じりじりじりじり〜



朝っぱらから、俺の家の古くせー黒電話がけたたましく鳴りだす。


俺は昨日、紅にみっちりしごかれて眠いっつんだよっ
まったく誰だ?こんな早くから、俺を起しやがってぇ・・・・・


今日はお袋も姉ちゃんも朝からいねーから・・・・


俺は仕方なく寝巻きにボサボサ頭をがりがり掻きながら、
超不機嫌に受話器を取った。


「あーーーはいはい・・・犬塚ですけどっ・・・・・・」
超テンション低い俺の声。


『キ、キバぁ・・・・・』


その声に俺の頭は一気に目覚める!

っ 」

そう、その声は俺の愛しの彼女・・・の声だ・・・・

「ど、どうしたんだよっ お前から電話くれるなんてめずらしいじゃ
 ねーかっ」

俺は突然ハイテンションっ

だってよ!これが浮かれずにいられるかって!
俺は毎日に会いたくて、修行にも身がはいらねー程だ。


『キバぁ・・・すぐに来て・・・』

の切ない声。


おうおう・・そうかそうか。
お前も、なんだかんだ言って、俺に会えなくて寂しかったってわけだなっ
相変わらず、かわいいねー どうも・・・・・

「そりゃ、もちろんお前の頼みならすぐに行ってやるぜ・・・けどよ・・・・」

そう・・・・一つ気になる事が・・・・・・・お前どうしたってんだ?
の声はいつもとちがって泣きそうだ・・・・

「お前、なんかあったの?」


『キバ・・・赤ちゃん・・・・で・きたの・・・・・どうしたらいいの私・・・・』







がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ





「今・・・・なんつった?」

『だから・・・・赤ちゃん・・・・・・』


俺は受話器を落とした。
顔面蒼白・・・・あぶら汗だらだら・・・・体はガクガク震えだす・・・・


え?だって・・・あれだぞ・・・俺ももまだ14だぞっ
ど・・・ど・・・・どうすんだよっ
なんで・・・なんでこうなるんだぁーーーーーー!!


立っていられないほどの衝撃で、俺はその場にしゃがみこんだ。


「どうすんだ・・・俺・・・・まじでどうしたらいいんだよっ」

頭を抱えて唸っていると・・・・

俺の目の前で、落とした受話器がプランプランと揺れている。


そこから悲痛な叫びが・・・


『キバぁ キバぁ・・・一人じゃ心細くて・・早く来て・・』


そ、そうだよな・・・今、一番傷ついて、動揺してるのは、の方だ。
しっかりしろよっ 俺!

俺は深呼吸を一つして、受話器を握りなおす。

・・・・俺、今からすぐ行くから、とにかく落ち着いて、家で
 待ってんだぞっ・・・・」

『うん・・・・逃げないでね・・・・・』

「逃げるか!バカ!」






俺は受話器を置くと、急いで着替えをはじめる。

とにかく急いでに会わねーと・・・・

足元で赤丸がクーーーンと鳴いた。

俺は赤丸を抱き上げる。

「赤丸・・・よく・聞けよ・・・・俺は・・・俺はな・・・今日から・・・パパになる・・・」

真剣な顔の俺に赤丸は
『は??』
と、首をかしげて、目を細めていた。


「とにかく行くぜっ 赤丸!」

キャンッ









俺は全速力で走りだした。
まわりの景色が風をきるように流れていく・・・・

その間、俺はに会って、まずなんと声をかけてやればいいのか
悩み続けていた。

・・・あいつきっと動揺して泣いてるかもしれねー・・・」

とにかく、に会って、あいつを落ち着かせて、
今後について話しをするのはその後だろ・・・

俺は今まで一番大事だと思ってきたを傷つけてしまった事を
心底後悔していた。



ごめんな・・・・・・・・俺のせいだ・・・・・





の家の門が見える。

俺はドキドキしながら、その門に近づいた。


きゃんっ

赤丸の声で、門の手前でオロオロと立ち尽くして、俺を待つの姿
に気づいた。

!」
駆け寄って、思わず抱き締めた。

「キバ・・・来てくれたんだねっ」
はやっぱり涙目になっていた。

「・・・・・・・・・」
俺はの肩を掴んで、顔をジッと見据えて、さっき走りながら
考えたセリフを丁寧に話しはじめた・・・

大事なお前をこれ以上キズつけさせないように・・・
俺なりに必死で考えたセリフを・・・・



・・・よく聞け・・・・俺は一生懸命任務こなして、立派な忍に
 なってみせるっ  だからお前は何も心配するこたねー・・・・
 赤ちゃん産めよなっ 俺が責任もってお前と一緒に育てていくから・・・・・
 俺たち・・・・け・け・・・け・・・・結婚しよう!!」

俺はの肩を掴みながら、ありったけの力をふりしぼって
言い放った。


・・・・伝わったか? 俺の本当の気持ち・・・・


なのに・よ・・・・・
はポカンとマヌケな顔で俺を見上げた。
そんでもって・・・・

「バカ! キバってば、こんな非常時に何言いだすのよっ
 私達まだ14なのよっ!結婚なんてするわけないでしょっ!」


は?


呆然と立ち尽くす俺の手をグイッと引っ張って、が家の中に
俺を連れて行く。

当の俺は頭が空っぽで何がなんだか・・・・・・・




その時、部屋の中から赤ん坊の泣き声が・・・・



ぎゃーーーーーーーーーーーーーーんっ



「きゃーーーまた泣いちゃったよぉ キバぁこっちこっちぃ」

えええええええ!!

畳部屋に小さな布団・・・・そこにまだ生まれたての真っ赤なサル
みてーな赤ん坊が火がついたように泣いていた。



「おま・・・おま・・・おまえっ 一体いつ産んだんだよっ!!」


俺は目の前のサルに・・・いやいや赤ん坊に動揺して、頭が混乱する。



だってよ、ついこの間まで、のお腹は平らだったはずだ・・・



「キ、キバのバカ!!」














「それならそうと・・・早く言えよっ・・・」

はぁ・・・・俺は脱力して、その場に倒れこんだ。

「私、赤ちゃんできたなんて言ってないもんっ 赤ちゃんがきたって
 言ったんだよ! もうっキバってば本当にバカじゃないのっ」

は顔を真っ赤にして膨れっつらをしながら、赤ん坊を抱きかかえて
あやしている。



事の真相は、のいとこが赤ん坊をつれて遊びに来たんだが、
久しぶりに木の葉に帰ってきたから、懐かしい面々に会いたいとか
言いだして、に赤ん坊の世話を任せて、出かけて行っちまった
とか・・・

くだらねー・・・・・本当ふざけんなっ・・・・・・

「キバって本当にバカなんだからさ・・・・」


「あーーーそうだよっ・・・悪かったな・・俺のはやとちりでよ・・・
 だったらなんで俺なんか呼ぶんだよっ 俺に赤ん坊の世話が出来る
 わけねーだろうが・・・・」

さっきのあの焦りはなんだったんだ!
俺は寿命が10年縮まったぜっ 責任とれっ アホめ・・・・


「だってぇ・・・・キバはいつも赤丸を大事に大事にしてるじゃない?
 だから赤ちゃんあやすのも得意かなーーーって」

今、すげーかわいい顔で俺を見たな・・・・
俺がその甘え顔に弱いことしってて・・・・本当きたねーぞっ

「赤ん坊なんて知るかっ 興味ねーよっ そんなサル・・・」

俺はさっきの無駄な動揺に怒りが収まらず、をキッと睨んだ。

「ひどい・・・ひどいよ・・・・キバってそんな人だったんだ・・・
 私が一人でこんなに大変な思いしてるのに、助けてもくれ
 ないのね・・・キバって最低・・・・」

泣きまねしやがって・・・そんな手に乗るかってんだよっ
俺様をなめんなよっ

「俺が知るかよっそんなガキ!だいたいそんなサルみてーなの
 かわいくもなんともねーしなっ・・・・」

「キバ!」

その途端、の腕の中の赤ん坊がまたぎゃーーーーーーっと泣き出した。


「きゃーーーキバのせいよっ!どうすんのよぉ もうぉ」


泣きじゃくる赤ん坊を抱きながらオロオロする

「はっ いい気味だぜ・・・俺は知らねーっ」
頭の上で腕組みして、ふんと顔をそらしてみた。


きゃんきゃんっ
赤丸が俺の体を押す。

「なんだよっ赤丸!やめろって!」

「さすが赤丸!キバ・・ほら・・赤ちゃん抱いて?」
は俺の目の前に布にくるまれた赤ん坊を差し出した。

「なんで・・俺が・・・ふざけんなっつうの・・・・」

恐る恐る、赤ん坊を抱く。

ぎゃーーーーっ耳をつんざく泣き声。

「ったく、仕方ねーな・・・」
俺はすこし揺さぶって、よしよしとか言ってみた・・・


すると・・・・・・


「あ・・・あれ?」

は隣でびっくりしている。

泣き止んだ・・・・・・

ヒクヒクとしながらも、俺の目をジッとみつめて、赤ん坊
は少しニコっと笑った。


か、かわいいじゃねーか・・・


俺はその天使のような笑顔に柄にもなく照れた。

「やっぱりキバを呼んで良かった・・・キバ・・・やっぱり凄いよ・・・」

隣でが心底安心しきった顔で赤ん坊の頬を優しく撫でる。

俺はその光景にドキドキした。

「お前・・・本当にコイツの母親みてーに嬉しそうだな・・・」
「そういうキバも本当のパパみたいだよ・・・」

俺とは急激に真っ赤になる。

いつか俺が大人になったら、そん時は、がこんな風に俺の隣で、
俺に抱かれた赤ん坊を見て、幸せそうに笑ってやがんのか・・・
それも・・・悪くねーな・・・・・


グスングスン・・・

今度は少し体をよじりながら赤ん坊が変な泣き方をした。

「えっとね・・この泣き声は・・・確かミルクが欲しい合図だって言ってた・・・」
は台所に行って、哺乳瓶にはいったミルクをもってきた。

、お前やれよ・・・俺、分かんねー・・・」

「そ、そだね・・・・」

赤ん坊を抱きなおして、はゆっくりと赤ん坊の口に哺乳瓶をくわえ
させる・・・

ふぎゃーふぎゃーふぎゃー

拒絶反応・・・・

「本当にミルクなのかよ?」
「えーーーわかんないよぉ でも、きっとそうだと・・・」

俺たちが焦っていると、の腕の中の赤ん坊がダウダウと手をあげて、
何やら盛んに動きだした。

「え?きゃーーちょっとちょっといやーーん」

な、な、な、なにぃーーーーーーーっ

「こ、このエロガキ!の乳もんでんじゃねーっ それは俺のもんだっ」

俺は反射的に赤ん坊の頭をはたいていた。

ぎゃーーーーーーっ

赤ん坊はまた大声で泣き出した。

「キバのバカ!赤ん坊に嫉妬しないでよっ!!」
真っ赤な顔で怒鳴られた・・・・

そんな怒るこたねーだろ・・・・

はぁ・・・・・なんでこんな目にあわなきゃなんねーんだよ・・・・・


やっとこさっとこミルクを飲ませたら、今度はオムツ替え・・・


「キバはもうあっち行ってて!」
さっきので完全にを怒らせた俺は台所まで押しやられて、
ピシャリとふずまを閉められた。

「なんだよっ 俺が悪いってのか?」
俺が怒鳴ると、
ふすま越しに・・・・
「キバが悪いにきまってるでしょ!!バカ!」

だとよ・・・・・

あーーーあーーーーそうですか・・・ってんだ・・・
どうせ、俺なんざ、赤ん坊の二の次ってわけだよな・・・
やってられっかよ・・・・

赤丸・・・・・帰ろっか・・・・・
くうん・・・・

俺が赤丸を抱きかかえたとき・・・・


ふすまがゆっくり開けられた。

「キバ・・・・やって・・・・・」
はブスッとした顔で、すこし俯き加減で俺に言う。

「は?何を」

「オムツ替えに決まってるでしょ・・・・」

俺はめちゃくちゃ腹がたってきた

「お前、さっき出てけっつったろ!」
「ごめん・・・・」
「は?」
「だから・・・ごめんなさい・・・・」

急にしおらしくなっちまって・・・なんなんだよもうっ・・・・

「んで?どうやんだよ・・・・」
「うん・・・・・」

俺は適当に聞いて、畳の部屋へはいる・・・・


赤ん坊は裸でダウダウと布団の上で暴れている。

「まったく・・・お前のせいで、俺はに怒られるはコキ使わされる
は・・・冗談じゃねーっつうんだよ・・・」

そっと赤ん坊に触る。


そして気づいた・・・

ははーーーーん・・・・これが理由ってわけかよ・・・・・

「おい・・・・・・ちょっとこっち来い・・・・」
台所で待っているを呼ぶ。

「な・・・・なに?」
ふすまからチョコンと顔を出して、はこっちを覗いている。
「いいから、来いって・・・・」

しぶしぶ隣に座る・・・

「あのよ・・・赤ん坊に照れるなよな・・お前・・・バカじゃねーの?」
「だってだって・・・」

そう・・・こいつは男の子・・・だったんだ・・・・
だから赤ん坊っつったって、いっちょ前にちゃんとついてやがんだよ。
親指みてーに小せーけどな・・・・くくくく。

「お前さ、これに照れてんのかよ?」
俺は指で軽くピーーンと弾いてみせた。
「だってぇ・・・なんか触れないよぉ・・・・・」
は真っ赤だ。

「は?なにぶっこいてんだよっ」
「だってぇ・・」
「お前、いつも俺の触ってんじゃねーか・・・・・・」







ボカーーーーーーーーーーーーーーーーーッ






「お前さ・・・・・」
俺は腫れあがった自分の頬をさすりながら、の隣に
恐る恐る近づく。

って・・・時々俺よりゼッテー強えーーーよな・・・」
正直、俺の将来が心配だ・・・・
やっぱコイツの尻に敷かれんのか?この俺が・・・

はぁ・・・・・・・・・

溜息をつくと
隣で赤丸が心中お察しします・・・とでも言いたげに、
クーーーンと鳴いて、俺の腕に頬ずりした。

「キバなんかもう大っ嫌い・・・・・」
を完全に怒らせた・・・・もうこっちも見てくれない・・・・
「悪かったって・・・・なぁ・・・・・ごめんて言ってんだろーが・・・・」

その後、無言でオムツ替えを済ます・・・・

はーーーーーーーーーー

せっかくの休日にお前に会えたのに・・・・俺ってついてねーよ・・・・



ピンポーーーーーン

ちゃーーーん ごめんねー遅くなっちゃったぁ?」
「あ!お帰りなさーーーい」

が玄関に走っていく。

「うちの坊主大丈夫だった?」
「え?えぇ・・・・」


帰ってきやがった・・・この坊主の母親っていう女が・・・・

女はそそくさと部屋にあがってくる。
俺はそっと会釈した。

「あら?彼は?・・・・ちゃんの彼氏?」
たくさんの荷物を抱えたその女は俺を見て微笑んでそう聞いた。

「あ・・・はい。犬塚キバ君です。」
も真っ赤な顔で俺を紹介する。

「どうも・・・・」
俺はそれだけ言った。

「へぇ・・・カッコイイ彼ね。ちゃんとキバ君ならきっと
 かわいい赤ちゃんが生まれるでしょうーねーーー
 もうっ 早く作っちゃいなさいよーーーー」

笑顔でそれだけ言い残して、彼女は自分の赤ん坊を抱きに部屋に
行く。


残された俺たちは真っ赤。



「んじゃ・・・・俺・・・・・帰るは・・・・・」
「う、うん。」


門の前までくると、が声をかけてきた

「キ、キバ・・・今日はありがとう・・・・」
「え?あぁ・・・何の役にもたたなかったけどな・・・・」
俺はなんか気恥ずかしくなって頭を掻く。

「ううん・・・キバが来てくれて嬉しかったよ・・・」
「そ、そっか・・・ならいいや・・・・・」

2人で笑いあう。

「ねぇ・・・キバ・・・・・」
「あ?」


はそっと抱きついて、俺の首に腕をまわす。


「キスして・・・・」
「ん・・・・」

俺はをそっと抱きながら、かわいい唇にキスをする。
あったかくて柔らかい。
名残惜しく唇が離れると・・・・

「いつか本当に作ろうね・・・私とキバの赤ちゃん・・・」

の優しい笑顔・・・・
きれいだな・・・・

「あぁ・・・・約束な・・・・・・」

もう一度キスをする。
今度はもっと深く・・・もっと、が欲しいから・・・・


「それじゃーね・・・・キバ・・・・」

早く、お前を俺だけのものにしてーーな・・・・・

「なぁ・・・・なんなら今から俺の家でやろうぜ・・・・」
「なにを?」
「子作り・・・・・・」



ボカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ




はいはい・・・・・お約束だよな・・・・

俺は腫れた頬をさすりながら、ふてくされる。

「俺・・・・帰る・・・・・・・」

もう疲れた・・・・俺だって、頑張ってやったじゃねーかよ・・・・・
なのに・・・・ここまで怒るこたねーよな・・・・
俺は抱いた赤丸の頭を撫ぜた。
クーーーン
「お前もそう思うだろ?」


「キバ・・・・・」
呼び止められる。

はぁ・・・・・・まだ文句あんのかよ・・・・・

「なんだよ・・・・・・」
「世界で一番大好きだよっ・・・・・・」

はそれだけ言うと、逃げるように門をくぐって帰っていった。


「え・・・・・・」
その場に残された俺・・・・
にへらーーーーと顔が緩む。

こんな一言で機嫌が直る俺って、やっぱバカか?

今日は大変な一日だったけど・・・でもいっか。
お前は俺の愛しい彼女だしよぉ。
俺もお前が世界で一番大好きだぜ・・・・っ!




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