今年は例年になく寒くて・・・
その日は案の定、雪が降ってきた。




「なぁ。。・・・マジで行くのかよ・・・買い物っ」



(はぁ・・・行きたくねぇな・・・外は半端なく寒いっつうの・・・)



俺は家のコタツにうずくまって、コートやマフラーを用意しているをため息まじりに見つめていた。





「もっちろん。だって昨日約束したじゃない?シカマル明日は買い物に付き合ってくれるって!」




は外が雪でムチャクチャ寒いなんて微塵も感じていないかのように、満面の笑みで笑った。





「何も今日行かなくても・・・外、雪だぜ?」




俺はただでさえ付き合うのに面倒なの買い物にプラスされて、雪まで降っているこの
状況に、逃げ腰になっていた。






「どうして?雪・・・きっと綺麗だよ?」






そういって、窓の外をジッとみつめる
窓が部屋との温度差で少し曇って、窓ガラスにの顔をうつす。


深深と積もる雪のように白い肌。
さっき笑っていたはずのの顔は今は無表情に見える。



遠くをみつめているの瞳には、いったい何がうつっているんだ?




なぁ・・・
なんでお前・・・そんな顔すんの?



時々、は俺にも理解できないような表情をする。
寂しそうな、悲しそうな、どこかに消えてしまいそうな・・・そんな顔だ。
俺の考えすぎなのかもしれねぇけどよ・・・・・





「ったく・・・めんどくせぇな。」





の気を俺にむけたくて、俺はよっこらしょとコタツから出て、窓に近づく。
それでも、外の雪をじっと見つめているの頭をわざとグリグリと強く掴んだ。



「でもまぁ・・・しょうがねぇか。・・・約束しちまったしな。めんどくせぇけど、お前に付き合うよ」



いつものように、かったるそうにそう言った。
消えそうなお前が心配だからなんて・・・口に出して言えねぇしよ。



「本当?ありがとうシカマル//////」



振り向いたはいつもの顔で笑った。
だから俺はようやくホッとしたんだ。















玄関を出たら、粉雪がチラチラと降り続いていた。
外は静かで、目にうつるもの全てが真っ白で、思わずここがどこなのかさえ分からなくなるような
錯覚を起こしそうだ。



やわらかく頬にあたる雪は予想以上に冷たかった。




「やみそうもねぇな・・・」



コートとマフラーをぐるぐる巻きにしても寒いっ
俺はその場で身震いした。






「このままずっと降ってればいいのに・・・・」






手袋をした両手を口元にあてながら、はポツリとそんな事を言う。
そしてまた・・・あの顔をする。



俺の胸はまたギュッと痛んだ。




「けっ 冗談だろ?俺は早くやんで欲しいっつうの。」


「どうして?」


「さみぃの苦手だ。動くのもめんどくせぇ」


「シカマルらしいね/////」





くすくすと笑っているを見る。

お前こそ・・・らしくねぇこと言うなよ・・・・雪がやまなかったら、どこにも行けねぇぞ?
太陽の下で笑っているのが一番好きなくせによっ


今日のお前、どうかしてるよ。











「行こう!シカマル」





グイッと手をひかれた。








こんな時間に雪の舞う外になんか出てるやつはやっぱ一人もいねぇし。




あたり一面雪景色。
降り積もる雪に足をとられて、俺はうまく歩けなかった。

それなのに、は軽々と進んでいく。



「なにお前。よくそんな早く歩けんな」



不思議だった。
普段は何もないところでも、しょっちゅう転ぶくせによっ




「シカマル遅ーい。おいてっちゃうから」



振り向くの笑顔が粉雪にまぎれて、消えそうにみえる。
心臓がドキドキした。




雪が・・・を呼んでいる気がした。
俺の知らないどこかに・・・お前一人連れていっちまうんじゃないかなんて・・・・
俺はまるでバカげた事を考えていた。






「おい。あんま急いで歩くなよ。めんどくせぇ・・・転ぶぜ?」


「平気よ。」



ブーツの半分をザクザクさせながら、俺は少し焦って、の背中を追っていく。
このまま俺より離れて歩かせるのが不安になった。



「なぁ・・・待てよ。



はそんな俺の心配をよそに、振り返って言った。





「ねぇ・・・あっち行こう」




指差す右手に見える公園。
は迷うことなくそちらに歩いていった。





「おい。買い物は?」

「え?・・・うーーんとね・・・・買うもの忘れちゃった。」




は振り返って笑った。





嘘つけ・・・はじめから、買い物なんてなかったんだろ?
そんなのいつだっていいものだったんだろ?
ただここに来たかっただけだろ?




だけど、理由とか、どうでもいい気がした。
俺はただ・・・お前が・・・・このまま・・・・・








バサッ







突然、目の前からの姿が消えちまって・・・・




!!おいっ!マジどうした?」



俺はザクザクと雪を蹴り上げるようにの所まで走った。





雪がを!!・・・・・・

















「なに・・・やってんだ・・・お前は・・・・・」




はぁ・・・・
本当、こいつの行動が読めねぇ・・・・




「気持ちいい///////」









息をきらして走りよった俺の足元には、雪の上で大の字に寝っころがって、空をみあげているがいた。









「バカ。冷えんだろうが。風邪ひいてもしらねぇぞ・・・・」



俺はの近くにしゃがんだ。








「別にいいもんっ・・・・」






はゆっくりと目を閉じる。





あたりには何の音もない。
俺達以外・・・まるでみんな消えちまったかのように・・・





ただ真っ白な雪と、降り続く粉雪がだんだんの白い顔や体にふりつもっていくのを
俺は何も言えずに見つめていた。




今、お前が何を想っているのか分からなくて、俺にはかける言葉もみつからなかった。
ただ・・・いつものとは違うんだ。
何か・・・違う。
めんどくせぇけど、それだけは鈍感な俺にも分かっちまうんだよ。





だから、俺の心臓はこんなにもドキドキとうるさいんだ。
あたりはこんなにも静かだってのに・・・・






「はぁ・・・おい・・・。起きろって・・・・」


ため息まじりに声をかけた。


「・・・・・・・・・」



はそのまま何も答えず、動かず、ただ雪の中に身をまかせたままだった。









空からは雪が・・・真っ白な柔らかい雪がとまることなく降り続く。
俺の結われた髪にも、うっすらと雪が降り積もってきた。



「いったいいつまでこうしてるつもりだよ・・・バカ」


「・・・・・・・・」






こんなに白い世界の中で、音もなくただじっとしていると時間の感覚までなくなっちまう
ものなんだな・・・・




どれぐらい、俺達こうしてる?





あまりに静かで、この雪景色と同じように真っ白く透き通るようなの顔があまりに綺麗で・・・
俺は息を呑む。



こんな事を思う自分はどうかしてる。
でも、その時は、無意識に・・・・


・・・の死に顔はきっとこんなだろう・・・なんて
俺はふと想像しちまったんだ・・・・・












「ねぇ・・シカマル。このまま私が死んじゃったらどうする?」







は目を閉じたまま、突然、消えそうな声でポツリとそう言った。
心臓が高鳴った。
そんな事・・・お前まで言うなよ。




「はっ。・・・・死ぬたまじゃねぇだろ?お前は」


「そうだね。」


くすりと笑った。






そのまま、また動かなくなったを俺はジッと見ていた。



空からは綿毛のような柔らかい雪がただただ深深と落ちてくる。
その雪はの上に柔らかく降りてきて、の髪先を凍らせていく。










「なぁ・・・・・・いい加減起きろよ。マジで風邪ひくぞ。」



「・・・・・・・」



だんだんとの顔や体に雪が積もって、このまま雪の中に同化させていくようだ。



無言の頬をぴしっと指ではじいてみた。
それでも、は目をあけなかった。




「やめろ・・・そういう冗談。」



白い雪が余計にの顔を白く無表情に見せる。
冗談だと分かっているのに、その顔に俺は不安になった。

たまらず、俺は指先での頬にうっすら積もった雪をはらってみる。







それでも、は動かない。







「・・・・・死ぬな・・・・・・バカ」






冗談だと分かっていても、俺の心臓は無駄に高鳴った。

でも・・・
俺の一言を聞くと、はゆっくりと目を開く。





「ひっかかった・・・。シカマルの負けっ」




俺の方に向きなおるの髪も顔も体も雪まみれだ。



俺の・・・負け?





「はぁ・・・・勝負なんかしてねぇよ俺は・・・・」






けど・・・・
いつもと同じ、の勝手な言葉さえ、俺にはひっかかる。








「よっこらしょ」




俺の口マネをして、はゆっくりと起き上がった。

頭から、積もった雪がぱらぱらと落ちた。




「アホかお前。 髪・・・凍ってっぞ。」


いつも触れている黒髪に手を伸ばそうとしたら、そっと止められた。


「別に・・・いいんだもん。雪・・・好きだから」










俺は・・・雪なんて・・・嫌いだ。











「あっち行きたい」




の指差す方向。
向こうは奥まで木々が立ち込めている。






「よせ。あっちは雪が深い。」





俺はの腕を掴もうとした。
でも・・・



はスルリと交わして、またザクザクと俺の前を歩き出す。






「ここまでおいで〜だ。シカマル!絶対掴まらないから!」



「お前なぁ・・・今度は鬼ごっこでもやるつもりか? めんどくせぇ。」





楽しそうに笑っているはずのの笑顔が何故か一瞬寂しそうに見えた。



(絶対掴まらない)



さっきのの言葉がやけに耳に残った。
そんなこと言うなよ。




「何言ってやがる。お前は俺が絶対掴まえてやっからよ」






その瞬間、雪が風に舞って、ヒュルリと上に舞い上がった。
粉雪がもろ目に入って、一瞬、俺が目をつぶったすきに、の背中は俺からどんどん遠ざかっていく。




「おいっ !」



振り返ったはやけに遠くに立っているように見えて、俺は怖くなった。




「ねぇ・・・シカマル・・・だったら私をちゃんと掴まえて?」



「え?」




消え入りそうな声は雪に吸い込まれて、俺の耳にかすかにとどく程度になった。



遠い目をするお前を見ると、いやな気持ちになる。
無表情な顔をしているお前を見ると、不安になる。

雪はお前の体のように白いから・・・お前がこのまま雪の中に溶けちまいそうで・・・・












どうしてこんなに俺は不安になるんだ?
俺はお前が消えちまいそうで怖いんだ。
雪はお前を連れていっちまいそうで怖い。







はゆっくりと向きを変えて、また俺から遠ざかっていく。







・・・待てって!!」


雪に足をとられて、はぁはぁと息があがる。
このままお前を見失いそうで焦った。



俺は・・・ちゃんとお前を掴まえるよ。
ぜってぇ放さねぇから。
だから連れていくなよっ






「影真似の術!!」






真っ白な雪の上に黒い影が俺とを繋いだ。




「影真似なんてズルイよ。シカマル」




少し離れたところから、身動きのとれないが叫んだ。




「はじめからルールなんてねぇだろ? お前の負けだ。」




「もうっ!!」




俺の動きに合わせて、ザクザクと足音をさせながら、と俺との距離が縮まっていく。



目の前まで来たの影真似をスルリとといて、強引にお前のか細い腕をひいて胸に抱き寄せた。


「痛いよ・・・シカマル」

「うるせぇ」



俺の胸がの体温でじんわりと温まっていく。



「どうしたんだよ・・・お前」


教えてくれ・・・俺はどうしたらいい?
どうしたらこの不安が消える?








「ちゃんと掴まえててよ。シカマル。そうじゃないと私・・・雪みたいに消えちゃうから・・・・」


消えそうなぐらい小さな声は震えていた。


「ちゃんと掴まえてんだろうが・・・・」


抱く腕に力を込める。
消えるなんて言うなよ。


は朝からずっと変だった。
理由も分からず、俺はいつもとはちがうの微妙な変化に不安を感じていたんだ。






「なんかした?俺」

「分かんない。でも・・・すごく寂しいの。」


弱弱しい声。
バカだな。お前は本当に・・・・


「・・・なんも心配すんな。俺はお前のそばにずっといるからよ」

「・・・・うん」






小さくて、勝気な俺の彼女は、本当は繊細で寂しがりやのかわいい女だ。

なぁ・・・

俺がどんだけお前に惚れてるか、本当、心の中まで見せてやりてぇよ。

不安なのは・・・振り回されてるのは・・・俺の方なんだよ。






俺はギュッとの体を抱きしめた。
の心臓の音が俺に伝わる。



「・・・不安にさせて悪かったな。」

「大好きだよ・・・シカマル」


ようやく俺はお前を本当に掴まえた気がした。






「ねぇシカマル。影真似したら、鬼ごっこにならないよ」



俺を見上げたの顔はいつものいたずらな笑顔に変わっていた。



「いんだよ。それに・・・もう鬼ごっこは終わりだ。帰るぞ」





の頬に手をかけると、体温を奪われて氷のように冷たかった。


「お前・・・冷えてる。」


そのまま、少し震えている唇に触れるだけのキスをした。


「平気/////雪好きだし・・・」

少し照れて、うつむくの顔をグイッと持ち上げる。



「え?なに?シカ・・//////」



の言葉をさえぎって、何度もキスした。
お前の唇が俺のと重なって、いつものあったかい体温を取り戻すまで。
手をかけた真っ白いお前の頬が俺の手の体温でいつものように色づくまで。



この雪が冷え切ったお前をどこにも連れていかないように。






唇を離したら、の頬もようやくピンクに色づいていて・・・
幸せそうな笑顔に俺は内心ドキドキした。



「シカマル、顔赤いよ?」

「うるせぇ。さっさと帰んぞ/////」

「うん/////」




背中にも、髪にもついている雪ははらってやる。
そして、ゆっくりと二人、手を繋いで歩きだす。






空から舞う雪が目の前を真っ白にさせる。
方向を見失なわせるかのように・・・・


俺達をこの場にひきとめようとするかのように。


けど、あいにくここは俺たちのガキの頃からのテリトリーだ。
迷わせることなんて出来ねぇよ。






俺は空を見上げて、小声で  けっ  と言ってみた。





「俺、やっぱ雪・・・好きじゃねぇ。」

「どうして?」

「めんどくせぇから・・・・・・・」

「変なの」










雪があんまりお前のように白いから・・・お前の悲しみや寂しさが降り積もっていくようで、
こんなに胸が痛むんだ。


だから俺は・・・やっぱり雪が嫌いだ。















「寒いよぉ。体の芯から冷えちゃった・・・シカマル」


俺の左腕にギュッとしがみつく。


「バーカ。だから言ったろ。・・・まっ 帰ったら俺が体ごとあっためてやるけどよ」


「エッチ///////」






ザクザクとふみしめる雪の音だけが響く、真っ白くどこまでも続く道。
もう二度と、にあんな寂しそうな顔をさせたくねぇ。
この雪にを連れていかせやしねぇ。


だから



帰ったら、あったかい部屋でお前を抱いて、俺はお前の全てを受け止める。







ざまあみろ。
雪なんかにはやれねぇっつうの。








雪の日。







俺は降り続く雪の空に べー と舌を出した。













戻る








55 STREET / 0574 W.S.R / STRAWBERRY7 / アレコレネット / モノショップ / ミツケルドット