任務の帰り、シカマルを待ち伏せ。


だって、今日は大事な大事な約束をしたんだもんっ


「シカマル、まだかな〜・・・・」

私は神社へと昇る階段を4段、5段上がっては、地面へ飛んで、
上がっては飛んでの繰り返しをしながら、シカマルが来るのを
ワクワクと待ち続けていた。



ざっ    地面の砂利を蹴る音・・・・・・・


・・・・待たせて、悪ぃな・・・・・」

はぁはぁとめずらしく息を切らせて、シカマルが私の目の前へやってきた。


「シカマルーーー!!」

私はちょうど5段目まで階段を上がったところで、待ちわびたシカマルの姿
を見て、無償に嬉しくなって、抱きつこうと手を伸ばした。

「バカ! 危ねーっつんだよっ」

シカマルの一言を聞いて、我にかえる・・・


あっ・・・・ここは階段だった・・・・・・・






きゃーーーーーーっ
あぁ・・・もうだめ・・・死ぬ・・・・・・・


がつっ


体をガッシリと抱きしめらた感触。
その後、私は、地面にたたきつけられた時の衝撃を思って、体を硬直させた。

でも・・・・あ、あれ?

恐る恐る目を開けると・・・・・

「お前、いい加減にしろよっ ったく・・・俺まで巻き込むなよ・・・」
はぁ・・・深い溜息。

私の体の下敷きになっているシカマルが、やれやれって顔で
私を見上げていた。


シカマル・・・私をかばってくれたの?


シカマルの体は細いくせにガッシリしていて、私の体の重みなんて
全然平気って感じで・・・
なんだか、そんなシカマルがやけにたくましく見えて・・・・・・
シカマルはやっぱり男なんだなぁ・・・っなんて急に実感
してしまった。


「あのなぁ・・。重いから・・・はやくどけっつうの・・・・・」

「え?あ・・・ごめんなさい・・・・・」
私はとっさにシカマルの上から体をよける。
心臓がドキドキした。


そんな時、私はやっぱりシカマルを幼馴染以上に男として意識してしまう。


・・・・シカマルは痛てて・・・とか言って腰をさすっている。


当の本人はきっとそんな私の気持ちになんて気づいていないんだろうな。
シカマルって、そういうところ鈍感だし・・・・

「ごめんね・・・シカマル大丈夫?」

「あ?あぁ・・・死んでねーから大丈夫だろ・・・・・・」
シカマルはへっと笑う。

怒らずに、いつもそうやってかばってくれる。
・・・・やっぱりそんなシカマルが私は大好きなんだよ・・・・
口に出しては言えないけどね・・・・・




「ところで・・・あのよ・・

ふいにシカマルが私の顔を見て、少し罰が悪そうに、頭をかいた。

「なあに?」

シカマルはゆっくりと立ち上がって、体についた埃を払った。
それから私を見たシカマルの顔はすごく困った顔に見えた。

「あぁ・・・悪ぃ・・・今日はお前に付き合うの、無理になっちまった・・・」



その一言がズキンと胸に突き刺さった。




「え?なんでなんで?だって今日は午後から時間あるって言ってた
 じゃない!!」

私の心臓がドキドキ言ってる。
だって、だって、今日じゃなきゃダメなんだよ・・・


「あーーーあのな・・・いののお袋が風邪で寝込んじまったらしい。」
シカマルは頭をガリガリとかいた。

(いの・・・・・・・・)

 私の心はズキっと傷んだ

「だからよ・・・めんどくせーけど、これから、いのの家の花屋の手伝いに行かなきゃ
 ならねーんだよ。
 今日は新種の花の入荷日で特別忙しいんだとよ・・・お前も来るか?」

シカマルは私の顔を覗き込むように言った。

(なにそれ・・・・私との約束より・・・いのなんだ・・・・・・)


「行かない・・・・私は行かないよ・・・・・・」

すごくすごく嫌な気分・・・・

「そっか・・・・まぁお前は10班じゃねーしな。後からチョウジも来っから
 なんとか人手は足りるだろーし・・・・」

シカマルは私のことなどお構いなしで、いのの花屋のことで頭を巡らせて
いる。

(どうして?シカマル・・・・私との約束は?どうするの・・・・)

「どうして、シカマルが行かなきゃならないの?」

シカマルの顔を見上げる。

「どうしてって・・・いのは同じ10班の仲間だからな・・・・
 困ってんのにほっとけねーだろ・・・・」

何言ってんだ?って顔で私を見るシカマル。

「でも、今日はさ、私と一緒に森を見に行こうって約束してたじゃない!」
私はとっさにシカマルの腕を掴んだ。

「仕方ねーだろ・・・お前、困ってる仲間をほっとけってのか?」
眉間によるシワ・・・怒ってる・・・・・・

でも、私はそんなシカマルの態度を見ても、謝る気すら起こらない・・・
むしろ、すごく胸がモヤモヤして悔かった。

だって、今日は2人きりで見に行くはずだったのに・・・・
今日じゃなきゃ、もう間に合わないかもしれないのに・・・・・


「まっ お前とのは、また今度一緒に行ってやっから・・・・」
頭をポンポンと優しく叩かれる。


私はそんなシカマルの手を振り払った。


(そう・・・・そうだよね・・・・いのは大事な10班の仲間・・・私は
 ちがう・・・・私の約束なんて・・・どうでもいいんでしょ・・・・・)


「そう・・・それじゃ、いいよ・・・・一人で行くから・・・・・」
私はシカマルに背を向けた・・・・・


「おいっ ・・・待てって・・・今日はやめとけ・・・どっちみち
 こんな天気じゃ、そのうち雨になんぞっ・・・」

シカマルの声を背中に聞く。
シカマルの言う通り、空には薄暗い雲がたちこめ初めていた。
でも、やっぱりそのまま帰れない・・・

「いいよ・・・それでも行く・・・・シカマルはいののところに行けば・・・・」

振り向いた私にシカマルはますます怒った顔をした。

「なんかひっかかる言い方だな・・・・」

「どうせ私は10班じゃないもん・・・・大事ないのを助けてあげなよ・・・」

自分でも嫌な言い方してるって分かってる・・・でもでも、もうなんと思われ
てもいい・・・いつだって私なんて後まわしなんだから・・・・
私が今までどれだけ我慢してきたか・・・シカマルは知らないでしょ?


だから、今日だけは私を優先してほしかった・・・・


せっかくやっとできたシカマルと私の自由な時間・・・・
2人でいたかった・・・・・2人で見に行きたかったんだよ・・・・・




「そうか・・・んじゃ勝手にしろっ」



別に追いかけてきてほしいなんて思ってたわけじゃない・・・・
シカマルが困ってる仲間をほってくるなんて思わないし・・・
むしろそんなシカマルは嫌いだよ・・・・そう・・・きっとそう思う・・・・

でも、でもね・・・私の後ろで砂をけって去っていく足音を聞いたら
無償に悲しくて寂しくて私の頬からは大粒の涙が溢れてきた・・・・








それでも、私はあの場所へと向かっていた・・・・
シカマルと行くはずだったあの場所・・・・やっと見つけたあの場所・・・

今日見逃したら、もしかしたら満開だったあの花をもう見られないかも
しれないもの・・・・
風に揺れた美しい花。
私の思い出の中でもずっと色褪せずに残っていた花・・・・

「シカマルは・・・もう忘れてるよね・・・・・・」

胸がギュッと締め付けられる思いがした・・・・














「ったく・・・のやつは昔から強情で生意気で・・・・・
 ちっとも変わらねーな・・・ほんと・・・・めんどくせーやつ・・・くそっ・・・・」

「なに?シカマル?何か言った?」

いのは車の荷台に積まれた大量の花の仕分けをしながら、さっきから
不機嫌なシカマルの方を見た。


「なんでもねーー・・・それより、この花はどこに置くんだよ・・・」

「あーーーそれは店先の一番目立つところに置いてねっ 新種だからさっ」

「へいへい」

大きなバケツに背の高い茎を伸ばした青い花・・・・・
男のシカマルでも持つには相当力がいった。

とたんにズキッと腰が痛む。

「痛っ」

とっさに声に出してしまう。

「ちょっとちょっとぉ!その花は今日の目玉なんだから!しっかり
 運んでよねっ シカマル!男でしょ〜!」

いのの怒った声。

「分かってるよ・・・うるせーな。」


腰の痛み・・・・さっき、をかばってコケた時に打ったからか・・・






途端にシカマルの脳裏にの顔が浮かぶ。


『シカマル〜』
俺を見て嬉しそうに微笑んだ顔
『一人で行くから・・・・』
寂しそうな声
『どうせ私は10班じゃないもん・・・・・・』



けっ 
「バーーカ・・・何言ってやがんだよ・・・まったく・・・・・・」

「誰がバカなの?」

俺の後ろで声がした。

「チョウジ!」

飴をぺろぺろ舐めながら、チョウジがやってきた。



「もう!おそーーーいっ チョウジはシカマルより力あんだから、
 さっさとこれも運んでよねーーーー!!」

「悪かったな 男のくせに非力でよーーー」

けっ 手伝ってやってるってのに、いののやつ・・・・
はぁ・・・女ってどうしてこうも、無神経なんだよ・・・・・

「僕・・・どれ運ぶの?」
いのに怒鳴られて、チョウジもしぶしぶ花の入ったバケツに近づく。

「そこにあんの全部! シカマルもぶーたれてないでしっかり働いてよっ」

『へいへい・・・・・』


チョウジも俺も溜息をつきつつも、いのには逆らえず、花を店先へと
運びつづけた。


そうこうしていると・・・・客がどんどん現れる。

「いらっしゃいませ〜」
いのは精一杯の営業スマイルでお客の相手をはじめた。

俺もチョウジも言われた花を運んだり、客に渡したり、客商売ってのは
俺にはゼッテーむかねぇなって思うほどの忙しさだった・・・・


しばらく、すると・・・・


「あ、雨・・・・・・」

いのの言葉を合図に客足も徐々に減っていく。

俺は外にサササーと降り続く柔らかい雨を見ていた。


(まさか・・・あいつ・・・・行ってねーよな・・・・・・)


降り続く雨を見ていると、さっきのの顔を思い出す。


寂しそうに、でもすこし怒った顔で
『一人で行くから・・・・』

(なんでそんなにはこだわってやがったんだ?・・・
    あの森の奥に何があるっていうんだよ・・・)

俺はその雨に不安を感じた・・・・・



「まさか・・この雨の中・・・・・・まさか・・な・・・・・?」









「雨も強くなってきたし・・・客足も途絶えちゃったわね・・・・」

レジのある机に、ほお杖をついて、いのが呟く・・・・
俺もチョウジもそこらへんのイスに座って、ぼーーっと花たちを見ていた。



俺はたくさんの花の中の一つに集中した。

鮮やかなピンクの花は、ひときわ美しく、奥に置かれているにもかかわらず
その輝きは見事だった。

(でも・・・・この花・・・どっかで・・・・・・・・)

俺がぼーーっと思いをめぐらせていると、

「この花・・・綺麗でしょ?」

いのは俺が見とれていたのに気づいて、そう呟く。


「これはねスウィートマリアっていう花なの。別名、神秘の花とも言うのよ」

「へーー神秘の花ねぇ・・・でもなんで、こんなに綺麗なのに、こんな奥に
 おいてるの?」
チョウジもいつのまにか、その花にみとれていたらしい。

「この花ってすぐに枯れちゃうのよ・・・・今日が見納めってとこかしら・・・」

「へぇ・・・・・」

「明日枯れちゃう花をお客様に売るわけにいかないでしょ?だから、ここに
 あるのは、飾り・・・・・」


今日で見納め・・・・こんなに綺麗なのにな・・・・・・・


俺はどこかで見たような、その美しい花をみつめた。
記憶の断片にかすかによみがえるその輝き・・・・・

でも、その記憶もあっさりと打ち消された。

「そういえばさ・・・・って今日どっか行く用事でもあったの?」

チョウジが突然俺の顔を見てそう言ったからだ。

「なんで?」
俺は眉間にシワを寄せてこたえる。

「うーーーん。僕さっきが森の方へ走って行く姿見たよ・・・」



心臓がドキッとした。

(あいつ・・・本当に一人で行ったのか?・・・・・・)



その途端、店内がギラッと光り、豪音が鳴り響く。



ゴロゴロガシャーーーンッ


「きゃーーー雷だぁ・・・・この音は近いよねぇ・・・どっか落ちた?」

いのは耳を塞ぎながら、外を見る。


俺はとっさに立ち上がる


「いの!傘借りっぞ!」

「え?あぁ・・・いいよ・・・けど・・・シカマルあんたどこ行くのよ・・・・」



いのの言葉に答える暇なんかなかった。

俺は傘を一本握りしめて、どしゃぶりの雨の中を飛び出した。


ゴロゴロゴロッ

不気味な音が頭の上で響いている。


「あのバカ・・・雨になるって言ったじゃねーかよ・・・それに・・・雷、苦手な
 くせによぉ・・・・」


バシャバシャと俺が水を踏みつける音が響く。
頭の中に、雨の中、雷に怯えて震えて泣いているの姿が頭を
よぎった。


「ったく・・・・本当にめんどくせーーー」


速度を速め、俺は森へ抜ける道を曲がった。






森の中は立ち込めた鉛色の雲と雨のせいで、昼間だと言うのに薄暗い。

こんな時にこんなところに来る物好きはぐらいだろう・・・・
いや、そんなを探して、雨に濡れながら走っている俺もどうか
してるかもな・・・・


そんな事を思いながら、俺はひたすら木々の間にの気配を探していた。


思っていた以上に、森が薄暗いせいと、激しい雨と、落雷のせいで、
気配をつかめない・・・・

「もしかしたら・・・もう帰ったのか?」

俺は走るのをやめて、ゆっくりと辺りを見回した。






シカ・・・マル・・・・・・シカマル・・・・・


遠くにかすかだが俺を呼ぶ声・・・その声はかすれて、消えそうなぐらい
小さくて、泣き声だ・・・・


          が近くにいる!!


俺は必死で木々の間を走った。






ひっく・・・・ひっく・・・・・・・
弱弱しい泣き声・・・・

「はぁ・・・・やっと・・・・・見つけたぜ・・・・・・・」

そこには木の下で自分の両手で体をギュッと抱きながら、うずくまって泣いている
がいた。


俺はホッとして、にゆっくりと近づく。

シカマル・・・・・
は俺にまだ気づかずに、呟くようにそう呼んだ・・・・


(このバカ。・・・・本当・・・・心配かけさせやがってよ・・・・)

けど・・・そんながかわいいと思っちまう自分も相当バカだけどな・・・・・




俺がの肩にふれようと手を伸ばしたら・・・・


「シカマルなんか・・・大っ嫌いっ!バカ!死んじゃえっ 」

「お、お、お前なーーーー」(怒)


ちょっとでも、かわいいと思った俺がバカだったよっ
こいつ・・・まじムカツいたぁ・・・・・


俺の怒りの声にはビクッと反応して、顔をあげる。


「え?え?シカマル・・・・・??どうして・・・どうしているの?」

「あぁ?チョウジがお前が森に行くとこ見たっつうから、雨だし、
 雷も鳴ってるし・・・どうせ泣いてんだろうと思ってよ・・・・・」

かなりムッとしながらそう答えた。

「心配してくれたの?」
の涙でうるんだ瞳・・・・

ドキドキする・・・・

「お前、雷苦手だろ?だから・・・別に、そんだけだっ・・・」

ほらっ

俺は乱暴に傘をの頭にかざした。




その途端・・・・・


俺の体にがギュッと抱きついた。
柔らかい感触と甘い香り・・・・


「怖かったよ・・・シカマル・・・・・・」


俺の体に密着した冷え切ったの体は寒さと雷への恐怖で
震えていた。

俺はたまらずギュッと抱き締める。


「だから・・・・・雨だっつったろ・・・・・・」
耳元で呟く。
「う・・・ん・・・・・」

傘にあたる雨の音だけが、ボツボツと響いていた。
俺は傘を持ちながら、片手での体を抱き締め続けた。
心臓の音と雨の音だけが耳に残る。

「お前、なんでこんな無茶すんだよ・・・また来てやるって言ったろ・・・」

「でもね、今日が過ぎたらもうダメなんだよ・・・お花・・・枯れちゃうの・・・」

「なんのことだ?」

そういえば、この森の奥に、俺にどうしても見せたいものがあると
は言っていた。


「だって・・・・ほら・・・・・あそこ・・・・・」


の指がさす方向・・・・
ピンクの花があたり一面咲き乱れ、まばゆいばかりに輝いていた。
春の雨をうけ、しっとりと濡れながらも、その輝きは美しく、少しも
衰えてはいなかった。

この花はさっきいのの店で・・・・


いや・・・そうだ・・・俺はこの花を知ってる・・・・・








6歳のとき・・・・・


は母親とケンカをして、家を飛び出した。


真向かいの俺の家にも、その声は響いていた。

「ママなんか大っ嫌い!もう帰らないからぁ・・・・」





が走って行く姿が見える。



同じく6歳の俺は、そんなの後姿を追いかけた。


は泣きながら歩き続ける。
俺も無言で歩き続ける。

6歳にしてはきっと随分の距離を歩いたはずだ・・・・・


俺の記憶が曖昧なのは、ずっと泣き続けるが心配だったから。

お前が泣いてると、なぜだか俺の胸もズキズキと痛んで、辛かったから。

俺はどこをどう歩いたかなんてどうでも良くなって、泣きじゃくる
の背中だけを見つめて、歩いていたんだ・・・・



そして、俺たちは気がつくと、この花畑に着いていた。


あまりに綺麗な花に、しばらくは見とれていた。

「帰ろう・・・・・・」

俺は泣き止んだにホッとしてそう呟いた。

でも、

「いや・・・・は帰らないもん・・・・・」


そう・・・昔から頑固でわがままで生意気なお前は、またその場にうずくまって
泣きはじめた。

帰ろうと腕をひく俺を振り払って・・・・・



俺は目の前の花をすがるように見た。
(どうしたら、俺はを笑顔にできるんだ?どうしたら、
 喜ばせてあげれるんだ)


目の前の花が風に優しく揺れた・・・・・・



とっさに俺は吸い込まれるように花畑に入って、花を摘んだ。


そして、に差し出した。

「もう・・・泣くな・・・・」










「シカマルは忘れちゃったよね?この花畑の思い出なんて?」

は俺の顔を覗き込んだ。

とっさに我に帰った俺は急に恥ずかしくなって嘘をついた。
「あぁ・・・忘れた・・・・・・」

「嬉しかったの・・・・シカマルから初めてもらったプレゼントだったから・・・」

はそっと呟いた。

「そ、、、、そうだったっけか?・・・・・」
「・・・そうだよ・・・・・」

の顔は寂しそうだった・・・・・




「帰るぞっ」
「うん・・・・・・」

一つの傘に2人で並んで入る。
それでも2人無言だ。
足がなかなか進まない・・・・・・




「あの後・・・・・さ、」
「?」
が俺の顔を見る。

「お前があんまり嬉しそうに笑ったから、もう一度この場所・・・探したんだ・・・・」

「シカマル・・・?」

「けどよ・・・どうしても見つかんなかった・・・・なのによ・・・こんなとこに
 あったなんてな・・・・・」

俺は頭をかいた。

(忘れるわけねーだろ・・・あの時のお前の笑顔に俺はみとれた・・・・
  あの時から俺はずっと幼馴染としてじゃなく、女として、お前
  を好きになっちまったんだからな・・・・・)




「シカマル!覚えていてくれてたの?」
は頬を赤く染めて、少し興奮した様子で俺の顔を覗きこんだ。


そんな目で見られたら、俺はどうすりゃいいんだよっ・・・・


「ふんっ さんざん付き合わされた挙句に、お前を連れて帰ったら、
 親父にを連れまわしたって殴られたんだぞっ 忘れられるかよっ」

俺は顔をフンッとそらす。

「そっか・・・・そうだったね・・・・ごめんねシカマル・・・」

「けっ 今さら何言って・・・・・」
を見て、体が固まった・・・・

「シカマル・・・・ありがと・・・覚えててくれて嬉しい・・・・・」

の瞳から大粒の綺麗な涙が溢れていた。

俺は大事な女が目の前で泣き出した姿に、しかも俺が泣かしちまったみてーに
感じて、動揺した。


「な、なんで泣くんだよっ !」

「だって・・・・・・・」



は隣で肩を震わせながら、言葉をゆっくりと紡ぎ出す。


小さい頃はずっとシカマルと一緒にいれたけど、今は班も分かれちゃって、
お互いに任務があって、前みたいに一緒にいられなくてさ・・・・
思い出もどんどん減っていく気がして寂しかったの・・・・


でもね、この花畑の思い出は唯一2人だけの大切な思い出だから・・・
だからね・・・シカマルが覚えていてくれて嬉しいの・・・・・





そんな風にが思っていたことをはじめて知った・・・・・
こんなに寂しい思いをさせていたなんて・・・・・


はまだ泣いていた。


(もう俺がぜったいお前を泣かせたりしねーから・・・・・)






・・・・・・・・」

が顔をあげると、ピンクの花を一杯に握ったシカマルがいた。


「ほら・・・・・・・」
つきだされた不器用な花束。

「シカマル・・・・・」


「もう・・・泣くなっ」


あの時の小さなシカマルの顔がだぶって見えた・・・・・





その不器用な優しさはあの頃と全然変わらないんだね・・・

「ありがと・・・・・」
私はシカマルに微笑んだ・・・・・



シカマルの両腕が優しく私を引き寄せる。

「これからまた2人で作ればいいだろ・・・その・・・大切な思い出ってやつをよ・・・・」

シカマルは私の唇にそっと顔を寄せる。
そして優しく唇が重なる・・・・・
シカマルのあったかい体温が唇から伝わってくる・・・・
やわらかくて、優しくて、心地よい・・・・
私はその感触にすごく安心する・・・・・


唇が離れて、今度は優しく鼻先にキスされる。
変なの・・・唇にされるより、ずっと心臓がドキドキした。


「嬉しいけど・・・なんか恥ずかしいよぉ・・・シカマル・・・」
「へっ バーカ」


だって・・・そんなに大事にされたら、なんだかまた泣いちゃいそうだよ・・・・・


背中に回された手が私を強く抱き締める。
私もシカマルの背中をギュッと掴む。
ドキドキ高鳴る鼓動がシカマルの鼓動と重なる。


シカマルを遠くに感じて、ずっと寂しかった私の想いが、
シカマルのあったかい体の熱で溶かされていく。

「これからも、ずっと私のそばにいてくれる?」

抱きついたまま、小声で聞いてみる。

「俺がいなきゃ、お前ダメなんだろ?」

意地悪な声。

「うん。シカマルがいなきゃ、ダメ・・・・・・・」

「バーーーカ」

本当は照れてるんでしょ?
抱き締められて、顔は見えないけど、私、わかるもんっ




大好きだよ・・・・シカマル。





私が顔をあげると、やっぱりね。
シカマルは真っ赤な顔をしていた。


「また・・・・来ようね・・・・」

「お前また泣くなよ・・・めんどくせーから・・・・・」



2人で笑った。









いつの間にか雨はあがっていた。



空から一点の光が花畑に差し込んでいる。
その光のすじは、花々をより神々しく清らかな美しさにひきたてた。


俺は思った。
この花には不思議な力があるのかもしれない・・・・・
少なくても、俺の大事なものを守ってくれる力だけはあるみてーだ・・・


「シカマル、帰ろう。」
俺が渡した花束を大事そうに抱えて、は笑った。
清らかな、透き通るような笑顔で。


俺の大事なを笑顔に出来る花・・・・・・


「あぁ、帰るか・・・・・」

自然に手を繋いで、俺たちは歩きだした。


振り返ると、ピンクの花畑が少しだけ、優しく揺れたように見えた。

「なに?シカマル」
「いや・・・なんでもねーよ」


俺たちは家へと続く道を再び歩き出した。









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