はぁはぁ・・・


何度も足がもつれそうになる。


バランスを崩しながらも、俺は必死で火影の屋敷の門へと走った。
あともうちょっとだ。
門を抜けたら、また全速力で・・・・・



その時、俺の背後から、耳をつんざくような大声が聞こえてきた。





「シカマル!!止まれっ!!!」




俺の足を止めるがなり声。



「あ?」


振り返ると、さっき俺の影真似で縄でしばられていたコテツさんが、
縄抜けに成功したのか、さっきの縄を手に鬼のような形相で立ちはだかっていた。


「シカマルてめぇ。このまま無事に帰れると思ってんのかっ!!!」


コテツさんの怒りを静めてる暇も今の俺にはねぇ。
それより手を貸して欲しいぐれぇだ。
そうだ。もう時間がねぇっ!!!


「コテツ先輩っ 火影様に今すぐ木の葉の門を閉じるように門番に命じるよう言ってくれっ」


いつもより早口で、焦ってんのバレバレのだっせぇ俺の言葉。


「あぁ??」


コテツさんは眉間にシワを寄せた。
こっちは一刻を争う状態だってのに、間の抜けたコテツさんの返事にイライラする。



が・・・里を抜けちまうかもしれねぇんだよっ!!とにかく門を閉じるように火影様に
 伝えてくれっ!!コテツ先輩!!」



相手が先輩だとか、さっきの事を詫びるとか、そんな余裕も今の俺には考えもつけなかった。




が??・・・」

「時間がねぇんだよっ!!早く!!」



焦る俺を尻目にコテツ先輩は深いため息をついた。


「はぁ・・・さっきの俺へのあの余裕な態度はどうしたよ?お前って奴は本当に
 訳わからねぇやつだな・・・それだけが大事か?シカマル」


コテツさんはニヤリと笑う。
もう・・・俺には何も隠すことなんかねぇ。




「・・・・・めんどくせぇ女だけど・・・それでも大事っすよ・・・あいつが。
 俺が本気で命かけて守りたいのは・・・今でもだけだ。」


恥ずかしいとか、そんな感情すら浮かばなかった。
これが嘘偽りのない今の俺のすべてだ。


「へっ 言ってくれるねぇ。まだガキのくせして・・・・」


コテツさんは はは と軽く笑った。


「あいつも・・もそうだったよ。雨の中、お前の帰りを必死で待ち続けて・・・
 たった一人であの暗い雨の中、お前の為に命がけでこの里を飛び出して行っちまった。
 ゲンマさんの忠告も聞かずにな・・・」






・・・・・お前やっぱり・・・俺の為に・・・・・・・・・)


コテツさんの言葉に俺の胸はギュッと締め付けられた。
の俺を想う気持ちが痛いほど伝わって。





「行けよ。シカマル。お前の大事な女のピンチなんだろ?火影様には俺から伝えておく。
 今度はお前がを助けだす番だろうが?」


コテツさんに中忍ベストの腹あたりをドンッと殴られた。


「・・・・・あぁ。分かってるっすよ。」


痛みは無かった。
それはコテツさんなりの俺への応援のつもりなんだろ。



「んじゃ。後はよろしく先輩」



俺はその場で踵を返し、門へと走り出す。





「いつもみてぇにめんどくせぇなんて諦めんじゃねぇぞ!!!」





後ろからコテツさんの声が響いた。




俺は振り返らずに片手をあげた。



(分かってるっすよ コテツさん。俺はぜってぇあいつを連れ戻す。
 俺が もう一度この手でを助けるんだからよっ!!)

















門を出て俺はそのまま繁華街へ出た。
走ってある人物を探す。




(まずはあいつに応援を頼むっ!)



俺はあいつがいるであろう場所へと急いだ。








鼻につくどくとくな油の匂い。



俺は思い切り目の前に揺れるのれんをあげた。











「ナルト!!いるか!!!」






ブッ





カウンター席でお目当てのそいつはラーメンを噴出した。



「シ、シカマル??お前、いつ退院したんだってばよ?」


事の成り行きを知らねぇナルトは目を白黒させて俺を見上げた。



「今はそんなめんどくせぇこと話してる暇ねぇんだよ!!とにかくお前はキバと合流して
 を探してくれ!!」



「は?を?え?何?なんなんだってばよ?」



「あいつが勝手に監禁場所からいなくなったっ!!時間がねぇんだ!!!いいな!!」



それだけ言い残して、俺はまたダッシュしようとした。
でも、ナルトにグッと手をつかまれる。



「シカマル。お前。やっと気づいたんだな」


「ナルト・・・・」



ナルトは真剣な目をした。
あの時、サスケの家の前で、諦めようとした俺を引きとめようと必死になってくれた
あの時と同じ深く澄んだ青い瞳。



「・・・・・あぁ。随分遠回りしちまったけどな。」


(お前にも心配かけたな・・・ナルト)


俺は へへ と笑う。
それでもナルトはそんな俺に真剣な顔で言った。



「シカマル。お前ならきっと・・・を救えるってばよっ」


「あぁ・・・・ありがとな・・・・」



ナルトの青い瞳は全てを包み込むように深い。



いつだって、お前はそうだ。
お前はいつだって、俺達の・・・仲間の為に必死になってくれんだ。





「俺は、お前とを信じてるってばよ!!キバは俺が探しとく!!お前は
 をぜってぇ見つけ出せよ!!シカマル!!」


そう言ってナルトはニッと子供のように笑った。




「あぁ」




俺はナルトの笑顔に救われた気がした。
ぜってぇやれる。俺達はきっとうまくいくよ
俺は青い空を見あげながら、流れる雲に向かって走り出した。













繁華街にはの気配は感じられなかった。





「やっぱいねぇか・・・」









走りながら、俺は前にを連れていった河原へと走った。




俺と一緒にだんご食ったこと、お前覚えてるか?
夕方、帰り道。お前から俺の手を握り締めた。
あんとき、俺がどれだけお前を抱きしめたいと思ってたか・・・
好きだって気持ちが抑えられなくなりそうで、心臓がドキドキした。



サスケの家から俺を追って来た時のこと、お前覚えてるか?
お前をサスケに渡したくなんか無くて、でも、お前の心を取り戻す術もわからずに、
俺はお前を突き放した。
妹だって、初めてお前に嘘をついた。



あの河原は・・・本当は小せぇ頃からの俺達の遊び場だったんだぜ。


俺にとっちゃぁ思い出がいっぱい詰まった場所だ。



「行ってみるか!!」


確信がある訳じゃねぇ。
記憶の無いお前にとって、あの河原は俺との別れの場所でしかねぇのかもしれねぇ。

でも、少しの確立でも、お前を見つけだせるなら、俺はどんなに苦しくても、どこまでだって
走り続けてやるつもりだ。


それに、もしかしたら本当にお前がそこにいるんじゃねぇかとも思った。









「はぁはぁ・・・・」






目の前にキラキラと水面が見えてくる。
その周りの土手は青々とした草が生い茂っていた。




そこに 女の声がした。




俺はさっきよりスピードをあげて土手に近づく。
見覚えのある後ろすがた。



「・・・・・・いの!!」


「シカマル?!」



いのの金髪が陽にゆれてキラキラした。


気がつくと、まわりにはヒナタとサクラの姿もあった。



「あんたいつ意識が戻ったのよ??どうしてここにいるの??」



いのもナルトのように驚いた顔をして、いつも以上に早口で俺にまくしたてた。
その言葉を遮るように、俺はいのに言った。



「いの。聞いてくれ。時間がねぇんだ。」


に何かあったのね?」



最後まで言わなくても、いのは俺の言葉の半分ですべてを理解してくれる。
いのシカチョウの関係は年月だけじゃねぇ繋がりを俺に作ってくれた。


「あぁ・・・がいなくなった。」


「え?」

「ど、どうして?」


サクラとヒナタは驚いた声を出した。




「大丈夫!!の行きそうなところは私達で探すわ。チョウジにも応援を頼んどくっ
 シカマル行ってっ 今度こそあんたがあの子を助けてあげてっ!!」

いのは混乱している二人とは別に 的確に堂々とした態度で俺にそう言った。



「あぁ。いの・・・それから、サクラもヒナタも頼んだぜっ」

「あたし達に任せときなさいよ!!」


いのはポンと胸を叩いた。


俺はいのの凛とした顔に何故だかいつも安心する。
こいつがいるから絶対に大丈夫だ。そう確信できる強さをいのは持ってる。



「んじゃ後でなっ!」



俺はまたその場を後に背を向けて走りだす。



「シカマル!!行っけーーーーーーーっ!!」



キャーキャーといのがはしゃいで飛び跳ねながら叫んだ声が俺の耳に響いた。

 









なぁ・・・


俺達の仲間ってよ。本当バカばっかだよな。
自分より友達の為に必死になってよ。


けど、俺はあいつらが大好きだ。


俺もお前も一人じゃねぇ。


いつだって俺達の周りで、あいつらが支えてくれてる。
どんな迷路で迷ったって、必ず誰かが俺達の背中を推して、腕をひいてくれんだ。



だから、俺達は絶対大丈夫だ。



なぁ信じようぜ。


俺とお前は必ずまためぐり合う。
そしてもう一度俺達は抱きしめあうんだ。
そしたら今度こそ俺はお前を二度と離さねぇからよ・・・・・




だから・・・もう一度俺を信じてくれっ!!!
どこにも・・・行くなっ !!!












それから俺はどんだけ走っただろう・・・・・



時間だけが刻々と過ぎていく感覚に、俺の気持ちは焦りはじめた。



「くそっ 時間がねぇってのによぉ・・・」


走って走って。
俺は頭の中にいくつもの場所を思い浮かべた。
でも、どこにも これだ!と確信できる場所はねぇ。


お前は一体どこに行ったんだ?
















その時・・・・俺の頭にある光景が浮かんだ。












の記憶があった頃。
俺とには秘密の場所があった・・・・・・・・






< 里を見下ろす丘。一本の高い木。風に揺れる草花。>











『みーーーーけっ!!』


『あ?』


草むらに寝転んで、うとうとしはじめた俺の頭の辺りからヒョコリと顔を出す、
いたずらな笑顔。


『よくここにいるって分かったなお前・・・・』


俺はわざとぶっきらぼうに言った。


『今日は天気もいいし、河原にもいないってことは、シカマルは絶対ここにいるって思ったんだぁ〜』


は満足気な顔で、トスンと寝転んだ俺の隣に座る。
そこらじゅうに咲き乱れている花の甘い匂いがお前のとだぶって、なんか
照れちまって、俺は フンッ と顔をそらした。


『はぁーー やっぱりここは気持ちいいねvv』


は座ったまま うーーん と伸びをして、目を閉じた。


『ったく・・・お前が来たんじゃうるさくて寝れねぇよ・・・めんどくせぇ』


わざとそっけなく言ったのによ・・・はそんな俺の言葉なんざ気にも止めねぇで


『いいよ?シカマル寝てて?私、シカマルが起きるまで隣にいる』


優しく俺に笑いかけんだ。




やわらかいお前の髪が風になびいて、かきあげる仕草が綺麗だった。





分かってねぇなバカ。お前がそういう笑顔なんかすっから、俺はわけもなく
心臓が高鳴って、大人しく寝てるなんて出来なくなっちまうんだよっ





『いや・・・いい。』


よっこらしょと俺は腹筋を使って、起きあがって、座った。


『あははっ シカマルってばかわいい!!』


『あんだよっ』


『だって・・・ほら!!』


俺の頭には、寝っころがった時についた小さな花がくっついていた。


『んーーーっ でもこうするともっとかわいいかも//////』


は俺の結われた髪のあたりにその小さな花をつけ直した。


『やめろっての』

『えーーーっだってかわいいよ?』

『うるせぇ』


くすくすと笑う笑顔が、眼下に見渡す里よりもずっと空に近いこの場所から見える
青空の中に吸い込まれそうだ。






ぶわりとふく強い風




『きゃっ//////』



立て膝をしていたは思わずよろけて俺の肩にぶつかる。



『随分とひ弱な忍だなっ おい』


くくく


笑った俺にふくれた顔。



『ひどいっ これでも立派な忍びだよ!!』


『お前、痩せ過ぎなんだよ。もちっとちゃんと食って、体力つけろよ』


『やだ。太るもん・・・』


『ちったぁ肉ついてた方が色気あんのによぉ・・・・』


『えっ 本当?』


『まぁ・・・今よりはマシになんじゃねぇの・・・』


『ひどーーい!!シカマルのバカっ!!』


『やめろって』


ポカポカ殴るの反撃を止めようとぐっと腰を抱いたら、思った以上にか細くて、
その度に俺はお前を女だと意識して、勝手に心臓がドキドキする。



『いいから、座れっつうの。めんどくせぇ』



そんな俺の男としての感情を知られるのが怖くて、わざとにぶっきらぼうに言う。




『もう!シカマルが悪いんだよっ!!』


は渋々と俺の隣に座りなおした。




そのふくれっつらを見てホッとする。
まだお前は俺の本当の気持ちにちゃんと気づいてる訳じゃねぇ。


お前を一人の女として抱きてぇなんて感情が俺の心の奥底にあるなんて
・・・お前に気づかせたくねぇしよ。



そんな事を思って、内心ホッとしてる時に




『じゃあさぁ・・・・』



は、そんな俺の気持ちも知らないで、いつものように無邪気に俺に
触れてくんだよ。



『シカマル、膝抱っこして?』


『は?』


これにはさすがの俺も焦った。
しかもは、俺がまだ何も返事もしてねぇってのに、勝手にあぐらをかいた俺の
足の間に座りこんだ。



『な、何すんだお前は///////』


明らかに動揺している俺に気づかずに、はチラリと振り返って平然と言う。


『だって、子供の頃はよくこうしてくれたよ?』

『バカ!もう俺らガキじゃねぇだろ!!』

『いいじゃん。減るもんじゃなしっ! ケチだなーも−シカマルはー!!』

『そういう問題じゃねぇっつうの・・・・』



(いっそ押し倒してやろうか・・・このバカ)





はぁ・・・・・




深くため息をついた俺に


『ちょっとぐらいいいじゃない・・・シカマルの意地悪。だって風が強くて寒いんだもんっ』


はそんな俺の態度に怒ったのか、つんっと顔を前にむけて、小声で呟いた。


『こうしてると・・・背中があったかくて、安心するんだもんっ////////』





後ろから少しだけしか見えねぇけど、の頬が少しだけ赤い気がして、




『お前・・・自分からしといて何テレてんだよっ バカじゃね?』


くくく なんか笑えるよ。
お前といると本当飽きねぇな。



『テレてないよっ/////もうっ!!笑うな!!シカマルのバカ』



(うそつけっ!!さっきよりもっとお前の頬が赤くなったの丸見えだっつうの・・・)



そんなが、なんかすげぇかわいいなぁとか思った。




『まっ・・・この丘の上じゃ風も強ぇし・・・仕方ねぇか・・・』

『え?』


俺は座ったまま、後ろからの体に手をまわしてギュッと抱きしめる。


『シカマル?////////』


『あ?』


『ちょっと//////それはくっつきすぎじゃない?////////』


俺の胸にぴったりとくっついたの小さな背中から、の鼓動がやけに早くなって
伝わってくる。




それが俺にはたまらなく愛しかった。




本当は俺達、昔っからずっと両思いで、お互いにもっとそばに行きたくて・・・・
でも、近すぎる関係は気持ち以上に素直になれなくて・・・





(だから、めんどくせぇけど・・・・・こういうのもアリかもな・・・・)




その、くすぐってぇ関係が今の俺達にはちょうど心地いいんだろ。





『あのさ、シカマル。こういうのなんか照れるっていうか//////ここまでして
 くれなくても充分あったかいし・・・・』



動揺するをもっと強く抱きしめてみる。



『うるせぇな・・・ちょっと黙ってろって』


『だ、だってさ//////』


『俺も寒いっつうの。こうしてるとあったかいんだよっ』


『そ、そうなの?//////』


『そうなのっ』








それから俺達は お互いに くすり と笑った。




『ここから見える木の葉の里って綺麗だね。』


は俺の腕の中から、眼下に見える里を指差して静かに言う。



『だな。』

『あそこ・・・10班のみんなといつも行く甘栗甘が見えるよ。あそこはシカマルと一緒に
 お昼寝する河原でしょ?それからシカマルと一緒に修行した演習場でしょ?それから・・・』


『あぁ・・・・』





それから、は無言になった。



『それから・・・なんだよ?』



急に黙られると、なんか気になんだろ?






『ねぇシカマル?』

『・・・・?』







『私達って、いつでも一緒だったんだね。この里のすべてにシカマルとの思い出がある。
 私ね、シカマルが隣にいてくれて、すっごく幸せだよ・・・シカマル大好き//////』





『バ、バカ言ってんなっ///////』




俺はきっと真っ赤になってんだろ?




そうやって、お前はいつだって、まっすぐに俺に気持ちをぶつけてきた。
嘘のないまっさらな気持ちだけを・・・・






(俺もお前が好きだ・・・・)





結局俺は、一度もお前にそう言ってはやれなかった。




俺がこんなに不器用で、意気地のねぇ男じゃなかったら、
振り向いたお前の笑顔がこんなにも綺麗だと気づかないままだったら、



お前に素直に言えたのかもな・・・
そしたら俺はお前をもっと幸せにしてやれてたか?




いつも最後は後悔した。




(こんな俺といて、お前本当に幸せか?)




その疑問だけが俺の胸の奥にいつもくすぶって残ってた---------------------------------------

































目の前の風景が、現実へと変わる。





俺はあの場所へと走り続けていた。






「・・・。俺はまだなんも始めちゃいねぇんだよ。・・・お前に会って、気持ち伝えるまで・・・
 終われねぇだろうがっ・・・」







懐かしい思い出もすべて無くしちまったお前でも、それでも構わない。
今のお前のすべてを抱きしめて、・・・お前を取り戻したい・・・・





今度こそ、お前の幸せな笑顔を・・・・俺が守ってやるっ!!









俺は走った。









里を見下ろす丘。一本の高い木。風に揺れる草花。








「・・・・・・待ってろ・・・・・・」




その場所も火影岩から続く洞窟を抜けていける場所のひとつだ。

 
それは神がかりとしか言いようが無いほど、俺の心にズンと伝わる何かがあった。







(間違いねぇ。・・・お前はきっと・・・そこにいるっ!!!)

































シカマル君に会いたい。


たった一度。顔を見るだけでいいから。


この里を離れる前に、もう一度だけシカマル君に会いたかった。










少し強い風が私の伸びた黒髪を眼下に見える里に向けてなびかせた。







何も覚えてないくせに、私はここから見える里の光景がとても懐かしく、愛しく思えた。





何故だか導かれるように訪れたこの場所も、私にとって何かとても特別な場所だった気がする・・・・・

それでも・・・確信がもてるような記憶は何もない・・・





「行かなきゃ・・・・」





荷物は・・・何も無い。


でも、それでいいの。
私には初めから、記憶を無くしたあの日から何も無い。

大事な思い出も。愛する人のことも、私はきっとすべてをその日に無くしてしまった。
今の私はからっぽなんだ。



愛する人を傷つけて、救い出すことも出来なかった・・・私は本物の私のもう片方のからっぽの影



だから、荷物も思い出も何もいらない。

からっぽのまま、どこか遠くへ行こう・・・・・・




もう二度と、愛する人を傷つけたくない。



シカマル君が大好きだから・・・もう二度とあなたには会わないで行く。



最後の身勝手でまた火影様やみんなに迷惑かけるけど・・・でも許して欲しい。






さよなら・・・・みんな。
さよなら・・・・シカマル君。




「うぅ・・・・」


それでも涙が出て、視界がぼやけて、私はその場で両手で顔を覆った。




大好き。大好き。どこに行っても、たとえおばぁちゃんになって死ぬ時がきても、
私の心の中にいるのはシカマル君一人だけだよ?

私がこの里にいたってこと・・・・忘れないで・・・・シカマル君。




押し殺した声を我慢できなくて、私は声をあげて泣いた。




その声はこの場所の強い風がかき消してくれるはずだった・・・・・







「う、うわーーーんっ シカマル君、会いたい。会いたいよぉぉぉぉぉぉっ」






「バーカ。ここにいんだろうがっ」








え?











































洞窟を抜けて、今にも崩れそうな、石ころがゴロゴロとした道を登る。


こんな歩きずれぇ道。
俺とお前しか絶対に上ったりしねぇような場所だ。


でも、その道を抜けた先は小さな丘になっていて、木の葉の里を一望できる。
花の咲き乱れた美しい丘だ。


俺ももその場所を気に入っていた。



お互いに決めた訳じゃねぇけど、俺ももこの場所のことだけは誰にも言わなかった。



だから、この丘で会う時だけは、いつも二人きり。


お前と俺だけの場所だった。












でも、記憶を失ったにこの場所を教えた事はねぇ。




それでも、俺は確信していた。



(お前なら、絶対、この場所を見つけだして、ここに来るはずだっ!!)



俺はお前を信じてる。


俺とお前と、二人だけの場所。



(俺がもし、この里を離れて行くことになるとしたら・・・・きっと最後に俺もここに来るだろう。)





だから、。お前もきっと!!!-------------------------------------











ぐっ




最後の岩の段差。
俺はひざをかけて、力をこめて、丘に一歩足をかける。




(・・・頼む!!に会わせてくれっ!!)



願をかけるように、俺はその丘へと立った。





「はぁはぁ」



ここまで走り続けたままで、この急な道をのぼりつめた俺は息をきらしていた。




でも。



顔をあげて、丘を見渡した俺は・・・・・・一瞬息を呑んだ。















風にちぎられた花びら渦まく中に、俺を見つけたんだ--------------------------















「やっぱ・・・・お前はなんも変わってねぇ・・・」





すらりとした細身の後ろ姿と、風に揺れるやわらかい髪。

俺はゆっくりと、まだ俺に気づかずに立ち尽くしている頼りない小さなその背中に向かって歩き出す。







近づくにつれて感じる、愛しいお前の気配に、
俺の心臓は、今すぐお前を抱きしめたくて、ドキドキと高鳴っていた。



(このままいきなり後ろから抱いちまおうか・・・)



そう思った。



でも、







の体が小さく震えているのに気づく。







「・・・・?・・・・」





その瞬間、は里を見下ろしながら、大きな声で叫んだ。








「う、うわーーーんっ シカマル君、会いたい。会いたいよぉぉぉぉぉぉっ」








へ?






思わずその場で立ち止まった。
俺との別れを決めて、この里を離れるつもりだったんだろ?お前。



なのに、目の先にいるはまるで子供のように、俺を呼んで泣いている。





「はぁ・・・・」



小さくため息が出た。




(本当・・・アホなやつだな。・・・けどよ・・・やっぱ俺はそんなお前が
  すげぇ愛しいよ)





---------愛してる -----------












「バーカ。ここにいんだろうがっ」








俺は精一杯普通を装って、叫んだ。







































(嘘・・・でしょ?シカマル君?)




私は思わず後ろを振り返る。





「本当、昔っから俺を振り回すのだけは得意だよな お前。」




たくさんの花が咲き乱れたこの丘の上に、背の高いシカマル君が立っていて、
シカマル君の声が、距離のある私の耳までとどく。



「どう・・・して?なんでシカマル君が・・・怪我は?」


この場にいるはずのない愛しい彼の姿に私は動揺した。




「お前まで幽霊見たみてぇな顔すんなよ。心配すんなっ 今朝、退院してきた」


「え?」


「まぁ勝手に退院しちまったんだけどよ」


シカマル君はまるでいたずらな子供のように へっ と笑った。





その笑顔に体が震えた。




少し離れたところで私に笑いかけてくれているのは・・・本当に本当にシカマル君なの?
まだ信じられなくて・・・・









・・・これで本当にさよならだっ』








あの時の冷たいシカマル君の声がまだ耳に響いてる。



足元の草花から花びらがちぎれてシカマル君の体を吹き抜けて、頭上に結われた髪が
なびいている。






「嘘・・・嘘だ。だってシカマル君は私のことなんか・・・」





目の先にいるシカマル君の姿が本物だと分かれば分かるほど、私の心はザワザワと揺れて、
混乱した。






(だって・・・どうして?シカマル君。どうして私を追ってくるの?)





私はどうしていいのか分からずに、立ち尽くしたままだった。





「んじゃ、俺が本物かどうか試してみっか?」




「え?」




その場で一歩も動けない私のところに、
シカマル君が目の前の草を一歩一歩ゆっくりと踏みしめて歩いてくる。





「やだ。来ないでっ シカマル君」



シカマル君の足が踏む草の音が耳に届くたびに、シカマル君を感じて、
私、壊れそうだよ。


だって、シカマル君が私の側に近づくたびに、あの懐かしいシカマル君の匂いがする。
結われた髪が揺れるたびにドキドキする。



私は今だって、頭の先から足先まで全部、シカマル君が大好きだから。



その手に、体に、ギュッと抱きしめられたら、また私はシカマル君の側にいたいと思っちゃう。








---------だけど分かってる。------------




最後はいつだって、私はあなたを傷つけてしまうのっ!!!











(だから、もう・・・来ないでっ!!)








「それ以上側に来たら、この崖から飛び出しちゃうからっ!!!」



・・・」


シカマル君の足が一瞬止まる。




「それ以上近くに来られたら、私バカだから、また勘違いしちゃう。」




目をギュッと閉じた。
これ以上近くでシカマル君の姿を見たら、私はもうどこにも行けなくなる。
愛しいその大きな手で触れられたら私・・・





「・・・私またシカマル君を傷つけちゃいそうで怖いの・・・」


「構わねぇよっ お前になら、どんなに傷つけられたっていいっ」




シカマル君の草を踏む音はどんどんと私に近づいてくる。



(なんで?なんでそんな事言うの?)



もうどうしていいか分からないよっ!!






「来ないでっ!!!」





後ずさりしたら、高い丘の端に近づいて・・・
崖から ころん と小さな小石が、はるか下の里へと落ちていく。





・・・俺だって同じだ。今お前に触れたら、俺はまたあん時みてぇに、どうしようもなく
 お前を傷つけるかもしんねぇ。」




あの時・・・・





記憶をたどるように、ドクンッと私の心臓が音をたてた。





シカマル君につけられた胸の上の痣・・・・・


力づくで私を奪おうとしたシカマル君の男の人の顔。




でも、結局あなたは私を最後まで守った。
そして、私の為に危険な任務に出た・・・・・・









目をあけて、さっきよりずっと近くにいるシカマル君を見る。




真剣な目はどことなく寂しそうで、不安そうで、そんなシカマル君を見たら、たまらなく
愛しく感じる。




「シカマル君・・・私・・・」




本当はね?ずっとずっと記憶なんか無くたって、あなたの為なら命すらいらないって思えるほど
あなたが好きなの。このままずっと一緒にいたいの。


そう言ってしまいそうになる。




・・・」


「お願い、もう来ないでっ!!」




そのとき、ブワッと風が空へとあがって、足元の花が舞い上がる。

花びらがヒラヒラと私達を包んで・・・・



・・・こっち来い。」








シカマル君は、ゆっくりと私の方に手を伸ばす。
穏やかな日差しに花びらがキラキラと輝いて、まるで、夢の中にいるみたいだった。


私の目の前に、愛しいその大きな手が・・・私を何度も引き寄せてくれた大きな手がある。


それでも私は躊躇した。


その手を掴みたい!!でも、ここで掴んだら、私達はまた傷つけ合って・・・そしてまた悲しい別れを
繰り返さなきゃならなくなるんじゃないかって・・・・そう思うだけで、怖かった。








「わ、私・・・・・」







それでも意識とは別に私の手はシカマル君の手を掴もうとするから、私は自分の手をギュっと自分の胸元に
押し付けて、体に力を入れた。


(ダメ・・・これ以上シカマル君に近づけないよ・・・もうシカマル君との辛い別れを繰り返すのは嫌だ・・・)









・・・俺は・・・」





シカマル君は私に手を伸ばしたまま、すごく不安げな顔で何かを言おうとした・・・・




「俺は・・・お前を・・・・・」









・・・・・・え?何?・・・・・

































目の前にがいる。



が俺を拒むように、体を硬直させて、その丘の崖の近くでおびえたように立ってる。




そうだよな・・・・俺がお前をどんだけ傷つけたか・・・・痛いほど分かる。




けど、俺はもうこの気持ちを誤魔化すことだけはしたくねぇ。





・・・」


「来ないでっ!!」




今にも本当にその崖から飛び出してしまいそうな、小さなの体。









・・・こっち来い。」








俺が伸ばした手をじっと見詰めたまま、はとまどっていた。
何かを言おうとして、涙目で俺を見上げていた。


「わ、私・・・・・」


ここでお前が俺に本当のさよならを告げるつもりだったとしても、本気で俺から離れたいと
思っていたとしても、それでも、俺は今まで言えなかった本当の気持ちだけを、まっすぐにお前に
伝える・・・そのつもりだった。




・・・俺は・・・」




抱きしめておいて、くだらねぇ嫉妬でお前を突き放して、俺は本当に最低だっ!!
それでも、こんな俺でも、もうめんどくせぇなんて言わねぇからっ




「俺は・・・お前を・・・・・」




お前に俺の本当の気持ちを-----------------------------------































シカマル君は私に何か言おうとしている。

真剣な瞳に釘付けになる。





(何?今さら、シカマル君は私に何を言おうとしてるの?)




心臓がドキドキする。













その時---------------------------------------------------------














!!シカマル!お前ら!何やってんだよっ!!!」









「え?・・・・」



「あ?」









シカマル君は後ろから聞こえる大きな声にとっさに振り返った。
私も突然の出来事にシカマル君の後ろから駆け出してくるその人を見る。







「キバ!!!」






息を切らせて、キバ君は私達のところへすごい速さで
やってきた。






「キバ?お前、なんでここが・・・・・」



言葉を詰まらせたシカマル君を尻目に、



「ふんっ 俺の鼻をなめんなよ!!!
 けどよ、実際お前の匂いをたどってここまで来るまで半信半疑だったぜ。まさかこんなとこに
 こんな場所があったなんてよっ」




キバ君は はぁはぁ と肩で息をした。





「それより・・・お前ら何やってんだよ!!崖っぷちで心中でもするつもりか?
 早くを捕まえちまえよっ バカ!!!」



キバ君は、ものすごい形相で、いきなりシカマル君の胸倉を掴んで、怒鳴った。




「し、心中だぁ?・・・・・・バカはお前だキバ。俺達はただ・・・・」




シカマル君の言葉を遮って、キバ君は怒鳴った。




「なんでお前らっていっつもそうなんだ??お互いに想いあってんじゃねぇのかよっ!!」


「いや・・だから・・・落ち着けっ キバ!!」



シカマル君はキバ君の腕をふりほどいた。



ゲホゲホっ と咳き込むシカマル君。



「こんなこったろうと思ってたぜっ・・・もうお前らだけに任せてなんておけねぇんだよ。 
  だから、俺たちで勝手に決めさせてもらったぜっ」



キバ君は ふんっと鼻を鳴らす。




「げほ・・・あ?・・・何・・・を?」



咳きこんで、前かがみになっているシカマル君は、眉間にシワを寄せながら、キバ君を見上げた。




「シカマル。もうお前は黙ってろっ!!」


「ゲホっ ゲホっ」


咳き込むシカマル君をしりめに、キバ君はギロリと私を振り返った。




その目つきがあまりに怖くて、次に何を言われるのかもよく分からなくて、私は体を硬直させて、
その場で立ち尽くしていた。





。お前、シカマルに内緒で里を抜けようとしてたんだろ?それは、もうシカマルには
 未練はねぇってことか??」



「え? そ、それは・・・・」


あまりに突然の出来事で・・・



(違う。未練なんてタラタラだよ。でも、この状況でいったい私はどう答えたらいいの?・・・)



強引なキバ君の言葉に動揺して、私は思うように言葉も出せなくて・・・



「だったら・・・・こいつが他の女のものになっても、お前にゃ関係ねぇよな?」



シカマル君の肩をギュッとつかんで、キバ君は私をギロリと睨んだ。



「え?」


「お、お前いきなり何言いだすんだよっ めんどくせぇっ!」


シカマル君も訳が分からないって顔で・・・














「うるせぇ!!もうこうするっきゃねんだよ! いいぜっ!赤丸!連れてこいっ!!」




きゃんきゃんっ





(え?)




何がなんだか分からなくて・・・




私は赤丸君の声のする方をじっと見ていた。



すると遠くから、赤丸君の声とともに、見たことのない金髪の女の子が走り寄ってきた。












「シカマルーーーーーーーーー!!!」


女の子は親しげにシカマル君を呼びながら、走りよってくる。
そして、まるでずっと待ちわびていた彼氏を迎えるかのように、シカマル君に抱きついた。








「え?」



私は呆然とその光景を見ていた。



「お、おいっ や、やめろっ!!」


シカマル君は動揺してたけど、その女の子はお構いなしに、シカマル君の首下に腕をまわして、
耳元で何かをささやいている。





(え?何?何なの?この子は・・・いったい誰?)





動揺している私をちらりと見る女の子の目が挑発的で、なんか胸のあたりがモヤモヤする。






心臓がバクバクと不ぞろいに音をたてた。




(こんなの嫌だっ)



そりゃ、私はシカマル君とのさよならを決めて、里を抜けるつもりだったよ・・・・
私を追って来て、手を差し伸べてくれたシカマル君のことも拒絶した。


もしこのままシカマル君と別れて、私は一人里を抜けてしまったら、
シカマル君に恋人ができたって当たり前だし、仕方ないことだけど・・・・






だけど・・・・







「べーーーーっ」





金髪の女の子はシカマル君に抱きついたまま、シカマル君の肩越しに私に舌を出した。






まるで、もうシカマル君は自分のものよ! とでも言いたげな彼女の態度に内心ムカムカした!









「ちょ、ちょっと待ってっ!」






私はとっさに叫んでしまった。









「なんだよ?シカマルを残して木の葉を出ようとしてるお前には、関係ねぇって話しだろ?」







キバ君が意地悪な目で私を振り返った。





「もう好きじゃねんだろ?はっきり言えよ 。」



私を問い詰めるようなキバ君の言葉。
心臓がドキドキする。



(好きじゃないなんてっ そんな訳ないじゃない!!)








「そうよ!!シカマルはもう私のものなんだからね!!あんたなんかより私の方がずっとシカマルを
 愛してるんだからーーーー!!」






女の子は唇を尖らせて、抱きついたままシカマル君に顔を近づけた。





「バカ!よせっ!!」



シカマル君は抵抗しようとしてたけど、女の子は強引に顔を近づけた。













「やめてよぉぉ!!!」














もうその時の私は無我夢中で・・・・だって、嫌だったんだもんっ!!
シカマル君と他の女の子がキスするなんて、絶対嫌だったのっ!!



だから・・・・




















「シカマル君から離れてよ!!あんたなんかより私の方がずっとずっとシカマル君のことが好き
 なんだからね!!!記憶なんか無くったって、私の心の中はずっとシカマル君でいっぱいで・・・
 私の方がずっとシカマル君のこと愛してるもんっ!!!私はシカマル君が誰より好きだもんっ!!!」














さっきまでシカマル君を拒んでいたことも、素直な気持ちを言えなかった自分も、
全部・・・粉々になって・・・・



私は奥底にしまいこむはずの本当の気持ちを叫びながら、シカマル君に抱きついていた・・・・・・・・



「やだっ やだよっ シカマル君!!私、シカマル君が好き。ずっと一緒にいたいよっ」



ふあぁーーん




頭が混乱して、まるで子供みたいに私は泣いた。

























「バカ/////////気づけよ/////////」








「へ?」









シカマル君の首元に抱きついたまま、顔を見上げたら、シカマル君は真っ赤な顔で、
はぁーーーっとため息をついた。












「さっきのお前の言葉・・・あれは本当か?」


さっきまでシカマル君に抱きついていた金髪の女の子は、いつの間にかシカマル君から離れて、
隣で私を試すかのように、じっと私の目を見つめたままそう聞いた。






「ほ、本当・・・だもんっ・・・」





私も女の子の顔をじっと見つめた。
どこかで見覚えのあるような吸い込まれそうなほどの綺麗な青い瞳を・・・・・・・















その途端--------------------------------------------------------------





ボンッ







煙が目の前に舞って・・・・








「やったなシカマル!!」

「へ?」








呆然としている私の目の前に現れたのは、さっきの女の子と同じ目をした
ナルト君だった。





「え?え?ナルト・・・・君?」








気がつけば、まだ訳がわからずボーーっとしている私とシカマル君のまわりに たくさんの人だかり・・・







「ひゃっほーーーーっ!!!やっと認めやがったかっ このアホカップル!!!」

きゃんきゃんっ


ニシシと笑う笑顔。

(キバ君?赤丸君?)





「よく言ったわねぇーー !!!」


腕を組みながら顔を覗き込まれる

(サクラ・・・ちゃん)






「まったく・・・世話のかかるやつらだ」

ため息交じりの言葉


(シノ君・・・)








「お。おめでとう//////ちゃん。やっと・・き、気持ちが通じたね/////」


はにかんだ笑顔。


(ヒナタちゃん・・・・)






「やったね!!シカマル!!!とうとうを掴まえたじゃんっ!!」


ぐりぐりのほっぺたをまん丸にして笑う


(チョウジ君・・・・)







「おかえり・・・・それでこそ、私の親友のだわ」


しゃがみこんで、私を優しい瞳でみつめる



(いのちゃん・・・・)















「み、みんな・・・どう・・して?」


シカマル君に抱きついたままの状態だってことも忘れて、私は皆の顔をひとりひとり見上げた。




















「みんなで決めたんだってばよっ」




「え?」












「いつも冷静で無頓着なシカマルが必死でお前を探してる姿みてさ・・・・・
 俺たちで絶対お前らを幸せにしてやろうって決めたんだってばよ・・・
 もう二度と、お前らが離れられないようにな・・・・」






ナルト君の声はまるでこの丘の風のように優しかった。






(私達の為に・・・・・?)






「みんな・・・・」





私はシカマル君に抱きついたまま、私たちを囲むように見下ろしている
みんなの優しい笑顔を順々に見つめていた。




私達のために、みんな必死になって、私とシカマル君の居場所を探して、こんな
お膳立てまでしてくれて・・・・
私達の為に全部やってくれたの??・・・・・



胸の奥がジンとして、言葉が見つからなかった。








「ったく。下手な演出しやがって・・・・お前らなぁ//////」


口は悪くても、シカマル君が照れてることも、みんな分かってるみたい。




「っつうか、いつまで大事に抱きしめてんだってばよっ シカマル!!」


ナルト君が ニシシ と笑う。






「そりゃ、やっとを掴まえたんだもんなぁ。放せねぇよなぁ。俺達に遠慮せず
 キスぐらいしちまえば? なぁシカマルよぉ?」

キバ君も ニシシ と笑う。







「へ?/////」


いまさら、私をギュッと抱きとめてくれていたシカマル君の手に気づく。


「バ//////バーカ/////誰がするかっつうのっ」



 

シカマル君はとっさに私にまわした手をほどいて、真っ赤な顔で ふんっ と顔をそらした。





「照れるなってばよっ!!この幸せ者!!」


ナルト君が笑う。


「そうよ!!あんたたちは私たちが認めた最高のカップルなんだから!!」


いのちゃんも笑う。








「良かったね!!シカマル!!」

「今度こそシカマルに絶対幸せにしてもらいなよ!!!!」







『もう絶対、離れるなよ!!』





みんなの声がはもって・・・・






「これは私達からのプレゼントよvv」





いのちゃんが掛け声をかける--------------------







せーーーーーーーーーーーーーーのーーーーーーーーーーーーー










ソレッ!!!
























私たちの頭の上に、それぞれ女の子が摘んだ色とりどりの花が舞って、丘の風にゆられ、花びらが
祝福の花束のように飛んだ。




「綺麗・・・・・」



思わず呟いた私。
みんなが笑い合う中で、ふと目があったのはやっぱりシカマル君で・・・
シカマル君はすっごく優しい目をしてて・・・

それはすっごく幸せな気持ちで私達は思わず笑い合った。






(あぁ・・・もうこれで私達は絶対に離れることは無いんだ。
     私の隣にはシカマル君が・・・そしてこんな素敵な仲間がいつも一緒にいてくれる・・・・)







青空に舞う花びらが私の目の中にいつまでも焼きついた。





































「本当バカじゃねぇのお前・・・・だまされっかよ普通。」


「だって//////知らなかったんだもんっ ナルト君が女の子に変化できちゃうなんて・・・」


「だからって・・・ありえねぇっつうの/////」





帰り道。


私の隣でシカマル君はしかめっつら・・・でも、本当は照れて真っ赤になった頬を隠すように、
顔をそむけて歩いてる。




「でもさ、もし私があの時、飛び出して行かなかったら、シカマル君は変化したナルト君と
 本当にキスしちゃってたの?」



「あ?バカ!!するわけねぇだろっ」



「でも、かわいかったよ。ナルト君の女の子姿・・・してもいいかな?ってちょっとだけ
 思ったでしょ?」


シカマル君の顔をわざと前から覗き込んで、それは半分意地悪で聞いたの。





「しねぇよ!! ナルトとなんか!!!」


「じゃあ・・・誰とならするの?」




とっさに言って、失敗したと思った・・・・・だって・・・




「は?//////」


「あっ////////」




お互いに真っ赤になった。
だって・・・私はシカマル君にキスしてもらってるんだった・・・・
そんなの思い出したら・・・やっぱり恥ずかしくなった。




「お前ってよ・・・本当バカ/////」

「ご、ごめんなさい/////」





シカマル君と私の間には程よい間隔があいていて・・・お互いに腕をからませるには
なんだか少し恥ずかしくて、風が吹き抜ける距離では、なんだか切なくて・・・


時々ぶつかる腕の感触にドキドキしながら、歩いた。


(ねぇシカマル君、私今、すごく幸せだよ)






















「そういえば・・・さ・・・・・私、気になってることあるんだ・・・・」


「/////あ?なんだよ」




さっきの言葉でまだ動揺が抜けきれてねぇっつうのに、
は唐突にそう言った。



「さっきシカマル君は私になんて言おうとしたの?」


「な、なにって///////」





あんとき俺は必死で、今にも崖を飛び出しそうなお前を、この手で抱きしめたくて、
もう一度俺の手で引き寄せたくて、本気で俺の気持ちを伝えようとした・・・







・・・俺は・・・・』


『俺は・・・・お前を・・・』











「ねぇ・・・何?教えて?シカマル君」


は真剣な顔で俺を見てる。





「・・・・・知りてぇ?」


「うん!」


好奇心いっぱいで無邪気にはしゃぐを見て思った。



(もうお前をどこにもやらねぇ・・・お前はこれから先ずっと俺だけのものだ)



だから俺は今、めんどくせぇけど、お前にちゃんと伝えて、お前をちゃんとこの手で捕まえておくべきかもしんねぇな。



















「知りてぇなら・・・俺についてこいよ」

「え?ど、どこ行くの?」

「ん?・・・・俺達の初まりの場所だよ」

「初まり・・・の?」












シカマル君が私の手首をギュっと握る。








歩く歩幅はいつもより少し大きくて、でも、決して歩きづらい速さじゃなくて・・・
シカマル君も、そして私も、早くその場所に行きたくて、お互いに気持ちだけが早周りしてるみたい。




(これから、いったいどこに行くのかな?)




目にうつる景色。
でも、それは決して、見知らぬ風景では無かった。



いつもと同じ店。いつもと同じ木。・・・・



(私達の初めての場所ってどこなの?)



私はシカマル君に手を引かれながら、考えていた。
でも、



私の前を歩く大きな背中。頭の上で揺れる大雑把に結われた髪の先。
その全てが、シカマル君のすべてが私を掴まえてくれた・・・・

だから、

もうどこだっていい。シカマル君。あなたが一緒にいてくれるなら・・・私はどこだってついて
行くよっ





「なぁ・・・


背中越しにシカマル君に声をかけられた。


「う、うん/////////」



「もう、記憶がどうとか、昔がどうとか・・・そういうの無しな。」




「え?」



それは頬にあたる風のように心地よい声で・・・




「俺達に一番大事なのは『今』なんだからよ・・・」



シカマル君は振り向かずにそう言った。




「・・・・・うんっ!!!/////」





私達に一番大事なのは・・・『今』・・・
ねぇシカマル君。私でいいの?今ここにいる私が、そばにいていいの?




その言葉だけで、胸がいっぱいになった。


















「着いたぜ」

「へ?」





気がつくと、私達はシカマル君の家の前に立っていた。




「え?ここ?初まりの場所って・・・?え?」



わけが分からず、私があたふたしていると・・・・・・・



ガチャッ




シカマル君が勢いよく玄関の扉をあけた。








「ただいまっ!!」


それはシカマル君には似つかわしくないぐらいの大きな声で・・・








バタバタと玄関先に足音が響くと、中から、シカママとシカパパがあわてて出てきた。








「え?シカマル?あんた病院は?ちょっといつ退院したの?」


「お、おい??お前、いつ火影屋敷から帰ってきたんだ?」






二人が驚くのも無理はないよね。だって私達はお互いに誰にも相談もしないで、それぞれの場所を
抜け出してきたんだから。

私はシカママたちにどう言っていいか頭が混乱した。




「あぁーーーーめんどくせぇ。詳しい説明は後だ後!!」


シカマル君はへんと笑った。



「シカマル!!あんたまさかまた火影様にご迷惑かけるようなことを!!」


シカママの額に怒りマークが出ている。


でも、





「心配かけて悪かったよ・・・けど・・・・俺達帰って来たから。ちゃんと帰ってきたからよ」





シカマル君は私の手をひいて、シカママとシカパパの前に立たせた。




「あの/////迷惑かけました・・・でも、私、シカマル君と一緒に・・・かえってきました/////」



私はうつむいたまま、ボソボソとそう言った。
だって、どう言っていいのか分からなくて。

シカママやシカパパに思いっきり叱られる事も覚悟して、そう言ったの。




でも。





・・・シカマル・・・・」




怒っていたはずのシカママはその場で言葉を失って、立ち尽くしていた。
そんなシカママの肩をシカパパが ポンッ とやさしく叩く。




「おお。二人とも・・・お帰り。」



シカパパは ニッ と笑ってくれた。
それから・・・・




・・・シカマル・・・待ってたわ・・・本当お帰り・・・・」


シカママも ニッ と笑ってくれた。








『ただいま』








私とシカマル君の声がはもって、無意識に目があって、私もシカマル君もママもパパも



「くくく」

「あはは」


と 笑いあった。







 





扉を開けると、なんだか懐かしくて、ホッと安心する匂い。
シカマル君の部屋はいつだって、私を優しく抱きしめてくれるようにあたたかい。



「こっちこいよ 


シカマル君に手を引かれる。


「え?」



シカマル君は部屋の窓をガラリと開けた。




「俺達の初まりの場所・・・それが・・・・ここだ」







そこは、シカマル君の部屋から続く2階の縁側だった。




二人で窓をまたいで、板敷きの外へと出ていく。
そこには心地よい風が吹いていた。






「気持ちいい//////」




思わず私はつぶやいた。




でも、その場に立つと思い出す。
記憶の中で私がシカマル君に「絶対忘れないから」と言った、あの時の言葉を・・・・
そして、その事実の全てを忘れてしまったままの今の私を・・・・


この場所ははっきりと私の心の傷を浮き彫りにしてしまうから・・・・


ついさっき、シカマル君に『今』が一番大事だって言ってもらったばかりなのに、私の胸はズキズキと
痛んで、私はうまく笑い返せなくて、きっとシカマル君にむけた笑顔は作りもののようにひきつっていただろう。





・・・座れよ・・・」



そんな私に気づかないフリをしたシカマル君はやさしい声でそう言う。



「う、うん」



でも、私にはその真意がよく分からなかった。





どうして?シカマル君。

どうしてここに私を連れてきたの?

私、何も思い出せないのにっ











シカマル君はそっと私の隣に腰をおろして座った。



空はうっすらと夕焼けにさしかかっていた。
雲が柔らかいあかに染まってる。





(ここが・・・私とシカマル君の初まりの場所・・・・)





やわらかい夕焼けをのせた風。
この場所はまるでシカマル君の部屋の延長のように私を優しく包み込んで
くれるように心地よい。






(でも・・・私、やっぱり何も思い出せないよ・・・・)






その時----------------------------






・・運命って信じるか?」





隣に座ったシカマル君はゆっくりとそう言った。




「え?」



シカマル君からの以外な言葉に私は言葉も思いつかなくて・・・



「柄じゃねぇからよ・・・俺も最初は運命なんてもん。信じるつもりも無かった」


「?」



シカマル君は夕焼けの空を見上げながら、フッと笑う。



「けどよ・・・お前といて・・・気づいたんだ・・・運命ってもんが存在するってことをよ・・・」


「・・・・・うん」


私にはまだシカマル君の言葉の意味がよく分からなくて・・・・




でも・・・





「俺達がこうして出会ったのは、偶然なんかじゃねぇ・・・必然だ」





私の顔を振り返ったシカマル君の目に私は釘付けになった。
真剣な目・・・心臓がドキドキする。





「なぁ。俺はどんなにお前と離れ離れになろうと、たとえこの命が尽きて、何度生まれ変わって、
 姿形が変わろうとも、絶対にお前を見つけてやるっ」




「シカマル君・・・・」



「たとえお前が生まれ変わって俺を忘れちまっても・・・それでも俺は必ずお前を見つけだして、
 それで必ずお前を好きになる。俺は・・・俺は何回だって、お前に恋するよ」








『何回だってシカマルに恋するよ』






(え?)






目の前のシカマル君の声と、頭に響く私の声が重なる。








なんで?どうして?・・・目の前の景色とだぶって、私には青空の中、シカマル君と向かい合う、
もう一人の自分が見えた。








--------------------体が・・・・熱い--------------------------






この感覚はなんなの?






気づくと、シカマル君の指先が優しく私の唇に触れていた。




「さっきの返事な・・・・」


「え?//////」


顔を近づけたシカマル君がゆっくりとした言葉で優しく言う。









「お前になら、何度だってしてぇと思ってっから・・・・」









分かんないっ


これは過去の記憶なの?ねぇこれは現実の今なの?
心臓が、体が震えて、熱くて、もう何も考えられないよ・・・・





でも、---------------------------------------





ひとつだけ、はっきりとした答えがある。





私だってシカマル君と同じ・・・
シカマル君となら何度だってしたいよ。
他の男の子じゃ絶対嫌。




もうこのままじゃいられないっ
だって、もう気持ちが溢れてくる。





ずっとずっと私は待ってたんだっ







「好き・・・シカマル君」

 『好き・・・シカマル』






それは過去の私と今の私がひとつに繋がって言った言葉だ。








「あぁ俺も好きだ 







その瞬間、シカマル君が私の腰を抱き寄せて、もうずっとそうしていたように、私達は
キスした。





そこが外だからとか、もうどうでもいいっ




シカマル君が好き。(シカマルが好き)
シカマル君と一緒にいたい(シカマルと一緒にいたい)


シカマル君!!大好きだよ(シカマル!!大好きだよ)








過去なんて関係ない・・・今の私が過去の私は取り込んで、ひとつになっていく感覚。





そして、シカマル君が何度も何度も求めるキスは、そんな私の全てを受け入れていく。






それはまるで、こなごなに砕けた記憶のかけらが光とともにひとつになって、
私の体にもどっていくような、あたたかくてやさしい感覚。





あぁ・・・・私・・・・








----------------------------------------------------------------------------------


























あの時と同じだ。

息つく間もないぐらい、俺は何度も何度もにキスした。


お前が欲しい。
もうお前を絶対に誰にも渡さねぇ。


絡まる舌から、お前も俺を求めてるとちゃんと感じる。
好きって言葉が俺の体中に伝わってくる。




もうとまらねぇ。




何度も何度もの体をなぞって、痛いほどに俺の体に抱き寄せて、
このまま、俺の中にお前を溶かしてしまいたいほど・・・

俺はお前が欲しいよ・・・






はぁはぁ・・・・





それでも、お互いに苦しくなって、唇を離した瞬間。




「私・・・ずっと待ってた」

?・・・・」




の潤んだ瞳が俺を捉える。






「やっと好きって言ってくれたね・・・・」





は少しはにかむように笑った。 






そうか・・・そうだよな。
過去のお前にも、今のお前にも、俺の気持ちをはっきりと言葉にしたのは初めてだ。



「あぁ・・・待たせて悪かったな・・・・」




俺はの頬をなでた。



はくすりと笑う。
俺はその柔らかな笑顔に今更ドキドキした。







「ねぇ・・・私、ちゃんと見つけ出せたよね」



「え?」



の意外な言葉に、はじめ意味が分からなかった。





でも-------------------










「言ったでしょ。私は何回でも恋するよって・・・あの時誓ったでしょ?」


・・・・?」


「あの時の言葉・・・ちゃんと覚えていてくれたんだね・・・シカマル」











・・・お前!!」















粉々に散らばっていた記憶の欠片が、今、俺達の中で、まるでパズルのピースのように、
何回も何回も繋がりあって、形を変えていく。


そして、今やっと大きな1枚の絵のように、過去も今も全てがひとつに繋がったんだ・・・・










(あぁ・・・。お前は本当に俺のもとに帰ってきてくれたんだな・・・)














「ただいま・・・帰ってくるの、遅くなってごめんね。」


がもう一度俺の首元にしがみつく。






「あぁ・・・ほんと、お前には振り回されっぱなしだよ・・・けど・・・もうどうだっていい。
 愛してるぜ、



「私も・・・愛してるよ シカマル///////」




「過去」も「今」も俺にはもう関係ねぇ。
お前が俺の隣にずっといてくれんなら・・・・お前がもう一度俺だけのものになるなら・・・

その全てが俺とお前の「未来」に繋がってんなら、もう他には何もいらねぇよ。







ギュっ と抱きしめたの体から、懐かしく愛しいお前の匂いがした。






「やっと掴まえたぜ」



「うん」







それから、もう一度キスして、抱きしめあって、

この夕焼けの空に抱かれて、俺達は今ひとつになる---------------------------






























「なぁ・・・・・お前に誓うぜ」

「うん////シカマル・・・私も誓うよ」




互いにコツンと額をつけて・・・・
それはまるで神にたてる誓いの言葉のように。














恋する気持ちは巡り巡って、いくつもの思い出を潜り抜けて、
そして、運命のメビウスの輪の中で、俺達はまた何回もめぐり合う。








そして、







どんなに離れ離れになろうと、たとえこの命が尽きて、何度生まれ変わって、
姿形が変わろうとも、絶対に見つけだすよ







それで必ず好きになる。 







俺は(私は)・・・何回だって、お前に(あなたに)恋をするよ----------------------

















                        完















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