「なんで?なんでよーー!」

シカマルの部屋にの声が響く。

「仕方ねーだろっ 任務なんだよっ」

「だからって、明日はクリスマスイヴなんだよ?
 前から休み取ってねって約束してたじゃない!」

の容赦ない文句がシカマルの耳に痛いぐらい
響き続けている。

「だーかーらーっ」

シカマルはイラつきながら、自分の頭を掻く。

の怒りは収まらないのか、シカマルの胸倉に
手をかけた。

「だから何よ!」

ちっ

シカマルが舌打ちする。

「さっきから、謝ってんだろうがっ」

「イヤ!任務休んでよ!じゃなきゃ許さない!」

胸倉をグググッと締め付けられる。
シカマルもいい加減腹がたってきたらしい。

「はぁ? お前、それ本気で言ってんのかよっ!」

は、なおもシカマルを睨み続けている。
 
普段、めったにに怒りをぶつけないシカマルも
とうとうキレた。

「いい加減にしろよっ !」

突然、シカマルが大きな声を出したのでビックリした
のか、は目を見開いた。
しかし、シカマルはお構いなしに続けた。 

「お前もいちよう忍びのはしくれならわかるだろっ!!
 任務を休むなんて・・・・」

言いかけたシカマルの言葉をが遮った。

「分かってる・・・わよ・・・・」

胸倉を掴んでいた手がふいに離れると、
声は急に弱弱しくなった。

「おい・・・・・・・・・?」

「分かってるもん。私がわがまま言ってる事
 ぐらい!でも・・・でも・・・・」

俯いて、言葉を詰まらせる



はぁ・・・・・・・・泣くなっての・・・・



シカマルは溜息をつくと、の体をギュッと
抱きしめた。

「マジ悪かったって・・・・急に任務が入ったんだよ」

「う・・・・ん。・・・分かってる・・よ・・」

腕の中では震えながら、一生懸命返事を返して
いる。
シカマルはそんなが愛しくもあり、また
イヴを楽しみにしていた彼女の期待を裏切ってしま
ったことに胸が苦しかった。

「あさってはよ・・・・任務休みだかんな。 お前とずっと
 一緒にいるって約束すっから・・・・」

頭を優しく撫でる。

「う・・・ん」

ぐすんぐすんと涙をこらえる声が余計にシカマルの胸
を苦しめた。

「あーーー・・・・あのよ・・・めんどくせーけど、お前と見に
 行ってやっから・・・あの広場のツリーもよ・・・・」











3日前・・・・


そう・・・・はイヴの夜にシカマルとツリーを見に
行きたがっていた。
それは、木の葉の里の中心にある、大きい噴水広場に
飾られた、空にそびえんばかりのデッカイクリスマスツリー
だった。

「見に行こうね!ね?シカマル!」

は一人で興奮しながら言う。

「はぁ?なんだよそれっ 俺は行かねーぞ。」

そんなものに興味も無く、ましてやクリスマスなどという
行事にすら、まったく関心のないシカマルにとっては、冬空
の下、人ごみにわざわざ出かけると思うと、思いっきり気が
ひけた。

「だめー!絶対行くの!イヴはあけててよ!」

はシカマルの腕を掴んで、ぶんぶん振っている。

「なんでそうイヴイヴうるせーんだよっ!ツリーなんざ
 いつでも見れんだろうがっ!寒いから朝見ようぜ。
 そうすりゃ、人も少ねーしよ。」

なかなか良い提案だと思ったシカマルだったが・・・・

「だめーーー!イヴの夜がいいの!それ以外はだめ!」

はいつもにも増してしつこい・・・・・

「だからなんでっ!意味わかんねー・・・・」
シカマルは眉間にシワを寄せてを見ている。

「なんでって・・・それは・・・まぁ色々・・・・」

は急に顔を赤くして、煮え切らない態度を
とるのだった。
それが余計にシカマルにはじれったくて、快く
行くとは言えないでいるのだった。

「ねーねー良いでしょ?」

なおも引き下がらないに、シカマルもいい加減
観念したらしい・・・・

(めんどくせーなー。けど年に一度のことだし、
  行かなかったら、怒るだろうしなー。
  はぁ、その方がよっぽどめんどくせーか・・・
  けどなー 人ごみなんて行く気しねー・・・)

「だーーーーーー。もう!めんどくせーなっ・・・」

シカマルが溜息とも愚痴とも言えない言葉を発する
と、はシカマルの顔を覗き込んで、

「やったー!約束だよシカマル!」

めんどくせーは結局シカマルのオッケーの返事なんだ
と分かっているは、シカマルの腕に抱きついて、
満面の笑みを見せた。

「俺はまだ行くとは言ってねーぞ・・・・・」

睨むシカマルだが、の無邪気な笑顔に心臓が
ドキドキしてしまい、顔が赤くなってくるのが分かる。

「シカマルーー大好き!」

「だからまだ行くっていってねーって・・・・・」

反論の言葉も、愛しい彼女の一言で小声になってしまった。

「シカマル・・・・約束だよ・・・」

そう言うと、目をつぶる
自分の目の前で、愛しい彼女がキスをせがむ姿を見せられ
て、さすがのシカマルも心臓の鼓動が早くなってしまう。
長い睫毛が閉じられて、ピンクの唇がシカマルを更に
ぞくぞくさせる。

「ったく。お前はいつでも強引だよな・・・・」

憎まれ口を叩くも、所詮彼女にはかなわない・・・・・

シカマルはの頬に右手を置くと、細い顎のラインを
なぞりながら、の顔を少し上げさせる。
左手での腰を自分に引き寄せると、ゆっくりと唇に
キスをする。
ピクンと反応するの体をギュッと抱き寄せながら。
こんな時シカマルは、幸せだな・・・俺・・・・とか思ってしまう
のだった。










これがほんの3日前。

それが今じゃ、これだ・・・・・

愛しい彼女は自分の腕の中で泣いている。
怒ってもいるだろう・・・・

楽しいはずのクリスマスイヴは、シカマルの急な
任務によって最悪になってしまいそうだった。

「ごめんな・・・・

抱きしめた腕をゆるめて、彼女がこれ以上傷つかない
ようにと、耳元で優しく囁くと、

「う・・・・・ん・・・・」

は涙声でそっと呟いた。

「イヴはダメになっちまったけど、クリスマス当日
 に会おうな・・・・」

これが今のシカマルに言える精一杯の言葉だ。
けど、それが今のの慰めになるとは思えない。
それでもは、

「う・・・・ん・・・・楽しみに・・・してる・・よ」

俯いた顔をようやくシカマルに向けると、
涙をこらえて精一杯の笑顔をみせて笑ってくれた。

・・・・・・」

シカマルはそんながたまらなくかわいくて、
頬に手をかけ、唇に近づいた。

キスしてぇ・・・・・

2人の唇が触れそうになった時、はシカマル
の胸を両手で押しもどして、顔を伏せてしまった。
シカマルは溜息をついた。

「まだ・・・怒ってんのか?」

の頭をゆっくりと撫ぜる。

「違うの・・・・けど・・・・当日までとっときたい・・・・・」
は明らかに無理をした笑顔をむけた。

はまだ本当に俺を許してるわけじゃない・・・
けど、無理して笑ってくれてんだな・・・・
シカマルの心が痛む。

本当はここでキスしたい。
まだ本当は寂しい気持ちで一杯なはずの
抱きしめて、口付けて、優しく好きだと言ってやりた
い・・・・
だが、今日はに逆らうことは出来ないなと、
シカマルは諦めた。

「んじゃ、25日にな・・・・」

シカマルは俯いたままののおでこにそっと
キスをした。

「うん。」

なんとなく離れがたいお互いの体をゆっくりと
離し、は家へと帰っていった。











今日は24日。そうイヴだ。

しかしシカマルは任務でいない。
私は一人ぼっち。
だから今日は思いっきり寝坊した。

午後にノソノソと起きてみたものの、
それでもやる事が全然思い浮かばない。

どうせ町はカップルだらけだろうから一人で
外に出る勇気ないし、今日は大人しく一人で
家の中にいよう。

「とは言っても暇だなー」
は居間のソファーに横になりながら、
ボーッと天井を見つめた。

「シカマルのバカ・・・・」

シカマルが悪いわけじゃない事ぐらい分かって
いるけど・・・・でも・・・でも・・・・一人で過ごす
イヴはとーーーーっても寂しいな・・・・・

仕方なくつまらないテレビを見たり、読みたくもない
本を読んで過ごした。
1日がこんなに長く感じるなんて久しぶり・・・・

「シカマルーーーー会いたいよー」

ぼんやり外を見てみると、すっかり暗くなっていた。

「今、何時だろ?」

時計は午後8時。

そうだ!もしかしたら、そろそろ帰ってくるんじゃ?

私は急いでコートをはおって、飛び出すように家の
ドアを飛び出した。

外は鼻先がジーンと痛むほど寒かった。
でも、空気は澄んでいるんだろう。空には満天の星
が輝いている。

「きれい・・・」

思わず呟くと、白い息がもれた。

家の前の坂を下っていくと、町の繁華街。
例のツリーがある広場が見える。
こんなに離れたところからも、そのデカイツリー
はキラキラと輝いて見えていた。

「うわーステキ。・・・ちょっとだけ見に行ってみようかな・・・」

私はツリーの輝きに誘われるかのように、ゆっくりと
坂を下って行った。








やはり町はカップルだらけ・・・・・
ツリーの前には、幸せそうな2人組が大きなツリーを
見上げながら微笑みあっている。

はそんな光景に圧倒されて、広場の脇にある
木々の間から、そっとツリーを覗き見ていた。

「やっぱり1人で来ると寂しいなー。シカマルと来たかった
 よぉ・・・・・」

はーーー 
 溜息をつくと、やはり吐き出す息は白い。

「イヴに見たかったんだよ・・・シカマル。」
  「・・・だってだって・・・」

そこまで呟きかけて、は目を見開いた。

「え?・・・・・・・・」

ツリーの周りには大勢の人達。
しかし、はその中の一角に釘づけになった。

輝くツリーのちょうど真下には見覚えのあるコート
とマフラー。
髪を高く一本に縛りあげたその姿は・・・・・・

「シカマル?・・・・・・・」

寒そうに首をコートの襟に埋もれさせ、両手をコートの
ポケットにつっこんで、何やら眉間にシワをよせて立って
いる。

「どうして?・・・・だって・・・今日は任務で遅くなるって・・・」
の目には、もはやツリーなど全く写らなかった。

明らかに誰かを待っている様子のシカマル。
そわそわと落ち着きなく、辺りを見回している。

「どうして?一体誰を待ってるの?」

が呟いた瞬間、信じられない光景が、
目に飛び込んできた。



シカマルに向かって走り寄って来た人物。
それは、背格好から見て、年下らしい、栗色の髪の女の子。
も見たことがない、かわいらしい子だった。

「おっせーぞ。」
離れて声はよく聞き取れないが、唇の動きがそう言って
いた。

「嘘でしょ?・・・シカマル・・・」
の頭の中が混乱する。

彼女は寒がるシカマルに缶コーヒーらしきものを渡すと
かわいらしい笑顔をむけて笑っていた。
シカマルはそんな彼女から
「おぉ 悪いな」
と言ってコーヒーを受け取ると、微笑み返した。

「シカマル・・・・・」
私以外の女の子に優しく微笑むシカマルを
今まで見たことが無かった。
の高鳴る心臓の鼓動は体を振るわせた。

2人はゆっくりとツリーを見上げる・・・・・

その姿は周りのカップルに自然と溶け込んでいて、
まるで愛し合う恋人同士に見えた。

するとふいに彼女はシカマルの首に腕をまわした。
シカマルは初め驚いた感じに見えた。
その間、彼女はシカマルに何かを囁いたようだ。

シカマルは彼女の腕を拒むことなくじっとしている。





キス・・・・しちゃうの?シカマル・・・・・






ふと、3日前のいのの言葉が頭に響いてきた。



、知ってる?』
『何を?』
『広場にあるあのツリーの前でね、イヴの夜に好きな
 人とキスできたら、その人と永遠に結ばれるんだって』

 いのは目を輝かせて、に熱心に話しをしてくれた。

『だからさ、も絶対シカマルをイヴに誘うのよ!
 そしてキスしてもらいなさいよ!ツリーの下で!
 絶対よ!』

いのの言葉がの胸を締め付ける・・・・・・



だから私はシカマルとここに来たかった・・・
でも・・・・でも・・・・
シカマルと永遠に結ばれるのは私じゃなくて・・・・・
私じゃなくて・・・・・



あの子なんだ・・・・・・・・・・・・・・・・



シカマルが選んだのは・・・・・・あの子なんだね・・・・・・


はクルッと踵を返すと、その場から走り去った。
一度も後ろを振り向くことなく・・・・
もう見ていられない・・・・



シカマルの嘘つき・・・・・・




              
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