「あーーーー暑ちぃ・・・・・」

窓にもたれながら溜息をつく。
今日のこの蒸し暑さはなんだ?

俺は去年どっかの店でサービスとかいってもらった、どーでもいい
絵柄の書かれたうちわをあおぎながら はぁ と、もう一度溜息をついた。

空はムチャクチャに青い・・・・遠くには入道雲がこっちにせまってくる勢いで
そそりたっている。

「夏だなぁ・・・・・・」

ぼんやりと考える。

「くそっ めんどくせーーー・・・・・・」

もうダメだ・・・・
うちわをあおぐために動かす手が既にもうかったりぃ・・・・・

「死ぬ・・・・」

少しひんやりとした床に寝っころがる。

「おっ こりゃいいや・・・・・」

熱をもった体がほんのわずかだけ、ひんやりと冷まされた。

「このまま寝っかな・・・・・・」

目が半分閉じかけて・・・・・


「シッカマル〜入るよーーーーー」


ガララララッツ


「は?」


意識が既に眠りにいこうとしかけていたせいか、頭が働かない。


「きゃーーー シカマル! 死んじゃったの?」



あーーーーこの声・・・・アホのかよ・・・・・
俺のぼやけた視界には、血相をかえてあわてて駆け寄るの姿。
はぁ・・・・本気で暑い日に心底うるせー俺の彼女・・・・・・

たのむから、今日だけは静かに寝かせてくれっての・・・・


「大丈夫?ねぇねぇシカマル!」

床に転がった俺の体をグラグラと揺らされる。

もう無理・・・・寝れねーよ・・・・・・・
かんべんしてくれ・・・・・・・・・・


「だーーーーーーーっ!もう、お前うるせーんだよっ」

勢いよく体を起すと、はびっくりして、どすんと尻餅を
ついた。

「生きてる?」

「死ぬか・・・アホ・・・・・・・」

「もしかして、死んだふりしてたの?」

「俺はそんなガキじゃねーーーっつうの!」

「じゃ、何してんのよ!死体みたいに床に転がっちゃってさ!」

「寝てたんだよ!」

「シカマル・・・この暑いさなかによく寝れるね・・・・」

「お前と話すほうが、よっぽど暑苦しいっつうの・・・・」

ガリガリと頭を掻いて、目の前のをチラッと見ると・・・・
ぷぅぅ・・・・の膨らんだ頬・・・・・

やべー言いすぎた・・・怒らすとまためんどくせーぞ・・・

「はいはい。言いすぎたよ・・・悪かったって・・・・」

の頭をぽんぽんと軽く叩く。

「知らない・・・シカマルの意地悪・・・・もう帰る・・・・」

少し涙目のはすくっと立ち上がる。
俺は少々焦る・・・・
まっ 格好悪ぃけど、こいつは俺の大事な彼女で・・・・
自分でもアホなぐらい惚れてっから・・・・


こんな事で怒らせて、また何日もしゃべれねーのは俺もやっぱ辛かったりすんだよ・・・・


「悪かった・・・謝る・・・」

の腕をひいて、とりあえず、座った俺の足の間に座らせた。

「態度でしめしてっ」

あーーーその目・・・・まだ怒ってんなー・・・・

「分かった・・・・・」
あーーーもう・・・・どうすりゃいいんだよっ・・・・・

「私の言うこと聞く?」

ちょっと上目使いで俺を見る

「・・・・・な、なんだよ・・・・無茶言うの無しだかんな・・・・」

「無茶じゃないよ。とってもいいことだよ」

「んじゃ、聞いてやる・・・・言ってみ・・・・・」






「プール・・・・連れてって」

かわいい顔でニコリ・・・・・


         シーーーーン・・・・・・



「はいはい・・・・・」

をグイッと抱き上げて、床にチョコンと座らせる。

「んじゃ、そういうことで・・・・・・」

俺は立ち上がって、ベットにゴロン・・・・に背を向けた。

「え?え?なんで?どういう意味?」
は床に座ったまま、キョトンとして、俺を見ていた。


冗談じゃねーーっつうんだよ・・・
この暑いさなかになにがプールだ・・・・
どうせ、人がウジャウジャいんだろ?
くそめんどくせーー・・・

ふぁーーーーー 俺はひとつあくびをする。

もうこの際、を怒らせて、ちょっとぐらい口聞けなくてもいいや・・・・


行きたくねーー プールなんざ、ぜってーーごめんだ・・・・




「あっそ・・・・行ってくんないんだ?シカマル・・・・」
背中越しにの怒ったような声。

「初めに俺、なんつった?無茶言うなっつったよなぁ」
俺はベットに横になったまま、を振り向かず、壁に向かって話す。

「プール行くのが無茶なことなの?」
「俺にとっちゃーな・・・・・」
背中から、の怒りのオーラを感じるが、あーーもう無視無視。


「今年の私の水着ね・・・・かわいい花柄ビキニなんだよー」


背中越しに、ちょっと鼻にかかったの声。


はっ 甘いな、・・・俺を色気で誘惑したけりゃ、もっと大人な体に
なってからにしろっつうの・・・・・・


「残念だなーシカマルに見せられないなんてさ・・・・」

はぁとか溜息ついてやがる・・・俺の癖とんなよ・・・アホ・・・・

「じゃあいいもん・・・・違う人と行くから・・・・」

「あーーーそりゃいいわ・・・行ってこい行ってこい・・・・・
いのとかサクラとかよ・・・・誘って・・・・」

「私、泳げないから、誰かに抱っこしてもらわないとプールは入れないなぁ。
 女の子じゃ無理だから、ナルトを誘ってみよーかなぁ・・・・」


思わず、くるっと体をに向けてしまった・・・・・


「それは脅迫って言うんじゃねーのか・・・・・」

「別にぃ・・シカマルが来てくれないならいいよ・・・ナルトに抱っこして
 もらうから・・・・」

「・・・・・マジで言ってんのかよ・・・・・・・」

「だってシカマルつれてってくんないんでしょ?」
プイッと顔をそらされた。

冗談じゃねー・・・・・水着のをナルトが抱っこだぁ?
んなことさせられっか・・・・・

俺の頭の中に、かわいい水着姿のがナルトの首に抱きついて、
プールの中で2人がイチャイチャしてる図が浮かんだ・・・・・


あっ 今、妄想の中のナルトに影真似かけて、影首しばりかけそうに
なっちまった・・・・・・

あーーー無理・・・ぜってー許せねー・・・・・・



「くそっ・・・・行くよ・・・・行きゃーいいんだろっ ったく強引なやつ・・・・」

「きゃーーーーーっ やったーーーーシカマル大好き〜」


思いっきり抱きついてくる。

あーーーーーーぁ・・・・ずりーんだよ、お前。
こんなことされて、もうぜってー断れねーっつうの。

結局、俺はこいつには弱えーーんだよ・・・・
はぁ・・・・相変わらずイケてねーよなー俺・・・・・







「ほらっ 早くしろよ・・ったく、くそめんどくせーな・・・・」

「もうちょっと待っててよぉーー」

部屋の中から、の叫ぶ声。


誘っておきながら、の支度は相変わらず遅い。

俺の頭の上では、 ジリジリジリ セミの暑苦しい声。
背中に汗がタラリと流れ落ちた。

「暑ちぃ・・・・・・」


家の門の前で待たされたまま、俺はボーーーっと空を見上げる。



あーーーーーーー空が青い・・・・雲はいいよなぁ自由で・・・・・


俺の自由はいったいどこにあんだ?


「お待たせ〜」

玄関から、が水着の袋を持って、勢いよく飛び出してくる。


俺の自由はお前と一緒にしか味わえねーって訳だよな・・・

はぁ・・・・

「雲になりてぇ・・・・・・」

「え?何?シカマル・・・・・」

「なんでもねー・・・・・・」

それじゃー出発!

なんて叫んで、は俺の腕をひっぱって走り出す。


、やめろって。暑いっつんだよっ バカ」
「だから、早く早くプールに行こう!」

青空の下で、はすっごく嬉しそうに笑ってやがる。
本当、マジで弱えーんだよ、俺は、その笑顔に。













けどよ・・・の笑顔とこれとは、やっぱ関係ねーよな・・・・・

はぁ・・・・・・・・

・・・・分かってたけどよ・・・・まさか、これほどまでとはな・・・・・・


きゃーーーーーわいわい きゃーーーーー

俺の耳の遠くの方から、プールではしゃぐ男や女の声がいくつにも重なって
聞こえてくる・・・・・・


この人ごみ・・・・うざってーーーーーーーー・・・・・・・・


男子更衣室の出口で、俺は はぁ と目の前の光景にあきれながら、その場に
しゃがみこんだ。

バシャバシャとあがる水しぶき・・・・はしゃぐやつらの姿・・・・

はぁ・・・何がそんなにおもしれーんだ?
たかが水だろ?
めんどくせーーー・・・・・・・・・

俺の目には楽しそうにはしゃぐそいつらが滑稽にうつるだけだ・・・・




「にしても・・・おせーな、。・・・・女ってのは、なんでこう何やるにも
 遅せーんだ?」

ちっ と舌打ちする。

「お待たせ〜」

ふいに俺の頭上で声がする。

「お前、おっせーーーーよっ」

立ち上がって、を睨んだ・・・いや睨もうとしたっつうのか?・・・・・


え?


「ん?なに?」


の水着姿をはじめてみた。
っつうか・・・こんな露出したの体をまじまじと見たのは
3歳ぐらいの頃、一緒に風呂入ってた時依頼で・・・・・・・



なんだ?その体の白さは・・・・・・
なんだ?その華奢な肩は・・・・・・
なんだ?その発育した胸は・・・・・
なんだ?そのかわいいヘソは・・・・・



俺、 かなりやべーーーーぞ・・・・・・・・・


「なんで?なんで?そんなに遅かった?ごめんね。怒らないでよぉ」

俺が何も言わないことを、勝手に怒ったと勘違いしたは、俺の
腕にギュッとくっつく。

「いいからっ 場所とりすんぞ・・・・・」

「はーーーーーい」

あーーーーダメだダメだ・・・・何も考えるな・・・こいつは、あの
鼻たらしてたガキのだぞ?
いや、今は俺の女だけどよ・・・・
所詮、ガキの頃、一緒に寝てた俺の布団でしょんべんたらしやがった、
あのなんだからな・・・・・・
欲情すんなって・・・・俺・・・・・・・・



自分の気持ちをなんとか落ち着かせようと必死になる。



その隣で呑気にプールサイドの屋台を物色する・・・・・
時々、食べたいものをみつけては、俺の腕をグイグイと引っ張って、

「後であれ食べよーーー」

なんて俺を見る。

「あーーーはいはい。お前、食い物ばっか探してないで、場所探せよ・・・
 まったくめんどくせーな・・・・・」

「ごめんなさい・・・・・」

ちょっと落ち込んでやがる・・・・・・
もう知るか・・・こっちは、話しかけられるたびに、お前の体が目に入ってきて
暴走しそうなんだよ・・・・・くそっ


「あっ あそこにしよっ」

の指さした先は、ちょうど木陰になっていて、プールサイドからも
少し距離があって、まぁいいかって場所だった。

「あーーー んじゃ、あそこにすっか・・・・・・」

俺とはもってきた敷物をひいて、そこに荷物をドカッと置いた。



はぁ・・・・・・

たまらず、俺はそのシートにドカリと座る。


はクスクス笑いながら、俺を覗きこんだ。

「まだプールに入ってないのに、もう疲れちゃったの?シカマルらしいね。」



その角度・・・・お前の柔らかそうな胸の谷間、丸見えなんすけど・・・・・・



「うるせー・・・・・お前、なんか買ってこいよ・・・・」

なるべく見ないように、俺はゴロンとシートに横になる。

「はーーい」




パタパタと素足でかけていく後ろ姿。




かわいいな・・・・・すげーーーいい女になっちまってよ・・・・・・




あんなかわいいが俺なんかの彼女でいるのが急に不思議に思えた。


でも、は・・・・

(シカマル大好きだよv)
(シカマル、かっこいいよv)
(シカマルの彼女になれて幸せだよv)

いつだって、俺にそんなことばっか言いやがる。


俺が相手をしてやんないと、いつも悲しい顔をする

「俺のどこがいいんだか・・・・」

心で思っただけのつもりが、声に出して呟いていた。


(シカマル、本当に私のこと好き?)

時々、そんなことを言っては不安そうな顔をする

はぁ・・・・・・・

本当は、どんどんかわいくなるが、いつか俺なんかに飽きて、
他の男のところにいっちまうんじゃないかっていつも心配してる。

お前、分かってねーよ・・・・・夢中になってんのは俺の方なんだって・・・・・





「また溜息ついてるの?」

片手にジュース、もう片方にソフトクリームを握った
いつの間にか立っていた。

「はい」

ジュースを渡される。

「あぁ・・・・サンキュー・・・・・・・」

俺は体を起して、ジュースを受け取ると、ゴクリと飲んだ。

は俺の隣にチョコンと座る。
体育座りしたの足の指が俺の視界に入った。


小さくて、白くて、なんかかわいい指・・・・・・



だーーーーーっ もう見るな見るな・・・・・・・・・





ジュースを一気に飲む。
体の中を冷たいものが胃まで通っていくのが分かる。

はぁ・・・・・・・


「見てみて〜 これね、アイス屋のお兄さんが、かわいいからオマケだよって
 一回り大きくしてくれたんだよぉ」

嬉しそうに笑って、ソフトクリームを俺に見せてくる。

「なんだ・・・それ・・・・・・そんなもん食ったら、また太るぞ・・・・お前・・・・・」

なにが店の兄ちゃんだよ・・・・ばか。
その店のやつにちょっと嫉妬したりする・・・・
ほんと、俺って超バカだよな・・・・・

「いいもんっ シカマルの意地悪っ」

隣ではソフトをペロッと舐めた。




仕方ねーだろっ お前の体をまともに見れねーし・・・・・
俺はどうやってお前と会話していいか分かんねーー・・・・って・・・・・

そうか・・・・・ようは体を見なきゃいいって訳だよな?
そうだよ・・・・・・・顔だけ見てりゃあいいってわけか・・・・・



ようやく自分の、この男としてのどうしようもない気持ちを押さえる方法を
なんとか見出した俺は、隣のの顔だけを見ようと振り向く・・・・



でもよ・・・・・・




「冷たくておいしぃーーー」

ソフトクリームをかわいい舌でぺろぺろと舐めている顔・・・・・



開いた口がふさがんねー・・・・・・・
そりゃねーだろ・・・・・・
必死で考えぬいた俺の作戦は、一撃で打ち砕かれた・・・・・

だってよ・・・・・
その顔・・・・・・もう、すげーーー エロいっつうの・・・・・・・・


もう、お前のどこも見らんねーって・・・・・
うわーーーもう最悪・・・・・

俺は座ったまま俯く。

どうすんだ?俺・・・・
このままずっと、を見ないでいろっつうのかよ・・・・・・・・


まわりで楽しそうに、水をはじいて、はしゃぐやつらの声が遠くに
響いている。

なのに、俺の頭はぐるぐると、やばい妄想でうずまいてくる。
苦手な人ごみのうえに、俺の理性を打ち砕きそうな、のかわいい
水着姿・・・・・・
もうどうにかしてくれっ 

ってか・・・なんで俺こんなとこに来てんだ・・・・・・・







「ねぇねぇシカマルぅ・・・・・」

「なんだよっ」
たのむから話しかけんな・・・・・

「はい。これ・・・・・・」

「は?」

目の前にぺったんこになったでかい浮き輪・・・・・

「これ大きくてさ、私じゃなかなか膨らまないの・・・・シカマルふくらましてv」

浮き輪・・・・・・・・

っ お前!」

てへへ・・・・はバレた?とか言って笑った。


そうだよ・・・浮き輪っつうもんがあれば、たとえ泳げなくても、プールに入れるじゃ
ねーか・・・・・
さっきはナルトに抱っこしてもらうとか言いやがるから、俺も動揺して
気づかなかったけどよ・・・・・


「お前さ・・・・ナルトに抱っこしてもらう気なんて、初めから無かったよな?・・・・・・」
チラッと横目でを見る。

「そんなの当たり前でしょーーーいくらナルトは仲良しの友達でも、さすがにシカマル以外の
 男の人に抱っこされるのは・・・ちょっとねぇ?」

反省する様子もなく、はアイスをペロッと舐める。

「お、俺を騙したってことか・・・・・・」

「だってぇ・・・・そうでも言わなきゃ、シカマルとプールなんて来れないもんっ」

こ、こいつぅぅ・・・・・・・

・・・・お、お前なーーー・・・・・・・・・」

「騙されるシカマルが悪いよぉ・・・・・・はい。膨らませてvv」

すっごい笑顔・・・・・・
俺はまたにやられたってわけかよ・・・・・・・・

俺の方がIQは高いはずだ・・・いや、数字で言えば、ずば抜けて高い・・・・・・・
でも、俺はの前ではただのへタレってことかよ・・・・くそっ



無言で浮き輪に息を吹き込む。



は隣でなにやら感動してやがる。
「すごーーい。シカマルってやっぱり男なんだねーー。簡単に膨らんでいくよ〜」

ふつうできるっつうんだよ・・・こんぐらい・・・
お前が情けねーほど力も肺活量もねぇだけだ・・・・
そんでもって、それがまたかわいくて、俺にはたまらねーって話し・・・・・

もう馬鹿馬鹿しくてやってらんねー・・・・・・どこまで、この馬鹿に惚れてんだ?俺は・・・・


「ほらよ・・・・・・」

「わーーーいvv シカマルありがと」

そんな俺の気持ちも知らねーでよ・・・・・・・
無邪気っつうのも、時に罪だな・・・・・・
正直、マジで疲れた。
俺、なにやってんだか・・・・




「はぁ」

たまらず溜息がでる。


「シカマルったら・・・さっきから溜息ばっかり・・・・・・」

は浮き輪を抱き締めながら、ちょっと俯いている。
寂しげな瞳。
ちっさくて、白い体が俺の目にうつる。



ドキドキした。




あんまりかわいくて、思わず抱き締めたくなって、でも、水着の
を抱き締める勇気とか、俺には無くて・・


「だーーーもう疲れた。浮き輪あれば、お前溺れないで泳げんだろ?
 ちょうど木陰だし、俺、昼寝すっから・・・・・」

たまらず、に背を向けて、俺はシートにゴロンと横になる。
眠いとかそんなんじゃねー・・・かわいい顔見せんなっつうの。
もう俺、まじで限界・・・・・



「うん・・・・・・」




背中の後ろで、小さなの声が聞こえた。






「じゃ、じゃあさ、ちょっと寝たら相手して?」

遠慮がちに言う言葉。

「あーーちょこっとだけな?」

「うん!」

俺の無愛想な返事にも、は心底嬉しそうな声で答えて、そのまま
一人で浮き輪を持ってプールへと入っていった。





俺はそっと振り向いて、ぼんやりとその後ろ姿を見る。




「部屋だったらお前の相手だってしてやんのに・・・・なんでプールなんだよ・・・馬鹿」


お前の水着姿に完全にまいってる俺が、プールでお前に触ったら、俺はやっぱ
男として・・・その・・・・なんだ・・・・・我慢っつうのをする自信ねーし・・・・・・

やっぱ直にその白くて柔らかい肌に触れたら、それ以上のことしたくなるっつうのが
男っつう生き物なんだよ・・・・分かっちゃねーな・・・・・・本当によぉ・・・・・






ゴロンと上をむくと、木の間から青い空が見えた。
雲が流れていく・・・・・・・
この木陰の場所には、ちょうど心地よい風が吹き抜けて、俺のよこしまなモヤモヤ感も
なんとか消し去ってくれそうだった・・・・・


「俺じゃ、を満足させてやれねーな・・・けど、嫌われるのつれーな・・・・・・」


小さく呟いた言葉は、生暖かい風にのって、青い空に吸い込まれていった。













遠くで、まばらに笑い声が響いている。
ピチャピチャッと水を叩く音

ここは・・・・どこ・・・・・だ?




「はっ」




勢いよく飛び起きる。




やべーーーー 俺、あのままマジで寝ちまった・・・・・



俺が寝ていたシートの上には水溜りのように、水滴がいくつもこぼれ落ちていた。
が何度も俺の様子を見に帰ってきたんだろう・・・・



「あいつ・・・・・・どこ行った?」



陽が傾きかけて、人も数える程に少なくなっているプールを俺は必死の思いで見渡す。



・・・・怒ってんな・・きっと・・・・」

が鬼のような顔でカンカンに怒っている姿を想像した。



はぁ・・・・めんどくせーことしちまった・・・・・



ふと、ここのプールの1番メインのドでかいプールの隅っこの方に遠慮がちにチョコンと
座って、膝から下だけプールに入れて、水をパシャパシャと蹴っている、の姿が
飛び込んできた。

「いた・・・・・・・」


俺は慌てて、シートから飛び出して、の方へと駆け出した。




まるまった小さな背中。

・・・あのよ・・・・悪かった・・・」

チャポン と白い足が水を蹴る。

「ううん・・・いいよ・・・・せっかくのお休みにこんなとこ誘ってごめんね・・・・・
 シカマル・・・人ごみなんて嫌いだって知ってたのにね・・・・」

こっちを振り向きもしないで、はとっても小さな声でそう言った。

「おこせば良かったじゃねーかよ・・・・・」

「だって、あんまり熟睡してたから・・・疲れさせちゃったの私だし・・・・」

俺はゆっくりとの隣に座って、同じように膝から足をプールにつけた。
ひんやりと心地よい冷たさ。

「だからって、俺だって、お前が声かけてくれりゃー起き・・・・たの・・・に・・・」






の目から大粒の涙がぽろぽろと流れていた。



あっ・・・・・



俺はその時、初めて後悔した。

みんなが楽しそうにカップルでイチャイチャ泳いでるプールで、俺を気遣って
一人でずっとこの中にいた・・・どんなに寂しかっただろう・・・・・




ジャボンッ




何も考える暇なく、俺はプールに体ごと入る。
さっきまで暑いさなかで寝ていたせいか、プールの水はやけに冷たかった。


の前に回って、の腰に片手をまわして、もう片方の腕で足を
抱きかかえてプールに入れた。


「もういいよぉ・・・帰ろうよシカマル・・・・・・」
は泣きながら、とまどいながら、俺を見た。

「俺もおまえとプール入りてーし・・・・・」

「だって・・・もう陽も傾いてる・・・・そろそろ帰らなきゃ・・・」

「んだよっ 俺とプール入るのが嫌なのかよ?」

「違うよ・・でも・・・え?ちょっと待って、浮き輪!浮き輪!とってよシカマル!」

俺は有無を言わさず、を抱きかかえたままプールの中へと連れて行く。
は俺の腕の中であたふたとプールサイドに置かれた浮き輪に手を
伸ばそうと、もがいている。

「んなもん、必要ねーだろ・・・・俺がずっと抱いててやっからよ・・・・」

「え?」
の顔は真っ赤だ・・・・涙もいつの間にか引いている。

「なんか不満でもあんのかよっ」
お前の気持ちは、分かってっけど、意地悪く聞いてみた。

「ないよ・・・・私もシカマルと一緒にプール入りたいもん・・・・」

それだけ言うと、は俺の首にギュッとしがみついた。

「はいはい。 よくできましたっと・・・・・・」

浮力で、随分と軽くなったの体をギュッと抱き締めながら、
すっかり夕日になりつつある紅い空のなか、俺達はプールの中でくっついていた。



「キスしてーんだけど・・・・」
チラッとを見る。

「え?・・・・・・えっと・・えっと、でも、人いるよ?」

確かにまばらだが、まだ人はいる・・・・けど・・・・・・残ってるのはカップルだけだ・・・

「誰も見てねーよ」

俺はの小さな口元にキスする。

ほてって頬の体温が熱い。
柔らかい唇が恥ずかしいせいで少し震えてる。
俺の肩を握る手に力が入ってる。

あーーーー どれもこれも愛しいな・・・・・・・


お前の成長した体は俺を欲情させるのに十分だけどよ、でも、今はそんな
気持ち、もうどうでもいい。
俺は目の前にいる、をもっともっと大事にしてやりてー・・・・
もうこんな風に泣かせるのはぜってーイヤだ・・・・・・

だってよ・・・俺はお前を・・・・・・


唇を離す。


・・・俺は・・・・・・」

お前がすげー好きだから、お前に嫌われて、失うのがマジで怖えーーーんだよ・・・・・・


それでもやっぱ言葉にできねー俺は超馬鹿だ・・・・


は俺の顔をじっと見つめている。

「シカマル・・・・大好きだよ・・・・・」

真っ赤にさせた頬。

ドキドキと俺の心臓がうるさい。
お前が先に言うなよ・・・・

「シカマル・・・・私のこと嫌いにならないで・・・・・・」

うっすら涙目の瞳。

それは俺のセリフだっつうの・・・・

「ずっとずっと好きでいてくれるって信じてるから・・・・・」

だから、泣くなよ・・・・俺なんかのために、そんなに泣くなって・・・・・
・・・つうか・・・もういい加減気づけよ・・・・馬鹿・・・・・

「まったくよぉ、お前って本当めんどくせー女」

世界一愛しい俺の彼女を俺は思い切り抱き締めた。





「あんま夢中にさせんなよ・・・・俺、おかしくなっちまうだろ・・・・」
「シカマル・・・・・・・」



もっかいキスすっか。



水面に隠れたお互いの体をギュッとくっつけあって、俺と
今までで一番深いキスを繰り返した。

一生、お前を愛してるから・・・・

そんな言葉を、いつかに伝えられるといいなぁ・・・・俺・・・・・



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