それから・・・






鬼宿と美朱が現実世界に帰ってから後のお話です。 旅立つ者、それを見送る者、行き先はそれぞれ違っても、 向いている先はみんな同じ。今の自分より一歩前へ・・・





あたたかい光に包まれて、鬼宿と美朱の姿は消えていった。
「そんじゃ、あたし達も帰るとしますか」
「そうだな。肉体のない我々がいつまでもこうしてはおられんだろう」
「鬼宿さんと美朱さん、一緒の世界に帰れますよね」
「2人ならきっと時代も空間も超えられる」
ニャー。
「みんな。もう行くのだ?」
「行くってなんや?みんなどこ行くんや?」
「ばっかねー翼宿。あたし達もう死んでんのよ。天に帰らなきゃ。」
「そうですよ。僕達生まれ変わらなきゃいけないんですから。」
「そーか。そやったな。みんな・・・いってまうんやな」
「安心しろ、翼宿。私のこの美しさはたとえ生まれ変わろうとも
永遠に変わることはない」
『はいはい・・・・』(←全員の声)


「翼宿、井宿、無茶はするなよ。体には気をつけるのだぞ」
にゃー 
  「軫宿・・・分かっとるわい」
「お前がバカをやっても、もう助けてやれんのだからな」
「軫宿、言っても無駄よ。翼宿のバカは死んでも直りっこないんだから」
「なんやとーー!柳宿ーー!お前なんぞ、生まれ変わってもオカマ
 にしたるーー!」
バキッバキッ!
「言わなきゃいいのに・・・なのだ
「さてみんな、そろそろ行くぞっ」
『はい』
「翼宿さん、井宿さん お元気で」
「張宿・・・
 なぁ。みんなまた会えるんやろ。永遠の別れとかちゃうよな?」
「翼宿・・・我々は生まれ変わろうとも、同じ七星士。永遠に仲間だ」
「星宿様・・・」
「そうよ。しっかりしなさい。山賊の頭!」
「ずっと仲間です!」
「心はいつでも同じだ」
「みつかけ・・・」
星宿が翼宿と井宿の肩に手をおいて言った。
「翼宿、井宿。紅南に帰ったら、宮廷に寄ると良い。
 この国の平和を守ったお主達だ。みな温かく迎えてくれる
 であろう。
 何か礼の物など用意しておいてくれているはずだ」
「二人ともお元気で・・・」
張宿が手を振った。
「またいつか必ず会おう。」
みんな互いの目を見つめあい、うなずきあった。
翼宿と井宿を残して、手を振るみんなの姿が光の中にゆっくりと消えていった・・・・




光が消えると、辺りはのどかな田園風景に変わった。
空は青く、青龍との激しい戦いが終焉したことをのどかな風が教えて
くれているようだった

「みんな行ってまったか・・・・」

翼宿と井宿はあぜ道に立ち、しばらく空を眺めていた。

青く澄みきった空。本当になにもかも終わったのだ。
激しい戦いが嘘のように、ここは平和そのものだ。
心地よい風が2人の髪をゆらしていた。
「翼宿、どうするのだ?これから宮廷に行くのだ?」

「俺はええ。七星士として国は護ったんや。それで俺の役目は終わりや。」

翼宿は一つ溜息をついた。
 「俺は山賊の頭やで。本来、宮廷が山賊なんぞに礼するーておかしいやろ?
その分の金は国の再建にでもつこーてくれたらええわ・・・
  だいたい人に感謝されるっちゅうのもなんやこそばゆーてな・・・」

頭をかきながら話す翼宿を井宿は優しい笑顔で見つめていた。

「翼宿もこの戦いで随分大人になったのだ。男になったのだー翼宿!」
井宿は翼宿の肩をぽんと叩いた。

その対応に翼宿は首を傾げて言った。
「はぁ?なんや井宿。人を前まで女やったような言い方しおって!
オカマは柳宿一人で十分やで!!」
「そ、そうゆう意味ではないのだ・・・やっぱり翼宿は翼宿なのだ・・・
井宿はふぅと溜息をもらした。
「そや、井宿。お前これからどないすんねん。宮廷に行くんか?」
「おいらも翼宿と同じ。紅南には寄らずに行くのだ。」
「ふうん。どこへ?」
「おいらは流浪の旅人。行くあてなどもともとないのだ。気の向くまま
に進んでいくのだ!」
そういって足を出そうとした井宿の肩を翼宿はガッシリと掴んだ。
「なんやー井宿。せやったら俺と一緒に至t山にこいや!
うまい酒おごうたる!!ほな行くで〜」

翼宿は井宿の肩を掴んだまま、そのままひきずるように至t山の方向へ
向かって行く。
あぜ道に、翼宿にひきずられる井宿の足の跡がズルズルとついていった。

「ちょちょちょっと待つのだ〜翼宿〜」
?な顔の翼宿は井宿の顔をのぞきこんだ。
「なんや?」
「気持ちは嬉しいのだ。でもおいらはここから初めたいのだ。
他のみんなと同じように。この場所から新しい出発をしたいのだ。
だから翼宿の気持ちは嬉しいが、おいら至t山には行けないのだ」

翼宿は呆然とした顔で井宿を見つめると、急に・・・
「おおそうか!よう分かったで。お前は冷たいやっちゃな。
そーかそーかお前なんぞもう知らんわい。勝手にせえ!!」

井宿の言葉に翼宿はムスッとして顔をそらした。
それはまるでだだをこねた子供のようなだった。
井宿はそんな翼宿の気持ちがなんとなく分かっていた。


みんながそれぞれに去っていった今、井宿も翼宿も自分達の進むべき道に
踏み込むための一歩を踏み出す勇気がなんとなく持てずにいた。

ここで井宿とそして翼宿と別れたら、もう七星士、仲間に会えることは
永遠にないのではないか・・・・
七星士という宿命のもとに命がげで護りぬいた世界。
そこで生まれた仲間との強い強い絆。
それが断ち切られてしまうような気がして・・・
そんなことはありはしないと心では分かっているのに・・・


井宿は自分より背の高い翼宿の頭をなでて言った。
「寂しい気持ちはおいらも同じなのだ・・・・翼宿の気持ちも
おいらはよく分かっているのだ。」
井宿がそういいかけると、今までムクレて下を向いていた翼宿が
急に顔をあげた。
「ん。そーか。井宿・・・分かってくれたか・・・俺の気持ちが・・・」
「だ?」
顔をあげた翼宿の顔がにやけている・・・
井宿はとても嫌な予感がした

「おれら離れることないやんけ!これからお前を至t山の山賊にしたる!
あっ!せやけど頭は俺やで!
そーやなー。井宿。お前はサブリーダーっちゅうことにしといたるわ!
功児がおるけど・・・まぁええか!
サブリーダー。なんやええ響きやなー井宿!
陰番って感じやな? おお陰番やて?
なんやカッコええんちゃう?井宿〜ラッキーやなー。
俺ってええやつやろ?
なー井宿!」
勝手に長セリフを言い終わると、井宿の肩を思いっきりどついて、
翼宿はだーーーははっはと腰に手をあてて大笑いしている。

井宿は翼宿に思いっきり叩かれて、あぜ道にべちゃっと倒れていた。
足についた泥をはらいながら井宿は立ち上がって言った。
「もう翼宿には付き合い切れないのだ。おいらはもう行くのだ!」

その時、急に真顔にもどった翼宿が言った。
「アホ。冗談にきまっとるやろ。なぁ井宿・・・・」
真顔の翼宿が今度は立ち上がって歩きはじめた井宿を後ろから抱きしめた。
「だーーーーーーー!!今度はなんなのだ翼宿!」
「愛してるで、井宿。」
「だ?」

今度という今度はさすがの井宿も動揺して、足をじたばたさせて翼宿が
まわした腕から逃れようと必死でもがいた。

「たたた翼宿の女嫌いはやっぱりそういうことなのだ?ダメなのだ!
おいらはノーマルなのだ!離すのだーーー!!」

井宿は三頭身の体をじたばたよじらせてみるが、翼宿の腕の力を
振りほどけずに、もがいていた。

「なに考えとんねん。あほ!
 ちゃうわい!俺が言いたいんわなー!」
暴れる井宿を下に降ろすと、なかばあきれ顔で翼宿は言った。

「井宿も、七星のみんなも、至t山の連中も、この国も、風も草もみ――んな
まるごと愛してんでーってこっちゃ。」
「だ?」
道にへたりこんだ井宿を見下ろして、翼宿は牙をみせて笑った。
「俺、今本当にそう思えんねん。
お前らに出会えたことも何もかもこの自然が、世界が、動いてめぐり合わせて
くれた奇跡や!」
「せやからな、せやから・・・・」

翼宿は深く息を吸い込むと、今度は両腕を大空にのばして、
ありったけの大声で叫んだ。
みんな 愛してるでーーーーー
その声は山に響き、風にのって、こだまして聞こえた
あっけにとられて、しばし道にへたりこんだままだった井宿も、
ゆっくりと笑顔の面をはずして、立ち上がった。
そして今度は力いっぱい翼宿の頭をぐりぐりとなでた。

「翼宿!おいら達はまた必ず出会うのだ!必ず!」
「おお!」


二人はどちらからというではなく、
その場所から、それぞれの一歩を踏み出した。
翼宿は至t山に向け、井宿は先の見えない道をただまっすぐ前を見据えて。


もう迷うことなどない。そう!この絆は永遠だ・・・
歩いていける。前にむかって・・・・
進む道は違っても、この風も空も大地もすべて繋がっているのだ。
永遠にめぐりめぐる運命の中で・・・・
だから出会うもの、感じるものすべてに我愛にい・・・・


それぞれの道を進み、お互いの姿が見えなくなりかけたとき・・
「井宿!」
遠くからの翼宿の大きな声に振り向く井宿。
「愛してんでーーーー!!」

そう叫んだ翼宿の声は井宿の耳の奥に心地よく響いた。
遠くに見える翼宿は子供のように両腕をガシガシ振って、笑っているようだ。
「まったく翼宿はいつまでも子供なのだ・・・」
そうつぶやくと、井宿はお面を取って、笑った。
その笑顔は、まわりのものすべてを包み込むように深く優しかった

そして井宿は錫丈を空に掲げて、一振りした。

シャンッ!
夕暮れにそまりかけた茜色の空に、錫丈の透みわたる音が響いていった。
その音は風にのり、今はもう見えなくなった友の耳にもいつまでも響き続けて
いくことだろう。
 
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