アカデミーのガキ達はわいわいはしゃいで笹を奪い合うように願いを込めた
短冊をくくりつけていた。


ちょっと前の自分達を見ているようで、なんだかほほえましく思えた。


目の前でゆれる笹を見ていたら、なんだか昔の事を思い出しちまった・・・・









『なーイルカ先生!短冊に書いた願いって本当にかなうのかよ?』

『なんだ?キバ。お前がそんな事を聞くなんて以外だなぁ。そんなにかなえたい願いでもあるのか?』

イルカ先生はちょっと驚いたって顔をして俺を見た。

『まぁ・・・な・・・・』

俺は真っ赤になった。

『そーだなー。必ず叶うかどうかは分からんが・・・願いが叶いやすい場所
 ってのがあるっていうのは聞いたことがある・・・』

『かないやすい場所?』

『そう・・・そこに短冊を飾ると、誰よりも先に願いを叶えてもらえるそうだ・・・』

『それどこだよ!!』

『キバ・・・やけに真剣だな?』

『いいからっ もったいつけずに教えろよっ!!』

『笹の一番上だよ・・・・』

イルカ先生はにっこりと笑って、俺の頭をなでた。





懐かしい記憶・・・

それから俺は誰よりも一番高い場所に短冊をくくりつけた・・・・

その時の願いはなんだったんだ?
思い出せねぇな・・・・

もやもやとあの時の記憶の断片が俺の頭に浮かんでくる。

・・・あの時俺はすごく悩んでいて・・・・

そうだ・・・あの時も・・・・


『キバなんか大っ嫌い!に意地悪ばっかりするんだからっ』

俺はが好きだった・・・
でも、好きだから余計に構いたくなって、そんでちょっとからかってみたり、
ちょっかいばっかだしてを泣かせたりしてた・・・


その時も俺がを泣かせちまって・・・
いつもよりすっごくが怒って・・・・
俺もなかなか素直に謝れなくて・・・だから・・・それで必死の思いで・・・俺は
短冊に願いを託したんだ・・・



と仲直りしたい』



次の日、が俺の家をたずねてきた。

『キバ、1日遅れちゃったけど・・・誕生日おめでとう・・・これで仲直りしよう・・・』

真っ赤な顔でそれだけ言って、走っていくの後ろ姿を俺はドキドキしながら、嬉しくて、
いつまでもずっと見送った。

俺はひそかに笹の一番上に吊るした短冊の願いが本当に叶ったことに感謝した。

それから数年して、やっと本当の気持ちを伝えて、俺達は付き合うことに
なったんだよな・・・・



ぼんやりした記憶が俺にはとても懐かしく、大切なものに感じた。



すげー好きだった。
昔からずっと・・・・
が好きで、俺のものにしたくて、誰にも渡したくなくて、俺だけ見てほしくて・・・
俺はずっと変わらず、今もがすげー好きなんだよな・・・・


やっぱ謝ろう・・・こんなことで俺はと喧嘩したくねーし。
誕生日はお前をもらうことは出来なくても、一緒に過ごす事が出来たら、俺はもうそれだけで充分だ。















「お姉ちゃん、この短冊どこにつけたら願いが叶うのかなー?」

小さな男の子が私に話しかけてきた。

「一番上につけると、織姫と彦星がまっさきにお願いを読んでくれて、まっさきに叶えてくれるんだよ」

私は男の子の顔まで背をかがめて、内緒の話し と付け足して、そっと小声でそう言った。

「へぇ。んじゃ、俺一番上につけよーーっと」

男の子もわざと小さな声で私にそう言うと、いそいで駆け出していく。
純粋な子供の姿。



アカデミーで過ごした楽しかった日々がよみがえってくる。



私はよくキバにからかわれた。
意地悪もたくさんされた。
はじめのうちは、そんなキバが大っ嫌いだった。

でも、ある日、隣のクラスの男の子に、私が泣かされたとき、なぜかキバは
ものすごく怒って、その相手をボッコボコにやっつけてくれた。

を泣かすやつは俺が許さねーからなっ』

まだお互い小さくて背丈だって同じぐらいだったのに、その時見たキバの背中は
すっごく大きくて、男らしくて、かっこよかった。



その日から、私の気持ちは少し変化した。
キバにからかわれても、そんなキバを嫌いになれなかった。
そのうち、キバの笑い声やキバの笑顔が気になりだした。
キバが風邪で休んだ日はなんだか物足りなくて、さびしくて、会いたくてたまらなくなった。

たまに本気でひどい事を言われて、腹が立つこともあったけど、でも、だからって
本当に嫌いにはなれなかった。

ううん。嫌いになれなかったんじゃない。
私はもうその頃からずっとずっとキバが大好きだったんだよ。




キバと仲直りしたかった。
でも、キバは本当に怒ってる。
私がキバを拒絶したから?・・・・・・
思い立ったら即行動型のキバが今までずっと私を思って、大事にしてくれてたんだから、
やっぱり私は答えてあげるべきだったのかな?・・・・

でも・・・・・・

「赤丸・・・どうしたら、またキバと仲直りできるの?」

くーーん
赤丸もさびしそうに私を見る。

「私、またキバに面と向かって怖い顔をされたら、もう何も言えないよ・・・」

キバに嫌いって言われたら、別れるって言われたら、私、生きていけないよぉ・・・・・










「よぉーーーーーーーーーーーーーーーしっ それじゃー立てるぞっ」

イルカ先生の掛け声を筆頭に、一斉にみんなで大きな笹をたてる。


現役アカデミー生の笹と、私達卒業生の笹。


みんなの願いの短冊が色とりどりに結わえてある2本の大きな笹。

風がふいて、ザザザーーーー と音をたててゆれていた。




みんなで見上げる。


ちゃん・・・短・・冊・・・つけ・・た?」

ヒナタは少し頬を赤らめながら私を覗きこんだ。

「え?う、う・・・ん。」

「かなうと・・いい・・ね。 願い・・ご・と・・・」

「そう・・だね・・・・・」

青空に吸い込まれそうに、空へとつづく笹の木を、私は見つめていた。

本当は、私の短冊は何も書かれないまま、私のポケットにしまってある。
だって、今はキバの事が気になって、何を願っていいのかすら考えられないの・・・・

ふと気が付くと、すこし離れたところにキバがいるのが見えた。
キバも同じように笹をみあげていた。




私の心臓はドキドキと音をたてる。




「ヒナタ・・・私、先に帰るね・・・・・」

「え?うん・・・」

くーーん?
赤丸が私の腕の中で、心配そうに小さな声で鳴いた。

「大丈夫、私きっとキバと仲直りしてみせるから・・・・」

私は赤丸の頭をゆっくりとなでながら、その場をそっと離れた。


(もう、私に出来ることはアレしかないっ!!)












俺は辺りを見回した。

の姿を探す。

「あいつ・・・どこ行ったんだ?」

でも、なかなか見つからない。

笹をみあげる人だかりをかきわけるように、の姿を探した。
その時、ヒナタの姿が見えた。
俺はいそいでヒナタに駆け寄る。

「ヒナタ!どこいった?」

「あっ キ、キバ君。 ちゃんなら・・さっき、か、帰ったよ・・・」

「帰った?・・・・・・」

今すぐ仲直りしたかった・・・でも・・・・さっき俺がを怖がらせた。
だから、は俺に何も言わずに帰ったんだ・・・
・・・俺のこと・・・嫌いになっちまったのか?・・・・

俺はあの時、素直に謝れなかった自分を後悔した。

「なにやってんだ・・・・俺は・・・・」

自分のバカさ加減が悔しくて、自分に腹が立った。

俺はと別れたくねぇよ・・・・・・


ふと、俺の脳裏にたった一つだけ、仲直りできる方法が浮かんだ。



(もう、俺が出来ることはアレしかねぇ!!)














その夜、こっそりと家から抜け出す。

ひっそりと静まりかえった、誰もいないアカデミーへと忍び込む。
電気もついていない真っ暗な庭に、朝うめた笹が2本そびえたっていた。


「さぁ・・・準備は万端よ!しっかり持っていてねっ!」


私はおそるおそる、はしごに手をかける。


ギシギシと音をたてながら、ゆっくりゆっくりと上へ上へと上げっていく。



上の方にくると、風が地上より強く感じられて、はしごが揺れて怖いっ


どうしよう・・・足がすくんで・・・でも、諦めたらダメだよ!
頑張らなきゃっ!!!












俺はこっそりと忍びこんだアカデミーの庭に、なにやら2人の怪しい人影を目撃した。

「なんだ?泥棒か?」

気づかれないように、そっと近づいて、木の間から様子をうかがう。

「何、やってやがんだ?あいつら・・・・・」


大きな笹の木の近くに置かれた梯子。


一人はすでに笹のてっぺんまで登っていた。
下にいる男は梯子を支えているようだ・・・・・・・

その時、上にいた奴が下の男に声をかける。



その声に俺の体はビクリと硬直した。







「おっけーーー!大成功だよ!今おりるから、しっかり梯子を握っててね!!」

下の男はコクリコクリとうなずいている。







その声・・・まさか?いや・・・まさか違う・・・・だろ?・・・

暗がりでよく顔が見えない。
俺は目をこらして、その人物を見つめる。




・・・・・・・・!!・・・・・・・・・


!!」

間違いなんかじゃないっ!梯子から降りてきたのは、だ!
なんで?なんでがここにいんだよ!!
その男は誰なんだ!!!

俺は心臓がドキドキしてる・・・が俺以外の男と一緒に、しかもこんな夜に男といる
のが信じられなかった・・・・

目が釘付けになる。
その場から動けずに、呆然と立ち尽くす俺・・・・






はゆっくりと男に近づく。

「昨日は本当にごめんね。大好き・・・・だよ・・・・・・」

男はを抱き寄せた。
は自分からゆっくりと男の顔に自分の顔を近づけていく。








ちょ、ちょっと待て!!
キスする気か?

俺はとっさに叫んだ


「てめーーーーーーーーーっ!俺の女に何しやがるっ!!」


俺の俊足をなめんなよ!
キスなんかさせるかよ!!!


俺は一気に男の目の前にいき、胸倉を掴んだ!!






「ぶっ殺すぞテメー!!に手ぇ出しやがったら、どうなるか、今、分からせてやるぜっ!!」

その男の胸倉を締め付けて、殴りかかろうと顔をにらみつけた。




え?・・・・・




「お前・・・誰?・・・てか・・俺じゃねーかよ・・・・・」







「キ、キバ!//////なんでここにいるのよぉぉ!!」

は真っ赤な顔で、叫んだ。

「え?いや・・・・つうか・・・何なんだ一体・・・??」

目の前の事態が・・・飲みこめねーんだけど・・・・





ボンッ



キャンキャンッ
目の前に赤丸が現れた。


「赤丸!! これは一体・・・・」

呆然とする俺に、がモジモジしながら言った。

「短冊、つけに来たの」

「短冊?こんな夜中にか?」

「ち、違うの・・・キバと仲直りしたくて・・・だから、キバと仲直りできます様にって書いて・・・」

「書いて???」

 「短冊を笹の一番上につけたら願いが叶うって聞いたことあるからそれで・・・・」

「あぁ・・短冊を一番・・上に・・・な?・・なるほど。」

そこまではようやく理解できたぜ。

でもよ・・・・・


「それで・・なんで赤丸が俺に変化してんだよ・・・」

「キ、キバが・・その・・・私が欲しいって言うから・・だから・・・えっと・・・・」

「だから?」

はっきり言えよ・・・全然わかんねーんだよ・・・

からしてくれんのか?ってキバが言ったでしょ?」

「え?」

俺はそんな事言ったか?



あぁ・・・・昨日、俺がを押し倒して、思いっきり拒絶されて、俺がキレて、そんで
「だったらお前からしてくれんのかよ?」


確かにそう言ったかも・・・・


「んで?」

「本物のキバにいきなりするの恥ずかしいから・・・だから・・・・」

「あーーーーーーー。そういう事かよ・・・・」

なーるほどな。だから赤丸を俺に変化させて、練習してたっつうわけか・・・・






「キ、キバはなんでここにいんのよっ」

恥ずかしいのか顔を真っ赤にしたまま、少しふくれっつらでは俺に聞いた。

「実はよ・・・ほれ」

手にしたものをに見せる。

「短冊・・・?」

「一番上に付けに来たんだけどよ・・・なんか先客がいやがってよ・・・」

俺はチラリとを見た。

短冊にはもちろん





と仲直りしたい』





「キバ・・・・・・」
は嬉しそうに笑った。でもその目には涙がいっぱいたまってて・・・・


俺はたまらなくて・・・・


をギュッと抱きしめた。


「なぁ・・・・・練習の成果、見せてくれよ・・・・」
「で、でも、結局、練習できなかったもんっ・・・・」
は俺の腕の中で恥ずかしそうにうつむいている。

「大丈夫だって・・・からしてくれんなら、へたくそなキスでも俺、嬉しいからっ」

ニシシと笑うと、は真っ赤な顔で俺を見上げた。

「もうっ キバの意地悪・・・でも・・・大好きだよ」

「あぁ・・・俺もしか見えねーから」


ゆっくりと俺の頬にの小さなかわいい手があてられる。
緊張して振るえた指先が俺の頬の神経を余計に敏感にさせて、俺はすげー興奮してる。
すげー激しくキスしたい。
壊れるぐらいお前を抱きしめて、もう狂ったみてーにキスしたい・・・

でも、今はそんな想いを必死で我慢しての腰を抱いたまま、俺のために一生懸命になっている
を見つめていた。

はゆっくりと俺に顔を近づける。

唇の甘い香りが俺の理性をかき乱す。

でも、だめだ・・・まだダメだって・・・の気持ちを受け止めてやんなきゃいけねーだろ?

俺は自分にそう言い聞かせる。



の柔らかい唇が少し震えたまま、ゆっくりと俺のと重なった。

すげー愛しい・・・かわいい・・・・俺のためにありがとな・・・・・・






ゆっくり唇が離れた。


「誕生日おめでとう・・・キバ・・・・」

「あぁ・・・ありがと・・・・・・・」

ニコリと笑うの顔。
悪ぃが、俺の我慢もここまでだからな・・・・・





「つうわけで、誕生日プレゼントの続きももらっていいんだろ?」

をその場で押し倒す。

「え?ちょっとちょっと待ってよぉキバ!」

草むらに倒されて、はすごく焦ってる。
でも抵抗はしてない。
それって、やっぱオッケーってことだよな?


「待てねーな。からくれるプレゼントはキスだけじゃねーんだろ?」

「///////でも、こんな所じゃ見られちゃうよぉ」

「バーカ。こんな時間にこんなとこに来るやつなんていねーから安心しろよ」

俺はの首筋に顔を近づける。

「だめーーーー見られてるってばーーーーーーっ」

「は?誰にだよっ」

は真っ赤な顔で空を指さした。

「織姫と彦星に///////」



空を見上げたら、でっかい天の川が見えた。



俺は くくくく と笑った。
「大丈夫だって」

「え?」

「織姫と彦星は俺達なんか見ちゃいねーよ」

「な、なんで?」

「それどこじゃねーっつう話し。あいつらも今ごろ夢中でヤッてんだろ?」



は急激に真っ赤になる。



「んじゃ、そういう訳で、俺もいただきまーーーーーーーーーーすっ」

「キ、キバーーーーーーーー!!」









笹の葉が揺れて、空には天の川。

俺の誕生日は最高の日だぜ!




俺はみんなに教えてやりてーよ。
お前らも、やってみ?
笹の葉のてっぺんに短冊つけたら必ずその願いは叶うんだぜ?

俺とみてーになっ




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