今日は私の彼の誕生日!!

朝からケーキを焼いて、初めての作業にてんてこまい。
早起きしたはずなのに、時計の針はもうすでに約束の時間まで1時間!というところまできていた。


(大変!急がなきゃ!!・・・・)


そう思っていた矢先・・・・突然電話のベル。


(誰だろう・・・今いそがしいのにぃぃぃっ)


あわてて受話器をとる。


『もしもし?』







『いよぉ!っ!』





電話口でも元気なこの声・・・・

『キ、キバ?』

あわてて時計を見る。
約束の時間まで、まだあるよね???


『どうしたの?』

私はとまどいながら、返事を返す。


『どうもしねぇよ。 お前、今からすぐ来いっ!』

電話口で私の彼はまるで当たり前のようにそう言った。

『え?無理だよ。だってまだ用意出来てないもんっ!』

『あ?何の?』

『何って・・・えっと///////だから・・・・////////』

ケーキを焼いたのは一応秘密で・・・・

『なんだよっ 煮えきらねぇなっ!!俺に会いたくねぇのかよっ!!』

一方的なその言い方。
本当、勝手な人。


『そんな訳ないじゃない!!』


私が誰のために早起きまでして、こんな慣れないケーキつくりまでしてると思ってんのよ!!キバのバカ。


『お?何?。俺に今すぐ会いてぇのか? 仕方ねぇなぁ・・・・』


電話口から、ニシシと笑っているキバが想像できた。


『何それっ!言ってないしっ!!!』


私は電話だというのに、真っ赤になって即否定した。
だって、そういうの恥ずかしくって苦手//////


『分かった分かった!! いいからっ 早く来いって!じゃあなっ!待ってるぜっ !』


ガチャリッ




一方的に切られた電話。

『もう!!キバのバカ!!本当に自分勝手なんだから!!!』




ムカツキながらも、やっぱり声を聞いちゃうと、早く会いたくて・・・・




出来たてホヤホヤ!!ってケーキを無理やり箱詰めして、着慣れない買ったばかりの
ワンピースに袖を通して、あたふたと準備をしながら、私はキバの家にむかって走った。



(早く早く!キバに会いたい!!)



本当はね?
今日のこの日をすっごく楽しみにしていたの。
だって、私だって早くキバに会って、一緒に誕生日をお祝いしたいもの//////


だけど、どうしても素直に言葉が出でこないの。
私ってかわいくないっ









私とキバの家はご近所というには少し離れている。
忍びの私でも、走り続けたらちょうど息が切れてしまうぐらいの距離。
ケーキの箱が傾かないように、小さな箱をそっと抱きかかえながら私は走った。


あの家の角を曲がるとキバの家。


(あぁ・・・・もうすぐ会えるねvv キバ。)








キバの家の庭はすごく広くて、赤丸たちが毎日走り回れるようになってるんだよ。






『犬塚』の表札のかかった門をくぐったら、走ってきたのとは別に心臓がドキドキした・・・・
キバ、どんな顔してくれるかな?////////



とりあえずワンピースの裾をパンパンと軽く叩いて、みだしなみを整える。
それからケーキの箱を左手にきちんと持ち直して・・・・・・







キャンキャンッ







遠くで赤丸の声がする。




(やっぱり庭にいるんだvv)




私はいてもたってもいられなくなって、声のする方へと走って行った。










ざくざくと草を踏みつけると初夏の緑のツンとした匂いがする。
夏の匂いは、なぜかキバを連想させる。


あぁ・・・早く会いたいな////////


二人はどこにいるんだろう・・・・







「あっ」







そこには小さなゴムプールに入っておおはしゃぎの赤丸と、長いホースで赤丸に水をかけている
キバがいた。


水しぶきがあがって、キバと赤丸のまわりの空気がキラキラと輝いてみえた。


キバはまだ私が来たことには気づいてないみたい。





「よーし!赤丸!今度は綺麗に洗ってやるなっ!!」


片手に泡のいっぱいついたスポンジを握って、赤丸の体を優しく撫でるように洗うキバ。


キャンキャンッ!!


赤丸はそのたびに、くすぐったいのか、身をよじらせて鳴いた。


「暴れるなって!!冷てぇだろうがっ 赤丸!!」


キャンキャンッ!!


身震いした赤丸の体から弾かれた水滴がキバの体や顔にかかるたびに、キバはくすぐったそうに
笑っていた。




そんな時、キバはすっごく優しい顔をする。
だから、キバのそんな顔を見るたびに、私は少しだけ赤丸に嫉妬しちゃうのっ///////
こんなかわいいキバの顔を独り占めできちゃうのは、赤丸だけだよ?////////


「おらっ!ダメだって!ちゃんとしろよっ!もうすぐ、かわいいお客が来るんだからなっ!!」



片目をつぶってニシシと笑うキバの顔にドキドキした。




(かわいいお客って・・・もしかして私?なわけ?////////)




ドキドキしながらも、声をかけるタイミングがなかなか無くて・・・・
私は少し離れたところで立ち尽くしていた。




そしたら、キバの鼻がピクピクと動いた。




「ん?・・・・?・・・・・」




赤丸も鼻をくんくんさせている。



キャンキャンッ!!



2人とも私の匂いに気づいてくれたみたい//////////




キバは突然立ち上がる。



くるりと振り返って私を見つけてくれた。



「おう!!おっせぇぞっ!!」


少し怒った顔は冗談だってわかるから・・・そんなキバの顔にもドキドキ//////


キャンキャンッ!


プールの中で赤丸も嬉しそうに私の顔を見て鳴いてくれた。




「だって、準備途中だったのに、キバが突然呼ぶんだもんっ!!!」



キバに早く会いたかったから、走ってきたよ/////
なんてかわいい台詞を、言えたら、キバはきっと私を抱き上げて喜んでくれるんだろうな・・・・


「準備って何のだよ? 今日は俺の誕生日なんだからよぉ!今日ぐらい俺を優先しろよっ!!」


キバはちょっとムクれて言った。


「そうだね。一年に一度だけだからね!」

私はそそっとキバに近寄る。


「一年に一度だけしか、俺はお前に優先されねぇのかよっ!! うわっ キツッ!!」


だけど、キバはあははと笑った。


「ふーーんだっ」


私も笑った。






青空から太陽の光がふりそそいで、キバがまいた水が緑をキラキラさせる。






私ね、キバの笑顔が好き/////////







今日の私のワンピース。キバの為に買ったんだけど気づいてくれるかな?



風で少しヒラヒラ揺れる裾を気にしながら、私はキバと赤丸のところに小走りしていく。





っ////」




キバの手が私の腕を掴もうと目の前まで伸ばされて・・・・・
その大きくて頼もしい手の平が私に近づくと、いつもみたいにキバがギュッてしてくれると分かるから、
私の心臓は余計にドキドキした。



「キバ////////私・・・」



好きって言うつもりだったんだよ。
今は素直に言えそうだったの・・・・・

それなのにっ!!!






「キバお兄ちゃん!!」





突然、私の後ろからザザザッと音がして、目の前に小さな女の子の背中が見えた。


え?


あっけにとられた私が思わず立ち止まったから・・・・・




私に伸ばされたはずのキバの腕には、私より先にその小さな女の子がギュッと抱きついた。



は?



突然のことで目が点・・・・・


キバもはじめはキョトンとしていたけど、そのうち腕にくっついた女の子の顔を覗き込んだ。


「よぉ!お前も来たか!待ってたぜっ 黄丸も元気か?」


キバは私より先にその子を大事そうに抱き上げて、ニシシと笑った。


「うん!元気だよ!」


その子の言葉通り、また私の後ろから、赤丸より少し小さな子犬がキバの足元にむかって
走り寄ってきた。


キャンキャン!


その姿にプールの中の赤丸もおおはしゃぎ。



キャンキャンッ キャンキャンッ!!


二匹の犬は再会を喜び会うように吼えつづけて、黄丸という犬も我慢できずに赤丸と
一緒のプールへ飛び込んだ!




「キバ兄ちゃん!一緒に黄丸も洗ってよぉぉ」


キバに抱き上げられた女の子がキバの頬にくっついた。


「しょうがねぇっ お前に頼まれちゃなっ やってやるよ!」 

「わーい!キバお兄ちゃん大好き/////////」


ちゅっvv




え!!



唖然と立ち尽くしていた私。
でも、キバの頬にその子がキスしたのを見て、相手は子供だっていうのに、胸がギュッとした。
なんか・・・すっごくイヤ!!
キバは私の彼氏なのにっ!!




それに・・・・・あの子は一体誰なのよっ!!!???





握った拳がワナワナと震えた。





「はいはい。ったく、お前はマセガキだなぁ。そういう事はアカデミーの彼氏にしろよっ」

キバがキュッと女の子の鼻をつまむ。

「だってキバお兄ちゃんが一番好きだもんっ!!」



うっ!!


子供のくせに、告白ともとれる言葉をキバにはっきり言えるその子が憎らしかった。
私なんて、恥ずかしくて、いつもキバに『好き』ってなかなか言えないのに・・・・


「お?嬉しいこと言うじゃね?  そこの彼女もそういう事、素直に言ってくれたら、
 もっと かわいいんだけどなっ」


キバは何の悪気もなさそうに後ろでボーッと突っ立ていた私を覗き込んで、笑って言った。
何よ!
私よりその子の方がかわいいっての??


冗談だと分かっていても、なんかカチンときた。




「キバお兄ちゃん・・・誰・・・この人?」




その時、女の子が私を振り返って、ジロリと睨まれた。



(それはこっちのセリフだっつうの!!!)



「この姉ちゃんか?っつうんだ。お前、仲良くしろよ?」


キバは女の子の鼻の頭をツンとこづく。
女の子は眉間にしわを寄せた。



っ こいつ俺のいとこ。」


キバは私を見てそう言った。


「そ、そうなんだ・・・・・」



さっきキバが赤丸に 『かわいいお客が来るんだからなっ』って言ったのは、この子の事だったの?




なんかガッカリした。




それに・・・・・せっかくのキバの誕生日。
本当は2人だけで過ごしたかったのに・・・・キバがこの子を呼んだのかな。




キバがワイワイ大勢で騒ぐのが好きな事は知ってる。



だけど、今日は誕生日で特別な日じゃない。
それなのに、どうして、キバはこの子まで呼ぶの?




「はぁ」


ため息が出た。



「んだよっ 。 お前元気なくねぇか?」



キバは凹み気味の私に心配そうに声をかけてくれた。
私を気にかけてくれるのは嬉しかったんだけど・・・



な、なのに!!(怒)



「なぁんだ。この人、私よりおばさんじゃんっ」


女の子はフンッと私から顔を反らした。


(お、おばさん?誰がよっ!このガキーーーーーーっ!!)


内心ムカムカしながらも、そこはこの子より私の方が少し大人ですから!!
思いっきり作り笑いをして、とてもにこやかに答えてやった。



「はじめまして。仲良くしてねvv」



「あたし、この人嫌い。」



ガーーーーーーンッ




初対面でいきなり否定されたのは初めて・・・・・

け、結構凹む・・・・


「お前な。そういう事言うもんじゃねぇぞ!!この姉ちゃんはな、時々俺より強ぇんだからっ
 お前なんかすぐにぶっ飛ばされ・・・・・」


ボコッ!!


キバのセリフを途中まで聞いていたけど、最後まで聞く前に腹たって、思いっきりキバを殴った。


このお姉ちゃんは俺の彼女だとか、ちゃんとまともな紹介できないわけ!? あんたは!!!



「痛ってぇぇぇぇぇ!!!」


キバが頭を抱えると、さすがにその子はギョッとした顔で私を見上げた。


(ふんっ ザマーミロ!! 私をなめんなよぉぉ!)


ちょっと勝った気分vv







でも・・・・・







「やりやがったなっ! !! 仕返しだぁぁぁ!!!」




え?



その瞬間、ビシャリと音がして・・・・




「きゃーーーー!!何すんのよぉぉぉぉぉ!!!」



かわいいワンピースのまま・・・しかも手に手作りケーキの箱を握ったまま、
キバに頭からシャワーの水をかけられた。


「ガハハハハッ! 、ずぶ濡れ!!」



キバはお腹を抱えて大笑いした。


「ちょっと!いい加減にしなさいよ!キバーー!!」


頭くる!!
絶対許さないんだからっ!!

私がキバを追いかけると


「水がしたたって、いい女になってんじゃねぇの。 お前!!!」


余裕の顔でキバはまた笑い出した。


「何よっもう!!キバのバカ!!」



もう一発殴ってやろうと走り寄ったら、
プールからキャンキャンと赤丸たちの興奮した声がする。


「赤丸も私のこと応援してくれてるもんっ 絶対許さないんだからね!バカキバ!!」

「バーカ。赤丸は俺を応援してんだよっ!!お?まだやる気か?上等だ!!うけて立つぜ!」

キバはまだ冗談言って笑ってる。


「くやしぃぃ!!待てキバ!!」


「二度も殴られてたまるかよっ!!悔しかったら俺に追いつけよっ !!」



だけどそんなの無理。
知ってるでしょ?
キバはアカデミーでも足の速さはトップだったんだもんっ



「きゃっ」




ホースの水が地面の土をぬらしたから、足元がつるつるしてて・・・・・



キバにあとちょっとってところまで手を伸ばしたら、お尻から ドスンとしりもちをついた。


「痛っい」

「バーカ!!」


キバは笑って私に近づく。


何よ・・・キバのバカ。
せっかくのワンピースのお尻は泥だらけ・・・・
それに・・・・・


さっきから水をかけられたり、無理に走ったりしたから、左手に握りしめていたケーキの箱は変形していた。





(どうしよう・・・中のケーキ大丈夫かな?)




ムキになった自分を後悔。急に心配になってきた。
だってこのケーキは、今日のキバの誕生日の為のケーキで、キバへのプレゼントでもあるんだよ?
それに、朝早起きしてキバのために一生懸命作ったのにっ!!!



突然何も言わなくなった私を心配したのか、キバは私の前に屈んだ。



「大丈夫か?。」


顔を覗かれたけど、何も答えなかった。



「なぁ・・・・お前がもってるその怪しい箱はなんだ? つぶれてるぞ?中見せてみ?」



何も知らないキバは怪しいものでも見るような顔で 私の左手にある変形した箱をジッと見て、
箱の中をあけよう手を伸ばしてきた。



「いいの!!見ないで!! キバには関係ないっ!!」


ひったくるように箱を奪い取った。
だって、もしグッチャグチャになってたらイヤだもんっ 恥ずかしいもんっ!!
けど、その態度はやっぱりヒドイよね・・・・



「ったく、心配してやってんのにっ お前は本当かわいくねぇ」



キバは ふんっ と顔を逸らした。



なによっ なによっ さっきっから・・・・全然キバなんて私の気持ち分かってないじゃんっ!!



私もムクれたまま、下を見ていた。





キバが放り投げたホースから、ちょろちょろと水がたれて、地面をぬらしつづけてた。





気づいたら、私の服は全身泥まみれ。






「お兄ちゃん、そろそろお家に入ろうよーーーー」


さっきの女の子がキバの腕をひっぱった。


「あ?あぁ・・・」


罰が悪そうに、その子の顔を見て、キバは はぁ とため息をついた。


・・・お前も行こう。服洗ってけよ」



キバはまだ座りこんだままの私に手を伸ばす。
それでも私はなんか腹の虫がおさまらなくて、キバの手を無視して、何も言わずに一人で立ち上がった。


「ったく・・・・・・」


キバがまたため息をついたのが分かったけど、キバの顔も見なかった。



だって、悪いのはキバの方じゃないっ!!




「むこうで誕生日会しよーね お兄ちゃん」

「あぁ・・・・」


キバは女の子を抱えながら、前を歩く。


クーーン



キバの後ろを赤丸と黄丸が私を振り返りながら鳴いた。



心配してくれてるんだろうな・・・でも、私達はお互いに無言で歩き続けた。



それでも、キバは時々心配そうに私を振り返ってくれた・・・・
分かってるけど・・・・なんか今は笑えない・・・・


・・・・・・悪かった。ごめん。」


玄関前について、女の子を下ろすと、キバは私の頭を撫でた。
今日やっとはじめて、キバに触ってもらえた気がする。


キバの大きな手はいつもみたいにあったかい・・・・・



キャンキャンッ



仲直りしなよ! というように赤丸も足元で鳴いた。






でも・・・・・・





「いいよ・・・もう・・・・」


だけど私は作り笑いもできなくて・・・・



冗談ばかりではしゃいでばかりのキバだけど・・・本当は誰より優しくて・・・
そんなキバを好きになったんだし・・・仕方ない・・・

頭では割り切ってるんだけど・・・

今日は特別な日だから、だから・・・もっと大事にして欲しかった。
だからすごく悲しかったの。






部屋に通されたら、キバのお姉さんが出迎えてくれた。


「あら。いらっしゃい ちゃ・・・ん・・・て!ずぶ濡れじゃない!!どうしたの?」

「俺が・・・濡らした・・・」

キバは罰が悪そうにキバのお姉さんの前で頭を垂れた。

「バカ!!せっかく、ちゃんが来てくれたってのに!あんたって奴は! 本当にバカだね!!」

「分かってるっ・・・・・」

お姉さんの声にキバはますます萎縮して、大きな体がちぢんで見えた。

クーーン


赤丸まで反省しているかのように頭を垂れていた。


・・・後でちゃんと謝るから・・・とりあえずシャワーあびて来いよ・・・風邪ひく」



力なく振り返るキバの顔。
せっかくの誕生日なのに・・・キバにそんな顔をさせてしまう自分が本当は情けなくて、すごくイヤ。
私だって悪いのに・・・・


「うん・・・・」


素直に仲直りできない私。



お互いになんとなく気まづい雰囲気。


ちゃん・・・こっちいらっしゃい」


そのまま、キバのお姉さんにシャワー室に通される。


「かわいいワンピースも泥だらけね・・・洗っておくからゆっくりお風呂入っていきなさいね!」

「はい・・・・」









体も髪も洗ったら、少しだけ気持ちもスッキリしてきた。


(誕生日なのにキバと気まづくなるのは嫌。
  だから、お風呂から出たら、ちゃんとキバに笑ってあげよう・・・)





ワンピースの変わりに脱衣場に用意された服は、ダボダボのキバのTシャツ。
下のハーフパンツも私には大きすぎて、なんか中途半端なへんな感じ。



「はぁ・・・・・」


ため息をつく。



本当はかわいいワンピース姿をキバに見て欲しかったのに。



でも、仕方ないっ




私はそっとリビングに向かった。



リビングには、キバとさっきの女の子がすわっていた。
キバのお姉さんは私のワンピースを洗ってくれてるんだ・・・・・・。


ダボダボのTシャツ姿の私・・・・・
なんか色気も何も無い・・・・・


何も言えずに立ち尽くしていると、



・・・お前、俺の為にケーキ・・・作ってくれてたんだな・・・なのに俺・・・ごめんっ」


キバは私の顔を見るなりそう言って、すごく悲しそうな顔をした。



私を傷つけたって、キバは分かってくれたんだ。
それだけでも少し嬉しかった。




机の上を見ると、形のくずれた私の手作りケーキを入れた箱と、綺麗にラッピングされた高級そうな
お店で買ったようなケーキの箱が両方並べて置いてあった。



「え?・・・いいよっ 私のケーキなんて食べてもらわなくても//////」



だってそのケーキと並べられたら、あきらかに不味いだろうし・・・
箱があんなんじゃ、中身のケーキだって・・・・・きっとヒドイことにっ!!!
なんだか急に恥ずかしくなってきた。



「バカ。お前が俺の為に作ってくれたケーキだろ?俺が食うって!!」

キバは私の箱からケーキを取り出した。





やっぱり・・・・





形が崩れて、上の苺の一部が下に落っこってて、あんなにふわふわにできた
生クリームもデロッと下にタレていた。


「こ、これは・・・・ケーキ?」


キバの顔、ひきつってる・・・・


「キバ・・・・・あなた今なんて?」

「いや・・・何も・・・・・」


でも、そう言ったキバの気持ちも分からないでもない。
だって、私だって目の前のものがケーキだなんて、思いたくないものっ!!


「やっぱりいいよ・・・また今度作りなおして持ってくるから///////」

「いや・・・俺のせいで・・・こうなっちまったわけだし・・・・」

「で、でも、ほら。もともと私、料理作るの苦手だし!水かけられなくてもこんなかもよ?」


私はあははと笑った。
だって、誰が見ても、こんなの食べたいなんて思わないよね・・・・・・


「いやっ・・・お前、一生懸命作ってくれたんだろ?このケーキは俺が全部食うからよっ!!お前は気にすんなって。」


キバの言葉がすっごく嬉しかった。
今朝早起きをして、キバの喜ぶ顔を想像しながら一生懸命つくった事を思い出した。






「何これ!!汚い!!こんな料理ヘタな人がキバお兄ちゃんの彼女だなんてっ信じられない!!」





私のケーキにキバが口をつけようとした時、隣で女の子に叫ばれた。




いくら子供とはいえ、そのセリフにはグサリときたわよ・・・・・



「こ、こら!余計な事言ってんじゃねぇよ!お前は!」

キバは女の子の顔を覗き込んで、焦ってる。




「だってさ、この人、乱暴だし、素直じゃないし、料理もできないし・・・それに、キバお兄ちゃんはこの人
 のことあんまり好きじゃないみたい」



え?



最後のセリフはいくら私でもひっかかった。


「だって、キバお兄ちゃんはいつも私が来るとギュッて抱きしめてくれるのに、このお姉ちゃんにはしなかったもん!!
 本当はこの人のこと、好きじゃないんでしょ?キバお兄ちゃん!!」


何言ってんのよ!!
違うよ!さっきだってキバは私のこと抱きしめてくれようとして・・・
でもあんたが来たから・・・・


それに、せっかくのケーキがだめになったのも、私とキバが喧嘩したのも、全部あんたのせいよっ!!!



子供ごときに悔しくて・・・・・




「こんな人、別れちゃいなよ!キバお兄ちゃん!!」




その一言に私は完全にキレた・・・・・・・




「何よっ!キバは私のこと大好きなんだから!あなたよりずっと私の事が好きなんだからね!!」




思わず言い放ったら、悔しくて、バカみたいで、情けなくて、手が震えた。




!お前、子供相手になにマジになってんだよっバカ!」

「だって・・・・・・」





「ヒドイ!!うわーーーーーーーーん。キバお兄ちゃんは私が一番好きなんだもんっ!!わーーーーーーん」




女の子は叫ぶように泣き出して、キバの胸にしがみついた。


泣き落としは子供の特権。
まったく本当にズルイ女・・・・あんたって将来きっとロクな大人にならないわよ・・・・


でも、そんな子供にムキになって泣かせる私はもっと最低・・・・・




「お兄ちゃん!一番は私だよね?そうだよね?」

キバにしがみついて泣いている女の子をキバは困った顔で抱きしめながら、頭を撫でていた。


「・・・好きだよ。お前のこと・・・黄丸もな・・・・」


背中をさすりながら優しい言葉をかけるキバを見てたら、自分が情けなくなった。
私・・・何してるんだろう・・・





「帰る・・・・」







!ちょっと待てって!!」

キバが呼んだけど、今更、この場にいるのも嫌だし・・・私、本当にキバの彼女失格かも・・・・



それに、せっかくの誕生日に、いとこのこの女の子まで呼んじゃうなんて・・・キバは本当はそんなに私のことなんて
好きじゃないのかも・・・・

だって、少なくても私はキバと2人きりでお祝いしたかった。


それで、かわいいワンピースで女の子らしく、キバに「好き」って言いたかったのに。
ケーキだって早起きして初めて焼いたのに。

なのに・・・

なのに・・・







悔しくて、悲しくて、みっともなくて、辛くて、涙ばっかりあふれてきた。



もうヤダ。


あの子の言ったとおり、私はキバと別れた方が良いんだきっと!!
会えば、何かと喧嘩ばっかり。
どっちもすぐムキになるし、どっちも引かないタイプ。

だけど、最後に折れてくれるのはいつもキバ。


私はそんなキバに素直にごめんねも言えない、ヒネクレ者。




いつかきっとキバに嫌われちゃう。








逃げるように廊下を走った。







キャンキャンッ!!

赤丸の声が必死で私を呼んでいたけど、私は振り向かなかった。




もうヤダ。
キバに嫌われるぐらいなら、いっそこのまま別れた方が良いのかもしれない・・・・・・



でも・・・・・・




玄関であわてて靴をはこうとしたら、突然、後ろから体をがっしりと抱き掴まれた。



「俺はまだ帰っていいなんて言ってねぇぞっ」


私を追いかけてきたキバが呼吸をあらげて、私の耳元で低い声で言った。
怒ってる・・・・


「やだ帰るっ」


これ以上、惨めになるのはイヤ! もうキバの顔を見るのも辛い。


「帰さねぇっ」

「帰る!!帰る!キバのバカ!!!大ッ嫌い!!」







『大好き』って言いに来たのに、どうして私はいつもキバに素直に言えないの・・・・






「帰るなよっ!!っ」

「やだ。離してよっ キバのバカ!!」


こんな惨めな私をひきとめないで!!
もうヤダ。
キバはいつだって自分勝手・・・・・



「キバなんて大っ嫌い」


本当は『好き』って言いたかった。ちゃんと素直に言いたかった。
いつだってキバの事が大好きだったのにっ


「キバは誕生日祝ってもらえれば、相手は誰だって良かったんでしょ?私じゃなくたっていいんでしょ?」

「んなわけねぇだろ?何言ってんだよっお前!」

「じゃあ・・・なんで呼ぶの? いとこだからって・・・なんで2人きりじゃないの?」


わがままを言って泣きじゃくる私の方が、あの子よりずっと子供みたいで醜い。


「あいつの親が入院したんだ。家に一人なんだ。だから・・・・ごめんな。・・・」


それは、すごく正当な理由・・・・
キバが悪いわけじゃない・・・・
なのにキバは私を抱きしめながら、すっごく悲しそうな顔をした。
子供で、わがままで、イヤな子なのは私。


そして、それでも謝ることが出来ない私は最低な彼女。



「離して!!キバなんか大っ嫌い。」


言えない・・・どうしても、言えないよ・・・・キバのこと大好きなのにっ
別れたくなんかないのにっ!!


抱きしめるキバの腕の中でもがいて暴れて・・・・この場から逃げ出したかった。


だけど、キバは絶対に離してくれなかった。







「聞けよっ 

「やだっ」

抵抗する私を捕まえておくために力を入れてキバに握られた手首がジンジンする。









「俺は・・・が好きだっ は俺の一番だ。愛してる。」







私の首元に顔をギュッっとくっつけて、キバが途切れそうなほど小さな声で言った。



「だから・・・別れるなんて・・絶対に言うなよ・・・な? っ」



なんでそんな事言うの?
別れを言われるのは私の方でしょ?


・・・



なんでそんなに私の名前を愛しそうに呼ぶの?
あんなにヒドイ事ばかり言ったのに・・・



「誕生日・・・お前に祝ってほしいんだよ・・・・」













キバはどうしていつも私に正直に気持ちをぶつけてくるの?
どうして、こんなに私を好きになってくれるの?


・・・・」


優しい顔を近づけられたら、一瞬で私は黙ってしまった。


「帰さねぇっ・・・」


その瞬間、ギュッときつくキスされた。
恥ずかしいとか、そんな気持ちも忘れるほど、キバのキスにドキドキしてる。


気づいたら、抵抗することを忘れて、私はキバの服をギュッと掴んでいた。


「キ、キバ//////」


唇を離されて、真っ赤になった私を見て、キバは優しく笑った。


「そのまま、いい子にしとけよっ」




「えっ//////」





キバに ヒョイッ と抱きかかえられる。



「やだ!何!おろしてよ!キバ!」

「もう逃がさねぇよ」



キバはチラリと私を見た。
強くて、でも優しくて、キバは本当にかっこいい。


「俺の部屋・・行くか・・・」


キバは私の返事も聞かないで、私を抱えたまま廊下を歩き出した。


「やだ!やめてよ!!キバ!キバ!」

「暴れんなっ 落っこちるぜ?」


私がおびえたのがわかったら、キバは余裕の顔で ふふん と笑う。




もう二度と会いたくもなかった、あの女の子が座っているリビングを横切って、キバは私を抱えたまま
どんどん奥の自分の部屋に歩いて行く。


女の子がジッとその様子を見ている顔が見えた。



すごく恥ずかしかった。
さっきの子供じみた自分の態度を思い出して、やっぱり帰りたいと思った。
きっとあの子も軽蔑してる。

だって悪いのはやっぱり私。

もうあんな想いしたくないのにっ



キバのバカっ!!



「いや!下ろして!キバなんか大ッ嫌いって言ったじゃない!!」


恥ずかしくて、なんか動揺して、また涙が出てきて・・・私はバタバタとキバの腕の中で暴れた。


「分かったよ・・・・・」


だけど、キバはずっと私の体を離してくれない・・・・・



「大ッ嫌いっ キバのバカ!!」

「あぁ・・・わかったって。」



素直になんてなれないの。
私って本当にかわいくない女なんだよ。
だからもうやめてっ!!



「嫌いだもんっ キバなんか。」

「そうだな。嫌いだよな。」


キバの手が私の背中を優しく撫でて、そっと部屋に下ろされる。

さっきからヒドイ事ばっかり言ってるのに・・・・・

なのになんでキバは私に優しくするの?
私をひきとめたりするの?



「嫌いだって言ってるのに・・・なんでよ・・・キバ」


私はキバの部屋の床にペタンと座ったまま、泣き出した。
キバの優しさが分からない・・・なんで怒らないの?






キバは泣きじゃくる私の前に座った。




の声が聞こえるからだよ・・・」


キバの声は優しかった。


「え?」

「お前の嫌いは 俺を『好きで好きでしょうがない』って 言ってるように聞こえるぜ」







思わず顔を上げたら、キバは へへへ と笑った。




ちゃんと言葉に出来なくても・・・・キバには私の気持ちが伝わってるの??///////




「違うか?」

「違っ・・・・」

『違う!』きっと今までの私ならそう言うよ・・・でも・・・





「違わない・・・・」






素直に言えたら、また涙が ぼたぼたと流れてきた。



・・・好きだ」


キュッとあごを持ち上げられる。
キバの顔が近づいて・・・・・


唇が触れるかすかに手前で


「お前の全部・・・俺にくれ」


心臓がドキドキ高鳴る。


キバとキスしたい。


ねぇ・・・キバキバ・・・・・私もキバのこと・・・・大好きよ・・・
キバの全部がほしい


キバの腕をギュッと握ったら、キバも私の体をギュッと抱きしめる。
心臓のドキドキが重なってる。

「キスして?キバ」

/////」


目を閉じて、いつもの優しい感触を待つ。











「お兄ちゃん何してるの!!!!」





え?




唇が触れる寸前で私達は止まった。



部屋のドアに手をついて、女の子が私達を凝視してる。




「な、なんでもな・・いよ」


私は女の子に今度こそ、にこやかに言おうと思ったのに・・・・


「お前、向こう行ってろ。」


キバは女の子にそっけなくそう言った。


「なんで?お兄ちゃん!!」

「お前との時間は終わりだっ こっからは、俺の一番大事な女の為に使う時間だからな。」

「大事?な?」

女の子はキョトンとしてる。

「お前が行かねぇなら別に構わねぇけど?」

キバはボーッとやりとりと見ていた私の頬をグイッと片手で引き寄せて、



え?




「んっ//////////」



女の子が目の前で見てるのに、私の唇に強くキスをした。




「うわぁぁ//////////」



女の子はびっくりしたのか、その場から立ち上がって、そのまま走って行ってしまった。



「キバ!!!//////////何すんのよぉぉぉ!子供の前で!!バカ!!」

「だから言ったろ?こっからの時間は俺の大事な女の為に使うって。」

キバの細められた目がすごく艶っぽくて、心臓がドキリとした。






「なぁ・・・今日俺に何か言うことねぇ?」

キバはゆっくりと私の髪をスーーーッと指先ですいた。

「え?あ・・・・・誕生日おめでとう・・・・・キバ・・・///////」

なんかドキドキしちゃう。

「ありがとよ・・・・。」

「け、ケーキのプレゼントだったんだけど・・・あんなになっちゃったから、また今度・・ね?」


動揺して真っ赤になっちゃう。
すっごく恥ずかしい。


「今度?誕生日は今日だぜ?・・・・変わりのプレゼント用意してくれよ」

キバは真っ赤な私の顔を覗きこむ。

「で、でも・・・・・」



きゃっ



突然、キバに押し倒された。



をくれんだろっ?」


ゆっくりと頬を撫でられたら、体が硬直した。
キバとは初めてじゃないけど・・・でも・・・なんか恥ずかしい/////////


「返事は?」


ゆっくりとキバが体を重ねてくる。
硬いの・・・あたってるよぉ・・・・キバ。



「えっと・・あの・・・キバ・・・////////」

「もう待てねぇっ」


倒された床に腕をグッと押し付けられてキスされたら、頭の中が真っ白で、このままキバの言いなりになっても
いいって思った。






でも・・・・




「お、お兄ちゃん!!!」









え?









「お、お前はまだいたのかよっ!!!」


キバは私を床に組敷いたまま叫んだ。



「ち、違うの・・・こ、これ・・・・//////////」


女の子は恥ずかしそうに小さな箱をキバの前に突き出した。




「あ?」




「あの・・・ね、キバ姉さんから・・・・誕生日のプレゼントだって。・・・渡してきてって頼まれたの・・・じゃぁね!!」


女の子は必死でそれだけ言うと、くるりと背を向けて、また走って逃げて行った。



「なんで今なんだよ? ったく・・・・なんだこれ?」


キバも私も体を起こして、そっと箱を見る・・・・・







コン〇ーム






二人で シーーーーン となった。





箱に小さな手紙が・・・・



「バカ弟へ 誕生日おめでとう!  ちゃんとつけなよ!甲斐性なし!! 優しい姉よりvv」








二人で真っ赤になる。








キバはポリポリと頭をかいた。

「あーーーあの。今夜、これをつけて良いっすか?さん」

目も合わせないで、真っ赤な顔でキバは言う。

「よろしくお願いします。キバ君」

私も真っ赤でテレながらも笑ってしまった。






「それじゃ、もっかい」

キバのキスを途中で止めて・・・・


「誕生日おめでとうキバvv プレゼントは私だよvv」


私からキバのやわらかい唇に チュッ とキスをした。


「残らず全部いただくぜっ」


初めての時みたいに二人でドキドキしながら抱き合って、キスして、求めあう。



夜までずっと側にいて。



愛しい彼の誕生日。
その日が終わってしまうまで・・・




喧嘩しても、ふざけあっても、泣いても、笑っても、キバ・・・・・あなたが一番大好きよ。
私の心の声もきっとあなたになら届いてる?////よね?/////



今日は、一番大事な私の彼の誕生日vv






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