｢いいえ､いいんですよー翼宿さん｡お２人が無事だったんですから｣
張宿は眠くて真っ赤になった目で無理に笑っていた｡
｢それじゃ､そろそろ宴会もお開きにして､各自部屋で眠るとしよう｣
　もちろん､みなの部屋も用意しておいてくれておるのだろう?翼宿?｣
｢へ？｣
｢へ?じゃないわよ！ばか!あんた頭なんだからしっかりしてよね!｣
柳宿が翼宿の顔をのぞきこんで睨んだ｡
｢わーーとるわい！功児！みんなを部屋に案内したってくれ!｣
｢おうおう｡わーっとるわい｡ほな､各自部屋へ案内しますさかい､　ついてきたって下さい｡｣
功児は営業スマイルでもみ手をしながら言った｡
｢私･･･今日は一人部屋がいいな･･･なんか疲れちゃって｡気分もよくないの｡
　一人でゆっくり休みたい･･･｣
美朱の言葉に七星士のみなは驚いて､美朱を見つめた｡
その空気を打ち破るように､魏が言った｡
｢そうだな｡そうしろよ美朱｡俺達あっちの世界ではいつも一緒だし｡
　今夜ぐらいはお互い別の部屋でゆっくり休もうぜ｡｣
｢そ､そうでっか?ほなら美朱さんはこっちの部屋へどうぞ｡｣
功児が美朱を連れて長い廊下を歩いていった｡
｢みんなの部屋はあっちの廊下から行けるで･･･適当に休んでってや｣
翼宿が言うと､
｢おやすみなのだー｣
｢早く眠らないと､私の美しい肌が荒れてしまう･･･｣
｢星宿様､いいパックがありますわよ！一緒にいかがですぅ～｣
｢いくぞタマ･･･｣にゃー
｢みなさん､おやすみなさい｣
他の七星士はみな､それぞれの部屋に別れていった｡
翼宿も部屋にもどろうとした時､魏が翼宿の腕を掴んだ｡
｢翼宿･･･話があるんだ･･･今からお前の部屋に行ってもいいか?｣
魏の真剣な目｡
｢ああ｡ええよ･････｣

翼宿と魏は部屋の長椅子に並んで座った｡
２人とも何も言わず､ただ時間だけが過ぎていくようだった｡
魏はずっとうつむいたままだ
それは決して居心地の良い時間ではなかった｡

魏は何を言おうとしているのか､ひょっとすると､さっきまでの美朱と自分の
ことを知っているのか？
しかし､翼宿は､たとえそのことを問い詰められたとしても､誤魔化すことも､
逃げることもする気は無かった｡
(美朱を幸せにするんは俺や｡もう返さへん･･･｡
　俺は何度もお前に言うたはずや･･･美朱を幸せにせえと･･･でも
　美朱は泣いていた｡お前は美朱を幸せにでけへんかったんや｡）
翼宿は沈黙の中､心の中で何度もつぶやいた････
美朱を愛している｡この気持ちはもうどうしようもない｡
しかし同時に魏も自分にとってはかけがえの無い親友だ｡
自分が裏切った､親友を目の前に､翼宿の心はどうしようもなく
痛んだ｡
心が壊れそうな自分を守るには､魏を責めるしかなかった･･･

その時､魏はゆっくり顔をあげ､静かに口を開いた｡
「俺と美朱は････ダメなんだ｡」
魏の予想外の言葉に翼宿は息をのんだ･･･
魏は隣の翼宿の目を見ることなく､ただまっすぐ前をみつめたまま､
手を膝の上に組んで､まじめな声で言った｡
｢テンコウとの戦いが終わって､美朱の世界でまたもとの暮らしが出来る
　って思ってたんだけどよ｡
　　何かが変わっちまったみてーなんだよ｡｣
｢何か･･･ってなんやねん｣
翼宿もまた魏の顔を見ずに､話しかけた｡
｢俺にも分かんねー･･･けど､美朱とは仕事のこととか､これからのこととか
考えることいっぱいあんのに､その度にケンカになっちまって･･･｣
｢そんなアホなことでケンカかい･･･｣
ボソッと呟いた翼宿にくってかかるように魏は言った｡
｢こっちの世界にいたら､やりたいことのための仕事っつうより､
　生きてくための仕事だろ？
　まあ､お前は山賊で普通の生活とは違うけどよ｡
　あっちの世界は違うんだよ｡やることは山のようにあるし､夢だっていくつも
　見れんだ｡そこで成功すれば大金持ちにだってなれんだぜ｣
興奮して翼宿の肩を掴んだ魏の顔は､ただただ美朱の愛を守るために命をかけて戦った
親友の顔には見えなかった｡
｢お前････変わったんやな････｣
翼宿の言葉に魏はハッとして､手を離した･･･
｢美朱にも､そう言われたよ････｣
魏はまた下をむいた｡
｢そんで･･･お前はどうしたいんや･････｣
｢美朱はここに残ることを望んでる････しばらくここにおいてやってほしい｣
｢ここて･･･俺のとこにか････｣
翼宿は魏の言葉に驚いた｡
｢今の俺は美朱を幸せにはしてやれない･･･たぶんこのままじゃ､憎しみあって
しまうかもしれない････離れて考えたいんだ･･･たぶん美朱も･･･｣
｢お前はええ加減なやつやな････｣
下をむいていた翼宿の手は震えていた｡
｢お前がそんなんやから､だからあいつは････お前､どんなことあっても
美朱を幸せにする言うたやないか！あれは嘘やったんか！男やろ？
約束一つも守れへんのかい！｣
翼宿は魏の胸倉をつかんで､おもいっきり殴った｡
魏はイスから転げ落ち､床にうずくまった｡
｢美朱を俺のとこにおいていくやて？ああそうしろや！
　そんなええ加減なやつに美朱は渡さん！
　もうあいつを返さへん！俺が変わりに美朱を幸せにしたるわ！｣
床にはいつくばる魏を見下ろして､翼宿は叫んだ｡
｢翼宿･･･お前だから､お前を信じてるから､美朱をここにおいていくよ｡｣
｢どういう意味や････｣
｢もし美朱があっちの世界にもどらない気でいるんだったら････
美朱を･･幸せにできるのは･･･お前しかいないって･･･そう思ったから･･
だから俺は美朱をここに連れてきたんだ････｣
魏は翼宿に殴られ､口からでた血をぬぐいながら応えた｡
｢お前･････｣
｢お前の気持ち･･･飛皐の術だけじゃないってわかってたさ････
　それなのにお前は俺達の背中を押してくれた･･･お前は俺の親友だ｡
　だから｡そんなお前だから｡今度は俺がお前の背中を押すよ････｣
｢魏････｣
｢美朱を･････頼む･･････｣

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