遠くで、かすかにお囃子の音が聞こえる。
家の前の道を家族ずれの笑いあう声が通りすぎていった。





そう今日は・・・・・





ふいにナルトのキスが激しくなって、なんだか私は驚いて、とっさにナルトの
体を押し戻す。

「ねぇ・・・ナルト・・どうした・・の」

「だまれって・・・」

また強引にキスされる。
理由はなんとなくわかってる・・・でも、
ナルトの優しくないキスなんて欲しくないよ。

「やだっ」

私がまた同じようにナルトを避けたら、ナルトは悲しい目で私を見下ろして、私の頭を撫でた。

「ごめん」

ナルトはさっきまで重ねていた体をゆっくりと離して、私の横にゴロリと
寝転んだ。

心臓がドキドキしていた。

「ねぇナルト・・・」

私はベットの上にねっころがったまま、隣でぼんやりと天井をみあげている
ナルトに話しかけた。

「今日ってさ・・・木の葉のお祭りだよ?・・・」

ナルトの態度がおかしい理由・・・
もしかしたら言ってはいけない事を私は言ってしまうかもしれない。
そう思ったらなんとなく声をかけ辛くて、私は小声でそうつぶやく。

「あぁ・・・そうだな・・・」

ナルトは相変わらず天井を見つめたままだ。

「行かないの?」

ちょっとだけナルトの腕に触れた。

は?行きてーの?」

ナルトはチラリと私を見る。

「え?・・う・・・うん」

ナルトはよっこらしょって私の方に向きなおして、私の顔をじっと見る。



「ふぅん」


そっけない返事。
やっぱりいつもの優しいナルトの目じゃなくて、私に なんで? って問い掛ける
ようなそんな寂しそうな目に見えた。


「ねぇ、ナルト・・・一緒に行こう」


行きたいよ・・・ナルト・・一緒に・・・・

なんかナルトの返事を聞くのが怖くて、私はシーツに頬をうずめた。

少しの沈黙。

でも、ナルトの手がふいに伸びてきて、私の頬を指先で優しくなぞった。


「分かったってばよ・・・・」

優しい声。

「え?」

が行きてーなら、今からでも行こうぜ」

「本当?」

驚いて見上げたら、ナルトは満面の笑みで

「あぁ・・・ほんと。」

私に優しくキスしてくれた。









玄関の扉をあけたら、夏の夜の匂い。
ナルトは うーーん と伸びをした。

「んじゃ行くかっ 早くしねーと祭りが終わっちまうもんなっ」

「うん!」

!競争しよーぜっ 」

「いいよっ」

2人でニシシと笑いあう。


いちについて・・・ヨーーイ・・・・ドンッ






駆け出して行こう。
だってワクワクドキドキがもう止まらないから。
初めてあなたと行くお祭り。


小さい頃、あんなに嫌いだったお祭り。



だけど、だけどね?私には今ナルトがいる!




!お前、足おっそーーっ 」

「なによぉ!絶対抜いてみせるからぁっ」

「おお!やってみろってばよ!」

隣で余裕な顔で笑うナルト。




ねぇ・・・本当は行きたくなんか無かったんでしょ?
だって、私にはわかる。
小さい頃に両親を無くした私と、ずっと一人ぼっちだったナルト。



お祭りの、あの独特な明るさと、道を行くあたたかい家族がいる光景。
それは私達にとっては目をそむけたくなるほどの苦痛だった。

ねぇ分かる?

お祭りに一人で来る人なんて、まして子供で一人なんて、いるはずないでしょ?
不思議そうに見る大人達の視線。
お祭りの柔らかいちょうちんの光が余計に私をみじめに照らし出した。


だけど、だけどね? ナルト・・・私は実感したいの・・・・
そして、あなたにも一緒に感じてほしい・・・


今私達は一緒にいるんだよ?
もう一人なんかじゃないんだよ?
あの頃の私達とは違うんだよってことを・・・
この木の葉のお祭りで一緒に感じたい。

そしたらきっと、あの頃の私達の傷も癒える気がするの・・・・





息があがって、なんだか苦しくて、祭り会場まであともう少しってところで足が
もつれる・・・


「きゃっ」

転びそうになる私をナルトの腕がグッと抱きかかえてくれた。


って本当ドジだよな?」

「意地悪っ」


だけど感じる。あなたの手のぬくもり。






お祭りまでもうすぐっ

その門をくぐったら・・・・・・!!・・・・・・・








だけど私達はその前でピタリと足を止めた。








門の中に響く子供達の笑い声。
楽しそうにはしゃぐ子供を優しい笑顔で見守る大人達。
色とりどりの屋台。
甘い匂い。


まるで、門の外にいる私達だけ取り残されたように感じた。


あぁ・・・また想い出してしまう・・・・
小さい頃の自分の姿を・・・・


でも、ナルトの大きくてあったかい手が私の右手をギュッと握った。


!行こうぜっ」

ナルトの優しい笑顔。

「うん。」

2人で繋いだ手があったかくて、そして一緒に足を踏み入れる。
大丈夫!もう怖くなんかないっ!あなたと一緒だもの!


せーーーーーーのっ 


ドキドキの心臓と力を込めて握られたままの手のひら。


2人同時に門の中へと足を踏み入れた!!



祭りの人ごみにまぎれて、私達は少しドキドキしながら歩きだす・・・
だけど誰も私達を滑稽な目で見る人なんていなくて、
私達はこの幸せの空間に存在しているってことをはじめて実感した気がした。




あぁもう・・・・一人じゃないんだね・・・・・私もナルトも・・・・・




「へへ」

ナルトは私を見て笑った。

「あはは」

私も笑った。





「よっしゃーーーっ んじゃ何から行く?」

「うんとねー 射的!!ナルト、私にかっこいいところ見せてよ!!」

「よっし!に惚れ直させてやっから、見とけよっ」




きゃーきゃーはしゃぐ私。
射的場に着くと、ナルトは大きな声で叫んだ

「親父っ!景品全部いただくぜっ」

「お?威勢のいい兄ちゃんだなっ 彼女にいいとこ見せてやんなよっ」

手渡された鉄砲を見てニシシと笑うナルト。

「あぁ!もう俺しか見れないぐらい惚れさせてやるってばよ!」

「ナ、ナルト/////」

私は真っ赤になる。


「んで?はどれ欲しい?」

ナルトは鉄砲の先を並べられた人形に向ける。

「あのね・・・あの大きい猫の人形。」

「残念だったな兄ちゃん。ありゃーそうとう難しい品だぜっ 無理無理」

屋台の親父はケタケタ笑った。

「へへん!俺にまかせとけって!一発でおとしてやるってばよっ!」

片目を閉じて、ねらいを定める真剣な顔。

「いっくぜーーーーーっ」

ぺロッとナルトが自分の上唇を舐めた。





パンッ





小さな銃口から飛び出した小さな弾丸が大きな人形に命中したら、人形は
はじかれるように後ろに落ちた。


親父の目は点!



「へへん!おい親父!それは俺がもらっていいんだろ?」


「あ・・・あぁ」

驚いた親父から大きな人形をもらう。


?ちゃんと見てたか?俺の勇士!」

得意気に笑うナルト。

「うん!かっこいいナルト!!」

私は人形を抱きしめながら、ナルトの頬にキスをした。

「バ、バーーカ。俺はいつでもかっこいいってぇの・・・」

真っ赤な顔。かわいい・・・ナルト。









ねぇ次は?次はどこに行く?





初めて味わうお祭りの楽しい雰囲気!




ワクワクドキドキしながら、ナルトと私は時折、無意味に大笑いしながら、まるで
お酒に酔ってるみたいに、このお祭りの幸せな空間に酔いながら、ふらふらとどこまでも
歩きつづけた。




「こんなにいっぱいだよぉ!」

「あぁ・・・もう俺、持てねーってばよ」

「私もだよーーーっ」


あははは 両手いっぱいになった荷物。

小さい頃買えなかったいろんなものを今日一日で買い尽くした感じ?







「疲れたよぉナルトーー」

「あぁ・・・俺もだってばよ。、あそこで休むか?」

ナルトは神社へと続く長い階段を指差した。

「うん。」

2人でヨロヨロと座る。



「はぁーーーーーーーーーーー」

ため息を付き合って、顔をあわせてまた笑う。

「お祭り・・・あっという間に全部まわっちゃったね」

「あぁ・・・楽しかったな」

2人で買ってきたジュースをゴクゴク飲んだ。
はしゃぎすぎてカラカラになったのどに心地よく冷えた水が
流れていく。









「ママーーー」

ふいに泣きながら歩いてくる子供の姿。

「どうしたの?」

私は声をかける。

「お前、迷子か?」

ナルトはジュースを飲みながら、子供に話しかける。

「ママとパパがいないの・・・僕一人ぼっちになっちゃったの・・・・」

嗚咽をあげて泣き出す子供。

ナルトは立ち上がって、子供に近づいた。
私はそんなナルトを見つめていた。

「大丈夫だって・・・お前は一人ぼっちなんかじゃねーよ。もうすぐお前のママもパパも
 お前を迎えに来てくれっから・・・それにそうなるまで俺達がここに一緒にいてやるよ」

ナルトは子供を優しく抱き上げた。

「心配すんなって・・・大丈夫だから」

子供はすっと泣き止んだ。

私は優しい顔で子供を見つめるナルトにドキドキしていた。

やわらかく光る青い瞳。
子供はそんなナルトの瞳をじっとみつめていた。





「すいませんっ」

息をきらして、子供の親達が走りよってきた。

「うちの息子です。ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした。」

母親と、父親にしがみつく子供。


「な?一人ぼっちなんかじゃなかったろ?」

ナルトは男の子の頭を撫でた。

「お兄ちゃんありがとう。」







見えなくなるまでずっとずっと手を振り続けた男の子をナルトはずっと
優しい目で見つめていた。
私の存在なんて忘れちゃったみたいに・・・

「ナルト・・・・」

「え? あ・・・・ごめん。・・・俺ってば柄にもなく感傷的になっちまってた。」


目の前にした家族という光景・・・・・・・


「分かってる・・・・」

2人で見上げた夜空に天の川。
祭りはこんなに明るくて騒がしいのに、空の上は静かで、こんなにも綺麗で、そしてとても
儚く感じる。









家族・・・か・・・・・・








私は空をみつめながら、大きく深呼吸した。




・・・・そろそろ戻るか?」

振り返ったナルトはとても優しく笑った。

「うん。そうだね」

私もつられて笑った。




大きな荷物をかかえなおして、私達はゆっくりと家へと向かって歩き出す。
背中に聞く祭囃子がだんだん遠くなる。


家へと向かう道は人っ子一人いない。
まるで祭り会場以外のこの町がひっそりと眠ってしまっているみたいに。


私もナルトもなぜだかずっと無言で歩き続けた。
なぜだかずっと空を見上げながら歩いた・・・・
ときおり吹き抜ける生暖かい夜風がナルトの金色の髪を揺らす。



(ねぇナルト・・・あなたは今何を想ってるの?)



私の視線に気づいたナルトが目を細めて笑う。



(なぁ・・・お前は今何を想ってる?)





どちらからともなく伸びた手のひらをお互いにギュッと握りしめて・・・・・




たぶん私達は同じことを想ってる。
言葉には出来ない、この苦しい想いを、祭りの後の胸を締め付けるようなこの切ない想いを
グッとこらえて・・・・









玄関の扉を開くと、私はやっとほっとした。
私とナルトだけの空間。



「よっし。開けてみよーぜ」

ナルトはいたずらしてた子供の頃のように無邪気に笑う。

「うん!ぜーーーんぶ開けちゃおうよ!」

私も子供みたいにニシシと笑う。




せーーのぉ!





お祭りで買ったものを袋からザザザーーーッと床にばらまいた!





「風船。射的でとった人形。くじで当てたしゃぼん玉。花火にちょうちんのおもちゃと・・・」

「こっちにもあるぜ!水風船に狐のお面に、飴玉に、チョコ、おもちゃの鉄砲・・・それから」




あははははっ




床一面のなんだか、いらないようなくだらないものの山!
2人で笑う。



でも、やっぱり私達には必要だったガラクタの山。
だってこれは、幼い頃無くした夢のかけら。
今日1日で必死にひろい集めた心の傷を埋めるかけら。


床一面のこの山は・・・・私達に一人じゃないと実感させてくれる夢のかけらなんだよね。



でも、どうして?
それでも、そのかけらでも埋まらないこの苦しみ。この切ない想い。



だから私はその床をみながら泣いてしまった。



そう・・・あったかい家族のぬくもり。
私達が無くした・・・小さくて大きな無数の傷。

こんなにたくさんの夢のかけらでも埋まらないの?
私の隣にはナルトがいて・・・やっと一人じゃないって実感できたのに・・・
この温かい感覚でも癒せないの?


会いたくて会えない、私の死んだ両親。
もう2度と味わえない家族というぬくもり・・・
会いたい・・・会いたいっ・・・・パパとママと私と・・・もう一度・・・・
会いたい・・・


どうしようもない想いに耐え切れなくて、私は泣きじゃくる。
子供みたいに大きな声で。





でも、ナルトの腕が私を抱き寄せて。
大きなナルトの体が私を包み込むように抱きしめられる。

・・・泣くなってば・・・」

あったかい体とドキドキと鳴っている心臓の音。





それから、ゆっくりと手を引かれ、私はベットに倒される。





・・・・。俺はずっとお前と一緒にいるってばよ。お前も俺ももう一人じゃ
 ないだろ?」

ベットの上で抱きしめられて耳元で優しくささやくナルトの声

「でも・・・」

違う・・・違うの。今私の求めているものはもっと・・・なにかもっと別の・・・


「なぁ・・・。 俺達、家族に・・・いつかなろう・・・そんで作ろう。
 お前の望むあったかい家庭を・・・」


家族・・・家庭・・・・・


あぁ・・そうだ・・・私が失ってしまったかけがえのない大切なもの。


「お前が失った大切なものは、もう取り戻してやることできねーけど・・・
 でも、俺がもう一度お前に見せてやることはできるってばよ」

「ナルト・・・」

優しく頬を撫でられる。

・・・・俺でいいか?」

ナルトは泣き出す私の顔を優しく覗く。

「ナルトじゃなきゃダメ。」

ナルトの首にしがみつく。




あったかい体をくっつけあって、ギュッと抱きしめあって。
時折、苦しいぐらいキスをして、ナルトと私は確かめあう。

いつか本当の家族になろうって・・・









「俺さ・・・に似たかわいい女の子がいい」

「え?」

真っ赤な顔でニマッと笑うナルト。


「ダメだよ。ナルトに似た強くてかっこいい男の子だよ」


私はナルトの背中に腕をまわして、おおきな胸に顔をうずめる。


「んじゃ2人か・・よっし! 俺、頑張るってばよっ」

「な、なにを?」

あわてて下から顔を覗いたら、ナルトはまた悪がきの笑顔。

・・言わせんなよっ 決まってんだろ? 子・作・り!」

「//////」

真っ赤な私にナルトは耳元でそっとつぶやく。


「んじゃ、早速俺ってば、今日は朝まで頑張っちゃうからさっ」


「ナルトのバカ!」


あははは って笑うナルト。



でもその後はすごくまじめに

は俺がぜってー幸せにするから・・・」

私の手首を掴んで優しくキスをした。
ベットがギシッと音をたてた。



遠くで聞こえる花火の音。
ときおりあがる歓声。



それを遠くで聞きながら、私とナルトはベットの上でずっとずっと抱きしめ合った。


この想いが途切れてしまわないように。
繋ぎとめて切れてしまわないように。




いつかお祭りに行こう。

ナルトと私と子供達。

そしてナルトと実感したいの。

お祭りのちょうちんが照らし出す、あたたかい家族という光景を。





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