ピンポーーン


家のチャイムが鳴る。

母ちゃんが「はーーーい」とよそ行きの声で
玄関口に走っていった。

俺はうーーーーーんと伸びをして、ノソノソと縁側に
行き、お茶でも飲んでのんびりすっかと思ったところに



「シカマルー 早く早く来なさい!」



母ちゃんの叫ぶ声。



はーーーーめんどくせーな。



「あーーー?俺、今、手ぇ離せねーんだけどっ」


嘘うそ・・・茶すすってるだけ・・・けど、どうせ面倒なこと言われん
に決まってるからな・・・・

俺は縁側に差し込むやわらかな日差しに目を細めながら、ずずずと
茶を飲んだ。




「いいからっ!来なさい!」





母ちゃんの怒り気味の大声。


「はいはい」

・・・逆らったら、まためんどくせーし。

俺はのそのそと玄関に近づいた。







「シカマル!見てごらん〜」

母ちゃんの目が輝いている。

「は?」
俺は胡散臭そうに玄関の扉のあたりを覗き込んだ。



・・・・・・・・・・・・!!・・・・・・・・・・・・・


!」

「シ、シカマル、おはよっ」

俺の目の前には、薄い花柄ピンクのかわいいワンピースを着て
裾をヒラヒラとさせたが飛び込んできた。

「に、似合わない?」

しばらく呆然としていた俺に、すこし不安気な
顔を覗きこむようにして聞いた。


いや、似合うもなにも・・・すっげーかわいいんですけど・・・


「えっと・・・まぁ・・・・そこそこ似合ってるんじゃねーの・・・・・・」


俺の言葉には少し膨れた。


ボカッ

「痛ってぇーーーー」

母ちゃんが鬼のような顔でげんこつを握って、俺を睨んで立っている。



「あんたって子は!女心のわからないバカなんだから!」


「知るかよ・・・痛ってぇな・・・ったく・・・いきなり殴んなよっ」
俺が頭を抱えていると


「いいの・・・おばさん・・・・・・やっぱり似合わないんだ・・・」
シュンとした


え? やべー 泣きそうじゃねーかよ・・
ちげーよ。 かわいいってマジで・・・・
ちゃんと言ってやんねーと・・・・

なのに・・・・なんでか、俺の口をついて出た言葉は・・・・


「つうかよ。お前なんでそんな格好してんだよっ」


あぁ 俺って超ばか。
一言かわいいって言ってやれよ・・・・
でも無理。
やっぱ言えねーーーー・・・・


「別に・・・・・・それじゃーね。」

はくるりと背を向けた。

「え?それじゃーって、うちに来たんじゃねーのかよ?」

なんだ?なんだ?お前、その格好でどこ行くんだよっ

「おばさま行ってきます・・・」
はチラリと振り返って、手をふった。

「行ってらっしゃい。ちゃん」
母ちゃんも手を振っている。


俺の心は穏やかじゃねーーーっ


「おいっ !お前どこ行くんだよっ」

俺はとっさにの腕を掴む。

「シカマルには関係ないでしょっ」

さっき、俺がそのワンピース姿を褒めなかったせいか?
は俺の目も見ずに、ほっぺたを膨らませて
プイッと横を向いた。

「いいから、どこ行くか言えって!」

俺はとにかく焦った。

だってよ・・・そんなかわいい格好で誰と会うつもりなんだ?
お前は!!

は俺の手をブンッと振りほどいて、べーーーっと舌を
出す。

「お、お前なぁ・・・・・・・・」

俺が溜息をついた途端に、はダッシュで家の門を出ていった。

「こ、こら!待て!」

俺は焦って靴を乱暴にはいて、を追いかけた。

「行ってらっしゃーーーい」
俺の後ろから、呑気な母親の声がした。




ここで逃げるつもりなら、俺は影真似してでも、お前を捕まえて
やっからな!




でも、がトロイせいなのか?
気でも変わったのか?
案外あっさりとはつかまった。


俺は今度こそ逃げねーようにと、の腕をギュッと掴んだ。


「んで?誰とどこに行くんだって?」

「デート・・・」

その言葉に俺はピクッと反応する。

「だ、だれとだよっ」

ちきしょー 相手は誰だ?ナルトか?いや手の早いキバか?
まさかサスケ?いやいや、以外なところでシノかもな・・・・
誰なんだ!くそっ
俺の女に手ぇ出しやがって・・・・絶対行かせねーぞ・・・・・・・

俺は怒りに頭がふる回転した。

「シカマルとだよ」

「なに?誰だって?シカ・・・マ・・ル?・・・・・・って、俺?」

ポカンとする俺にはニシシと笑った。



「やったーーーーー大成功!」



は誰かに向かって V サイン
嫌な予感がして、俺が後ろを振り向くと、
母ちゃんが門からヒョコリと顔を出してニシシと笑って同じく Vサイン・・・・



「は・・・はめられた・・・・・・・・」
俺はがっくりと肩を落とした。


「はめられたって人聞きの悪い・・・」
はムクレて答えたけど、

「俺はな・・・これから縁側でまったりのんびりとした時間を
 過ごす予定で・・・」

「でも、追いかけて来たじゃない?」
顔を覗きこまれる。

「あ、あれはお前が・・・その・・・・。誰かと出かけるようなこと言うから
 よ・・・勘違いして・・・」

「心配した?」
得意げな顔しやがって・・・、テメー・・・

「するかっつうの。」
フンと顔をそらす。

「あっそ・・・もういい!それじゃ、デートのお誘いにでも行って
 くるからっ ばいばいシカマル!」

がくるりと俺に背を向けると、スカートの裾がヒラッと揺れる。

「ま、待てって!」
俺はとっさにまたの腕を掴んでしまった。

振り返ったの勝ち誇った顔。

「それじゃ、デートしてくれるよね?シ・カ・マ・ル」

負けた・・・・完全に負けた・・・・・

「分かったよ・・・・」

「やったーーーーーーー〜!」

俺に溜息をつく暇もあたえず、が俺に抱きつく。

薄い生地のワンピースだからなのか?
ムギュッとやわらかいの体の感触が直に伝わって、俺の
顔はたぶん真っ赤。

やっぱ、無理・・・・には勝てっこねーーーよ・・・・・
惚れた弱みっつうのは、どうにもならねー・・・
女はこえーーよなー・・・・

「分かったから・・・・んで?どこ連れてけばいいんだよ」
俺はの顔を見る。

「うーーーーん。映画がいい〜!」

映画・・・・はぁ・・・・・・人混みかよっ 俺の苦手なところを・・・・

「ねぇ・・・ダメ?」
下からかわいく覗きこまれて、今更断れるかっつうの。

「今日だけな・・・・・」
はぁ・・・俺の溜息

けど、お前は全然聞いてねーーーし。

「シカマルありがとーーーー。」

めんどくせーけど仕方ねーか。
隣では心底嬉しそうな顔してやがるし・・・
たまにはサービスしねーとな・・・・
マジで誰かに取られちまいそうだ。



は俺の右腕にくっついて、早く行こうとせがんだ。


2人で久しぶりに並んで歩く。


風があたたかくて気持ちいい。
隣での髪が風にゆれている。

時折、俺を覗きこんでは
「えへへ」
と笑う。

「なんだよっ」

「だって、シカマルとデートできるなんて嬉しいんだもんっ」

「けっ 半ば強制だったじゃねーか」

「それでも来てくれたからいーーーの。」

「そうかよ・・・・」
こいつはすぐそういうかわいいこと言いやがる・・・・
人の気も知らねーで・・・・・くそっ


「ねぇ・・・私達ってちゃんと恋人同士に見えるかな?」

「バ、バーーーカ」

俺はプイッと顔を反らした。
照れるっつうの!
そういうの・・・・・

隣で笑う・・・・ワンピースだから余計に女って感じで
本当は俺はドキドキしていた。


すきがあったら、抱きしめちまいたいなーとか思ったり・・・・




風がブワッと吹いて、ワンピースの裾が大きく揺れた。

「きゃっ」

は俺の右腕を盾に、風から逃げるように少し後ろにまわる。

「やっぱり着なれないとダメ〜」
は、はぁと溜息をついた。

「でも、いいんじゃねーの。たまには・・・・」
とっさに出た言葉。
でも、はすっごく嬉しそうに笑った。

「本当はシカマルにかわいいって言って欲しかったなぁ。
 そう思って買ったんだよ」
はさらっと笑って言う。

俺はドキッとした。
俺の為に買ったのかよ・・・・そのワンピース。

「あーーー。だからよ・・・マジ似合ってるって・・・・・」
柄じゃねーけど、言うしかねーか。
そこまで言われちゃな・・・・

でも、は物足りなかったのか、

「それって、かわいいってこと?」
顔を覗かれる。

「か、かわ・・・・・い・・・・・い・・・んじゃねーの・・か・・・・・」
顔が真っ赤になったのが自分でもわかる。

も途端に真っ赤になった。

「ありがと・・・シカマル」

がもう一度、今度はギュッと腕にくっついた。
密着した俺の右腕に、の柔らかい胸の感触。
それはやっぱまずいだろ・・・・


あーーーなんか俺ヤベーぞ。



「お前さ、俺に襲われたくなかったら、もちっと離れろっ」

「え?なんで?」




「当たってるって・・・・」




の顔が急激に真っ赤になる

「シカマルのバカーーー!」

「痛てぇっつうんだよっ」

俺は映画館につくまでの間、腕とか背中をボカボカ殴られた。










「んで?は何が見てーーんだよっ」

俺は久しぶりに見る映画館の前で看板を見上げながら
隣のを小突く。

「ん・・・・んー・・・・」
目をしかめた

「お前なー 人誘っておいて、そりゃねーだろ。見たい映画が
 あったから俺を誘ったんじゃねーのかよ・・・」

はぁ・・・これだからとデートは厄介だ・・・・・

「だってぇ・・・・私、シカマルと映画見たかっただけだもんっ 
 話しなんて何でもいいのっ」
ふくれっつらしてやがる。

「おまえなぁ・・・・・・」
溜息だって出るだろ?ふつう。

「シカマルが決めて!私、何でもいいよっ」

そういう責任を俺に負わす気か・・・こいつ・・・・・・

「何でもってなぁっ! 俺だって何でも・・・・」

ん?

俺は一つのポスターに目がいった。



『ミステリーホラー 猟奇殺人・・犯人は誰だ!』


あたりを確認する。
よしよし・・・・・これで決まりだな・・・・・・


!決めたぜっ これにするぞ」

俺が指さしたポスターをは興味津々で覗きこむ。

「え?何何?どれどれ?」


そして、


「何・・・・コレ・・・・・・・・・」
思いっきり不機嫌な顔をした。

そりゃそーだろ?はホラーが苦手だ。

すげー話題になったホラーものの映画のビデオ借りて、俺のうちで
見たとき、はずーーっとクッションに顔を押し付けて、
「怖い怖い」と震えていた。


「まさか、この歳になって、怖いとかねーよな?」

ふふんと笑って顔を覗くと、

「バッカじゃなーい。怖いですって?私だって、もう大人よ!」

おいおい・・・俺達、まだ大人じゃねーだろ・・・・
まっ 細けーことはこの際どーでもいいや・・・・


「んじゃ、これ見るか」

「え?ちょっとちょっと、でもさ、これってなんか人気なさそうだし・・・」

一生懸命言い訳するの手をグイッと掴んで、俺はチケット売りば
に直行した。





「あーもう変更は無理だな・・・買っちまったしよぉ」

俺は2枚のチケットをヒラヒラと揺らしてへへへと笑ってみせた。

「わ、分かってるわよっ」

動揺してやがる・・・・本当は怖えーくせによ・・・かわいいじゃねーの・・・・・

俺はまたへへへと笑った。




「ねぇ・・・でもなんでコレなの?」
はロビーで恨めしそうにチラッと俺の顔を見上げた。

「恋愛ものとか興味ねーしな・・・アクションものは見るだけで疲れる・・・・
 推理ものなら・・・まぁ・・・・俺得意だしな・・・・」

まぁそれも一理あるんだが・・・・

「でも、もっと人気の映画とかあったのにぃ。コレ、人気ないんだよ。
 だって全然人いないよ・・・」


ドキッ

俺は内心あせった。

俺の本心を見抜かれたか?

だってよ、人ごみなんかめんどくせーもんよ。
立ち見なんざぁ、死んでもごめんだぜ!
どんなにアホみたいな映画でも、座って寝てられれば俺はいいしなぁ。

けど、この映画を選んだ理由がそれじゃ、にまた
うるさく言われそうだ・・・・・・めんどくせーー・・・・・


「まぁ いいじゃねーの。」
俺はの頭をポンポンと軽くたたいた。
途端にの顔は真っ赤になった。

「い、いいけどさ。 シカマルと一緒ならなんでも・・・・」
ちらっと見る目。



ぶっ・・・・・・
なんだっ なんだっつうんだよっ 
そのかわいい顔はやめろっつうの。


俺の心臓は無駄に高鳴ってきやがった。


まてよ・・・・・
人けの少ない暗がりの映画館かぁ。
俺やベーぞ・・・・我慢できねーかも・・・・・・
キスしちまうか? いやまて、のことだから
怒って暴れだすぞ・・・それもめんどくせーな・・・
でも、俺だってなぁ・・・・我慢できねーかもしんねーし・・・

内心きがきじゃない俺はガリガリと頭を掻いた。



「どうしたの?シカマル?」

「な、なんでもねーよ・・・・」

隣のこいつは俺がそんなギリギリの我慢をしていることなど
露ほどにも知らねーと思うと、毎度のことながら、まったく呑気な
に呆れるぜ・・・俺も男だっつうの・・・・もちっと男を
勉強しとけっ・・・・・・



映画館の扉がゆっくりと開けられた。


「きゃっ はじまるよぉ シカマル!」

さっきまで、あんなに渋ってたくせしてよぉ。
は大はしゃぎだ。

「あーーーはいはい・・・」
俺、今、子供に無理やり付き合わされた親父みてーだよな・・・・


館内はやっぱり人影もまばらで席は取り放題だ。


しかも推理好きっつうのか?まわりはそんな男らばっか。
女の客なんてほとんどいやしねー。


まぁ、いちよう付き合ってる俺から見てるとしても、だ、
はかわいい方だからな・・・・そんな男達の注目の的
だ。

『あの子かわいいなー』

なんてヒソヒソ声が俺の耳には届いていた。

そんな事に気づくような敏感な神経をもっていない
は、一人ではしゃいで、段差のある階段を、
ピョンピョンと飛びながら進んでいく。

「お前、あんま離れんなよ・・・・」

「だってぇ!シカマルが遅いんだもーーん」

あのなぁ・・・・・・嬉しいのは分かるけどよ・・・・

「こっちこっちぃ。シカマル早く早く!」

「早くって・・・誰もいねーよ・・・・」
溜息をつく。

お気楽なやつ・・・・・・

階段を下りるたびに、俺の目の前ではのワンピーース
の裾がヒラヒラときわどく揺れて、太ももが見える。

俺はとっさにの腕を掴んだ。

「あんま、はしゃぐなっつうの」

「どして?」

「いいからっ」

「なんで?」

「ったく、いつまでたってもガキだなお前。」


ボカッ


「痛てぇ・・・・・なんでいちいち殴るんだよっ」

本当はいやらしい目で他の男どもに見られるのが、しゃくに障った
んだよっ

でも、そんな事言えねーつうの。

やっぱりお約束に殴られた後、俺は腕をひっぱられて、真ん中の
ちょどいい位置に座らされた。




その頃、ちょうど、館内も暗くなる。
「はじまるよぉ」
の目はこれからはじまる出来事にワクワクする子供みたいに
輝いていた。

「怖いんじゃねーのかよっ 
 まったく怒ったり笑ったり忙しいなオメーは。」
俺の溜息をよそに、はスクリーンに釘付けになっている。



ダダーーーーーンッ



さすが、ホラー・・・・
音量が半端じゃねーし、恐怖心をあおるような音楽がしょっぱなから
連続して鳴り響いた。



ガツッ


とっさに俺の左腕に激痛が・・・・・


『痛ぇな・・・もちっと優しくしがみつけねーのかよっ』
『だってぇ・・・・・突然だったんだもんっ』

はあまりにびっくりして、俺の腕にしがみつくのに爪をたてて
いたらしい。
小声で会話したものの、この大音量ならふつうに話したって、聞こえや
しねーな・・・・

『どうしよーシカマルぅ・・・私やっぱり見れないかもぉ・・・』
『なに言ってんだっ 一緒に犯人探しすんだろ?』
『む、無理・・・・』
『あっそ・・・んじゃもうお前と映画はこれっきりだな』
『いやぁーーー・・・・頑張るからーーーー』


こんなこどもだましのホラーにさえ、本気で怖がってる
ちょっとかわいいけどな・・・・




しばらくすると、殺人がおきた。(もちろんストーリー上だがよ)



隣では大きく目を見開いている。


『まさか・・・おまえ怖えーーの?』
俺がふふんと笑って言うと、

『な、なに言って・・・全然平気だもーーん』
スクリーンを見据えながら、半分泣き笑い状態だ。

『嘘こけ・・・・・・』
ふあぁーーーーー
退屈だぁ・・・・暇だぁ・・・・・やっぱ縁側で太陽あびながら
昼寝しとくべきだったぜ。

寝そう・・・・こんな単純なストーリーで俺がだまされると
思ってんのか?
こりゃ、人気ねーのも分かるわな・・・

俺の意識が飛びそうになった時、
またも俺の腕をぐりぐりとひっぱるやつ。

『だーもう勘弁しろっ 俺は眠いんだっつうの』

ムニッと頬をつねられる。

『一緒に犯人探すって言ったのシカマルじゃない!』
・・・まさか・・・お前・・・犯人わかってねーの?』
『分かってるわよ!絶対リチャードが怪しいよね!!』

自身たっぷりにが言う。

『んな訳ねーよ・・・・』
ふあぁ・・・俺はまたあくびが出た。

        「えーーー絶対そうだよ!」


『バカ!声がデケーっ』

『ご、ごめん・・・だって・・・シカマルは犯人だれだと思うの?』

『エリザベス・・・』

        「ありえなーーーーい!」

ゴチンッ

『でけーっつってんだろ』

は頭をさすりながら、
『ごめんなさい・・・・・・』といった。









映画もとうとうクライマックスを迎える。
最後にこの映画の見せ場、血の気がひくようなすさまじい場面が
フラッシュバックのように映し出される。


案の定、隣のはガタガタと震えていた。

俺の家ではクッションで顔を覆っていられたが、ここにはそんなもの
ねーもんな・・・・



「な、なに?」

俺はの頭を抱き寄せて、胸に押しつけた。

座っているままだから、体ごとってわけにはいかなかったが、
ちょっとはいいだろ?

『うぅ・・・ちょっと恥ずかしいけど・・・コレならスクリーンが
 見えないから・・・いい・・かも・・・』

『そりゃ、良かったな。 』

あんまし照れんなっ 俺まで恥ずかしいっつの。


『ねーーーシカマル・・・・』
は俺の胸に顔をくっつけたまま、ちらっと見上げて俺を呼んだ。
『な、なんだよっ』

『こしてると、シカマルの心臓の音がして安心する・・・
  ねぇ・・・・もっとギュッってして?』

『バ、バカ・・・・』

こいつは何言い出すんだよっ 天然バカ・・・・
そんなこと出来っか!
ほんとに襲うぞっ・・・

俺はきっと真っ赤になってる・・・まっ 都合良くここが
暗がりで良かったぜ。

でも、俺の腕はそんな気持ちとは別にもっと力を入れて、
を抱き締めていた。

の肩はキャシャでなんか折れそうだ。
ちょうど俺の顎あたりにあたるの髪から、柔らかい匂いがする。
あーーー 女の匂い・・・
またやべーな俺・・・・・


よからぬ煩悩が頭を支配しそうになっていた時、突然
声を出した。

『シカマル・・・痛いよぉ・・・ギュッてし過ぎぃぃ・・・』

『う、うるせぇな・・・・』

まったくよぉ。
人の気も知らねーで・・・本っ当にめんどくせーな。





突然、場内に バババババーーーーーン とでかい効果音。



『シカマル・・・ねぇ・・・・ラストだよ!』
『え? あ・・・おぉ・・・・・』
『これで勝負だかんね!』
『犯人を当てた方が言うこと聞くってことにするか?』
『望むところよ!!』



             犯人は!!









俺達はやっと暗い映画館から、太陽の下へと出てきた。

俺は ううーーーーーん と大きく伸びをしてから、後ろを歩く
を振り返る。

「つうことで、約束通り、ちゃんと俺の言うこと聞けよな・・・」

ぶすっとした顔をした

「分かってる・・・で?何よ!」



ふふん。


俺はちょっと笑ってから、に背をむけて、歩きながら答えた。

「もう絶対、映画には行かねーぞ。 退屈で眠みぃ!」




の返事は無い。



俺は振り返って確認する。


、約束だかんなっ・・・・・・・・って?おいっ!」

「分かった・・・・」

「なんでお前泣くんだよっ 」

「だって・・・・シカマルとやっとデートできたのに・・・・シカマル・・・
 私とデートするの嫌なんでしょ?・・・ぐすぐす」



あーーー 、テメーは最後まで天然でズリーやつだ・・・・・・
好きな女に泣かれたら、男は何も言えねーつうの・・・

「あーーーだからな?そういう意味じゃなくて・・・」

俺はガリガリと頭をかきながら、めんどくせーけど次の言い訳を探していた。

「いいよ・・・・シカマルは本当は私のことなんか好きじゃないんだ・・・」



あーーーーもう、めんどくせーな・・・・・


「そうは言ってねーだろっ・・・・・」

「だってそうじゃない!久しぶりのデートだったのに・・・もう嫌なんでしょ?」

はぐすんぐすんと鼻をすすって泣いている。


あーーー俺、賭けに勝ったはずなのに、いつのまにか完全な悪者にされてんなっ・・・



「だから映画は勘弁だっつったんだよ・・・」

「どうしてよ!私と2人きりじゃ嫌な・・・・の?」

の言葉の最後はとりあえず無視して、俺はの腕をグイッとひっぱって、
耳元に口を近づけて小声で言った。





「あの暗がりはマジでやべーーつうの。好きな女が隣にいちゃ我慢できねーだろ?」






バチーーーーンッ






「痛てぇーーーーーー」


俺は正直に言ったのに・・・・・どっちにしても叩かれるんだよな・・・・・

は怒って、ドンドン先に前を行く。

「分かった・・・悪かったよ・・・・・怒んなって・・・・・!!!」



俺はの後ろとヒョコヒョコとついていく。


太陽の下で、は振り返って笑った。


「シカマルのバーーーーーーカ!」


・・・・・めんどくせー女だけど・・・にはやっぱり俺は
かないっこねーよ・・・・お前の笑顔を見せられたら、やっぱ俺は
骨抜きだ・・・・・


隣に並んで、お互いに、どちらともなく、なんとなく手を繋いで、
俺達は歩きだした。


最悪のデート?それとも最高のデート?

泣いたり笑ったり怒ったり、天気より激しく変わる
俺は振り回されっぱなし・・・
本当にめんどくせーよな・・・こんな1日。

「シカマルーーー疲れちゃったの?」
顔を覗く心配そうな顔。

「別に」

「シカマル・・・・私、これからもずっとシカマルが大好きだよ」
屈託ないその笑顔・・・・・俺はどうすりゃいいんだ?

「あーーー はいはい。」
そっけなく答える

「もう!いっつもそうなんだからっ」
ちょっと膨れた顔の

はぁ・・・・

俺は溜息をつく。


分かっちゃねーなー お前は・・・・
・・・・俺はが思ってる以上にお前が好きなんだぜ・・・・


だってよ、考えてもみろよ?
めんどくさがりで、逃げ腰ナンバー1の俺が、めんどくせーお前とずっと
一緒にこうしているんだからな・・・

いい加減、気づけっつうの・・・・・

まぁ無理だろうがな・・・・・・は天然だから・・・・

「はぁ・・・・・まっ そこがいいんだけどよ・・」

小さく呟いた俺の腕をとって、

「なんか言った?」小首を傾げてる。

「なんでもねーよ」
頭をグリグリとこづくと、がまた太陽みてーに笑った。

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