「ねーねー 
「え?なあに?いの」

私はいのの部屋でお菓子を頬張りながら、いのの顔を見あげた。

「あんたさぁ。本当にシカマルなんかでいいわけ?」
いのは机に肘をついて、手に顎をのせて、私の顔を覗きこんだ。

「いいって・・・・なにが?」

「シカマルってめんどくさがりだし、いつだってやる気ゼロだしさー。
 そりゃまぁ、頭はいいかもしんないけどさー。彼氏としては
 どうかなーって・・・」
いのは机の上のお煎餅をバリッと食べた。

いのには分からないのかな・・・
シカマルはね、普段はそりゃ、そっけないけど、いざという時は絶対
私を守ってくれる・・・・シカマルってすごく優しいんだから・・・・

まっ 言っても分かってもらえないだろうけど・・・・



「そういう、いのこそさ、サスケ君ってどうなのよ?」

私もお煎餅をバリッと食べた。

「何言ってんのよぉ!サスケ君は完璧じゃない!顔良し、頭良し
 しかも強ーーいし!」

いのは手を組んで、まるで少女漫画のヒロインみたいに目を輝かせて
いる。

「でもさ、女の子に冷たいじゃん・・・・・」

いのの目が怖くなった。

「そ、そこがいいのーーーーー!!」

「ふぅん・・・・」
私にはよく分からないけど・・・・・

「それにさ、サスケ君見ると心臓がドキドキすんのよね!!」



え?ドキドキ?・・・・・・・・



「なんで?」
不思議な気持ちだった・・・どうして見ただけでドキドキするわけ・・・・

私の返答に、いのは眉をしかめていった。

「なんでって・・・・女の子は誰でも好きな男の子を見たらドキドキする
 もんでしょーが・・・・それが好きになるって事でしょー?」

いのは目を細めて私を見た。

「そ・・・・そうなの?」

私はシカマルの顔を思い出してみた・・・・・・・ドキドキ・・・・しない・・・・
だって、シカマルはいつだって、草の上でガーガー寝てるし・・・・
声をかけても、たいていは眉間にシワを寄せて、憎まれ口しかたたかないしさ。


私がうーーーーーんと唸っているのを見て、いのが言った。


さぁ・・・もしかして、シカマルといてドキドキした事ないわけ?」
いのは信じられないという顔をしている・・・・

「えーーーと・・・だって・・私とシカマルは幼馴染でさ、昔から知ってるし・・・
 今さらドキドキなんてねーーー・・・」
私の言葉の語尾はだんだんと小さくなってしまった。

「あのね・・・・・・・・ドキドキしない恋なんてありえないわよ・・・・・」











私はいのの家からの帰り道・・・さっきのいのの言葉が頭を回っていた。


ドキドキしない恋なんてありえないわよ・・・・


はぁ・・・・私が溜息をつきながら歩いていると、
シカマルが土手の草の上で寝っころがっている姿が見えた。




無意識に草をけり、私はシカマルに向かってかけだした。

いいもん。ドキドキしなくたって!私はシカマルが好きなんだから!







「シカマル!何してんの?」
シカマルの横にちょこんと座ってみた。
シカマルは全然驚きもしないで、目だけをこちらにチラッと向ける。

「あ? なんだか・・・・何してるって・・・寝てんだろ・・・・・」



・・・・相変わらず・・・・そっけないなぁ・・・・・でもシカマルらしいけど・・・・



2人とも何も話さず、空を見上げた・・・・・・・青いなぁ・・・・

風がササーーーッと吹き抜けた・・・
サクラの花びらがヒラヒラと舞い落ちているのが見える・・・
あったかい・・・・・
シカマルと私のいる草はらにはタンポポがたくさん咲いていて、時折
風に揺れていた。


「気持ちいいね・・・・」
「あぁ・・・・」
シカマルは寝っころがったまま目を閉じた。


ふいに蝶々がシカマルの鼻先にとまった。

「あっ」
私が声をだすと、シカマルはゆっくり目をあけて、自分の鼻先を
寄り目で見た。
蝶々はヒラヒラと空へと舞い上がっていった。

「あーーーぁ いっちゃった。お腹でもすいたのかな?」

「お腹すいたって・・・お前じゃねーんだからよ・・・・」

シカマルは目を細めてフフンと笑った。

「もう!!」
私がシカマルのおでこをペシッとたたこうとしたら、
反対にギュッと手首をつかまれた。

「残念だったな・・・お前の行動なんてお見通し・・・・」
 
「ふーーーーんだ・・・・・」



また風がふいた・・・・花の香りがした・・・
隣のシカマルをチラッと見ると、また目を閉じて、気持ちよさそうに
している。
その姿がすごく好き・・・・・

「なんかさ・・・・・シカマルといるとあったかい・・・・」
そう・・・・心をくすぐるようなポカポカな太陽みたいに。

「俺はコタツか」
シカマルは目を閉じたままフンと笑った。
「もう!茶かさないでよぉ!・・・・私はシカマルが好きってことだよ・・・・」


「お前って、ほんとバカ・・・・・・・・」

シカマルは顔を真っ赤にしている。

そういうところも大好きだもん・・・


「だってさ・・・・」
私は少し俯いて、自分の膝に顎をのせた。
「いのがね・・・・恋をしたらドキドキするものだって・・・・」

シカマルは私をチラッと見た。

「私は、シカマルにドキドキするってよく分からないんだもん・・・・
 だからちょっと不安で・・・・でも私はシカマルのこと・・・」


突然、目の前が暗くなったと思ったら、私の体はフワッと浮いた感じ
がした。
空がぐるッと回って目の前にシカマル・・・・・

コトンッと優しく、頭のあたりに草の感触。


え?


私の両腕はシカマルの手に押さえつけられ、体の上にはシカマルが
覆いかぶさっていた。
シカマルは真剣な顔で私の顔を見下ろしている・・・・



な、なに?シカマルが私のこと押し倒してる・・・・



サワワーーー

春の風が吹き抜けると、青空にむかって高く結われたシカマルの髪
が揺れていた。
私はしばらく呆然とシカマルの顔を見つめていた。

手を動かそうとしても、シカマルの力が強くて動けない。
逆光で影になっているシカマルの顔はすごく真剣で、でも何も言ってくれない。

「シ、シカマル?ねぇ・・・どうしたの?」

その時、私の腕を掴むシカマルの手が強まり、ギュッとしめつけられた。

「痛い・・・」
私が呟くと・・・・

・・・・・・」
シカマルが優しく私を呼んだ。

骨ばった細い指先が私の頬に触れた・・・・

あ・・・・・・・


シカマルはゆっくりと顔を近づけた・・・・・

(キス・・・・する気?え?こんなところで??)

私はギュッと目を閉じた。

心臓がドキドキと高鳴る・・・・・・・
鼻先がくっつくぐらいの至近距離にシカマルを感じる・・・・
(きゃーーーー私、シカマルとキスしちゃうのーーーー!!)
もう心臓が爆発しそう!!







「だーーーーーー きばったら疲れた〜」


え?


突然体が軽くなった・・・・・

あ、あれ?

シカマルは勢いよく、私の隣にゴロンと寝転んだ・・・・

「な、なに?なんなのーーー?」
私は上半身を起して、隣で溜息をついているシカマルを見る。



へっ


シカマルは自分の頭の下に腕をくんで寝っころがったまま
鼻で笑うと、私の顔を意地悪く見て言った。




「どうだ?ドキドキできたか?」



「!!!」



「シ、シカマルのバカーーーーーッ!」

「なんだよっ!マジでドキドキしたんだろ?良かったじゃねーか!」
シカマルはくくくと笑っている。

「もう!シカマルなんて・・・・シカマルなんて嫌い・・・・」

本気で悔しかった・・・だって、シカマルはいつも私をからかって
ばっかり・・・・
私はいつもシカマルに愛されてるか不安なのに・・・・
あなたはいっつも余裕で笑ってるんだから・・・・ずるいよ・・・・・


なんか、すごく寂しい・・・・


力なく、シカマルの隣にごろんと転がって、空を見上げた・・・・

(シカマルにとって私はやっぱりただの幼馴染でしかないのかな・・・)

空を見上げたら、泣きたくなってきたよ・・・・




ふと左手がふんわりとあたたかい。
シカマルの手の体温が私の手を包んでくれていた。

・・・悪かったって・・・・・・」
「う・・・・・うん」
私がぐすんと鼻をすすると、シカマルはゆっくりと言った。

「あのなぁ・・・・・・・俺はこうして空見てるのが好きだ・・・・」

優しい風が草をゆらして、青い香りがした。
シカマルの手が私の手をギュッと握りしめた。

「空はどこまでも青くて、雲は自由に流れててよ、そんで、俺の隣には
 ・・・お前がいて・・・・・・」

ドキドキ・・・・・私の心臓はまた鼓動を早めていく・・・・・


「俺はこうしてる時が一番好きだ・・・・・」

「う・・・・うん。」

嬉しかった・・・・シカマルの隣にいるのが私で、それが好きだと言って
くれた・・・私も同じ・・・・シカマルが隣にいてくれなきゃ嫌だよ・・・・


ドキドキドキドキ・・・・・・・・それは止まることなく、私の心臓を叩く
ように・・・続いている。


その時、私はようやく気がついた。
あぁ・・・そうか・・・・これがいのの言っていたドキドキなんだ・・・・・・


私は前からずっと、シカマルにドキドキしてたんだ。
でもそれは、いつものことで・・・だから自分でも気がつかなかっただけ・・・
私はずっとずっとシカマルに恋してるんだよ・・・・・


隣で目を細めて、あたたかい太陽につつまれているシカマル。
あなたの幸せそうなその顔が私を安心させてくれる・・・

「シカマル・・・・ありがとう・・・・大好きだよっ」

「さっきは嫌いって言ったくせによ・・・」
シカマルは少し笑った。

私はつないでいたシカマルの手をゆっくりと自分の顔に
近づけて、骨ばった手の甲にそっとキスをした。


「大好きだよシカマル・・・・今度は本当にキスしてね・・・・」

「バ、バーーーカ」

シカマルは真っ赤な顔で私をチラッと見ると、
また空を見上げた。
私もシカマルと同じように空を見上げて深呼吸する。

春のあたたかい匂いがした。

2人でずっと手をつないだまま、草はらに寝ころんで・・・・・・・・・・
シカマルの手のぬくもりが私の体を駆け巡って、また心臓は
ドキドキと音をたてはじめる。
空には雲がゆっくりと流れていった。





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